夜天の守護者   作:混沌の魔法使い

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第34話

第34話

 

ピピピッと目覚ましの音がする。それを止めもう一眠りと思うが

 

「・・・・はっ!!今何時だ」

 

慌てて飛び起きる昨晩龍也さんに6時に部屋の前に来いと言われていた事思い出し、慌てて時計を見る時間は6時五分前

 

「やばい~早く行かないと」

 

慌てて着替えバタバタと部屋を後にする、全速力で管理人室の前に行く。其処には既に何時もの黒のコートを着込んだ龍也さんが壁に背を預け待っていた

 

「はぁっ・・・すいません、寝過ごしてしまいまして」

 

肩で息をしながら言うと

 

「気にしない・・少しくらいならな・・・なんだその髪は?はぁ・・ほら後ろ向け梳いてやるから」

 

気にしないと言っていたが髪を見て、呆れながらコートから櫛を取り出しながら言う龍也さんに

 

「いいいいい、良いですよ。ほっとけば直りますから」

 

手を振り断ろうとするが

 

「良いから、後ろを向け直ぐに済む」

 

「うっ・・・判りました」

 

観念し後ろを向く。ゆっくりと髪が梳かれていく

 

(・・・何か凄く気持ちが良いな・・・ヴィータさんや部隊長の気持ちが判るや)

 

優しく櫛が動かされ髪が丁寧に整っていく暫くし

 

「終わりだ。それじゃあ行くか?」

 

櫛を仕舞い歩き出した龍也さんの隣を歩いて行く

 

「ベヒーモス。セットアップ」

 

隊舎前でベヒーモスを起動させ跨り

 

「早く乗れ、行くぞ」

 

タンデムシートに乗り、実家へと向かって行った、バイクで走りながら

 

「お前の家は何処にあるんだ?」

 

結構な速さで走りながら尋ねて来る龍也さんに

 

「クラナガンの中心の方ですよ」

 

「中心・・・まだ大分先だな。飛ばすから確り掴まれよ?」

 

掴まるよう言う龍也さんに

 

「えっ・・・とはい」

 

恥ずかしくて顔が赤くなるが確りと龍也さんの背にしがみ付く

 

「行くぞ」

 

アクセルを全開にし急に加速する、それはマッハキャリバーと同じかそれよりも速く、吹き抜けていく風がとても心地良かった

隊舎を出てから一時間程で実家に付いた

 

「此処か・・・中々感じが良いな」

 

少し離れた所から家を見上げそう呟く龍也さん。それはどことなく優しい感じがした

 

「スバル、今日ギンガとゲンヤさんは居るんだよな?」

 

確認してくる龍也さんに

 

「はい、今日はギン姉とお父さんが非番の日ですから居ますよ」

 

「そうか・・・では行くとするか」

 

家の方に歩き出した龍也さんの後を追いかけて行く。家の前に行くと其処には

 

「おう、スバルに坊主・・・いや今はもう坊主なんて言えねぇな」

 

穏やかな笑みを浮かべたお父さんが居た、

 

「朝早くから申し訳ありません、ですがどうしても話しておきたかった事があったので」

 

そう言って頭を下げる龍也さんを見て

 

「良いって、頭上げなよ?今じゃお前さんの方が上官だぜ」

 

頭を上げるよう言うとゆっくりと頭を上げたのを見てから

 

「ほれ。立ち話も何だからよ、家の中で話そうぜ」

 

お父さんに先導され家に入って行った

 

 

「しかし、でかくなったな龍也、昔はもっと小さくなかったか?」

 

今で笑いながら言うゲンヤさんに

 

「何時の話を最後に会ったのは8年前ですよ?」

 

微笑みながら言い返すと

 

「違いねぇ、そりゃでかくなるわな」

 

ガハハと笑うゲンヤさんに吊られて笑い出してしまう、変わってないなと思っていると

 

「八神中将。お茶をどうぞ」

 

ギンガがお茶を運んできてくれるが

 

「いや・・・中将なんで飾りみたいなものだ。龍也で良い」

 

「いえ・・しかし上官な訳ですし」

 

