第7話
私が湖の所に戻ると其処には既にバリアジャケット姿のスバルとティアナが居た。そのバリアジャケットは何処と無くなのは達の物に似ていると思った
「さて。だいぶ待たせてしまった様だな」
「そんなこと無いですよ」
笑顔でスバルが言うが私がログハウスに向かってから20分は経っている。
「じゃあ。訓練の前に一つだけ聞きたいことがある」
「聞きたいことですか?」
首を傾げるスバルに問いかける
「スバル、お前は何が欲しい?護り通す盾か?それともどんなときに絶望しない光?どんな者にも屈しない勇気か?答えろ」
これはナンバーズにも聞いたことだ、信念なき正義は容易く崩れる、正義だと言っていても悪になる可能性がある、だから聞くのだ。確固たる信念があるのか、その問いにしばらく考える素振りを見せたが
「私はあの時の助けてくれたダークネスさんに憧れました。私もダークネスさんのように誰かを守れる様になりたいと、だから私は護り通す盾が欲しいです!!」
その力強い返答に頷き続いて、ティアナに問いかける
「では、ティアナは何が欲しい?貫く槍か?闇を祓う光?それとも明日を切り開く翼?」
ティアナは直ぐに返答を返した
「私は一度道を踏み外しかけました、でも貴方に道を教えて貰った。お兄ちゃんが死んで闇の中に居た私に光をくれた貴方に憧れた、私は明日を切り開く翼が欲しい。どんな時も後悔せずに進めるように」
その返答に笑みが零れる。ディードも同じようなことを言っていた、だがディードが望んだのは闇を祓う光だった
「いい返事だ、それだけ確固たる信念が在るなら大丈夫だ。教えられる事は殆ど無いと思うが訓練に付き合おう」
「「はい!!お願いします」」
最初はスバルからだった、私は同時に二人に訓練を付けるなんて器用な真似が出来ないからだ。なのでティアナは離れた所で訓練を見る事になったスバルと向かい合いながら尋ねる、私も既にバリアジャケットを展開している、黒いライダースーツに左腕に巻かれた赤いバンダナ。これがベレンの基本形の姿だ、ベレンには三つのモードがある
「スバルはシューティングアーツをやっているのか」
「はい。私は余り砲撃系が得意ではないので」
右手のリバルバーナックルをこっちに向けながら答えるスバル
「なら私も近接型の方がいいな、ベレン、モードインファイト」
『了解。了解モード、インファイト』
両手に持っていたショットガンが消え、代わりに両手に鉤爪が付いた手甲が現れる
「さぁ、掛かって来い」
右手をスバルの方に向け挑発してから構えを取った、構えと言っても動きやすいように右足を前に出しただけで後はまったくの自然体だ
(隙が全然無い)
向かい合ってるだけなのに冷や汗が出てくる、ダークネスはそれだけの威圧感を放っていた
(これでBランク?絶対嘘だSランクいやもっと上かも)
軽く構え此方を見据えているが、その視線は鋭く鷹の様な印象を受ける
(前にリミッターを解除したヴィータさんの前に立ったときより怖いかも)
握りこんだ拳が汗で滑る
「どうした?掛かって来ないならこっちから行くぞ?」
(はっ!いけない完全に呑み込まれてた。落ち着けこれは訓練だ)
「すいません、ちょっと待ってもらって良いですか?」
「構わんよ」
大きく深呼吸をしながら体を動かす。ダークネスの雰囲気に呑まれだいぶ体が硬くなっていたが。確りと準備体操をしてから
「行きます」
構えを取りダークネスに向かって行った
「はあああっ!!」
突きを繰り出すが
「踏み込みが甘い」
軽く片手で払われる
「まだまだ」
蹴りを繰り出すがこれもまた軽く払われる
(一撃の威力なら自信が合ったんだけどなぁ)
さっきから一度も掠りもしていない、それどころか軽く払われ此方がバランスを崩している
「攻撃はもっと速くそして正確に」
パパパン、返しの三連続の拳が両肩と鳩尾に当たる。だがだいぶ加減してくれているのだろう余りダメージは無い
「はい」
アドバイスを聞きながら少しづつだが動きを調整していく
「まだだ、それでは猪と変わらんもっと連携を考えろ」
突き出した拳を片手で往なし此方に踏み込みながら
「いいか?攻撃とはこうやるんだ!!羅刹刃!!」
右脚から無数に撓る蹴りが迫る・その全てが速く回避することが出来ない
「ぐっ!!」
