第87話
「凄い・・」
私はモニターを見ながら呟いた・・スバルが美しい水色の魔力を纏いネクロに肉薄し、次々と拳を振るう・・だがネクロもネクロだ・・その鋭い一撃を最小限の動きで回避し、左腕の剣を振り下ろす・・それは完璧なタイミングだったが・・スバルの手に・・
フォンッ・・
チンクさん達が能力を使う時に現れるのと全く同じテンプレートが浮かび
「おおおおおっ!!!」
振り下ろされた剣を素手で砕く・・そしてそのままネクロを殴り弾き飛ばす・・ネクロはビルを3個ほど貫いて弾き飛んで行った・・私はその威力に驚かされたが・・それ以上に驚いた点があった・・
「スバルも・・戦闘機人・・」
スバルの手にテンプレートが浮かんでいる以上・・スバルも戦闘機人と言うことになる・・知らなかった・・スバルが戦闘機人だなんて・・私が驚いていると
「その様子ではスバルが戦闘機人とは知らなかったようですね?」
クアットロさんが笑いながら言う、私は
「知ってたんですか?スバルが戦闘機人と?」
知っていたのか?と尋ねると
「勿論ですよ~私達・・お父様達と三提督にレジアス中将・・ああそれと・・八神兄様も知ってますよ~」
からからと笑うクアットロさんに
「なぁ・・何でスバルは隠してたんや?チンクさん達が合流した時に言えば良かったやん?」
はやてちゃんが言うと・・クアットロさんは
「人は異質な者を恐れる・・人造魔道師・・戦闘機人しかり・・私達とて戦闘機人と言うのは非常に怖い・・拒絶され・・恐れられ・・化け物扱いをされる・・私達は八神兄様の役に立てれば化け物扱いでも構わない・・ですが・・普通に人に混ざって生活していたスバルにとって戦闘機人だと告白するのは恐ろしい事・・だから隠してたんですよ・・いずれ時を見て自分で話すとは言ってましたけど・・そうは言えない自体になってしまったようですし?」
試すように私達を見るクアットロさんに
「私達はそんなことで仲間を見捨てない、戦闘機人だろうが・・人造魔道師だろうが・・仲間は仲間だ」
ヴィータちゃんがクアットロさんの目を見ながら言うと
「うふふ・・流石は八神兄様の妹と言った所でしょうか・・多分そう言うと思ってましたよ・・」
からからと笑うクアットロさんの本性は判らない・・龍也さんでも探りきれないと言っていたんだ・・私達では到底判らないだろう・・
笑いながらモニターを見るクアットロさんにつられ、私達もモニターに視線を戻した・・
私は拳を繰り出しながら、昨晩遅くまで見ていた龍也さんの動きを思い出していく・・極光を使っている以上、ディバインバスターやヘブンズナックルは使用不能・・・あくまでも純粋な体術でルキルメスを圧倒しなければ成らない・・だがそれは難しい相手だ
「はあああっ!!!」
剣は砕いたがルキルメスの闘志は消えない・・寧ろ強くなっていく・・どうやら素手の戦闘が本来のルキルメスの姿なのだろう・・高速で迫る漆黒の弾丸を受け流し、懐に飛び込み拳を繰り出すが・・
「甘いっ!!」
膝で私の拳を防ぎ、そのまま蹴り込んでくる・・反射的に防ぐが衝撃までは殺せず弾かれた様に後ろに飛ばされる・・私は体勢を立て直しながら・・
(やっぱり力押しじゃ駄目だ・・何とか打開策を・・)
ルキルメスの力は私より上だ・・スピードもパワーもその全てが私を上回っている・・そんな相手に力押しで勝てる訳が無い・・私がそんな事を考えていると・・
「戦場で考え事とは余裕だなッ!!・・喰らえっ・・ガイスト・・アーベントッ!!」
ルキルメスの両手足に漆黒の魔力が集まると同時に、それを私目掛けて打ち出してくる・・
「ウィングロードッ!!」
普通では回避は無理と悟り、ウィングロードで空へ逃れる・・だが私は先程のガイストアーベントが気になった・・
(あの技・・龍也さんも極光の時に似たような技を使ってた・・魔力を纏うだけじゃない・・手足に集中してインパクトの時に炸裂させる・・行けるかも知れない・・)
この土壇場の状況で私は新しい技のヒントを掴んだ・・極光だけに頼ってはいけない・・それを有効に活用するのだ・・私はそんな事を考えながら身に纏っている極光の光を足と左腕に集め・・
「でやあああっ!!」
一気にウィングロードを駆ける・・両足に極光を発動させている為その速さは今までより格段に早かった・・その速さに困惑しているルキルメスの懐に飛び込み
「極神撃・・・絶ッ!!!」
左腕に溜め込んでいた極光をゼロ距離で炸裂させる
ドォンッ!!!