トレーを抱え困ったような素振りを見せるギンガに

 

「ギン姉駄目だよ。龍也さんはそういう呼ばれ方が好きじゃないんだよ?」

 

お茶を飲みながら言うスバルに

 

「スバル!そういう呼び方はいけないと「いやスバルの言うとおりだな。私はそういう呼び名の方がいい」・・・判りました龍也さん此れで良いですか?「それで構わないよ、中将等と言われると肩が凝るよ」」

 

穏やかな空気の中暫く世間話をしていたが

 

「所で何で私が今日ここに来たか知っていますか?」

 

「いや・・・特に聞いてないな。明日朝から二人で来るとしか聞いてないぜ」

 

「そうですか・・・では少し失礼しますよ」

 

バチン指を鳴らし結界を展開する

 

「・・結界とはな。それほど重大な話って訳か」

 

鋭い視線のゲンヤさんを見据え

 

「ええ、余り聞かれたい事では無いので、極秘裏の話です。管理局では5人しか知らぬ最重要機密です」

 

その言葉に

 

「私とスバルは席を外しましょうか?」

 

気を使ってギンガが言うが

 

「いや・・駄目だ、此れはどちらかと言えばゲンヤさんより。ギンガとスバルに関係している・・・こんな言い方は嫌だが戦闘機人である二人に用があるんだ」

 

その言葉に顔を青褪めさせるギンガと睨むような顔をして

 

「何処で知ったんだ?二人が戦闘機人だと?」

 

「簡単ですよ。クイントさんに聞いてんです」

 

クイントと言う言葉に更に眉を顰めるゲンヤさんだが

 

「ふざけてんのか?クイントはもう死んでるんだぜ?」

 

立ち上がり今にも殴り掛かって来そうなゲンヤさんと、あたふたとしているスバルとギンガを見ながら

 

「ええ。表向きは死んでますね。ですが彼女は生きています。いえ彼女だけではありません、ゼストもメガーヌも生きてますよ」

 

「・・・・詳しく聞こうか?」

 

ゼスト、メガーヌと言う言葉を聞き座りなおしたゲンヤさんに

 

「元よりそのつもりですよ」

 

と微笑み話し始めた

 

「まずゼスト隊ですが・・ネクロによって壊滅したと聞いてますね?」

 

「ああ、そう聞いてるが」

 

「実際は最高評議会によって、ネクロ達の基地に派遣されたんです」

 

「どういう意味だ?その言い方だと最高評議会とネクロが繋がっている用に聞こえるぜ?」

 

「その通りなんですよ、最高評議会・・もう壊滅してますが。当時はネクロと繋がってたんです」

 

息を呑むギンガとスバルを見てから

 

「ゼストはその線を疑い捜査している内に邪魔者として排除されかけました。ですがギリギリのところで間に合って全員保護する事に成功しました」

 

本当にギリギリの所で保護する事に成功したのだ

 

「成る程・・それでゼスト達は今何処に居るんだ?」

 

安心した様子で何処に居るのか問いかけて来るゲンヤさんに

 

「スカリエッティの研究所ですよ」

 

嘘を言わず事実を言う、ジェイル・スカリエッティの名に

 

「スカリエッティだと!!何でそんな犯罪者の所に居るんだ!!!」

 

怒鳴りながら立ち上がったゲンヤさんに

 

「落ち着いてください、ジェイルも被害者なんですよ」

 

「どういう意味ですか?スカリエッティは犯罪者として指名手配を・・・」

 

黙り込んでいたギンガが尋ねてくるが

 

「その通りだが・・世界には誰も知らない真実がある、ゲンヤさんもし貴方がスバルとギンガを誘拐されて、無事に帰して欲しければ言うことを聞けと言われたら如何ですか?」

 

「言うことを聞く・・・まさか・・・」

 

何が言いたいのか気付いたゲンヤさんは目を見開く

 

「貴方の予想したとおり・・・ジェイルは娘を人質に脅されていたんですよ。娘の命が惜しければ従えとね」

 

