第103話
ヴェルガディオスは偽りの神の名に相応しく・・恐ろしいまでの強さを持っていた・・
「何だ!!こいつは!!・・うっわああああああっ!!!」
両腕から触手が飛び出し、次々と騎士達を絡め取って行きその魔力を吸い取っていく・・魔力を吸い取り終わると
「ううっ・・」
騎士甲冑が解除された騎士から興味が無くなったという素振りで手放し、次の獲物を探しに行く・・
「これがヴェルガディオス・・まるでネクロの様だ・・」
魔力を吸収し成長する・・それは正しくネクロに似た特性だった・・私がそんな事を考えているとヴェルガディオスの背後から男が現れ
「ヴェルガディオス!次はこっちだ!」
指示を飛ばす、するとヴェルガディオスはコクリと頷き指示通りに動く・・その姿を見て
「まだ偽りの神として・・動いていないという事か・・だが・・それも時間の問題か・・」
私から見てもヴェルガディオスの魔力は大幅に上昇している・・近い内に更に進化するだろう・・次の進化を遂げた所で・・ヴェルガディオスはこの男の手元を離れるだろう・・私がそんな事を考えながら男の後を着いて行き・・そしてその時は来た・・100人近い騎士の魔力を吸収し終えた所で
「ギギ・・ギィィィッ!!!!」
凄まじい叫び声と同時に黒い光を放ち、ヴェルガディオスの身体が大きくなって行く・・全体的に一回り巨大化し・・顔を仮面が包み込む・・そして2枚の翼は4枚にその数を増やす・・そして瞳に理性の色が灯る・・ヴェルガディオスはその翼で空を舞いながら
「くく・・はははははっ!!!!」
身が竦むようなおぞましい声で笑い声を上げる、ヴェルガディオスに男が近付く
「ヴェルガディオス・・?どうしたんだ・・」
何が起こっているのかわからないと言う表情の男にヴェルガディオスは
「どうしただと・・くく・・愚かな人間如きが我を完全に支配できる等と思っていたのではあるまいな!」
その口調に男は
「ま・・まさか・・偽りの神・・なのか・・?」」
震える口調の男にヴェルガディオスは
「その通り・・我は偽りの神・・だがヴェルガディオスと呼ぶが良い・・貴様は我を復活させてくれた・・だから今は殺さぬ・・貴様は最後の最後に絶望と共に我の手で殺してくれる・・ふふ・・ははははっ!!!」
そう笑うとヴェルガディオスはその4枚の翼を羽ばたかせ消え去った・・残された男は
「わ・・私は・・なんと言う事を・・はっ!・・後悔している場合じゃない、早く聖王様に伝えに行かなければ!!」
そう言うと男は駆け出して行った・・それと同時に景色が歪み・・王宮の中へ変わる・・
「あの化け物が・・封印されていた・・偽りの神だと言うのか?」
王座に座る聖王に言われた男は俯きながら
「はい・・その通りです・・」
そう言う男に回りに男達から
「「何て事を」」
「「貴様・・どう責任を取るつもりだ!!」」
等の罵声が跳ぶが・・
「黙れ!!私達に彼を責める資格は無い!!」
その怒声に男達は黙り込む・・それを見てから聖王は科学者の前に立ち
「あれを倒す方法は?」
科学者は顔を青褪めさせながら、首を振り
「残念ですが・・私はその方法を知りません・・私は偽りの神・・いやヴェルガディオスを蘇らせ・・強化しただけなんです・・倒す方法も弱点も判らないのです」
聖王は難しい顔で背後の男達を見て
「状況は判ったな・・今は私達がいがみ合っている場合じゃない、協力してヴェルガディオスに立ち向かう時だ」
背後の男達はゆっくりと頷き椅子から立ち上がる
「行くぞ・・事態は深刻だ・・このままではこの国・・いやこの世界の騎士や民は全滅する・・その前にヴェルガディオスを倒すぞ」
そう言うと聖王達は王宮から出て行った・・だが1人だけ残り科学者の前に立つ・・それは黒い騎士甲冑の男だった
「・・本当に倒す方法が無いのか・・?」
科学者は一瞬肩を震わせる・・その素振りを見て黒い騎士甲冑の男は
「あるんだな・・倒す方法が・・教えろ・・これは命令だ」
そう言われた科学者は首を振り
「申し訳ありません・・幾ら貴方様の命令でも従う事は出来ません・・この方法だけはどうしても教える訳には・・」
そう言われた騎士は科学者の服の襟を掴み、無理やり立ち上がらせ
「教えろ・・俺に・・聖王の血統の人間の命令が聞けないのか!」
聖王の血統!・・この男も王位を継承する権利を持っているのか・・私はその男の言葉に驚きながら、2人の会話を聞き逃さぬように意識を集中した・・科学者は・・声を搾り出すように
「倒す方法は無いです・・ですが・・封じる方法はあります・・」
科学者は騎士に耳打ちし離れる・・騎士は
「それしかないんだな・・?」
確認を取るように尋ねる・・科学者はそれに頷いた
「そうか・・判った・・礼を言う」
騎士はそう言うと王宮の外へ出て行った・・それと同時に再び景色が歪み場所が変わる
「くそっ・・どうなってるんだ・・こいつの身体は!!」
男がそう言いながら剣を振るうが
「くく・・貴様達如きが1000人集まろうが・・我には勝てんぞ」
ヴェルガディオスは左腕を槍に変え、その男を刺し貫く
「が・・がはぁっ・・」
ドクン・・ドクンッ!!
