夜天の守護者   作:混沌の魔法使い

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第102話

 

 

第102話

 

私はある物を見ていた・・ここは豪華な王宮の中だった・・辺りにある物に手を伸ばすが・・私の手はそれを通り抜ける・・私がその現象に驚いていると・・目の前から騎士甲冑を纏った騎士が走って来る・・騎士は私の存在に気付かないのか真っ直ぐ走って来る

 

「!!!」

 

私がぶつかると思い目を閉じた瞬間

 

スゥ・・

 

騎士と私はぶつかる事無く・・通り過ぎた・・

 

「これは・・映像なのか?」

 

私はここで見ているが、私は居ない人物・・だから触れる事も出来ないし・・話す事も出来ない・・

 

「ただこれからどうなるか見ているしかないのか・・」

 

私はそう呟き、騎士の後を追った・・騎士は真っ直ぐに王宮の一番奥の部屋に向かい、その前で跪き

 

「聖王よ・・再び隣国の騎士達が襲撃を仕掛けてきました・・このままでは我が王国の民が危険です・・どう致しましょう?・・迎撃の準備は出来てますが・・」

 

その騎士に聖王と呼ばれた男は

 

「直ぐに迎撃準備をしろ・・正し敵兵は殺すな・・勿論お前達も死ぬな・・判ったな?」

 

鋭い眼光の男の言葉に騎士は

 

「了解致しました・・我が兵は勿論・・敵兵も殺しはしません・・直ぐに迎撃準備を致します」

 

そう言うと騎士はその部屋を後にした・・残った聖王と呼ばれた男は王座に深く腰掛け

 

「どうして、隣国同士で争わなければならない・・今この危機を協力して乗り越えるべきなのに・・」

 

そう呟く男の前に黒い騎士甲冑の男が現れ

 

「まだ悩んでいるのか・・」

 

親しい口調の騎士甲冑の男に

 

「悩みもする・・この大飢饉の時に残った僅かな食料を奪い合い・・罪も無い民が殺され・・親を失った子供達が涙を流す・・こんな事は間違っている・・一刻も早く争いを止めさせなければ・・」

 

聖王がそう呟くと、王宮がぐにゃりと歪み・・別の風景になっていく・・そこは遺跡のような場所だった

 

「ここは・・?」

 

私が突然場所が変わった事に驚いていると、後ろの方から

 

「ここに全てを終らせる鍵があるのか・・」

 

茶色の髪をした男がここに足を踏み入れながら呟く・・その男はゆっくりと遺跡の奥に進んで行き

 

「これが・・禁忌・・」

 

紅いクリスタルに封印された、何かの肉片の前に立ち止まる・・私もそのクリスタルを覗き込んだ瞬間・・

 

グオオッ!!!

 

凄まじい雄叫びと同時に白い体を持った悪魔が飛び出し・・私と男目掛け・・その鋭い爪を向け振るう

 

ドスッ!!

 

「なっ・・に・・!?」

 

映像の筈の爪だが・・確かに身体を何かに貫かれた感触がし・・思わずその場に蹲る・・だが私の身体には何の変化も無い・・

 

「今のは・・幻・・?だが確かに私は一瞬死んだ・・」

 

強烈な死のイメージ・・それだけで判るこれに触れてはいけないと・・男の方も同じイメージを見たのかその場に蹲り荒い呼吸を整えていたが

 

「・・はぁ!!はぁ!!・・今のが・・禁忌・・だが今の・・私達にはこいつの力が必要だ・・それに今なら制御出来るはず・・かつて制御出来ず・・暴走してしまったこいつの力を平和の為に使える筈だ・・

 

男はそう言うとそのクリスタルをポケットに仕舞い、引き返して行った・・私も引き返そうと思ったが

 

「ん?・・これは・・」

 

遺跡の壁に刻まれた言葉が気になり・・解読を始める・・どうせあの男がここから出るまではここにいれるんだ・・その間に急いで解析を始める

 

「・・触れてはならぬ・・ここにあるのは偽りの神・・彼の者は決して死なず・・決して滅ぶ事は無い・・彼の者は無限にその姿を持つ・・ある世界では全てを飲み込む黒き闇・・またある世界では死の宣告者・・またある世界では怨霊の王・・またある世界では創世者・・またある世界では滅びを告げる使徒・・またある世界では時空の破壊神・・彼の者はありとあらゆる世界に存在する・・悪意の塊・・決して制御する事叶わず・・もう1度言う・・偽りの神に触れてはならない・・彼の者は全てを壊し・・殺す・・偽りの神?・・無限にその姿を持つ・・?・・平行世界の事を言っているのか?・・まさか私達の世界の偽りの神は・・魔獣なのか・・?・・いや・・くそっ!!頭が回らない・・これは・・?」

 

衝撃の事実を知った所為か・・頭が上手く回らない・・私が頭を抱えながら隣の壁を見て目を見開いたそこには

 

「これが・・偽りの神なのか・・」

 

