第130話
「嘘だ・・こ・・こ・・こんなの・・龍也じゃない・・」
フェイトちゃんが震えた声で言う、私もそう思った・・モニターの兄ちゃんは
『くく・・ははははっ!!どうした!!!たかが死に掛けが1人だぞ!!!掛かって来ないのかっ!!!』
ゴキンッ!!!
掴んでいたLV2の首をへし折りそのまま投げ捨てると同時に砲撃を放ち跡形も無く消し飛ばす
「何なんだよ・・何なんだよ!!あれは!!!」
ヴィータが悲鳴にも似た声を上げる・・モニターに居たネクロは既に殆ど全滅している・・兄ちゃんの爪に脚に・・翼に・・尻尾に引き裂かれ・・あるいは叩き潰され・・息絶えていた・・それまで無言だった・・ハーティーンが
「ディランス・・か・・」
そう呟くハーティーンにシグナムが
「お前!あれが何か知ってるな!!答えろ!!あ・・あれは・・兄上はどうなったんだ!?」
シグナムがそう怒鳴ると、ハーティーンは
「あれはディランスという・・一時的にネクロの領域に足を踏み込み・・身体能力を大幅に高める禁呪・・まさか守護者が使えるとは思ってなかった・・」
ハーティーンの話を聞いてると
『ひ・・ヒイイイイイッ!!!』
ネクロが逃げ出すが次の瞬間
ダンッ!!!
兄ちゃんに頭を踏まれ床に叩きつけられる・・
『がっ・・がっ!!』
腕を出鱈目に動かし兄ちゃんの足の下から逃れようとするが、兄ちゃんの脚は全く動かず次の瞬間
『死ね・・』
グシャッ!!
鈍い音を立ててネクロの頭蓋は踏み砕かれた・・
『終わりか・・うっ・・げほっ!!げほっ!!!』
パキャンと音を立てて仮面が砕けると兄ちゃんは蹲り咳き込む、咳き込む度に血が吐き出される・・それを見たなのはちゃんは
「し・・死んじゃう・・龍也さんが・・死んじゃうよ・・」
震える声で言うなのはちゃん・・にフェイトちゃんが肩に手を置く・・その間に兄ちゃんは立ち上がり・・剣を杖代わりに進んでいく
『はぁ・・はぁ・・これで終わりだ・・あと少し・・あと少しで良いんだ・・動いてくれ・・』
兄ちゃんは足を引きずりながらパンデモニウムの奥に向かっていた・・
『ここだ・ここが・・ぐっ・・動力室だ・・』
動力室に辿り着いた兄ちゃんは
『はぁ・・はぁ・・残りの全魔力・・持っていけ!!!!』
ズドン!!
兄ちゃんの一撃は動力室を粉々に破壊し、パンデモニウムが徐々に落下を始めると同時に兄ちゃんは倒れ込み
『はは・・やったぞ・・・これで終わりだ・・ごほ!ごほ!!・・はぁ・・はぁ・・私も限界か・・』
騎士甲冑とユニゾンが解除され、倒れこむ兄ちゃんの隣にセレスさんが姿を見せ
『王よ、まだ間に合います、速く脱出を!!!』
脱出を進めるセレスさんに
『この死に掛けの体で脱出しろ?断る・・どうせ死ぬんだ、はやて達を悲しませる必要は無い・・私はここで大人しく逝くとするよ』
兄ちゃんはパンデモニウムの窓から空を見上げるとセレスさんは
『何を言ってるのです!!早く脱出を!!手遅れになる前に!!』
必死な形相で逃げるように言うセレスさんに兄ちゃんは
『私は・・ここに戦いに来たんじゃないんだ・・私は・・ここに死にに来たんだ・・』
私は目の前が真っ暗になるのを感じた・・死にに?・・何を言ってるの?・・私が混乱してると、セレスさんが
『何を言っているのですか?』
その言葉に兄ちゃんはうっすらと微笑みながら
『お前は知らないんだな・・なら教えよう・・天雷の書は契約の時に私に問いかけた・・『護りたい者を護り1人で死ぬか?』それとも『護りたい者を護れず、一緒に死ぬか?』と・・私は迷わず答えた・・『護りたい者を護り1人で死ぬと』・・すると天雷の書は見せてくれた・・私がこの場所で1人で死ぬ未来を・・私はそれからこの場所で死ぬために生きて来た・・』
死ぬ為に生きていた?・・兄ちゃんの独白がどこか遠くに聞こえた・・
『まるでアーサー王の神話じゃないか・・死ぬと判っていても戦う事を選んだ・・げほっ・・げほっ・・私はアーサー王じゃないでも・・自分の進むべき道は判っていたつもりだ』
咳き込む兄ちゃんの顔色は急速に青白くなっていく、死人のように・・
