第88話
「うー良く寝た・・」
私はベッドの中でそう呟いた・・普段なら直ぐに顔を洗いに行くのだが、左腕と右足が痛くベッドから抜け出す事が出来ない・・せっかくだからもう1寝入りしようと布団を被り直そうとした時
「あら?お兄さんどうしたんですか?こんなに朝早くから・・」
シャマル先生の声が聞こえる・・だがそれ以上に気になる単語があった・・
(お兄さん?・・シャマル先生のお兄さんは・・龍也さん!?・・)
起きたばかりなので理解するまで数秒掛かった・・私が混乱していると
「何だ・・起きてたのか・・」
!!声の聞こえた方を見ると龍也さんが居た・・
「ふむ?どうした・・顔が赤いが?」
龍也さんが尋ねて来る・・私は自由に動く右腕を振りながら
「大丈夫です!!なんでもないですからっ!!」
そう言うと龍也さんは頷きながら椅子に腰掛け、ギプスで固定された左腕を見て
「相当リバウンドが来てる様だな・・まぁ無理もない極光を全開にすれば、まだ使いこなせてない分体にダメージが来るのは当然だな」
淡々と語る龍也さんに
「その・・完全に使いこなせれば体に影響はないんですか?」
使うたびに行動不能になっては意味がない・・だから完全にマスターすれば影響は無いのか?と尋ねると
「そうだな・・完全にマスターできればその不安は無くなるが・・そう簡単にはマスターは出来ないだろな・・私でも二ヶ月掛かったし・・」
龍也さんで二ヶ月なら、私ならその倍近い時間が掛かると思った・・
「まぁ・・リバウンドを減らしたいなら、体を鍛える事だな・・ある程度はそれで抑えられる・・」
そういう龍也さんの言葉を聞きながら
(そうか・・体を鍛えれば良いのか・・うん・・それなら1人でも大丈夫だね・・)
龍也さんに1から全部教えて貰っては後が怖い、ティアとか・・部隊長とか・・セッテとか・・ヴィータさんとか・・でも筋トレなら1人でも大丈夫だなと考えていると
「お兄さん、車椅子はこれで良いですか?」
シャマル先生が車椅子を持ってくる
「ありがとうシャマル、さてと・・」
龍也さんは何事も無いように私を抱え上げる・・一瞬思考が停止した・・だが直ぐに再起動し
「龍也さんっ!?・・降ろしてくださいっ!!」
ぱたぱたと暴れるが、龍也さんはそれを無視して
「大人しくしてろ、どの道暫くは禄に動けんのだ、大人しく車椅子に乗っていろ」
そう言って私を車椅子に座らせて、龍也さんは車椅子を押しながら医務室を後にした・・その後部隊長達に遭遇し、凄まじく冷たい目で睨まれたのは言うまでも無いだろう・・
スバルがはやてに睨まれ冷や汗を流している頃・・天雷の遺跡に居るジェイルは・・
「ん?・・こんな所に隠し扉が・・」
私は剣帝と神王の事を調べていた・・そして見つけた・・遺跡の最深部に続く隠し扉を
「あると思っていたが・・ビンゴだな・・」
こういう遺跡には隠された物がある・・それがある筈だと探し続け漸く見つけた・・黒く広がる闇を見据え私はその通路に足を踏み入れた・・奥にあったのは二枚の石碑・・私の背丈の3倍近い石版にはびっしりと古代文字が刻まれていた・・
「・・これは・・何だ・・今まで見たことが無い・・」
神王とジオガディスの伝承かと思ったが・・違う・・今まで見た事が無いこの伝承に疑問を感じながら翻訳していく
「私は・・何という過ちを犯してしまったのだ・・幾らこの長き戦争を終らせる為とは言え・・私はなんと言う物を創ったのだ・・」
どうやらこの石碑を作った人物は酷く後悔しながら刻んだのだろう・・私はそんな事を感じながら翻訳を続ける
「私は争いを終らせる為に魔獣を作り上げた・・あらゆる魔力を吸収し無限に進化する魔獣だ・・こいつがいれば全てが終るはずだった・・だが想定外の出来事が起きた・・魔獣が暴走してしまったのだ・・理由は恐らく限界以上の魔力を吸収してしまったからだろう・・無である筈の魔獣は・・悪となり全ての王国を滅ぼそうと動き始めた・・」
ここで一枚目の石版は終っていた・・私はもう1つの石版も続けて翻訳を始めた・・
「魔獣の存在は全ての王国に対する脅威となり、聖王の下に全ての王国の王達が協力し魔獣に挑んだ・・だが・・聖王達でも魔獣を倒す事は出来なかった・・そして次々と王国が滅んでいく、残った国が12になった時・・1人の王がただ1人で魔獣に挑んだ・・王はボロボロになりながらある禁呪を用い魔獣を己の身に封じ込んだ・・これにより魔獣は消えた・・ここで途切れてる・・どういう事だ・・」
この石碑では魔獣が消えた所で終っている・・
「他にも隠し部屋があるかもしれんな・・・そこにこの石碑の続きがあるかもしれない・・」
魔獣の存在がどうしても気になり・・私は再び遺跡内の捜索を開始した
