第35話
扉を潜ると其処深い森の中でした
「此処から大分歩きますが、ゲンヤさんなら問題ないでしょう。此方です」
先導する龍也さんの後を付いて行く、其処は大分暗い森の中で足元も良く見えない
「しかし深い森ですね、此処は何処なんですか?」
ギン姉が尋ねると
「ミッドの郊外だな・・地図の一番端のほうにある深い森だ」
説明しながら進んでいく龍也さんは歩き慣れているのかスルスルと進んでいくが、私達は付いて行くのがやっとだ
「しかし・・よお何で・・こんな所に・・・隠れてんだ・・よ」
息も絶え絶えといった様子でお父さんが尋ねると
「ジェイルは犯罪者として管理局に追われ、更にはネクロにも追われていますからね。かなり慎重になってるんですよ」
納得だこの森はかなり深い、龍也さんの案内が無ければきっと直ぐに迷子になるだろうと思い進んでいくと
「何者だ・・・」
何処かから女性の声が聞こえると、龍也さんは微笑みながら
「トーレ、私だダークネスだ、すまないが此処を通してくれないか?」
以前の名を言うと
「ダークネス・・・ふふ、もうその名は名乗らなくて良い。父さんから聞いてるぞ、八神龍也として生きてるとな」
女性の笑い声が聞こえると目の前の茂みが消え、洞窟が姿を現す
「セキュリティは解除した、早く来い」
という声が聞こえると
「それでは行きましょうか?」
と微笑み洞窟に入っていった、龍也さんの後を付いて洞窟に入っていった
「中は機械的なんですね」
洞窟は偽装で中は最高クラスの機械の宝庫だから、スバルの感想は当たり前だろう
「まぁ、偽装だからな」
と説明しながら歩いていくと、通路の影から
「久しぶりだな、八神、元気そうで何よりだ」
長身の女性が姿を見せる
「トーレも元気そうだな。他の皆は如何だ?」
尋ねると頭を抱え
「セッテを除き元気だ、セッテはもう末期だな、龍也様、龍也様と言っている」
「何故そうなった?セッテは元気じゃなかったか?」
記憶では何時も元気でにこやかだったが・・
「・・きっとお前が鈍感だからだ、もう少し女心を学べ、お前たちもそう思わないか?」
溜め息を吐きながらスバル達に問いかけるトーレ、振り返るとスバルとゲンヤさんが頷いていた。ギンガは苦笑を浮かべていたが・・
「っと・・申し訳ない、自己紹介がまだだったな。私はトーレだ」
自己紹介をしてないことを思い出したのか頭を下げながら、名乗るトーレに
「ご丁寧にどうも、俺はゲンヤナカジマこっちは娘の・・」
「スバルです」
「ギンガです」
とお互いに自己紹介をしていると、何処からダダダッと走ってくる音が聞こえる
「まさか・・・・」
嫌な予感がし身構えると
「龍也兄~!」
凄まじい勢いで赤い髪の少女・・ウェンディが突撃してきた
「ごふう!」
予想外の出来事にダイレクトに突撃を喰らい、息が止まる。鳩尾にウェンディの頭が命中している、スバル達も驚きの余り硬直している、トーレは怒っているのが目に見えて判る、そんな空気の中能天気に
「元気だったすか?・・あれ龍也兄、どこか痛いんっすか?」
自分のやったことに気付いていないウェンディの頭に
「この馬鹿者が!」
トーレの拳骨が振り下ろされた。またそれと同時に私は片膝をついてしゃがみ込んだ・・
「痛いっすよ~」
頭を抑えて涙目のウェンディに
「この馬鹿者が!そういうことはするなと、何回言えば判るんだ!!」
怒鳴りつけているトーレを尻目に
「大丈夫ですか?」
心配そうにスバルが寄って来る
「だ・・・大・・丈夫だ・・・だが・・すま・・・ない肩を貸してくれ・・・」
予想以上のダメージに立ち上がることが出来ず、スバルの肩を借り立ち上がる
「本当に大丈夫です?」
スバルが心配そうに顔を覗き込んでくるが
「大丈夫だ。此処に居るときはしょっちゅうこの突撃を喰らっていた。だが余りに久しぶりで反応できなかった」