『だから・・私は姿を隠した・・どうせ死に行く男だ・・いまさら・・はやて達の前に姿を見せてどうすると思っていたから・・でも・・私は会いたかった・・もう一度話をしたかった・・もう一度はやての頭を撫でてやりたかった・・だから・・はやて達の前に行った・・悲しませると・・泣かせてしまうと判っていたのに・・私は会いたかった・・もう一度抱きしめてやりたかった・・』
兄ちゃんはそこまで行ったところで言葉を切り、空を見上げ
『だが・・私の役目は終った・・はやて達は強くなった・・もう私が居なくても大丈夫だ・・守護者の盾はもう必要じゃないんだ・・』
違う・・私達にはまだ兄ちゃんが・・夜天の守護者が必要や・・ポタポタと私の目から涙が零れ落ちる・・くぐもった笑い声を上げながら兄ちゃんはセレスさんに
『なぁ・・セレスは神を信じるか?』
神を信じるかと尋ねる兄ちゃんにセレスさんは
『私は・・』
言葉を詰まらせるセレスさんに兄ちゃんは
『私は信じてない・・だが今だけは信じても良い・・神は・・信じる者の願いを叶えてくれるんだろう?・・神よ・・もし居るなら私の願いを叶えて欲しい・・はやて達は充分苦しい思いをした・・もう良いだろう?・・これから先はやて達にこれ以上苦しい思いをさせないで欲しい・・もしまだ過酷な運命が待っていると言うのなら・・私を地獄に落とすが良い・・はやて達も分も私が背負おう』
あれほどボロボロなのに・・私達を心配している兄ちゃんの姿に私達は涙を流す事しか出来なかった・・
『はは・・だが今まで神を信じなかった私の願いなど叶えてくれる訳も無いか・・・ごほっ!!・・はぁ・・はぁ・・もう限界か・・さ・・最後に・・』
兄ちゃんが服に手を突っ込み中からロケットを取り出す、それは兄ちゃんと私の写真が収められている物だ・・それを開いた兄ちゃんは
『くく・・ははは・・神様とやらは私が嫌いなようだ・・さっきまで・・さっきまで見えてたのになぁ・・』
乾いた笑い声を上げる兄ちゃんの目は白く濁っている・・もう何も写してはいないだろう・・兄ちゃんはセレスさんの方を見て
『セレス・・お前は脱出しろ・・そしてはやてと契約しろ・・もう私に付き合わなくていい・・今までありがとう、さぁ・・行くんだ』
兄ちゃんにそう言われたセレスさんは
『お断りします、天空の青き風は何時如何なる時も貴方と共に・・』
そう言ったセレスさんは兄ちゃんの隣に座り腕を掴む・・兄ちゃんは驚いた表情を見せてから
『・・馬鹿だな・・お前は・・でもありがとう・・セレス・・1人は嫌だから・・嬉しいよ・・寂しいのは・・嫌だからなぁ・・もうあんな寂しい思いをしたくないからな・・』
兄ちゃんはそう言って笑うと震える手で十字を切りながら
『これから・・先・・はやて達の進む道に・・幸福・・があらん事を・・』
パチャッ・・
兄ちゃんの手が血の海に沈む・・開かれた手には私と兄ちゃんが笑っている写真が写されたロケットが合った・・そしてそれを見た私は理解してしまった・・兄ちゃんが■■■と・・私は大粒の涙を流しながら・・いや・・私だけではない・・皆涙を流していた・・あ・・ああ・・居なくなってまう・・私の・・大切な人が・・
『王よ・・貴方を独りだけで逝かせはしません・・私も・・貴方と共に・・』
セレスさんがしゃがみ込み兄ちゃんを抱き抱える・・それと同時に炎が上がり兄ちゃんとセレスさんの姿を隠す、私が慌てて騎士甲冑を展開しようとしたが・・
「!何でや!?・・何で起動出来ないんや・・「すまない・・」スカリエッティ?・・あんた何したんやッ!!!」
騎士甲冑が展開できず私が慌ててるとスカリエッティが謝る、私が・・私だけじゃない・・皆が詰め寄るとスカリエッティが
「龍也に頼まれていたんだ・・時間と同時に君達のデバイスが起動出来ないようになるようにしてくれと・・」
そんな・・本当に兄ちゃんは死ぬつもり・・私が慌てて
「今すぐ解除せえ!!まだ間に合う・・「不可能だ・・今日一日はもう起動出来ない・・私のデバイスも・・他の局員の物も・・」・・そ・・そんな・・」
助けに行ったら助かるかもしれない・・それなのに・・私達は動く事が出来ない・・絶望感でその場にしゃがみ込むと
ズドンッ!!ズドンッ!!!
