夜天の守護者   作:混沌の魔法使い

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第110話

 

 

第110話

 

「はぁ・・はぁ・・ふう・・今日はこれくらいで終わりにしようかしら・・」

 

私は汗を拭いながらその場に座り込んだ・・演習場には誰も居ない・・それは当然だ・・もう深夜1時半・・こんな時間まで訓練してる馬鹿は居ないだろう・

 

「って・・それじゃあ私は馬鹿みたいね・・」

 

自嘲気味に呟き座り込んで持って来ていたスポーツドリンクを飲みながら

 

「・・スバルは強くなった・・私よりも・・・ううん・・スバルだけじゃない・・エリオもチンクさん達も・・私より高みに居る・・」

 

極光を完全にマスターしたスバル、条件付だが龍也さんと同レベルで戦えるようになったエリオ・・そして・・龍也さんに戦い方を叩き込まれたチンクさん達・・

 

「やっぱり・・凡人じゃ天才には勝てないのかしら・・」

 

私はスバルほど才気も無ければ、チンクさん達ほどの身体能力も無い・・

 

「私・・足手纏いなのかな?・・こんなんじゃ・・龍也さんの隣になんか立てないよ・・」

 

私が泣きそうな声で呟くと、待機状態のクロスミラージュが

 

『マスターそんなにお気になさらずに・・龍也様が仰っていたのでしょう?・・素晴らしい魔道師になれると・・今は焦らず地力を付けましょう』

 

心配するような口調のクロスミラージュに

 

「そうね・・その通りよ・・焦らず地力を付けて・・龍也さんの隣に立てるようにならないと・・」

 

龍也さんの隣を歩くにはもっと力が必要だ・・なのはさん達くらいとは言わないが・・もっと・・もっと力がいる・・今の私では足手纏いにしかならない・・それでは駄目なのだ

 

「自主練はまた明日・・新しい魔法のパターンでも考えましょうか・・」

 

私はそう呟くと演習場を後にした・・ふらつきながら歩いて行くティアナを見る1人の男・・龍也だ・・龍也は頭を抱えながら

 

 

 

「やれやれ・・ティアナも無茶をする・・」

 

そう呟く私の背後に人の気配を感じる・・その気配の主は・・ハーティーンだ・・ハーティーンは歩いて行くティアナを見ながら

 

「守護者・・あのままではあの小娘・・潰れるぞ、体力的にも魔力的にも精神的にも追い詰められてる・・まぁ・・強くなりたいという気持ちは判らんでもないがな」

 

私を見ながら言うハーティーンに

 

「私にどうしろと?」

 

その目に映ったお前の所為だと言いたげなハーティーンにそう尋ねると

 

「知らん・・自分で考えろ・・このまま潰れていくのを唯見てるのか・・上官として・・相談に乗るかは自分で考えろ・・そもそも・・お前は上官としての心構えが足りない・・上官とは常に部下の体調などを把握しておく物だ」

 

そう言って歩いて行くハーティーンに

 

「すまん・・余計な手間を掛けさせた」

 

ハーティーンは口は悪いが、人の事もちゃんと考えてるし、面倒見も良い・・過去の騎士団長という役職に就いていたのは飾りではないのだ・・私が礼を言うと・・ハーティーンは振り返らず

 

「まったくだ・・俺に迷惑を掛けるな・・俺は忙しいんだからな」

 

憎まれ口を叩いて歩く、ハーティーンの後姿を見ながら

 

「忙しいか・・毎日毎日木の上で昼寝してる奴がよく言う・・」

 

ラグナと居ない時は、基本的に木の枝の上で眠りこけているハーティーンだが、あれはあれで周りの事も見てるし・・面倒見が良い・・

 

「さてと・・行くとするか・・」

 

私はティアナをどうしようかと考えながら自室に戻った・・次の日

 

「くっ・・」

 

ティアナとウェンディに模擬戦を見るが・・明らかにティアナの動きが鈍い・・無理も無い連日のオーバーワーク・・禄に身体が動く訳が無いのだ・・それに気付いたウェンディが

 

「ティアナ・・どっか調子悪いっすか?・・そんなら今日はこれ位で止めにするっすか?」

 

心配そうに言うウェンディに

 

「平気よ・・続けて・・」

 

そう言ってガンモードのクロスミラージュを両手で構えるティアナに、ウェンディは溜め息を吐きながら

 

「どうなっても知らないっすよ・・ファング・・スラッシャーッ!!」

 

左手から十字型のブーメランを投擲する・・ティアナはそれを見ずに回避するが

 

「甘甘っす・・今日は私の勝ちっすね・・ブーステッドライフル・・シュートッ!!」

 

ファングスラッシャーを投げると同時に、構えていたライフルから魔力弾を放った・・

 

「えっ・・ッつぅ・・」

 

がら空きの胸元に魔力弾の直撃を喰らい吹っ飛ぶティアナを見て

 

(やはりか・・そろそろ・・ケアに動くか・・)

 

今日の訓練はティアナの身体の調子を見る為の物だ・・やはり予想通り、身体の調子を崩してる上に精神的に来てるのは目に見えて判る・・私は肩で息をしながら立ち上がるティアナに