沢山の姿がそこには描かれていた・・だがその中で私の目に止まったのは・・他のとは明らかに雰囲気が違った・・髑髏の様な文様が胴体に浮かびその背には4枚の翼がある姿だった・・だが肩や足には装甲といえば良いのだろうか?・・それが無い為他のと比べると弱そうに見えたが・・その姿がどうしても私の頭の中に残った・・私がその石碑から視線を逸らすと同時に再び世界が歪み、場所が変わる・・そこは研究施設のような場所だった・・

 

コポコポ・・

 

緑色の培養液の中に紅いクリスタルが収められている・・男はキーボードの様な物を叩きながら

 

「・・制御ユニットと・・破壊、殺戮衝動を極限まで抑えて・・従順な生物へと生まれ変わらせるんだ・・」

 

ブツブツと呟きながら幾つものディスプレイを展開し、凄まじい勢いでプログラムを組み上げていく・・私はそのクリスタルを見ながら

 

「偽りの神・・か・・!!そんな・・馬鹿な・・」

 

私がそう呟いた直後、紅いクリスタルの肉片からギョロリ!!と言う音を立てて目が現れ私を凝視する・・いや・・私を見ているのではない・・私の背後にいる男を見ているのだろう・・その肉片は徐々に大きくなって行く・・・

 

「何という速さで成長してるんだ・・」

 

最初は本当に小さな肉片だったのだ・・だが今は・・

 

「おおっ!もうここまで再生しているのか・!!素晴らしい・・これで・・これでこの争いは終るんだ・・」

 

私を押しのけるように男が培養液の中の異形を見つめる・・そこには

 

「ギチギチ・・」

 

4本の腕を持つ何とも形容しがたい形状の生き物が居た・・男はその生き物を見ながら

 

「これほどの成長スピードならば・・直ぐに戦場に出せる・・そうすれば・・この無意味な争いも終る・・やった・・やったぞ・・私の苦労はこれで報われる・・」

 

そう言うと男は椅子に深く腰掛け眠りに落ちてしまった・・私は嫌な予感を感じながらもその生き物を見ていた・・すると黒い目が真紅に光り・・明らかに理性の色を灯す

 

「ギギ・・アワレナオトコダ・・ワレノチカラヲ、セイギョデキルナドトムソウヲイダクトハ・・」

 

培養液の中から這い出しながらその生き物が呟く・・すると異形の身体が光り

 

「もう・・ココまで再生シタカ・・」

 

子供と同じサイズにまで変化する生き物・・白い身体に二本の角・・そして鞭の様な両手を持った異形は

 

「前ヨリ・・ワレは強くナル・・誰モ・・ワレをトメルコトハ出来ない・・そして・・今度コソ・・この世界をホロボス・・」

 

異形はゆっくりとそう呟きながらディスプレイの前に立ち

 

「ワレを制御する事はデキナイ・・こんな物は・・コウシテクレル・・」

 

鞭のような腕でディスプレイを操作し・・直ぐに離れる

 

「コレデ良い・・ワレが完全体にナル頃には・・前ヨリ・・我は強くナル・・クク・・楽しみダ・・それまでは従順な・・ふりをしておくカ・・」

 

そう呟くと異形は再び培養液の中に戻る・・そして異形の目からは理性の光が消える・・

 

「・・寝てしまったのか・・んん・・」

 

男は椅子の上で大きく身体を伸ばし、培養液の中を除きこみ

 

「!!もうこんなに成長しているとは・・私の方も急がねば・・こいつをより強くする必要もあるしな・・」

 

そう言うと男は凄まじい勢いでキーボードを叩き始める・・そしてディスプレイに私が遺跡で見た、偽りの神と同じ姿のCGの様な物が映し出される

 

「ここは・・こうして・・ここはこうだ・・」

 

そのCGの偽りの神の肩や足に鋭利なデザインの外骨格が追加されていく・・私はその男を止めようとしたが

 

「・・ここは過去だったな・・私ではどうする事も出来ないか・・」

 

そう呟き私は培養液の中の異形を無言で見ていた・・すると再び景色が歪み風景が変わっていく・・

 

「・・お前に名前を与えよう・・」

 

場所は前と同じ研究施設の中だったが・・窓から見える風景は辺り一面の白銀の世界だった・・

 

「ギギ・・ギチギチ・・」

 

培養液の中の異形は更に前より成長し・・完全な人型になっていた・・白い身体に2枚の翼・・そして鋭利な尻尾を持ち・・角も一回り大きくなっていた・・鞭のような腕は普通の腕へと変化していた

 

「お前の名はヴェルガディオス・・この無意味な争いを終結に向かわせる存在になるんだ・・」

 

その男はその異形に希望を見ていたのだろう・・だが前に見た遺跡の伝承通りなら・・この男は希望でなく絶望を見る事になる

 

「ヴェルガディオス・・お前の出番だ・・行けっ!!」

 

男の指示に従いヴェルガディオスはその翼を広げ、飛んで行った・・己が完全体となる為に・・

 

 

第103話に続く

 

 


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