事実だ私がまだ隻腕の時、虱潰しにネクロの基地を破壊して回ってる時。基地に監禁されているウーノ達を発見した。最初は何故此処に人間が思った。向こうは向こうで私の黒い騎士甲冑を見て怯えていた。私が彼女達を檻から出した時もトーレやチンクは私を敵だと勘違いして襲って来た。まぁその時はネクロが押し寄せてきて、私がネクロの敵だと理解し協力してくれた。それからウーノ達をジェイルのアジトまで連れて行って。私とジェイルの付き合いはそこから始まった。ジェイルが私の義手を作ってくれただけじゃなく,

ベヒーモスも製作してくれた。私はその礼としてナンバーズに護身と戦う為の術を教えていた、そうだ・・・ジェイルが君たちの兄のような男だ、何て言うから。暫く私の呼び名がお兄様になっていた。今でもその名残はあるが・・まぁ仕方ないだろうそんな事を考えていると

 

「ちょっと、待ってください、スカリエッティは独身の筈どうして娘が居るんです?」

 

流石と言う所か目の付け所が違うな

 

「ジェイルは身寄りの無い子供達を保護し、自分の娘として育てていたんだ。アイツは情報のような酷い奴じゃないよ。ギンガ」

 

「そうなんですか?」

 

信じられないと首を傾げるギンガに

 

「言って置くがジェイルの娘の前でそんなこと言うなよ?怒り狂うぞ全員」

 

ジェイルがウーノ達を愛するようにウーノ達もジェイルを本当の父親の様に思っている。そんな中でそんなことを言えばギンガは間違いなく重傷を負うだろう

 

「話は逸れてしまいましたが私が今日此処に来たのは。ゲンヤさん達とクイントさんを再会させる事と。スバルとギンガに同じ戦闘機人としての悩みを持つジェイルの娘と話をさせるのが今日此処に来た理由です」

 

一旦話を切る

 

「あの・・質問なんですが?同じ戦闘機人って、スカリエッテイの娘さんは人間なんじゃ?」

 

スバルが尋ねてくる、ゲンヤさんとギンガも同じ事を疑問に感じていたのか頷いている

 

「・・・ネクロは私が人を傷つけないことを知ると、それを利用してやろうとジェイルの娘達を後天的に戦闘機人に改造したんだ・・・つまり私の所為でウーノ達は人間じゃ無くなってしまったんだ・・・」

 

私の責任だ・・私がもう少し早ければ人のまま幸せに生きていた筈なんだ。気にするな其処おかげで戦えるんだと言ってくれるが。俯き黙り込んでしまう

 

「龍也・・あのよぉ。俺が言えた義理じゃねぇが・・お前さんはその娘達を救ったんだ胸を張れよ。なっ!」

 

ゲンヤさんがそう笑い肩を叩いて言う、スバルとギンガも同じように微笑んでいる

 

「少しだけ軽くなりましたよ。ありがとうございます」

 

やはりゲンヤさんの所に来たのは正解だったようだ

 

 

見たことの無い表情だった、何時も優しくそれでいて真っ直ぐ前を見ていた龍也さんだが、今は歯を食いしばりギリギリと嫌な音を立てて俯いている。勘違いしていた龍也さんだって人間なんだ悩みもするし、迷いもする、でも龍也さんはそれを隠す術を知っている。だから気付く事が出来なかったのだ

 

(龍也さんだって偶には弱気になることもあるんだな・・・)

 

普段は見ることの出来ない一面を見た気がした

 

「それでゲンヤさんにギンガ、今日クイントさんに会いに行きますか?」

 

普段の表情を浮かべ真っ直ぐにお父さんとギン姉を見据え問いかける龍也さんに

 

「決まってんだろ?会いに行くぜ、それが例え地獄でも行ってやる。もう一度クイントに会えるならな」

 

「私もです、私はお母さんに会いたいです」

 

お父さんとギン姉が返事を返すと

 

「予想通りですね・・きっとそう言うと思っていましたよ」

 

微笑む龍也さんに

 

「おし、じゃあ今から行こうぜ」

 

と立ち上がるお父さんに

 

「待ってください。ゲンヤさん貴方は大切なことを忘れています」

 

「あっ?なんだよ大切なことって?」

 

