第12話
「次はフェイトとシグナムか・・」
スターズの隊長室を後に次の目的地である、ライトニングの隊長室に向かう。徐々にだが隊員の数が増えてきており、見たことのない私に首を傾げる隊員が居ると
「明日から、六課に配属されるひとですよ~」
リィンが説明してくれている為、徐々に好奇の目で見られることは減っていた
「さぁ早く行って、リィン達もご飯にするですよ」
自分とリィンの分も作り、一緒に袋に入れてある。はやてが一番最後になる為。一緒に食べようと考え入れてあるのだ
「そうだな、早く行くとするか」
少しだけ歩幅を大きくした
「うー、此処がこうで。えっとこうだよね?」
大量の書類に埋もれながら私は頭を抱えた。久しぶりに会えた龍也に合えたのはプラスだが。こんなに書類を溜めていると知られたら・・怒られるのは必須だ。龍也の怒り方は静かだがその分怖い。前に怒られた事を思い出し身を震わせる
「大丈夫か?テスタロッサ。少し手伝うか?」
シグナムも書類があるが普段どおりの量だ。私よりかは少ないがそれでも多い
「ううん、いいよ、これは私の分だから。それに龍也が朝食持ってきてくれる前に、少しは減らさないと」
「兄上が朝食を持ってきてくれるのか・・それは楽しみだな」
シグナムも普段は余り見ない、穏やかな表情で書類を片付けている。前に聞いた事があったけどシグナムは龍也のことは好きだが、其処に恋愛感情は無いと言っていたから、ライバルじゃないよね?私の知ってる限りではなのはとはやてそれにヴィータが龍也の事が好きらしい、なのはもはやてもヴィータも友達だけど、龍也は渡したくない。でもはやてとヴィータは協力して龍也を落とそうとしている、自分もなのはと協力したほうが良いのだろうか?とグルグルと龍也の事で考え込み仕事の手が休まっていると
プシュ!!
音を立てて扉が開き、机の上にある書類を見て
「やはり隊長は書類が多いんだな・・だがシグナムは少し少ないようだが?」
書類の量の違いに首を傾げている龍也に
「フェイトちゃんは執行官ですから、六課の分と執行官の分で量が多いんですよ」
リィンが上手く誤魔化してくれている。その分を見るとなのは達の方でもフォローしてくれた様だ
「そうなのか・・やはり執行官というのは大変なんだな」
しみじみと呟いている龍也。どうやらリィンの言うことを信じたようだ。それに胸を撫で下ろす。執行官の仕事と被ってもこれほどの量には成らない。リィンのフォローに感謝していると
「ほら、これ食べて。仕事頑張れよ」
目の前に置かれるサンドイッチのお皿。見た目もさることながら盛り付け色取りも鮮やかだ
(リンディ義理母に教えてもらったけど、龍也の料理の腕に勝つのは難しいみたいだね・・)
昔料理の出来る子はもてると言われて、リンディ義理母に龍也を唸らせる料理を作れるように成りたいと、言った事があったが。
それは可也、難しいと言われた龍也は6歳の頃から料理を作っており、その腕は可也高く簡単に追いつくことは出来ないって言われたな
再び思考の海に浸っていると
「どうした?もしかしたら嫌いなものでもあったか?」
食べようとしない私を見て、何か嫌いなものでも入れてしまったかと尋ねてくる。シグナムは既に食べていた
「いえ、そんな事無いです、頂きます」
持って来てくれたサンドイッチを食べる
「美味しい」
自然と零れてしまった声、8年前に食べた料理も美味しかったがこれはそれ以上だ。
「そうか、美味しいか。良かった口に合わないと、どうしようかと思っていた」
そういって笑う龍也は隻眼になってはいるが、記憶の中の龍也と同じように笑っている。
「所で飲み物に紅茶があるが、フェイトはどうする?シグナムはストレートだがミルクもあるぞ」
シグナムは余り甘いものは好きではないため、龍也と同じくストレートで紅茶を飲む。昔ストレートで飲んだことがあるが飲めず砂糖を入れたのを覚えている、
「すいませんが、ミルクでお願いします」
ストレートも飲めるかもと思ったが、また飲めず笑われるのが嫌だったので。素直にミルクで頼む。手馴れた手付きで紅茶にミルクと砂糖を加え手渡された紅茶を飲む。それはミルクのバランスと砂糖の加減が丁度良くとても美味しかった