砲撃を放ったような轟音が響き渡りそれと同時に
「がはぁっ・・」
ヒュンッ!!!
凄まじい勢いでルキルメスが吹っ飛んでいく・・追撃にと走り出そうとしたが・・
「つぅ・・・」
ビリビリと腕が痺れる・・折れてはいないが・・暫くは使い物にはならないだろう・・その痛みのせいで立ち止まっていると
「面白いっ!!良いぞ戦いとはこうでなければっ!!」
嬉しそうにルキルメスが瓦礫から飛び出してくる・・腹の甲冑が砕けているがそんな事は気にしないと言いたげに
「今度は・・こちらの番だっ!!プルートΣレーゲンッ!!」
骨の翼が羽ばたく度に漆黒の弾丸が浮かび上がる・・それは遠めでも判る・・ドリルの様に螺旋回転を繰り返すそれは
「行けっ!!」
ルキルメスの合図で一斉に私に降り注いだ・・
「くっ!!」
極光を完全に足だけに集め駆け出す・・直感でわかる・・あれを防ごう何て考えてはいけない・・あれは避けるしか出来ないと・・私の直感は当たった・・その弾丸はビルに当たると同時に・・
ズドンッ!!
ビルに螺旋状の穴が開く・・プロテクションもきっとあのビルの様に簡単に砕かれていただろう・・後ろを見ると・・
「居ないっ!!何処に・・ここだっ!!・・!!」
ルキルメスの姿が見えないことに困惑していると・・私の影からルキルメスが飛び出し蹴りを放ってくる
「くっ!!」
腕で防御し反撃に拳を繰り出す・・
「ぬっ・・」
お互い超接近戦で拳を繰り出し合う・・お互いに超接近戦で攻防を繰り返す・・
(駄目だ・・押し負ける・・)
ダメージを喰らっている私の方が不利・・・何とか体が動く内に・・勝負を決めないと・・
「でやああっ!!」
ルキルメスが大振りのフックを繰り出してくる・・
(ここだっ!!)
極光を足に集めると同時に地を蹴る・・
ヒュンッ!!
「な・・き・・消えたっ!?」
完全に極光を足に集めれば・・その移動速度は魔法にも匹敵する・・私が消えたことに困惑するルキルメスを背後から殴りつける
「ぐわぁっ!!」
面白いように吹っ飛んでいくルキルメスを後を追い駆け出す・・いや・・追い抜く・・移動速度は私の方が速いのだ・・・吹っ飛んだルキルメスを待ち構え
「極神撃・・崩!!!」
極光を纏った右足でルキルメスの頭を蹴りぬく
ドォンッ!!
さっきの極神撃絶の様に轟音が鳴り響きルキルメスは再びビルに背中からめり込んだ・・
(やったか・・)
足に激痛が走る・・絶と同様私自身にもダメージが来ているのだ・・長期戦は不利・・私にはまだ極光を完全使いこなせていないからだ・・だから決まっててくれと祈る様にルキルメスのめり込んだビルを見ていると
「まだだっ!!この程度で俺の闘志は砕く事は出来んぞっ!!!」
甲冑に皹は入っている物のまだその闘志は消えていない・・やはりもっと高威力の一撃じゃないとルキルメスの意識を刈り取る事は出来そうも無い・・だが・・
(どうする・・もっと破壊力のある技・・龍也さんの技しかない・・でも使いこなせるのか?・・)
龍也さんは完全に極光をマスターしている・・だが私はまだ使えるようになったばかり・・魔力が暴発する可能性もある・・
「ブルート・・ストライクッ!!!」
私が迷っているとルキルメスが漆黒の魔力を纏い突撃してくる
(迷ってる暇は無いっ・・一か八か・・やってやるっ!!)