カウンター気味だったので、ダメージは結構大きい。だがまだ行ける体の疲労とは別の何か充実感を感じる。それは幼い頃から憧れていた人に稽古をつけて貰えているという嬉しさだった
(まだ。まだ行ける)
ダメージは少しづつだが蓄積しているだがそれと半比例するように気持ちが高ぶっていく
(今なら出来るかもしれない)
あの火事のとき瓦礫を吹き飛ばしたあの技。
(今なら届く。きっと出来る)
「はあああああっ!!」
右手に魔力を貯める。ダークネスがなにをやろうとしているのか気付き笑みを浮かべる
「アレをやるつもりか・・では此方も」
同じように右手に魔力を溜め。お互いに同時に技を放つ
「「ヘブンズ・・・
ナックル!!」」
放たれた水色の光と金色の光は一瞬ぶつかり合ったと思ったが、次の瞬間呆気なく水色の光は砕かれ此方に向かってくる金色の光に弾き飛ばされながら
(まだ・・届かなかったか)
悔しさはあるがそれよりも充実感の方が大きかった
「惜しかったな。もう少し魔力を溜めれれば良かったんだがな」
倒れている私の前に立ち手を差し伸べてくるダークネスの手を掴み立ち上がる
「う~ん、出来ると思ったんですけど、なにがいけなかったですか」
一度見ただけの技の見よう見まねでやってもやはり足りない点があるそれを尋ねると
「スバル、おまえ余った魔力どうしてる?」
収束しきれなかった魔力を垂れ流しにしていると答えると
「ああ。それじゃあ駄目だ。あれは右手に溜めた魔力の他に背中に魔力を溜めて爆発させて放つんだ」
簡単に説明するとこうだ。まず拳に魔力を溜める次に背中に魔力を溜めそれをブースターとして加速。更に放つと同時に背中の魔力が指向性を持ち威力を増加させるという原理の物らしい
「じゃあ、その魔力コントロールが出来れば使えるんですね」
「ああ、今のスバルのレベルなら十分に出来るだろう。後はコツさえ掴めば良い」
未完成だった技の完成が近づいた事に笑顔になる
「じゃあ、私ちょっと休憩したらそのコントロール練習をしてみます」
ティアナと訓練を交代するためにティアナの元に駆けて行くスバルの後姿に、思わず妹の姿を重ね笑みが零れてしまった
「次は私の番ですね?」
笑顔でデバイスを構えるティアナにかなり申し訳ない気持ちで一杯になる
「あのな。私は余り射撃の魔法が得意じゃなくてな、余りというか何も言えないと思うんだが」
「えっ!」
さっきからの笑顔とは逆にかなり落ち込んだ様子を見せるティアナに
「ああ、そんなに落ち込まないでくれ。得意じゃないとは言ったが使えないわけじゃないんだ」
「・・・本当ですか?」
少し元気を取り戻した様子に内心良かったと思いながら
「ああ、私は特殊なカートリッジを使う。射撃タイプなんだ」
「特殊なカートリッジ?」
聞きなれない言葉に聞き返すティアナに実物を見せながら説明する
「いいか。この六種類のカートリッジにはそれぞれ込められた魔力に別々の方向性を与えるという能力がある。まずはこれ」
ベレンにセットされていたカートリッジを取り手渡す
「それはバースト(炸裂)と言ってな対象に当たると魔力を放出する特性がある、次にショット(散弾)まぁこれはそのまま、撃った魔力弾に散弾の特性を付加するもの。次にボム(爆発)まあこれは他のと違って撃った所に敵が乗ると爆発するトラップだな。アクセル(加速)撃った魔力弾を急激に加速させる特性がある、次にブラスト(連撃)これはまぁマシンガンとかと考えてくれれば良いな。そして最後に・・・」
渡されたのは他の違い空の薬莢だった
「これも特殊な能力があるんですか?」
「ああ。とういうよりそれが全ての始まりだ、バーストもアクセルもそれを解析して作ったものだ」
「えっ!そうなんですか」
見た目、空の薬莢にそこまでの力があるとは思えない。
「ああ、これは聞くより見たほうが良いな。ベレン、ホープ(希望)をやるぞ」
『了解、でもあれ疲れるんだよなぁ』
デバイスに空の薬莢を込める
「込める弾丸は・・」
『願いの欠片」
これ・・確かあの時の
ガチャン、音を立ててシリンダーが回る
「放つ弾丸は希望の光・・響け!!シューティングソニック!!!」
ゴウッ!!放たれた弾丸はまるで流星のように光り輝きとても美しかった
「綺麗」
それはあの時の虹とは違うがそれでも心に残る輝きを持っていた
「これがホープだ、これはイメージで形作られるものでイメージが弱いと発動しない。・・話聞いてるか?」