 

「ティアナ!シャワーを浴びたら私の部屋に来い、話す事がある・・なのは・・悪いがセッテ達の訓練を見てやってくれ」

 

ティアナにそう言ってから、なのはにそう頼むと

 

「良いですよ・・でもティアナに変な事しちゃ駄目ですよ?」

 

疑うような目線のなのはに

 

「・・変な事とは何だ?・・唯ティアナに話があるだけなのだか?」

 

そう言うとなのはは頭を抱えながら

 

「そうでしたね・・龍也さんはそういう人でしたね・・余計な心配でしたね・・」

 

ぶつぶつというなのはを見ながら、私は部屋に戻った・・

 

 

 

 

ど・・どうしよう・・きっと幻滅された・・もう駄目だ・・私じゃやっぱり・・龍也さんの役に立てないんだ・・きっと必要無いって言われるんだ・・私はそんな事を考えながら龍也さんの部屋に向かった

 

「・・怖いなぁ・・」

 

普段なら緊張こそしても怖いとは感じない・・だが今回はこの部屋の戸を叩くのが酷く怖かった・・

 

「でも・・行かない訳には行かないもんね・・はぁ・・行こう・・」

 

私はそう呟いてから龍也さんの部屋の扉を叩いた・・すると

 

「鍵は開いてる・・入って来い」

 

私はその声を聞いてから龍也さんの部屋に足を踏み入れた・・

 

「来たか・・待ってたぞ・・とりあえず座って待ってろ」

 

そう言って部屋の置くに歩いてく龍也さんを見ながら、私はソファーに腰掛けた

 

(やっぱり・・もう失望されちゃったのかな・・少し怒ってる様な気もするし・・)

 

そんな事を考えてると龍也さんがティーポットを持って戻ってくる

 

「・・とりあえず飲みなさい」

 

そう言われ差し出されたカップを受けとると、龍也さんが向かい側に腰掛けた

 

「頂きます・・」

 

私はそう言ってから紅茶を飲んだ・・それはとても良い香りがして・・安心できた・・

 

「ティアナ・・最近無茶をして無いか?」

 

龍也さんが心配そうに話し掛けてくる・・私は夜遅くまで訓練してるとは言えず

 

「えっと・・その・・無茶はしてないと思いますけど・・?」

 

しどろもどろで答えると龍也さんは

 

「昨日もその前も・・深夜まで訓練するのが無茶でなく・・なんと言うんだ?・・私に教えてくれ」

 

・・うっ・・バレテル・・私が内心動揺してると、龍也さんは

 

「良いか?ティアナ・・昔私が言った事を覚えてるか?」

 

そういわれ私は

 

「はい、覚えてます・・無茶せず地力をつけろでしたよね?」

 

昔龍也さんに言われた事だ・・ちゃんと覚えてる・・この言葉があったから兵学校でも頑張れたのだ

 

「そうだ・・だが今のお前はどうだ?・・焦って無茶をしてないか?・・寝る時間も休む時間も惜しんで・・訓練して・・そんな事をしていては体を壊すぞ?」

 

その言葉で気付いた・・龍也さんが私の事を心配してくれてるのだと・・

 

「・・ティアナが自分が凡人じゃないのか?と悩んでいるのは知ってる・・だがな言わせて貰うが、私はお前の才能を認めてるんだ・・いや・・私だけじゃないな・・なのはもヴィータも口では何だかんだ言ってお前の事を認めてるんだ」

 

私は何と言えば良いのか判らず黙り込んでいると、龍也さんは

 

「良いか?ティアナ・・お前には指揮官の才能がある・・柔軟な思考に優れた戦況把握能力・・それがあるから、私はお前をスバル達のリーダーにしてるんだ・・判るか?お前の武器はスバルの様な攻撃力じゃない・・エリオの様な速さでもない・・お前の武器は目に見える物じゃない・・お前の武器はここだ・・」

 

龍也さんが私の頭に手を置き、穏やかに微笑む、龍也さんはそのままわしゃわしゃと私の頭を撫でて

 

「良いか?もう1度言おう、ティアナには才能がある、焦らずじっくり地力を付ければきっと素晴らしい魔導師になれる」

 

穏やかに微笑みながら言う龍也さんの顔が見えず・・私は俯きながら

 

(そうだ・・何を私は焦ってたんだ・・龍也さんの言葉を支えに私はここまで来れたのに・・なんでこんなに焦ってたんだ・・)

 

置いて行かれてると思い込み・・無茶をして体を壊して・・龍也さんに心配させて・・私は何をしてたんだ・・私は謝ろうと思い龍也さんの顔を見ながら

 

「ご・・ごめんなさい・・た・・龍也さん・・ごめんなさい・・心配させて・・ごめんなさい・・」

 

私が何度も謝ると龍也さんは何も言わず私の頭を撫で続けてくれた・・龍也さんの手は大きくて・・暖かくて・・とても安心できた・・どれくらいそうしていただろうか・・

 

「ふあああ・・」

 

