夜天の守護者   作:混沌の魔法使い

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第125話

 

第125話

 

「ハーティーン・・大丈夫かな?」

 

聖王教会で怪我人の手当てをしながら、ハーティーンの事を心配してると

 

ピシッ・・

 

「!!・・ハーティーン!?」

 

首から提げていたペンダントに皹が入る・・それを見た私は嫌な予感を感じ

 

「カリムさん・・私行ってきます!!」

 

返事を聞かず走り出す

 

「ラグナさん!?危ないです戻ってください」

 

静止するように言うカリムさんの声を無視して、私は聖王教会を飛び出した

 

 

 

「成龍刃ッ!!!」

 

グレイダルファーに魔力を纏わせ投げつけるが

 

「鈍い、鈍い、ハエが止まるぞッ!!」

 

音もなく回避して、そのまま左腕を伸ばして引っ掻いて来る

 

「くっ・・」

 

反射的に半歩回避するが肩の甲冑が完全に破壊される

 

「くっく・・威勢が良いのは最初だけか?」

 

馬鹿にするズィードに

 

「ふん、まだ戦いは始まったばかりだぞ?」

 

ゆっくり立ち上がると

 

「減らず口を・・」

 

ズィードが一瞬で移動してきて殴り付けてくる、

 

「くっ」

 

剣で何とか防ぐがそのまま殴り飛ばされる、少し距離をとって体勢を立て直しズィードに斬りかかるが

 

「無駄無駄無駄」

 

当たる直後で剣を掴まれ殴り飛ばされる

 

「ぐわっ・・」

 

凄まじい勢いで壁まで吹っ飛ばされる・・さっきから何度も同じ事の繰り返しだ・・俺の攻撃は届かずやつの攻撃だけが俺に当たる・・この状況を打破するために

 

「あまり好きではないが・・仕方ない・・リミット解除」

 

グレイダルファーの封印を解除してそのまま

 

「喰らえ・・アクレビオス・・」

 

グレイダルファーから放たれた魔力が、上空に集まり漆黒の球体を作り出す

 

「ギガンデスッ!!!」

 

腕を振り下ろすその球体をぶつけようとするが

 

「クロノ・・パラドックスッ!!」

 

アクレビオスギガンデスが止まり消滅する

 

「ば・・馬鹿なッ」

 

俺の最強の砲撃が消えた事に驚いていると

 

「そろそろ飽きたな・・タイムデストロイヤーッ!!」

 

俺の前の空間が歪み炸裂する

 

「グオオオオッ!!!」

 

全身の甲冑に一瞬で皹が入り吹っ飛ばされる

 

 

「げほ・・ごはっ・・」

 

咳き込む度に血が飛び出る・・内臓が幾つかやられたかもしれない・・それでも立ち上がる

 

「まだ立つか・・いい加減に死ね」

 

そう言い放つズィード・・どうするか考える・・直接攻撃も駄目、砲撃も駄目となると

 

「これしかないか・・」

 

思いついた作戦を実行する

 

「はあああッ!!」

 

全身に魔力を纏ったまま、ズィードの懐に飛び込む

 

「何をするつもりだ・・?」

 

首を傾げるズィードに

 

「直接攻撃も魔法も駄目・・なら・・魔力を暴発させるのはどうだ?」

 

自分も唯ではすまない・・いや・・死ぬかもしれない・・だがこれしかない・・俺は心の中で

 

(すまん・・ラグナ・・約束は護れん・・)

 

帰ると約束した・・1人にしないと約束したが・・その約束は護れそうにない・・

 

(すまん・・本当にすまない)

 

「一緒に死んでもらおうか・・ズィードッ!!!!」

 

今まさに自爆しようとした直後

 

「駄目えええええッ!!!!」

 

ラグナの声が宮殿の中に響き渡った・・

 

「な・・ラグナ・・」

 

動きを封じていた力が一瞬緩む、その直後

 

「ふんっ!!」

 

力任せに振り解かれラグナの近くまで吹き飛ばされる

 

「ハーティーン!!」

 

駆け寄ってくるラグナに

 

「来るな、逃げろ!!」

 

逃げるように言うが

 

「嫌だ!!私が居なくなったらまたさっきみたいな事するでしょう!!そんなの絶対嫌だ!!」

 

そう言って近づいてくるラグナは

 

「嫌だよ・・死なないでよ・・帰ってくるって言ったじゃない・・もう1人にしないで・・」

 

ぽろぽろと涙を流すラグナ・・俺が手を伸ばそうとする前に

 

「くだらん茶番だな・・まぁ良い・・2人揃って殺してやる、タイムデストロイヤーッ!!!」

 

不可視の砲撃の筈だが、業と見えるようにしゆっくりとした速度で砲撃が放たれる

 

「!!」

 

反射的にラグナの前に立とうとするが・・ダメージのせいで動けずに居ると・・

 

「ハーティーンは殺させないっ!!!」

 

両手を広げ俺の前に立つラグナに

 

「馬鹿何してる!!逃げろ!!早く!!!」

 

逃げるように言うが

 

「嫌だ!!!私が・・今度はハーティーンを助けるんだ!!!」

 

退こうとしないラグナに必死に手を伸ばすが・・俺の身体は動かない

 

(動けッ!!動けよ!!!失いたくない・・ラグナだけは・・)

 

声にならならない叫びを上げながら立とうとするが、俺の身体はピクリとも動かない

 

(頼む!!動け・・動いてくれ!!死なせたくない・・失いたくないんだ・・!!)