ゴオオオオッ!!!
極光が嵐の様に渦巻き、私の手足を包み込む・・
「おおおりゃあああっ!!!」
漆黒の魔力で強化された拳打を受け止める・・腕に激痛が走る・・だが
「でやああああっ!!!」
全力で膝蹴りを叩き込む
「がっ・・」
動きの止まったルキルメスを更に蹴り飛ばし間合いを取り・・そして・・
「行けっえええええっ!!!」
両腕の極光を龍の形に作り変え打ち込む
「があああッ!!!」
龍が咆哮を上げルキルメスを呑みこむ・・それと同時に駆け出しルキルメス目掛け全力で拳を叩き込むっ!!
「がふっ・・」
バキャンッ!!
音を立てて私の拳がルキルメスの甲冑にめり込む、動きが完全に硬直したルキルメスに我武者羅に拳と蹴りの連打を叩き込む・・私は攻撃を繰り出しながら
(体がバラバラになりそうだ・・力が・・暴れまわってる・・)
極光が体の中で暴れ回る・・内側から壊れそうだ・・だが唇を噛み締め耐える
(龍也さん見たいに・・仲間を・・護るんだッ!!)
途切れそうになる意識を必死で繋ぎ止め
「でやあああっ!!!」
腕を上空に振り上げる
「おおおおおっ!!!」
ルキルメスが叫び声を上げながら上空に吹き飛んでいく・・それに合わせて全身に極光を纏い地を蹴る・・上昇しながら極光が龍の形になっていく・・極光に動きを封じ込められているルキルメスに掌を押し付け
「真覇・・・猛撃烈破ッ!!!!」
全ての極光をゼロ距離で炸裂させた・・
「があああっ・・」
絶叫しながら落ちていくルキルメスは背中からビルに突っ込んだ・・私はそのビルを見ながら着地した・・その瞬間・・
ガクッ・・
足に力が入らず倒れかけるが・・
(まだだ・・倒せてないかもしれない・・ここで倒れる訳には・・)
極光の光は殆ど消えている・・それに全身が悲鳴を上げる・・もう無理だ・・これ以上は動けないと全身が私に言う・・だが倒れる訳には行かない・・殆ど力の入らない拳を上げながらビルを見る・・砂煙で見えないが・・どうなっているんだ?・・ダメージはあるのか?・・不安を感じながらビルを見ていると・・
「危ない所だった・・大丈夫か?ルキルメス・・」
聞き覚えの無いネクロの声が響き、砂煙が消滅する・・そこには・・
「行き成り・・死んで貰っては困る・・」
緑色の体に両腕が魔力刃で出来たネクロと
「グルルっ・・ソノトオリダッ・・」
キメイラと似た体を持ったネクロがボロボロのルキルメスを受け止めていた・・
「ヒューガ・・スーガ・・どうして・・」
ボロボロのルキルメスが尋ねると
「俺が呼んだ・・」
灰色のネクロがルキルメスの前に立つ・・そのネクロはボロボロで肩や足には皹が入っている・・一気に敵が4体に増えた事に私が動揺していると
「大丈夫か?」
龍也さんが私の前に現れる・・私と同じで極光を発動させているのか。龍也さんの体は蒼く輝いていた・・私が龍也さんが来たこ事で安心感を得ていると
「シュゴシャ・・ショウブハ・・アズケル・・」
キメイラに似たネクロの肩から霧が放たれ、私と龍也さんの視界を隠す・・霧が晴れた頃・・ネクロ達の姿は無かった・・
「やれやれ・・取り逃がしたか・・」
そう呟く龍也さんの騎士甲冑もあっちこっち砕けている・・それだけで龍也さんの方も大変だったと判る・・私がそんな事を考えていると・・
(もう・・無理だ・・眠い・・)
視界がぶれる・・それだけではない・・足にも力が入らない・・それにとても眠い・・
「おいっ!!大丈夫か!!」
龍也さんの声を聞きながら私の意識は闇に呑まれて行った・・