「お代わりは置いておくからな、仕事頑張れよ」
ポットを置いて出て行く龍也に
「朝食、有難うございます。凄く美味しいです」
声を掛けると後ろを向いたまま手を振る。昔から龍也は照れたりすると此方を見ない癖がある。その様子にくすりと笑い仕事を続ける、
今日は少しくらい量が多くても全部出来そうな気がする。気合を入れて書類に立ち向かう。
「お兄様。顔が赤いですよ~」
リィンに指摘される
「むぅ、あんな風に素直に礼を言われると弱いな」
苦笑しながら、リィンと共にはやての部屋に戻っていく
「遅いで~兄ちゃん。私はもう仕事終わったで」
部屋に戻るとはやてがソファーに座り待っていた。可也の量があった書類はもう部屋から運び出されていた
「もう終わったのか?」
信じられなくて尋ねると
「兄ちゃん、私を甘く見たらいかんで、兄ちゃんが居るって判ってるやで?それは普段の三倍の速さで仕事できるで」
胸を張って言うはやて、昔からだな、私が居るか居ないでか宿題をやる速さが変わっていた事を思い出した
「そうか・・じゃあ大分待たしてしまったのか?」
もし可也待っていたら悪かったと思い尋ねると
「うんや、今丁度終わった所でな。持って言った貰ったばかりやから。大丈夫やで。それよりお腹減ったわ、はよ食べよ」
お腹を抱えて、お腹が減ったとアピールする、はやてにサンドイッチを渡し、自分とリィンの分も机に置く
「なんや、兄ちゃんも此処で食べるんか?」
「ああ、リィンがな正式配属は明日からだから。あまりウロチョロしない方が良いって。言ってたからな此処で食べようと思ってな」
グッ!!とリィンに親指を立てるはやて、その顔は笑顔だ
「まぁ、食べるとしようか?」
ソファーに座り朝食を食べ始める。途中で交換してとかそれ欲しいですとか言う、妹達との食事はやはりとても楽しかった
「はやて、所で私は何処で寝泊りすれば良いんだ、家から通うのか?」
リィンは仕事があると言って出て行ってしまった為、今部隊長室はわたしとはやての二人だけだ。
朝食を終え本を読んでいると不意に思い出す、仮に配属が決まったとしても寝るところが無ければ家から通う事になる。
「それは大丈夫や。もう部屋の準備は出来とるで。心配ないわ」
どこか含みのある笑顔のはやてに
「何か企んでるだろ?正直に言え何を企んでいる」
この笑顔の時は碌な事が無い。昔だが突然キスしようとして来たり。風呂に入っている時に突撃してくるときの顔に似ている。いやな予感がしながら尋ねると
「女子寮の管理人おらへんのよ。なに兄ちゃんに管理人やれとは言わんよ。でもそこしか部屋が空いてへんで我慢したってや」
ちなみに寮母さんが居るが、それとは別に管理人のポジションがある。いままでの管理人の候補は下心が丸出しだった為不採用に成り続けている
「・・言いたい事はあるがそれは我慢しよう、寝る床があるだけそれでいい。それと管理人の部屋で寝るんだ。簡単な雑用くらいなら引き受ようか」
当たり前の対価として提案を出すが
「うんや、そんな事はさせられへんで、仮に兄ちゃんは中将扱いやで?そんな事させられへんわ」
「・・・ちょっと待て今中将って言ったか?なんでぽっと出の私が何故そんな地位だ?」
可也の高い地位からの開始に疑問を感じ尋ねると
「リンディさんと伝説の三提督にレジアス・ゲイズ中将からの指示や」
皆知り合いだが、何故そんな地位に私を置きたがるのか聞きたかった。
龍也は興味が無いので知らないが、蒼天の守護者と呼ばれていた龍也は。当時Bランクでありながら2つのロストギア事件を解決に導いているだけではなく、Bランクでありながら嘱託の時に数々の事件を解決している事から、ランクの低い若い魔導師の憧れであり目標でもあるのだ兵学校でも教材に取り上げられるなど、その知名度は非常に高い
「それにレジアス・ゲイズ中将が言うてたで、兄ちゃんの御蔭で目が覚めたって」
ダークネスの時にゼストと共に赴いたことが合ったが、それが原因だろうか?
