第131話
もう・・いない・・あの人が居た場所には誰もいない・・私はもう住む者のいない壁に手を置きながらそんな事を考える・・1年・・1年待った・・もう・・限界だった・・ちらりと鏡を見て苦笑を浮かべる
「はは・・変わって・・もうたね・・」
髪は腰元まで伸び、前髪で目が見えない・・1年で私は大分変わってしまった・・いや・・私だけでは無く皆だ・・ヴィータは兄ちゃんが死ぬ訳無い!!と言い、スバルやティアナたちと共にパンデモニウムの瓦礫を捜索している・・1年で遺品も何も見つからない・・だから生きていると信じ探し続けている・・シグナムは前まで以上に新人の指導を厳しくした・・リィン達もヴィータ達同様、兄ちゃんの生存を信じ続けている・・私もそうだったが・・
「疲れてもうたんよ・・心では信じてる・・でも・・」
兄ちゃんと皆で撮った写真に手を伸ばす・・
「1年や・・1年は長すぎた・・」
写真立てにポタポタと涙が落ちる・・
「もう限界なんよ・・待つのは・・」
帰ってくるといった兄ちゃんの言葉を信じるのも疲れた・・懐をまさぐり1枚の封筒を取り出す・・そこには退職届と書かれていた・・
「兄ちゃん・・私・・管理局辞める・・海鳴に戻ろうって思うんよ・・海鳴で兄ちゃんのとの思い出を思い出しながら・・死ぬまで独身でいようかな?ってさ・・」
私には兄ちゃん以外の男なんて考えられないし・・誰とも結婚せずに独身でいようと決めた・・私は長い髪を肩の後ろに回しながら立ち上がり
「海鳴に戻る前に髪・・切ろうかな?」
今の私は1年前の自分と違いすぎる・・やはり海鳴に戻る前に元の髪型に戻すべきだろう・・
「髪切りに行ってから、レジアス中将に辞表渡そ・・」
そう呟きながら兄ちゃんの部屋を出て、私は街へと歩き出した・・
「やはり・・はやての出した結論は管理局を去る事か・・」
私は歩き去るはやての後背を見ながら呟いた、八神が消えてからここはまるで火が消えたようだった・・私はゆっくりと歩きながらこの1年の事を思い出していた・・八神がいる間は良く笑っていたリィン達からは笑顔が消え、スバル達は殆ど六課には戻らない・・父さんは、地下の研究室に篭りきり、大切な姉妹にも色々と問題が起きている・・寮に足を踏み入れると
「セッテちゃん?・・お昼置いておきますからね、ちゃんと食べてくださいね?・・はぁ・・こっちが参ってしまいますわ・・あら、チンクちゃんどうしたんです?」
セッテの部屋の扉の前に食事を置いていた、クアットロに話しかけられ、私は
「セッテが心配でな・・どうだ?まだ部屋からは出てこないか?」
ここ1年セッテは部屋に篭りきりだ、食事は運べば食べるし、着替えも皆が寝静待った頃に、洗濯機の前に置いてある・・でも私はここ1年セッテの顔を一度も見ていない・・いや私だけではなく姉妹全員だ・・一縷の希望を持って尋ねるとクアットロは
「出て来てないですね・・声は少し聞こえましたけど・・あまり健全と言える内容ではないですね・・」
溜息を吐きながら言うクアットロに
「なんと言っていたんだ?」
セッテが何と言っていたのか尋ねるとクアットロは少し俯きながら
「死ぬ訳無い・・死ぬ訳無い・・あの方は帰ってくる・・絶対・・私のところに・・ですわ・・」
私達の中で最も八神の生存を信じているのは、セッテだ・・無論私も信じているが・・私はそんな事を考えながら椅子から立ち上がった、すると
「どうしたんですか?」
首を傾げながら尋ねてくる、クアットロに
「少し考えたい事がある・・セッテのことは頼む」
セッテのことはクアットロに任せた方がいい、セッテと最も仲が良いのはクアットロだからだ・・私はそう言うと自分達の部屋を後にした・・
「ここが落ち着くな・・」
八神が良く背中を預け、本を読んでいた木に背中を預け空を見上げながら
「八神・・生きてるなら早く出て来い・・皆心配してるんだぞ」
誰に聞かせるでなく呟く
「お前が居ないと私達は駄目なんだ・・だから・・生きてるなら・・早く出て来てくれ・・頼む・・私だって・・限界が近いんだ・・」
あの太陽な暖かさ・・包み込むような慈愛・・1年経った今でも鮮明に思い出せる・・
「八神・・私はお前に・・会いたい・・」
この1年ずっと思い続けていた事を呟き、私はその場を後にした・・
チンクが六課に戻った頃、ベルカ自治区の外れでは・・
「スバル、次はここよ、この奥に空洞があるわ、慎重にやって」
手元の機械を見ながらスバルに言うと
「了解・・これくらいかな?・・神破光拳ッ!!」
左手に極光を集め軽く瓦礫を殴りつけるスバル、するとぴしぴしと音を立てて瓦礫は崩れ去った・・私はそれを見ながら
「凄いわね・・大分使いこなせてるんじゃないの?極光」
私がそう尋ねるとスバルは苦笑いを浮かべながら
「全然だよ、ISと併用して出来るだけ・・本当ならもっとスムーズに出来るよ」
確かに・・映像で見た龍也さんのやり方とは全然違うか・・私はそんな事を考えながら
「行きましょう、どこに続いてるか判らないけど・・龍也さんが生きてるって証拠を見つけるわよ」
「うん!」
BJを解除したスバルと共に私は、瓦礫で塞がれていた通路を歩き始めた・・