昨日も遅くまで自主錬をして・・魔法の構築も考えていて・・寝たのは2時間くらいだった・・だから眠くなって欠伸をしてしまうと

 

「眠いのか?・・寝ても良いぞ」

 

寝ても良いと言う龍也さんの方を見て・・私は赤面しながら

 

「あの・・龍也さんその・・前にヴィータさんに膝枕してましたよね?・・私は駄目ですか?」

 

そう尋ねると龍也さんは

 

「膝枕・・?・・ああ・・そう言えば前にヴィータにしてやったな・・別に構わんが・・男の膝枕など固いだけだと思うぞ?」

 

そういう龍也さんに

 

「良いんです・・ちょっと昔・・兄さんにして貰ったのを思い出して・・やって欲しいなと思っただけですから・・」

 

私はそう言うと龍也さんの座ってるソファーに腰掛け

 

「それじゃあ・・その・・失礼しますね・・」

 

龍也さんの膝に頭を置く・・確かにちょっと固かったけど・・凄く安心できた・・

 

スッ・・

 

龍也さんが優しく頭を撫でながら

 

「今はゆっくり休むと良い・・」

 

私はその声を聞きながら、眠りに落ちた・・

 

 

 

 

「男の膝枕など固いだけだと思うんだがな?」

 

膝の上で穏やかな寝息を立てて眠る、ティアナの頭を撫でながら呟く・・ヴィータとか・・リィンが好きなのだが・・どうしてティアナまで膝枕を希望したのか判らなかった

 

「昔を思い出したって・・言ってたな・・まぁ・・それなら仕方ないか・・」

 

私はティアナが起きるまでそのまま頭を撫で続けていた・・

 

「う・・うん・・あっ・・おはようございます」

 

日が暮れ始めた頃にティアナが目を覚まし、私の顔を覗き込みながら挨拶をしてくる

 

「おはよう、ティアナ・・良く寝れたかね?」

 

そう尋ねるとティアナは身体を起こしながら

 

「・・んん・・良く寝れたと思います・・こんなに安心して寝れたのは何時振りでしょうか?」

 

猫の様に伸びをしながら言うティアナに

 

「それなら良いが・・ヴィータとかに言うなよ?怒るから」

 

前に休暇で家に帰ってから、はやてとかヴィータが私がスバルとかと話をしてると凄く不機嫌になるのだ・・だからそう言うとティアナは

 

「そうですね・・判りました・・この事は言わないで置きますね・・」

 

そう微笑むティアナに

 

「それと・・ティアナ、クロスミラージュを貸してくれ」

 

ティアナにクロスミラージュを貸してくれと頼むと、ティアナは首を傾げながらもクロスミラージュを手渡してきた・・私はそれを受け取り

 

「クロスミラージュ・・今からデータを送るからな」

 

そう声を掛けてからクロスミラージュに私が使う魔法を2種類の情報を送り、ティアナに

 

「私の魔法の構築を2つほど転送しておいた・・ティアナなら使いこなせると思う・・頑張れよ」

 

そう声を掛けながらクロスミラージュを手渡すと

 

「どんな・・魔法なんですか?」

 

どんな魔法か気になるのか尋ねて来るティアナに

 

「前に見ただろう?・・ガンファミリヤ・・あれと・・私が使う砲撃のデータを送った・・ガンファミリヤの方はそのまま使えると思うが・・砲撃の方は大分調整しないと駄目だからな」

 

そう注意をするとティアナは待機状態のクロスミラージュを握り締めながら

 

「判りました・・それと・・これを使いこなす為の訓練に付き合ってくれますか?」

 

そう尋ねて来るティアナに

 

「勿論だ・・私で良ければ、全力で協力させて貰うよ」

 

そう返事を返すとティアナは嬉しそうに微笑み

 

「ありがとうございます!龍也さん」

 

元気良く部屋から出て行こうとしたティアナは、部屋の入り口の近くで立ち止まり、何かを思い出したように私の方に歩いて来て

 

「龍也さん!私は諦めませんからね!・・絶対に振り向いて貰いますからね!」

 

ティアナはそう言って部屋の入り口に歩いて行き、部屋から出掛けた所で振り返り

 

「龍也さん・・私は貴方が大好きです!・・返事は後で良いです・・でも忘れないで下さいね・・私が貴方を好きだって事を・・それじゃあ、また明日」

 

そう言って今度こそ部屋を出て行ったティアナの後姿を見ながら

 

「・・思い出した・・前に・・抱きつかれて告白された事があったな・・本気・・だったのか・・」

 

前にティアナに告白された事を思い出し・・赤面しながら

 

「はやても・・なのは達にしてもだが・・私なんかの何処が良いんだ?・・もっと良い男がいるだろうに・・」

 

私はそう呟き、窓の外を見た・・夕暮れ時特有の赤とも緋色ともとれない、特徴的な色の空を見ながら

 

「本当に・・私なんかの何処が良いんだろうな・・」

 

この呟きは誰に聞かれるもなく・・天井へと吸い込まれて行った・・

 

第111話に続く

 

 


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