夜天の守護者   作:混沌の魔法使い

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第129話

第129話

 

「はやてちゃん!!皆!!お兄さんからの連絡です!!」

 

一通り手当てを終えた所でシャマルからそう声を掛けられる、私達は慌てて通信機の傍に向かった・・

 

「ざ・・ザザ・・こちら・・龍也・・き・・聞こえるか?」

 

ノイズ交じりのこえに・・私は通信機を手に取り

 

「ちゃんと聞こえてるで!!兄ちゃんは大丈夫なんか!?」

 

兄ちゃんの様子を尋ねると兄ちゃんは

 

「問題ない・・私は無事だ・・ジオガディスも倒した」

 

わあああああっ・・

 

管理局員の歓声が聞こえる・・なのはちゃん達も喜んでいた・・

 

「後は動力室を破壊して脱出する・・心配する必要は無い・・」

 

セッテが私の手から通信機を引っ手繰り

 

「龍也様!!私は・・貴方が帰ってくるのを待っています!!無事で帰って来て下さい!!!」

 

必死な声で言うセッテに兄ちゃんは

 

「大丈夫、ちゃんと帰る・・だから心配するな・・セッテ・・はやてに替わってくれ」

 

そう言われたセッテはしぶしぶという様子で通信機を私に手渡す

 

「それで・・皆無事なのか?」

 

兄ちゃんのその質問に私は

 

「皆無事やよ、ヴィータもなのはちゃんもスバル達も、怪我はしとるけど・・命に別状は無いで」

 

皆の様子を伝えると兄ちゃんは

 

「そ・・そうか・・よ・・良かった・・私はこれから動力室を破壊しに行く・・大丈夫だから何も心配するな」

 

繰り返し心配するなと言う兄ちゃんに少し違和感を覚えた・・そして次の瞬間・・とても小さな声で

 

「はやて・・お前はもう1人じゃない・・私が居なくなっても・・皆が居る・・だから泣くなよ・・」

 

僅かしか聞き取れなかった・・何か嫌な予感がして

 

「兄ちゃん?・・どうした・・「それでは通信を切る・・必ず帰る・・だから心配するな」

 

それだけ言うと通信機から兄ちゃんの声は聞こえなくなった・・だが私は物凄く嫌な予感を感じ、上空に浮かんでいるパンデモニウムを見上げ・・

 

(神様・・私は何もいらん・・兄ちゃんが居ればそれで良い・・だから・・私から兄ちゃんを取らないで・・)

 

信じても居ない神様に私はそう願いを託した・・だが・・その願いは叶う事はなかった・・

 

 

 

「無事で帰るか・・くくっ・・最初で最後の嘘だな・・げほっ!!げほっ!!!」

 

通路に背中を預け私は自嘲気味にそう呟いた・・咳き込んだ口からは大量の血液が吐き出される・・私はそれを見て

 

「内臓が幾つか逝ったか・・まぁ・・良い・・あと少しだ・・」

 

ひび割れた剣を杖代わりにして立ち上がると、脳裏にセレスの声が響く

 

(王よ!!早くユニゾンを解除してください!!傷の治療をしなくては!!!)

 

必死な様子のセレスに

 

「大丈夫さ・・あと少し・・あと少しなんだ・・もって見せる・・治療はその後で良い」

 

後など無いと判っている・・それでもそういった私はゆっくりと歩き出しながら

 

「行くとするか・・全てを終わらせる為に・・おっと・・」

 

バランスを崩し壁に手を置く・・私は歯を食いしばり

 

(情けないぞ!八神龍也!!あと少し・・あと少しで全てが終わるんだ!!こんな所で倒れるな!!)

 

自分に言い聞かせるようにそう言うと私はゆっくりと動力室に向かって歩き出した・・長い間この時の為だけに生きていたんだ・・こんな所で力尽きる訳にはいかない・・まだ・・私のやるべきことは残っているのだから・・この時私は気付かなかった・・倒れ掛けた時手を置いた場所が光り始めている事に・・

 

 

運命とは時に残酷である・・それはこの世界でも例外ではなかった・・

 

「はやてちゃん!!空中に画面が!!」

 

シャマルに呼ばれて外に出る、外には仮想モニターが展開され始めていた・・

 

「何が映るんでしょう?・・」

 

スバル達とモニターを見ていると・・音声が入り始める

 

『ポタ・・ポタ・・ズル・・ズル・・ビチャ・・』

 

何かが垂れる音・・そして引き摺られる音が聞こえる

 

「何だ?・・何の音だ?」

 

ヴィータが首を傾げる中映像が映し出される・・

 

「「「「「!!!!!!」」」」」

 

私達はその映像を見て声にならない悲鳴を上げた・・

 