 

俺に名をくれた・・俺にもう一度生きる意味をくれた・・その少女を目の前で

 

「死なせて・・堪るかアアアアッ!!!!」

 

雄叫びと共に立ち上がりラグナを抱きかかえ

 

(王龍!!今一時だけで良い!!俺に力を・・ラグナを・・俺の大切なものを護る力を・・貸してくれえええええッ!!!!)

 

カッ!!!

 

「グオオオオオオオオッ!!!!!」

 

聖王教会の地下に安置されていた、王龍の目が光るそれと同時に石が砕け中から黄金色の身体を持った龍が姿を見せる

 

「オオオオオオオッ!!!!」

 

王龍が一声そう叫び声を上げ、一瞬で教会の中から姿を消した・・・それと同時にラグナとハーティーンは砲撃に呑まれた・・

 

「・・!王龍!」

 

痛みがない事に疑問を感じながら、目を開くとそこには俺とラグナを護るように宙に浮かぶ1体の龍・・それは間違いなく俺の最強の相棒・・王龍だった・・

 

「グオオオ・・」

 

優しい光を瞳に映し俺を見ている・・俺はゆっくりと抱き抱えていたラグナを降ろし

 

「ラグナ・・俺を信じてくれるか?」

 

ぼろぼろの姿で何を信じろと言えば良いのか判らなかったが、そう尋ねるとラグナは

 

「信じるよ・・ハーティーンは勝って帰ってくる・・そうだよね」

 

そう笑うラグナに

 

「ああ・・そこで見ていろ・・お前の騎士の真の姿をな」

 

ラグナから離れて王龍に手を伸ばし

 

(王龍・・もう一度・・俺と共に戦ってくれ)

 

「ブラストユニゾンッ!!・・究極戦刃・・王竜剣ッ!!!」

 

「グオオオオオオッ!!!」

 

王龍が咆哮を挙げると同時に光となり俺の身体に吸収される・・背中に黄金の翼と砕けてしまった甲冑がより強固に、それでいて美しい物に変化する・・そして自分の身の丈と同じほどの王竜剣を片手で握り締め

 

「行くぞ・・ズィード!!」

 

地面を蹴り一気に肉薄し王龍剣を振り下ろす

 

「ふん・・無駄・・「どうかな?」ッギャアアッ!!!馬鹿な・・俺の無敵のバリアが・・貴様・・何をしたアア!!」

 

自身の身体を傷つけられた事に激昂するズィード・・ズィードの言葉で確信したがやはりズィードはバリアを身に纏っていたようだ・・だが

 

「誰が敵に物を教えるか間抜け、成龍刃ッ!!」

 

踏み込んで魔力刃を飛ばす

 

「くうッ・・今度・・ッアアアアッ!!!」

 

バリアの強度を上げた様で自信を持っていたようだが、王竜剣の能力の前にどんなバリアを持っていようが意味がない・・王竜剣の能力はありとあらゆるプロテクションを無効化する事とインパクトの瞬間に魔力を大幅に上昇させ威力を桁違いに跳ね上げる事が出来る、故に最強の名を冠した剣なのだ、身体から黒い体液を零しながら俺を睨む、ズィードに

 

「決着をつけてやる・・俺の勝利という形でな!!!」

 

俺は両手で王竜剣を握り締めズィードへと向かった・・

 

 

 

馬鹿な・・神である・・俺が人間如きに・・

 

「オオオオッ!!!」

 

突っ込んでくる人間に向かって魔力波を撃つが

 

「無駄だ!!」

 

背中の翼で魔力波が弾き飛ばされる、そしてそのまま

 

「ふんっ!!」

 

巨大な黄金の剣が真下から切り上げられる

 

「グアアッ!!!」

 

左腕が根元から斬り飛ばされ消滅していく

 

「グウゥゥ・・人間如きガアアッ!!!」

 

一瞬で腕を再構築して爪を振り下ろすが

 

「遅い!!」

 

サイドステップで俺の一撃を回避した人間はそのままの勢いで胴に向かって剣を振るってくる

 

「ッギャアアアアッ!!!!!」

 

バリアが無効化されそのまま剣が俺の腹にめり込む、そしてそのまま剣を振るわれ、俺は壁に叩きつけられた

 

「ぬううう・・下等な人間如きガアアッ!!!」

 

腹の傷を一瞬で回復させ魔力を収束して

 

「タイムデストロイヤーッ!!!」

 

不可視の砲撃を放つ、これなら当たる筈・・そう思ったが

 

「ふんっ!!」

 

振り下ろされた剣で俺の放った砲撃は、剣によって両断され消滅した・・

 

「ば・・馬鹿な・・」

 

直接攻撃も駄目間接攻撃も駄目・・俺は神の化身・・ヴェルガディオスの化身・・最強の神である・・俺が・・

 