ちなみにこの時にダークネスとゼストと話したことにより、以前までの高慢な態度は消えはやて達や聖王教会とも今は仲がいい。また自分とジェイルの関係も知っており、ジェイルが最高評議会によって生み出された人造魔導師という事も知っており、ジェイルの極秘裏での協力者でもある
「そうか・・今度会いに行った方が良いな」
今のレジアスは好人物であり、かなり評判もいい
「そうやな、レジアス中将の御蔭でデバイスの強化も出来たし、お礼言いにいかんと」
二人でレジアスの話をしていると、
「うんで、今日は悪いけどこの部屋で寝て貰うけど。ええ?」
「まぁ、一晩くらいなら問題ないさ。・・どうした?」
部屋を見る為に一瞬はやてが視線から消える。その隙を突いて隣に座っていたはやてが。こっちに寄ってきて抱きついてくる
「うん・・兄ちゃんが居ってくれて。すごい嬉しいんや。でもなこれが夢やったらと思うとな怖くなるんよ」
「はやて・・・」
はやては今にも泣きそうな声だ
「でな、一つ聞きたいんや。お父さんとお母さんが死んで兄ちゃんと二人だけになった時の約束はまだ生きとる?」
私にとっては第2の両親が死んだとき、墓の前で泣くはやてに私は誓ったことがあった
「あの時の約束か?」
こくりと頷くはやての頭を撫でながら尋ねる
「なんだったら、もう一回言ってやろうか?」
「ほんま?良いの」
「ああ、だがそれなら今は離れてくれないか?あの時の様にやるから」
抱きついていたはやてが離れてから、はやての前に肩膝を着いて座り。あの時の言葉を言う
「此処に誓おう、はやてが望む限り。はやてを傷つける者から護ることを、はやてに害悪をもたらす物の盾になろう。はやてが望む限り
共に居ることを誓う。私はこの命が続く限りお前の守護者になる」
はやての手を取りその手の甲に口付けをする、これは騎士の忠誠を誓うものだ
「有難うな、兄ちゃん。態々やってくれて」
やはり恥ずかしいのか顔が赤いながらも礼を言うはやてを見てから立ち上がる
「これくらい、お安い御用だ。これではやての不安が消えるならな・・」
「でもな。これ恥ずかしいわ、昔は何言われとるか判らへんかったけど、今なら判るでな~これやっぱプロポーズみたいやで?」
赤くなりながら笑うはやては私から見ても美しいと思った
「なにを冗談を、これは誓いであって。プロポーズじゃないぞ」
「へへ、プロポーズやったら良いやけどな~」
再び抱きついてくるはやてに
「いい加減。兄離れしないと嫁の貰い手がなくなるぞ?」
「いいも~ん、そうなったら兄ちゃんに貰ってもらうから」
抱きつたまま笑うはやてに
「知ってるか?兄弟は結婚できないんだぞ」
「知ってるも~ん、兄弟は結婚できんけど従兄弟なら出来るんやで」
抱きつく腕の力を強め離れまいとするはやてに
「やれやれ、そうならない事を願うよ」
「なんや?兄ちゃんは私と結婚したくないって?」
怒ったようなはやてに
「仮に結婚したい思ったら駄目だろうよ。妹に欲情するなら人間失格だ。それに私とはやてでは吊り合わんよ」
「自分とは吊りあわないって言うんか」
「違うさ、はやてでは美しくなりすぎて、私では役不足と言いたいのさ」
自分は隻眼隻腕だ。そんなハンデを持つ私と吊り合うような者は居ないだろう
「むう。自分を過小評価しすぎや、兄ちゃんは最高の男やで」
「有難う、はやてだが矢張り、私としては別の男を好きになって貰ったほうが良いな」
「嫌や~私は兄ちゃんが好きなんやから」
抱きついて離れないはやてに苦笑しながらこの日は終わった。さぁ明日からは機動六課の隊員としての自分が始まる、
立ち止まらず前に進む、私は夜天の守護者・・八神龍也なのだから
第13話に続く