言ってることが判らず首を傾げるお父さんに

 

「失礼ですが、まだ食事をしてないのでは?」

 

あっ・・と呟き黙り込む、お父さんとギン姉。どうやらお母さんに会えると聞きテンションが上がりすぎたようだ

 

「でもそれなら・・龍也さんとスバルも食べてないんじゃ?」

 

「それなら大丈夫、来る途中に龍也さんが作ってくれた。サンドイッチ食べたから」

 

途中で休憩で停車したときに龍也さんが持ち出した物だ、量もボリュームも味も最高だった。その言葉を聞き信じられないという表情を浮かべるお父さんとギン姉何か不味いこと言ったかな?と首をかしげ龍也さんを見る、龍也さんも判らないと言う表情をしている

 

「龍也・・悪りいが久しぶりにお前の料理が食いたくなった。作ってくれるか?」

 

コクコクと頷くギン姉。後に知るが龍也さんの料理は非常に美味で有名で、過去に様々な部署を転々としている際に料理を作り振舞っていたらしく、それを食べた隊員はその美味さに驚いたそうで、ある意味伝説になっている

 

「別に構いませんが・・如何したんです急に?」

 

自覚なしの龍也さんは首を傾げていると

 

「偶には良いじゃねぇか、な頼むよ」

 

と頭を下げるお父さんに

 

「判りました。では待っていてください、直ぐに作ってきますから・・・スバルは如何する?食べるのか?」

 

コートを脱ぎ立ちが上がりながら尋ねてくる龍也さんに

 

「少しだけ、食べます」

 

と返事を返すと苦笑しながらキッチンに消えた龍也さんを見ていると

 

「スバルよぉ、お前何度か食べたことがあるのか?アイツの料理?」

 

今のテーブルに座り尋ねてくるお父さんに

 

「二週間に一回、料理を作ってくれるよ?」

 

何事もないように言うが

 

「それ羨ましいな・・・龍也さんの料理って凄く美味しいらしいから」

 

まだ食べたことが無いだろうギン姉が言うと、キッチンから

 

「ゲンヤさん、和食で良いですか」

 

と声が聞こえる

 

「なんでも良いぜ。美味けりゃな」

 

と返事を返すお父さん、凄く仲が良いなと思う、暫く世間話をしながら待ってると

 

「お待たせしました」

 

器用に三つのトレーを持ちながら歩いてくる、龍也さん。長い黒髪はバンダナで縛られていた

 

「和食で固めたので口に合うかは判りませんが、どうぞ」

 

置かれたトレーにはご飯、魚の塩焼き、野菜の漬物に、味噌汁、完璧な和食である

 

「「「頂きます」」」

 

手を合わせそう言ってから食べ始める

 

「美味い!」

 

味噌汁を飲みながら本当にご機嫌で食べてるお父さんに

 

「本当、凄く美味しい」

 

ギン姉も笑顔で食べている、私もお父さん達よりかは少ないが、龍也さんの美味しいご飯を笑顔で食べていた。その間龍也さんは何かの本を読みながら難しい顔をして考え込んでいた

 

「「「ご馳走様でした」」」

 

食べ終えると本を閉じ皿を片付けようとする龍也さんにギン姉が

 

「あ、これは私がやるので」

 

ギン姉が洗い物をしている間、世間話をし時間を潰していると

 

「すいません、お待たせしました」

 

洗い物を終えキッチンから出てきたギン姉がソファーに座るのを見てから

 

「それでは今からジェイルのアジトに行きますが、何か持っていく物は在りますか?」

 

もって行くものは無いかと確認を取る龍也さんに

 

「いや特にないな、それより早くクイントに会いたいな」

 

「「私も早くお母さんに会いたいです」」

 

思わずギン姉と声を揃えて言うと

 

「クク、判りました。それでは行きましょうか?」

 

声を押し殺して笑い、コートから黒い鍵を取り出しそれを投げる、するとそれは黒の装飾が施された見た事の無い扉になった

 

「さぁ、この扉の中へ・・」

 

と扉の横で頭を下げる龍也さんに促され私達は扉を潜った

 

 

第35話に続く


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