「俺が負ける物かアアアアッ!!!ディメジョンパラドックスゥゥッ!!!!」

 

両腕で空間を引き裂く、それと同時に黒い空間が宮殿だけではない、ミッドチルダ全体に時空の裂け目が現れる

 

「クハハッ!!!この世界を滅ぼしてやる!!人間どもを皆殺しにしてくれる!!!来い!!我が同胞達よオオオオッ!!!!」

 

俺がそう叫び勝利を確信していると人間は

 

「そうか・・その程度が貴様の奥の手か・・ならば・・見せてやろう・・俺の最強の一撃を!!」

 

シュウウ・・・

 

辺りの魔力が奴の剣に収束していき・・巨大な光の剣となる

 

「貴様ごと滅すれば良い・・俺の剣はありとあらゆるものを斬る!!!」

 

剣を振りかぶる人間に

 

「抜かせエエエッ!!!人間如きガアア!!!タイムデストロイヤーアアッ!!!」

 

全魔力をつぎ込んだ砲撃を打ち込んだ・・それと同時に人間も

 

「ドラゴン・・デス・・バイトオオオオオッ!!!!」

 

グオオオオオオッ!!!

 

剣が振り下ろされると同時に雄叫びを上げ黒い龍が突っ込んでくる、俺の砲撃と龍が追突する・・だが・・それは一瞬の事だった・・

 

「ば・・馬鹿なああ・・俺が・・神である・・この・・俺がアアアアッ!!!!」

 

俺の砲撃は漆黒の龍によって弾かれ、俺は魔力で出来た龍の顎によって噛み砕かれた・・

 

 

 

「はぁ・・はあ・・・・お・・終わった・・」

 

ズシャッ!!

 

膝から崩れ落ちる・・それと同時に騎士甲冑が解除される・・魔力も体力も限界だ・・もう指一本・・動かせん・・俺がゆっくりと倒れかけると・・

 

「ハーティーンッ!!!」

 

ラグナが後ろから俺を支えて、ゆっくりと俺を横にして

 

「見てたよ・・最高に格好良かったよ・・ハーティーン」

 

ぽろぽろと涙を流しながら笑うラグナに

 

「そうか・・そう言ってもらえて・・嬉しい・・惚れた・・女の前で・・良い格好したいから・・な」

 

気が緩んでいたのか自然とそう言うとラグナは

 

「ほ・・惚れた・・女?・・わ・・私の事?」

 

トマトの様に真っ赤になったラグナ・・いや・・多分・・俺も同じくらい真っ赤になっていただろう・・俺はラグナから目を逸らし

 

「むっ・・そりゃな・・俺はお前に・・数え切れない救われた・・お前が居たから俺は本当の自分を取り戻せた・・ほ・・惚れるのも・・む・・無理は無いだろう・・」

 

俺がそう言うとラグナは俺の頬に両手を当てて自分の方に向け

 

「そう言うことは目を見て言って欲しいけど・・許してあげる・・んっ・・」

 

目を閉じて何かを期待するような声を出すラグナに

 

「むっ・・今度はちゃんと・・目を見て言う・・」

 

そう言って痛む身体を起こして俺はラグナに近づいた・・

 

チュッ・・

 

軽い音がすると同時にラグナは目を開き

 

「でこじゃなくて・・こっちが良かったんだけど?」

 

唇に手を当てて微笑を浮かべるラグナに

 

「そっちは全てが終わった後だ・・おっと・・」

 

そう言った直後、よろけて倒れかけると

 

「危ないよ・・今は休んで・・後は皆が頑張ってくれるから・・ねっ?」

 

穏やかに微笑むラグナは自分の膝の上に俺の頭を動かす

 

「ら・・ラグナ?」

 

突然の膝枕に驚きながらラグナの顔を見ると

 

「私は・・魔法も得意じゃないし・・出来る事も少ない・・だから・・これくらいさせて・・私の・・私だけの騎士様に・・ご褒美を・・ねっ」

 

耳まで真っ赤になりながら笑うラグナ・・どの道・・俺には戦う魔力も体力も残っていない・・俺はラグナの膝の上に頭を預け

 

「そうか・・では・・折角の褒美だ・・ありがたく受け取らせて貰うとしよう・・我が姫・・」

 

俺はそう呟いて目を閉じた・・

 

「すっげえ・・出にくい雰囲気・・」

 

宮殿の壁に背中を預け言う1人の男・・ヴァイスだ・・ヴァイスはラグナが聖王教会から出て行ってしまったと聞いて、ここだと思って来たのだが・・あの場所に出て行く勇気は無かったようで・・ゆっくりと座りながらタバコに火をつけ

 

「ちくしょう・・今だけだかんな・・てめぇにラグナはやらねぇからな・・」

 

ハーティーンを睨みながら隠れ・・

 

「まぁ・・あいつが頑張ってたのは見てたし・・今回だけ・・今回だけからなっ!!」

 

そう呟いて居た事を知る者は誰も居なかった・・ちなみに彼がその場から出る事が出来たのは1時間後の事だった・・

 

 

第126話に続く

 

 


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