事実だ良くこの突撃を喰らっていて、何回目かで成れて受け止めることが出来る様になっていたが、どうやら久しぶりすぎて反応出来なかった様だ
「お前さん・・・いろんな意味でずれてるぜ?」
ゲンヤさんが呆れた様に言っていた
「トーレ、それ位にしてやったら如何だ?」
以前説教を続けているトーレに言うが
「駄目だ、やはり姉として叱らないといけない事はあるんだ」
と取り付く島も無いトーレと助けてと言う目で此方を見るウェンディに溜め息を吐きながら
「すまないが、スバル達の案内があるんだ、悪いが手伝ってはくれないか?」
「案内?八神が居るんだ問題ないだろう?」
と此方を見ずに言うトーレに
「判らないか?ナカジマ・・・クイントさんの娘さんだ」
「!?っ・・・そう言う訳か・・判った一緒に案内しよう」
クイントの名に何を言いたいか理解したトーレは了承した、ウェンディも立ち上がろうとするが
「お前は此処で正座私が戻るまで其処で反省して居ろ」
と無慈悲な判決が下され涙を流すウェンディを見ずに
「行くぞ、こっちだ」
と歩き出してしまったトーレの後を追いスバル達が歩き出すが
「助けてくれないっすか?」
と涙声で言うウェンディに
「すまん、・・・頑張れ?」
と呟き歩き出した
「あのトーレさん?さっきの人は?」
ギンガが尋ねると
「聞いてるだろう?父さんの義娘だよ・・・私もだがな」
と呟くように返事を返すトーレに先導され歩いていくと
「あら?あら?これは八神兄様じゃないですかぁ」
独特な甘い声の女性の声が聞こえ、その声の方を見ると大きな丸メガネを掛けた女性がにこやかに笑っていた
「クアットロか、元気そうだな」
「当然ですわ、それに八神兄様も元気そうで何よりですわ・・・ところで後ろの女の人は誰ですかぁ」
微笑んでいるがその瞳の奥に見定めるような色を浮かべるクアットロから視線を外す、スバルとギンガ、気持ちは判るな
「クイントさんの娘さんと旦那さんだ、それで判るな?」
「・・・当然ですわ、私達とは違う戦闘機人・・・一度話してみたかったですわぁ」
と笑うクアットロだが真意は伺えない。こいつは本当に良く判らんな
「トーレ姉様、此処から私がご案内しますので」
「むっそうか?すまん八神まだやらねばならんことがあってな。ここで失礼する」
消えたトーレに代わり
「さっ此方ですわ・・目的地は父様の部屋で宜しいですか?」
と言い微笑むクアットロに
「ああ。それで頼むよ」
「ふふ、それではお喋りでもしながら行きましょうか?」
と楽しげに笑い、歩き出したクアットロを見て
「龍也・・俺なんかアイツ苦手だ」
「奇遇ですね。私もクアットロは苦手なんですよ」
と返事を返し歩き始めた
「ふふ。やはり家族以外と話すのは楽しいですわぁ」
と独特な甘い声で上機嫌に言うクアットロに
「そ・・そうですか・・」
そのテンションに引き気味なスバルに
「あら?判りませんかぁ?同じ悩みを持つ者として自分と同じ存在に合えたのは嬉しくありませんか?」
成る程・・こいつの異様なテンションはそれの所為か・・
「まぁ嬉しいですけど・・・」
スバルがぼそりと言うと
「クスクス、そうですよね・・ああそれと最初に言っておきますが。私達の中には貴方達に似た能力を持つ娘が居ますよ」
更に上機嫌になったクアットロに
「似た能力?ウィングロードの事ですか」
「そうですよぉ、ギンガ貴方は中々頭の回りが良いですねぇ。ノーヴェちゃんって言ってウィングロードに似たエアライナーという先天性の魔法が使えますわぁ。ちなみに私は幻術系ですけど~」
と語る本当に上機嫌だ、今まで見た事が無いくらいご機嫌だ
「それで他の人たちは?」
「他の子達ですか?皆訓練してますよぉ」
と言う確かに此処まで他のナンバーズを見ないのは珍しいと思っていたがそれで納得した
「訓練?どうしてそんな事を?」