その男から強烈な勢いで魔力が吸い取られる・・見る見るうちにその男がミイラになり、灰となり消える
「くく・・こんな奴ら如きの魔力でも・・充分だな・・」
ヴェルガディオスの身体は更に変化する・・一回り巨大化し・・胴体に髑髏の文様が現れる
「漸く・・漸くだ・・やっと・・我は完全体になったんだ!!クク・・ハハハハッ!!」
高笑いをするヴェルガディオスの背後に3人程の男の姿が見える・・1人は聖王で、後の2人は科学者を怒鳴りつけていた男達だった・・3人とも身体から血を流し・・瀕死に近い有様だった・・そんな中・・空から黒い騎士甲冑の男が現れる
「俺が相手だ・・化け物」
剣を抜き放ちながら言う騎士にヴェルガディオスは
「クク・・化け物か・・まぁ・・良い・・今の我は気分が良い・・完全体になった手始めに貴様から殺してくれる!!」
左腕の槍を振りかざし突撃してくる、ヴェルガディオスに騎士は無言で剣を正眼に構え走り出した・・
「酷い・・勝ち目などまるで無いではないか・・」
私はそう言って目を背けた・・ヴェルガディオスと騎士の戦いは・・戦いとは言えない・・これは嬲り殺しと言っても良い・・騎士甲冑は既にボロボロで体も血で濡れてない場所が無いほどだ・・ヴェルガディオスは騎士の首を掴みギリギリと締め上げながら
「くく・・人間如きが良く頑張ったな・・だが遊びは終わりだ・・」
そう言うヴェルガディオスに
「遊びは終わりか・・だが・・それはこっちの台詞だ!!」
そう言うと騎士は剣を地面に突き立てる、それと同時に血で出来た魔法陣が浮かび上がる
「こ・・これは・・馬鹿な・・何故貴様がこれを・・」
驚き辺りを見回すヴェルガディオスに
「貴様を封じ込める為の結界だ・・これの為に・・態々・・避けれる攻撃も受けていたんだ・・」
そう言う騎士にヴェルガディオスは
「馬鹿がっ!!幾ら結界があろうが封印する器が無いぞ!!」
騎士はくぐもった笑い声を上げながら
「器・・?くく・・器なら貴様の目の前にあるだろうがっ!!!」
そう言うと騎士の身体に上空に浮かんでいる物と同じ魔法陣が浮かび上がる
「馬鹿な・・止めろ・・止めろっ!!」
慌てて逃げようとするヴェルガディオスの身体に血で出来たバインドが絡みつく
「逃がさんぞ・・貴様の身体・・俺の身体の中に永久に封印してくれるっ!!!」
「や・・止めろォォォッ!!!!」
その叫びと共にヴェルガディオスの姿が吸い込まれるように騎士の身体の中に吸い込まれて行った・・ここで再び景色が歪み・・場所が変わる・・
「本当に行くのか?」
王宮から去ろうとする黒い服の男は振り返り
「俺はもうここにいることは出来ん・・俺は・・いや・・俺の血統は未来永劫・・ヴェルガディオスを封じる宿命だからな」
そういって歩き去ろうとする黒い服の男に自分のブレスレットを渡しながら
「そうか・・すまない・・私の力が足りなかったばかりに・・お前に過酷な運命を背負わしてしまう・・私が出来る最後の事だ・・汝に我が称号・・聖王の聖の字を与える・・お前は今日から聖魔王だ・・己の体を捨ててまで世界を救った英雄だ・・私達はお前の事を未来永劫語り続けるだろう」
そう言われた黒い服の男は最後に一度だけ微笑み
「ふっ・・俺には過ぎた称号だ・・だが感謝する・・兄よもう2度と会う事は無いだろう・・さらばだ・・」
そう言うと今度こそ振り返らず男は王宮から去って行った・・私はその光景を見ながら
「あの男が初代聖魔王・・ジオガディスの祖先・・そしてその血統に封じられた偽りの神・・まさか・・ジオガディスの狂気は・・ヴェルガディオスの物・・奴は既に復活しているのか・・くそ・・判らない・・」
見ている過去の出来事は余りに深刻で深い問題だった・・ヴェルガディオスを封印した・・騎士が初代聖魔王・・そしてその子孫になるジオガディス・・その関連性・・私がその事を考えていると、再び景色が歪み場所が変わっていった・・
第104話に続く