「はっ!!聞いてますイメージなんですね」
思わずさっきの光に魅了されていたが、なんとか話は聞いていたので返事を返すことが出来た
「聞いてたのなら良いが、じゃあそのカートリッジは全部ティアナにプレゼントしよう。特に何も教えられないせめてものお詫びだ」
手渡されたカートリッジ思わず慌てる。こういう特注品はとても高価な物なのだ
「そんな。こんなの貰えませんよ!!」
「んっ?私が使っていたのが気に入らんのか?それなら新品を持ってくるが?」
言いたい事を何も理解してない様子のダークネスだがそれよりも気になったのは
「えっ?これダークネスさんが使ってた物なんですか?」
「ああ、それは私が5年ほど使ってるものだが・・・やはり私が使っていたのが気に入らんかね?」
「いえ、これで良いです。有難うございます」
直ぐにカートリッジをポケットにしまう、このとき私の思考の中に高価だとか貴重だとかと言う言葉は無く、ダークネスが使っていたと言う言葉だけが繰り返し流れていた
「本当にそれで良いのか?なんなら新品を持ってくるぞ」
確認を取ってくるダークネスに
「いえ、これで良いです。大切にします」
「そうか・・それで良いなら良いが。私が教えられるのはそれの使い方ぐらいだが。今から実際に使ってみるか?」
「はい!!」
それから、一時間ほど渡されたカートリッジの使い方を教えて貰った
「さてと最後に言っておくがホープは一度きりだ、今のティアナでは負担が大きすぎる。いいかここぞという時かピンチの時しか使うなよ取り合えず、クロスミラージュ。ティアナが一発以上使いそうになったら止めてくれ、判ったな」
『お任せください。ダークネス様』
「よしと、これで訓練は終わりだな、時間もそろそろ昼だし昼食にするか。悪いがティアナ、スバルを連れてログハウスに来てくれ」
バリアジャケットを解除してログハウスに歩いて行くダークネスとは逆にスバルのいる方向に歩き始めたところで
「はっ!!こういう時って断るべきだったかな」
訓練に付き合って貰った上に昼食まで貰っては悪いような気がするが
「まぁ、ここで断るのも悪いわね」
考え事をしながらスバルと合流し。ログハウスに入ると
「ん?思ったより速かったな。もう少しで出来るから待っていてくれ」
フライパンを振るいながら、待ってるように言うダークネスに頷き、席に座った
「ねぇ、ティアナ何か凄く緊張するんだけど」
同じく頷く、机の上にはかなり高価だと思われるお皿やフォークが並べられていた
「もしかして、ダークネスさんってお金持ちなのかな?」
なんだか落ち着かなくって辺りを見回すと黒い布が掛けられた写真立てがあった
「あれ?なんであの写真立て布が掛けられてるのかな?」
立ち上がり写真立ての方に行こうとするスバルに
「馬鹿、そういうのはかってに触ったら怒られるわよ。良いから座ってなさい!!」
「は~い」
席に座りなおした所で
「待たせて悪いな、だが待ったぶんの価値はあると思うぞ」
料理を持ってダークネスが現れた。そして机の上並べられたのはパスタにサラダにスープに魚のフライだ
「「・・・・・・」」
一人でこれだけの料理を作った、ダークネスが何者なのか気になったが
「さてと、お腹が空いただろう?遠慮なく食べるといい」
ダークネスに食べるように進められ
「「頂きます」」
パスタを取り口に運ぶ
「「美味しい!!」」
それは今まで食べたどのパスタより美味しかった
「口に合い何よりだお代わりも在るからな。沢山食べてくれ」
食事はとても楽しかった、ただ普段と違うのはいつもはガツガツと食べるスバルが珍しくテーブルマナーを守りながら食べていた点だ
(やっぱり、スバルもダークネスさんの事が好きなのね)
いかに男勝りとは言えど好きな男の前で普段の様に食べることは出来ないようだ。食事が終わった所で
「お嬢さん方。まだお腹の方に余裕があるのならデザートを持ってきますが。どう致しますか?」
食べると言うのが判っていて尋ねているダークネスに食べると返事を返し、コーヒーを飲んでいると
「アイスクリームとケーキ?どちらが良いかな?」
キッチンの方から尋ねてくるダークネスに
「「アイスクリームでお願いします」」
二人分のアイスクリームを持って戻ってきたダークネスに
「あれ?ダークネスさんは食べないですか?」