「クスクス、父様の罪を今レジアス中将が取り消そうとしてますわ。そして無事に取り消す事が出来たなら、姉妹の中で何人かは六課の隊員として配属される事になってますからね。その為の準備ですよ、八神兄様の足手纏いにならない為のね」
と微笑みながらクアットロが言うとスバルが横に寄ってきて
「龍也さん知ってたんですか?」
「何を?」
「そのクアットロさん達が配属されるって事・・・」
「当然だろう?私はレジアスの推薦もあって中将をやってるんだぞ?知ってて当然だ」
納得という感じで下がるスバル達と通路を進んでいくと
「此処ですわ、それでは私は失礼しますわ」
来た道を引き返していくクアットロを見送ってから、ジェイルの部屋に入る
「やあ、良く来てくれたね、龍也、それにスバル君とギンガ君にゲンヤさん歓迎するよ」
立ち上がりにこやかに歩いて来るジェイルに
「「始めまして」」
「よろしくな」
と挨拶をすると嬉しそうに笑う
「ああ、良いねぇ、こうして人と話すのはとても楽しいよ」
ジェイルも上機嫌だ、本当に嬉しそうに微笑んでいる
「取りあえずお茶でもどうだい?いい茶葉が手に入ったんだ」
座るように促し全員にお茶を渡し、再び席に着いたジェイルは
「どうぞ。このお茶は中々手に入らないんだ」
とにこやかにお茶を薦めた、しばらく他愛無い話をし、ジェイルの印象が変わってきたところで本題に入る
「ジェイル、今日此処に来たのはクイントさんとゲンヤさん達を再会させるのが目的なんだが」
その言葉を待っていたと言いたげに笑う、ゲンヤさんを見てジェイルが微笑みながら
「クイントさんか、彼女は元気だよ。早く娘と旦那に会いたいって言ってたし。会っていくと良い」
お茶を飲みながら返事を返すジェイルに見送られ、クイントさんが居る部屋に向かって行った
先導するのは龍也さんだ、暫く暗い通路を進み一つの部屋の前で立ち止まる、龍也さん
「ゲンヤさん、スバル、ギンガ、私が呼ぶまでここで待っていてくれるか。少し驚かせようと思うんだ」
と微笑む龍也さんに
「良いな、俺は賛成だぜ、精々吃驚させてやろうぜ」
とニヤリと笑うお父さんに続くように頷くと、龍也さんは部屋の中に入っていった、部屋の中から懐かしいお母さんの声が聞こえる
「クイントさん、元気そうですね」
「龍也どうしたの?貴方が来るなんて珍しいわね」
龍也さんとお母さんの会話が聞こえる、胸がどんどん高鳴っていく
「クイントさん、今日は貴方にプレゼントがあるんですよ」
「プレゼント?何いい加減、スバルかギンガの旦那になる決意でもしたの?」
その言葉に私の顔が真っ赤になる、ギン姉も同様だ。お父さんは難しい顔をしている
「ご冗談を・・私のような男ではスバル達と吊り合いませんよ」
「あらあら、相変わらず自分の評価は低いのね、でも私は本気よ、貴方ならきっとスバル達も気に入る筈よ」
かなり乗り気なようだ、もう恥ずかしくて俯くしか出来ない
「それに貴方は戦闘機人だからって色目で見ない、だからきっとノーヴェちゃん達も貴方のことが好きなのよ。スバル達もきっと同じ貴方に惚れるはずだわ」
「ふー、冗談はやめてくださいよ、私なんかをからかって楽しいですか?」
疲れたように言う龍也さんだが
「からかってる訳じゃないだけどね」
クスクスとお母さんの笑い声が聞こえてくる
「プレゼントと言うのは。実は・・クイントさんに会わせたい人が居まして。きっと喜ぶ筈ですよ。入って来てください」
その言葉を聞いてから部屋の中に入る。お母さんが目を見開いているのがわかる
「ど・・どうして此処に・・・龍也が会いに行ったら駄目だって・・・」
動揺しているのか途切れ途切れに言うお母さん、少し歳を取ってるが間違いなくお母さんだ
「確かにクイントさんが会いに行くのは駄目だと言いましたよ、ですがその逆なら良いんですよ」
口を押さえ笑っている龍也さん
「お・・母・・・さん」
「クイント・・・」