医務室には私の他になのは達が居た、戦闘終了後、昏倒してしまったスバルを心配して、シャマルの診断が終るのを医務室で待っているのだ・・シャマルの診断が終るのを待っているとはやてが
「なぁ・・兄ちゃんは知ってたんやろ?・・スバルが戦闘機人やて」
そう尋ねて来るはやてに頷き
「そうだな・・知っていたよ・・スバルが戦闘機人だとな」
椅子に座りながら言うとなのはが
「何時から知ったんですか?」
何時知ったのか?と尋ねるなのは
「最初からだ・・私は最初にスバルに会ったときから知っていた」
スバルの事を話していると
「スバルが目を覚ましましたよ?」
シャマルがスバルが起きたと言うので、ベッドの方に行くと
「・・あはは・・ばれちゃったみたいですね・・私が戦闘機人だって・・」
腕をギプスで固定しぎこちない顔で言うスバルに
「1人で良く頑張ったな・・スバル」
スバルの頭を撫でながら言うとスバルは
「えっ?・・ああ・・ルキルメスのことですか・・そうですね無我夢中でしたから・・」
訳が判らないと言う顔で返事をするスバルにデコピンをする
「痛っ!!何するんですか!!龍也さん!!」
ギプスで固定されてない方の手で額を押さえるスバルに
「何もくそも無い、何時まで落ち込んでるつもりだ、良いか前にも言ったが、私はお前を人として認めている、戦闘機人がどうとかでお前を拒絶する者はここには居ない」
スバルの目を見ながら言う、それに私の背後ではなのは達も頷いている・・スバルは私達の顔を見ながら
「えっ・・あっ・・その・・」
しどろもどろのスバルの頭をもう一度撫でると
「あ・・う・・う・・その・・ありがとう・・ございます・・ぐすっ・・」
涙を流しながら言うスバルに
「礼を言う必要は無いさ・・私達は仲間そうだろう?」
笑いながら言うとスバルは
「そ・・そうですね・・私は・・そう・・仲間・・なんですよね・・うう・・」
遂には完全に泣き出してしまったスバルが泣き止むまで待つ・・
「さてと・・スバル・・体の調子はどうだ?」
30分後漸く泣き止んだスバルに体の調子はどうかと尋ねると
「うー何か体全体が重くて・・だるいです・・」
だるいと言うスバルの話を聞いていると、スバルは眠そうに目を擦る・・
「むっ・・そうだな・・戦闘の後だもんな・・詳しい話は明日にしよう、皆行くぞ」
なのは達を連れて医務室を出て行こうとすると
「龍也さん、おやすみなさい」
ベッドから手を振るスバルに手を振り返してから、医務室を後にした・・
第88話に続く・・
技能解説
究極戦闘技法 極光
セレスの時代を最後に廃れていった、究極の近接格闘術、名前の由来は全身に纏った魔力が眩いばかりに輝く所からとられている。全身を高密度の魔力が覆っている為、攻撃力、防御力、素早さ、その全てが大幅に上昇するが、その代償として攻撃魔法の全てが使用出来なくなるという欠点がある、廃れていったのはこれが原因だと考えられる、また極光の光は獣や龍の形に作り変え打ち込むことが可能、現在使用可能者は スバルと龍也のみである
スバル極光発動状態
発動と同時に赤の重厚なデザインの騎士甲冑から、白を基調としたバリアジャケットに変化する、見た目では防御力が下がっているように見えるが極光のおかげで寧ろ上昇している、動きやすさに重点を置き格闘戦にその真価を発揮する、ISと極光の同時使用で攻撃力なら龍也を上回るが、使いこなせてない分自分にもダメージが来てしまうという弱点があるが、それは時間と共に解決されるので特に問題ではない