『はぁ・・はぁ・・あ・・あと少し・・あと少しだ・・』

 

ズル・・ズル・・

 

足を引き摺りながら進む兄ちゃんの姿・・だが義手は無く・・騎士甲冑ももう殆ど残っていない・・しかしそれよりも目に留まったのは、兄ちゃんの身体を貫通している、3本の漆黒の槍だった・・カタカタ・・歯がぶつかり嫌な音を立てる・・

 

「そ・・そんな・・ぜんぜん・・大丈夫やなんか無いやないか!!!」

 

私は思わずそう叫び声を上げた・・兄ちゃんの身体からは血が流れ続けている・・出血多量で死に至るまではそう時間は掛からないだろう・・なのはちゃん達も顔が真っ青だ・・判ってしまったから・・このまま行けば兄ちゃんが死ぬと・・さっきの通信で言っていたのは私達を安心させるための嘘だと・・

 

『ここから先は通さんぞ・・守護者』

 

!!ネクロの声、慌ててモニターを見るとそこには無数のLV1、2にデクスに、数対のLV3の姿があった・・

 

『やれ・・やれ・・まだ・・こんなに居たか・・しつこいな・・』

 

剣を構える兄ちゃんにネクロが

 

『くく・・死に掛けてるな?・・楽に始末できるよ・・何安心しろ、貴様の仲間もすぐに殺してやるよ』

 

ネクロがそう言うと同時になのはちゃんとフェイトちゃんが飛行魔法を展開しようとするが、それは止められた・・聞いたことの無い兄ちゃんの声によって

 

『殺す・・?・・くくっ・・ははははっ!!』

 

兄ちゃんが急に笑い出す、その様子にスバルが

 

「た・・龍也さん?・・」

 

自分達の知る兄ちゃんとの差に声をなくす・・無論それは私達も同じだ・・動こうとしていたなのはちゃん達もモニターを見ていた

 

『ったく・・どいつもこいつも・・俺を苛立たせてくれるな!!俺の仲間を殺すだと!!・・やってみろ!!その前に俺が・・貴様らを殺してやる』

 

兄ちゃんの1人称が俺になった・・それに聞いたことの無い乱暴な口調に私達が驚いていると、オットーが

 

「こ・・怖い・・兄様だ・・嫌・・嫌だ・・あの兄様は見たくないよぉ・・」

 

ポロポロと涙を流すオットーに

 

「ぎり・・くそ・・八神の歪みは何も治ってなんかいないじゃないか・・私の馬鹿者が・・」

 

血が出るほど拳を握り締めるチンクさん・・それにノーヴェやディエチ達も

 

「「嫌だ・・あの龍也は・・見たくねぇよ・・」」

 

ポロポロと涙を流すノーヴェに

 

「何や!?何が起きるってい言うんや!!」

 

肩を掴んで揺さぶるがまるで反応が無い・・なのはちゃん達も同じ様に揺さぶっているが皆反応が無い・・これかた何が起きると言うんや・・私がモニターを見上げると同時に

 

『俺が・・貴様らを・・殺し尽くしてやる・・はやて達が居なくて良かった・・こんな姿・・見せる訳にはいかんからなっ!!!』

 

兄ちゃんが右手で顔を覆う・・それと同時に蒼い魔力が徐々に漆黒に染まっていく・・まるでネクロの様に・・

 

『見せてやるよ・・俺の狂気の形を!!!!ディランス・・ディアボロ・ダス・エクストレーム・トラウリヒ・ドラッへッ(世界の中心で泣き続ける大悪魔龍)!!』

 

ズドンッ!!

 

まるで爆発したような音が響き、一瞬モニターが消える・・そして再び映し出されたモニターには・・兄ちゃんだった者が立っていた・・禍々しいまでの黒い甲冑に蝙蝠の翼・・そして顔の右上を隠すような仮面・・その眼から覗く兄ちゃんの眼は真紅に染まっていた・・その姿はまるでネクロの様だった・・

 

『ウウウウ・・ガアアアアアアアッ!!!』

 

咆哮と共にデクスが襲い掛かるが、兄ちゃんは素手でデクスを掴み

 

『やかましいんだよ!!!とっととくたばれっ!!!』

 

ズドンッ!!!

 

乱暴にデクスを地面に叩きつけ、そのままデクスの頭を踏み潰す

 

グチャッ!!!

 

「「「ひっ・・」」」

 

肉が潰れる生々しい音にスバル達が引き攣った声を上げる

 

『さぁ・・始めようか・・一方的な殺戮をな!!!』

 

兄ちゃんはそう言うとネクロ達の群れに飛び込んだ・・私達はその日兄ちゃんの歪みと狂気を見た・・それは見たくなかった姿でもあった・・

 

第130話に続く

 


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