パンデモニウムが小爆発を繰り返しベルカの自治区に向かって落ちていく
「いや・・嫌や・・こ・・こんなの・・嘘や・・」
私の目の前でパンデモニウムが炎に包まれていく・・私は首を振りその光景を否定する・・こ・・こんなのって・・無い・・だが・・現実は変わらない・・パンデモニウムは爆発し、その中で兄ちゃんは死んでいくと言う現実は・・
「こ・・こんな・・事になるなんて・・私は・・自らの手で・・親友を・・」
膝から崩れ落ちるスカリエッティ・・それと同時に
ドンッ!!ドンッ!!
パンデモニウムが爆炎に呑まれ始める・・
「嫌や・・いやあ・・こんなの・・こんなのって・・」
私達が見ている中、パンデモニウムは爆発し四散する・・それと同時に
「「「「「「「い・・いやあああああああああっ!!!!!!」」」」」」
大勢の悲鳴が響き渡った・・その中に私の悲鳴も含まれていただろう・・この日・・私達は大切な人を失った・・
パンデモニウムが落ちた日の夜・・
ガチャ・・ガチャ・・
パンデモニウムの残骸が動きその中から
「己・・夜天の守護者・・よくも俺の城を・・」
ボロボロのジオガディスが姿を見せる・・その目の前に
「ジオガディス様、ご無事でしたか」
姿の無かったヘルズが姿を見せる、ジオガディスは
「くそ、忌々しい・・だが・・守護者はいない・・俺達の勝ちは決まった・・行くぞヘルズ」
「畏まりました・・」
マントを翻し歩き去るジオガディスの背を追って歩き出すヘルズ・・2人の姿は闇の中に消えていった・・闇の中を歩いているとジオガディスが
「う・・うぐっ・・」
胸を押さえ蹲る・・ヘルズが慌てて駆け寄ると
「だ・・大丈夫だ・・休めば治る・・」
手で制し立ち上がったジオガディスは
「あの最後の一瞬の魔力光・・あれは・・確かに・・」
何かを考え込む素振りを見せるジオガディスにヘルズが
「何か気になる点でも?」
そう尋ねられたジオガディスは
「いや、取るに足らぬ事だ・・守護者は死んだ・・もう考える必要も無い・・後は六課の魔道師達を殺し、術式を完成させればいい・・そうすれば・・俺達は帰れる・・あの場所に・・」
遠い目をするジオガディスにヘルズは
「そうですね・・長い時間が経ちましたが・・漸く私達の願いが叶う・・その為にも・・今は休みましょう・・」
「そうだな・・傷を癒さねば・・油断していると足元を掬われるからな・・」
ゆっくりと闇の中に歩いていく、ジオガディスとヘルズ・・ジオガディスに対抗できる者はもう居ない・・夜天の守護者は死んだのだから
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや・・夜天の守護者は・・死んではいなかった・・時間は少し遡る
「死なせない・・死なせて堪るか・・」
龍也を抱き抱え涙を流すセレス・・その涙が龍也の頬に落ちた時・・
パアアアッ・・・
柔らかな虹色の光が龍也を包み込む・・それを見たセレスは
「これは・・まさか・・この方は・・いや・・そうに違いない・・あの時の」
セレスは何かを思い出したような表情をすると、龍也の亡骸を胸に抱き
「死なせません・・貴方は・・貴方だけは死なせる物か・・命令だからじゃない・・私の心が・・それを願っている・・」
セレスがそう呟くと同時に虹色の光が龍也とセレスを包み込んだ・・
「融合騎として生まれ・・兵器として扱われ、磨耗した私に、名と感情を教えてくれた・・貴方の為なら・・この命・・惜しくは無い・・」
そこまで言った所でセレスは穏やかに微笑み、龍也の顔を見て
「私はやっとこの気持ちの正体が判りました・・王よ・・私の愛しい人・・私の存在意義に賭けて・・貴方を死なせはしません・・その為に私の命が尽きたとしても・・それは本望です・・」
次の瞬間・・セレスと龍也の姿はパンデモニウムの中から消えていた・・そしてこの日から1年後・・この世界は大きく動き始める・・
第131話に続く