色々言いたいことは合った、でもお母さんを見たらそれは全て何処かに飛んでいってしまった。涙がボロボロと流れ始める
「皆・・・」
お母さんも目に涙を浮かべている
「家族だけで話したいこともあるでしょう。私はジェイルの部屋で待ってますよ」
部屋から出て行こうとする龍也さんに
「あ・・あり・・がと・・う・・ござ・・い・・ます」
涙で途切れ途切れにしか話せないでも何とかお礼を言う事は出来た
「気にしなくて良いさ・・クイントさんに甘えれば良いだろう」
と振り返らず出て行った龍也さん
「うう・・お母さん・・お母さん・・・うわわああああんん」
私は思いっきりお母さんに抱きつき涙を流した。その背中をお母さんが優しく撫でてくれた事がとても嬉しかった。どれくらい抱きついて泣いていたか判らないでも私とギン姉の目は涙で真っ赤になっていた、お父さんも涙を流して喜んでいた
「スバル?貴方は龍也の事が好き?」
泣きやみ、お母さんが居なくなってからの話をしていると、突然そういわれ驚きで動きが止まる
「おおお、お母さん。ななななな何言ってるのの?」
噛みながら言うとお母さんはやっぱりという顔をして微笑んでるし。ギン姉は驚きといった表情だし、お父さんは
「アイツならスバルを任せれるな・・・」
と呟いてるし
「だってスバル貴方、龍也に助けられた時の話をしている時、物凄い笑顔だったわよ?」
「うっ・・・それは・・・」
指をつんつんとして俯く。
「だって・・・龍也さんは優しいし、格好良いし、頼りにもなるし」
私は真っ赤になりながら言うと、お母さん達はクスクスと笑ってる
「良いじゃない、人を好きになるのは良い事だわ。それにウカウカしてるとジェイルの娘達に龍也盗られちゃうわよ~」
「それは駄目っ!!」
思わず大きな声で反論する。何を言ったのか理解して顔が茹蛸みたいになる
「それなら頑張りなさい、ライバルは一杯居るけどきっとスバルなら大丈夫よ」
何故か自信たっぷりという感じでサムズアップするお母さんに
「良し、頑張れスバル。龍也を振り向かせろ、アイツは究極的な鈍感だが信頼に値する男だ」
フォローしてるのか、馬鹿にしてるのか判らないが真顔で言うお父さんに
「スバルにも恋が・・・私も頑張らないと・・・」
何故か物凄く慌てた様子で呟くギン姉と物凄く混沌(カオス)だった
「お母さん、部隊長とかなのはさんとかフェイトさんも居るけど大丈夫かな?」
最悪のライバル(恋仇)である人物の名を言うが
「大丈夫!私の娘なんだもん、きっと大丈夫よ」
笑顔で言うお母さん、ずっと蓋をしていた感情、私は龍也さんが好きなのだ・・・ティアには私は諦めると言っただが。お母さんと話をしてその感情は我慢出来なくなった。もういい立ち止まらない私は龍也さんが好きなんだ
「決めた・・絶対龍也さんを振り向かせて見せる」
そう宣言すると。お父さんとお母さんは嬉しそうに笑っていた。
そうだ関係ない・・・私だって龍也さんが好きなんだ、部隊長とかなのはさんとかフェイトさんも関係ない恋は自由なんだ。もう決めた、私は絶対龍也さんを振り向かせるって。まずはティアに協力してもらおう。龍也さんは凄まじい鈍感だからきっと私の事も妹としてみてる、ならまずは其処から出ることが最優先だ。一人では無理だ、ならティアに協力してもらう。そうだそれが良いと決意を固めた頃
「ブルっ・・・何だ?何故か寒気がする」
談笑していたが突然寒気がし、体が震える
「風邪かい?気をつけなよ?君が倒れたらネクロは止められないのだから、そうだそれより私の娘と結婚する気は「フン!」ごふぅ」
何時もと同じく結婚するように言ったジェイル、左フックを叩き込み殴り飛ばす
「ふふふ。君は・・・凄まじい女・・・難なんだ・・・きっと凄まじい争・・・奪戦になる・・・だろう・・・ガク」
そう言い残し気絶したジェイルを見ながら。その言葉が当たらない事を願った
第36話に続く