「ヴィータさんに報告しなくて良いの?」
通路を懐中電灯で照らしながら尋ねてくるスバルに
「一応報告はしてあるわ、でも部隊長の事で気になる事があるから私達だけで捜索してくれってさ」
先ほど来たメールの内容を話しながら通路を進んでいると
「「ここは・・」」
私とスバルは思わずその場で立ち止まった・・通路に壁にべったりと張り付いた血の跡・・何かを引き摺ったような痕・・間違いないここは・・
「動力室に続く道・・」
1年前に映像で見た場所に間違いが無かった・・ゆっくりと奥に向かって歩きながら
「この奥だよね・・龍也さんが炎の包まれたのは・・」
爪の痕、壁に空いた大穴を見ているとスバルがそう呟く、私は
「そうね・・もし・・龍也さんが死んでるなら・・遺体があるかもしれない場所ね」
冷静に言ったつもりだが、私の声は震えていた・・スバルは自分の身体を抱くように
「引き返さない?・・皆で来た方が・・「私は信じてるもの・・龍也さんが死んでないって・・だから・・この目で確かめる、嫌ならスバルだけ引き返せば?」・・行くよ!!私だって信じてるもん・・龍也さんが死ぬ訳無いって・・」
そう言うスバルに頷き、私達は動力室の跡地に足を踏み入れた・・
「何も無いね・・」
スバルが呟く・・確かにそこには何も無かった・・あるのは血痕位で、最悪の結果の1つである龍也さんの遺体や、壊れた騎士甲冑の破片なども何も無かった・・私が辺りを見回していると足に何かが当たる
「何かしら?」
しゃがみ込んで足に当たったものを拾い上げる・・それは
「セレスさんの杖?」
龍也さんの融合騎であるセレスさんの杖だった・・私がそれを両手で持つと同時にその杖は待機状態である、ペンダントに戻った・・
(どうして?・・デバイスだけなんてあるなんておかしいわね・・とりあえず・・部隊長に渡しましょう・・)
そのペンダントをポケットにしまっていると、スバルが
「早く六課に帰ろう!!皆に教えてあげないと!!」
戻ろうと私を呼ぶスバルに
「判ったわ・・一度戻りましょう」
私はスバルと合流して動力室に続く道を引き返し始めた・・私は暗い通路を歩きながら
(生きてる・・龍也さんは生きてる・・これじゃあ少し弱いかもしれないけど・・確かな証拠・・早く皆に教えてあげよう)
これで少しは六課も明るくなるかもしれない・・私とスバルはそんな事を考え大急ぎでベルカの自治区を後にした・・
「何か見つかったのかしら・・?」
走り去るバイクを教会の窓から見ながら私は呟いた・・八神中将が居なくなって1年・・公式では死亡扱いだが、一部の魔道師達(六課や108部隊)は八神中将の生存を信じ探し続けている・・私がそんな事を考えてると
「義姉さん、僕に何の様?」
ヴェロッサが扉に背中を預けながら尋ねてくる、私は
「とりあえず座ってください、話はそれからです」
座るように促すとヴェロッサは
「怒こられるような事はした記憶が無いけど・・どうしてそんなに怖い顔をしてるの?」
からからと笑うヴェロッサに
「パンデモニウムの中から運び出した物を出しなさい」
若干睨みながら言うとヴェロッサは
「何のこと?・・僕は何もしてないよ?・・「正直に言いなさい、八神中将の遺品を運び出したんでしょう?」・・ふう・・まぁ・・それは考えたんだけどね?・・はやてが悲しまないようにって・・「なら・・」話は最後まで聞いて義姉さん・・でもね何も無かったんだ」
その言葉に私が停止してるとヴェロッサは
「パンデモニウムが落ちてすぐ、無限の猟犬で遺品を回収しようと思った、でもね何度調べても何も出て来ないんだ・・考えられるのは1つ・・龍也は死んでいない・・炎は上がっていたけど人の身体を焼き尽くすほど強力な火じゃない・・つまり龍也はどこかで生きてるんだ、どうして出て来ないのか判らないけどね・・これで話は終わり?・・それじゃあ僕は帰るよ」
ウィンクしてから出て行くヴェロッサを見ながら、私は
「遺品が無い・・死んではいない?・・どういう事・・!!予言が!」
机の上に置いてあった予言が光り輝き、次の瞬間には書かれていた文字が全く別の物に変わっていた、しかも・・
「これは読める?・・どうして?」
翻訳しなくてはいけない文字が何故だか今回はスムーズに読むことが出来た・・予言が光っている事と関係しているのかもしれない、長い間この能力を使っているがこんな事は始めてだ・・私はゆっくりと予言を読み始めた・・
『消え去りし守護者は大いなる守護の力を手に再び世界に君臨する、その時守護者は王と共に神の座を手にする、だが滅びはそれで止める事叶わず、大いなる不の化身もまた3柱の魔王と共に蘇る。その時こそ神なる守護者の本当の力が目覚める時、守護者は終焉と創世の力を手にするだろう・・』
「これは・・ドーンッ!!!・・何事ですか!?」
予言を読み終えると同時に外から爆音が響き渡る、慌てて窓の外を見ると
「クラナガンの方向・・まさか・・ネクロ!?」
クラナガンの方向から黒煙と無数の黒い影が見える・・恐らく黒い影はネクロだろう・・私は慌てて自分の部屋を後にした・・この爆音こそが停まっていた時が再び動き出した証拠であった・・
第132話に続く