渡されたアイスクリームを口に運びながら尋ねるスバルに
「私は甘いものが余り好きではなくてね、どちらかと言えば作る専門だな」
しばらく世間話をしていたがふと気付く。コーヒーを口に運ぶダークネスの右手にブレスレットが見える、それは良いがそのブレスレットは明らかに女物だ
「ダークネスさん、気を悪くしたら謝りますけど、そのブレスレットは女物ですよ」
スバルが気になってしまったのだろうダークネスに言うと
「知ってるよこれは私が妹の為に買ってきた物だ。だが気に入って貰えなかったみたいでね、要らないと付き返されてしまったんだよ」
その笑顔はとても悲しげな物だった
「そうなんですか・・あのすみませんがそのブレスレット見せてもらっても良いですか?」
かなり高価そうなブレスレット付き返されたという事を信じられなくて見せてくれるように頼むが
「悪いな、これは外すつもりが無いんだ。こうしていれば会えない妹が近くに居てくれるような気がしてな」
ブレスレットを上着の袖で隠してしまった、ダークネスはそれ以降口を開こうとしなかった。どうやらスバルはまた地雷を踏んでしまったらしい、しばらく無言の時が流れるが
「むっ!もうこんな時間か」
時計は午後の四時を指している
「そろそろ、帰ったほうがいいな、ちょっと待っててくれ。いまお土産を持ってくるから」
「そんな、悪いですよ」
お土産を用意しだすダークネスに
「何ケーキをだいぶ作りすぎてしまってね。もって行ってくれると助かるのだよ。私は甘いものを食べないからな」
そういって持って来たケーキはショート、チョコと二種類あった。しかし問題なのはその量だどう見てもホールケーキ3つ分位はある
「どうしてこんなに作ったんです?」
その量に圧倒されながら尋ねると
「私の親友の娘が12人居るんだが。その娘達なら全部食べると思ったんだがやはり8ホールはきつかったらしい」
この人は8ホールもケーキを作ったのか、とういうか作りすぎではないのかとかは考えなかったのだろうか
「でも私達だけじゃこんなにもって帰れませんよ」
「ああ、それは大丈夫だ。私が二人を送っていくからな」
さらりと送っていくと言うダークネスに
「えっ!でもあの扉なら直ぐに帰れるんじゃ」
来た扉の事を話すが
「あれは出る場所が決まってるんだ。今の時間だと町外れの森の中か?」
なんでそんな中途半端な物をと思う
「試作中の転送装置だから仕方ないな、じゃあ行くとするか」
大量のケーキを持ってログハウスを出て、来た扉を潜るとそこはダークネスの言うとおりで森の中でした
「うむ、成功だな。ちゃんと森の中に出た」
成功と言うダークネスに
「これで成功なんですか?」
「うむ、まえは何も無い空の上に出てな。慌ててバリアジャッケットを身に纏った記憶がある」
「「・・・・・・」」
この人は意外と天然なのかも知れない。そう思った瞬間だった
「まぁ、バイクだし直ぐに着くだろう。ベヒーモスセットアップ」
直ぐ横にサイドカー付きのバイクが現れる
「えと、これもデバイスですか」
バイクを見ながら尋ねると
「ああ、これなら直ぐに着くぞ。だが一人はタンデムシートになる。嫌だと思うが其処は我慢してくれ
これはチャンスなのでは?危険だからという理由でダークネスに抱きつく事が出来る
「「じゃあ、私が・・・スバル?「ティア?」」
恐らく同じ事を考えていたのだろう
「私が後ろに乗るから、スバルがサイドカーに乗ったら?」
「いやいや、私が乗るからティアこそサイドカーに乗ったら?」
「「ウフフフフ」」
かなりのプレッシャーが発生しているが、ダークネスはそれに気付いていない。結局ジャンケンで決め、勝ったのはティアナでニコニコでダークネスの後ろに乗ったが。サイドカーにはダークネスが使っている毛布があり、寒いからという理由でスバルがその毛布にすっぽりと包まっていた、そっちの方が良かったかもと思ったティアナだった
ちなみに持って帰ったケーキ六課の女性陣で食べたが
「このケーキ何処かで食べた気がする・・・」
「なのはも?私も何だよ何処かで食べた気が・・・」
「なんや、二人共か?私もな。どっかで食べた気がするんよなぁ・・・」
六課の隊長陣がそのケーキを食べ何処で食べたんだろう?と考えている間にスバル達もそのケーキを食べ舌鼓を打っていた
第8話に続く