「パパ、パパっ!遊ぼっ!!」
部屋で書類整理をしているとヴィヴィオが笑いながら部屋に入ってくる、私は書類整理をしている手を休め
「おいで、ヴィヴィオ」
手招きしヴィヴィオを呼び寄せ、膝の上に座らせる
「んふふ~パパ大~好きっ!」
笑いながら言うヴィヴィオの頭を撫でていると
「お兄様~休憩中ですか~」
リィンと
「兄、またお菓子を作ってみたんだぜ~」
アギトがそれぞれお盆にお菓子を載せて来る、最近2人はお菓子作りに凝っているのだ
「それは・・ありがとう・・どうせだから皆でお茶にしようか」
甘いものは苦手だが折角、リィンとアギトが作ってくれたのだ食べない訳には行かない・・それにもう直ぐ3時だ・・おやつには丁度良いと判断し、人数分のお茶を淹れる、リィン達は砂糖を入れ甘くしてある
「「「頂きます」」」
お茶を淹れ終り椅子に座るとリィン達がお菓子を食べ始める・・その姿は見た目通り子供で見ているだけ幸せな気分になる・・私が紅茶を飲みながらそんな事を考えていると
「はいっ!!パパの分だよっ!!」
ヴィヴィオがクッキーを1つ差し出してくる
「ああ、ありがとう貰うとするよ」
手渡されたクッキーを齧る・・甘い・・だが2人が私の為に作ってくれたのだ・・それだけでとても嬉しいし美味しいと感じる・・私がクッキーを食べながらそんな事を考えていると
「「・・・・・」」
リィンとアギトが私の顔をジーッと見ている・・多分感想が聞きたいのだろう・・私はそう判断し
「美味しいよ」
笑いながら2人の頭を撫でると、2人はとても嬉しそうに笑い
「良かったです~リィン達は・・お兄様みたいにお菓子作りが上手じゃないですから不安だったですよ」
安心したというリィンに
「大丈夫さ、美味しいから自信を持つと良いよ」
頭を撫でながら言うと
「はいですっ!!今度はケーキを作ってみたいです!!」
笑いながら言うリィンに
「そうだ・・前にりんごを沢山貰ってな、折角だからアップルパイでも作ろうか?」
前にアップルパイを作ろうと思っていた・・折角だから2人に作り方を教えてやろうと思い言うと
「作るですっ!!」
「教えてくれよっ!!」
作ると言う頷く2人を見ながら、前にお見舞いに貰ったりんごを取り出し、2人と一緒にアップルパイを作り始める
「まずはりんごの皮を剥くんだ・・」
リィンとアギトにもりんごを渡し皮を剥いていく
「よいしょ・・よいしょ・・」
「あり・・切れちまった・・」
リィンはかなり実を抉ってしまっているがとりあえず剥けてはいる・・アギトは皮を途中で切ってしまいながらも器用に皮を剥いている
「皮を剥き終わったら、りんごを切って・・真ん中の芯を取ると・・」
見本を見せると2人も同じ様にりんごを切っていく・・
「次に鍋にバターを入れて、そこに切ったりんごと砂糖を入れて煮込む・・これで中身が出来ると・・アギト頑張れよ」
アギトが鍋の中身を覗き込みながら焦げないようにかき回して行く・・アギトは混ぜながら
「なぁ、兄これでどれくらいパイが作れるんだ?・・見た感じかなり量があるけど・・」
大きな鍋一杯に入ったりんごに苦戦しながら尋ねて来るアギトに
「そうだな・・6個は作れるな・・さてアギトが中身を作ってくれてる間に生地を作ろうか」
リィンに教えながらパイ生地を作っていく・・6個分だからかなりの重作業だ・・私は平気だが・・リィンは・・
「はぁ・・はぁ・・大変ですぅ・・でも頑張るです」
リィンは苦戦しながらパイ生地をこねている・・
「出来た~疲れた~」
アギトがりんごジャムを作り終えたと同時に私達も生地作りが終った
「これでパイが作れるですか?」
ジャムと生地を見ながら尋ねるリィンに
「残念だがパイ生地は寝かさせなければならない、パイは明日になるな・・」
リィンとアギトに言うと
「そうなんですか・・パイ作りは大変なんですね~」
「うー思ったより大変なんだな~」
しみじみと呟くリィンとアギトに
「明日またおいで、明日パイを完成させて皆に配ろうな・・さっご飯にしようか」
パイと同時進行で作っておいた夕食を食べさしてから、2人を部屋に返した・・リビングを見ると
「こっくり・・こっくり・・」
お腹が一杯になったせいか、ソファーに座り眠っているヴィヴィオを抱き上げると
「ん・・・パパ・・?」
目を擦りながら尋ねて来るヴィヴィオに
「さっ・・もう寝ような・・ヴィヴィオ」
ヴィヴィオを連れて寝室に行き、私も少し早いが寝る事にした・・
次の日・・
私が朝食を作っていると
「パパ~」
ヴィヴィオが後ろから抱き付いてくる
「ん?起きたのかヴィヴィオ、もう直ぐ出来るからな、座って待ってなさい」
頭を撫でながら言うと
「うん!!ヴィヴィオ待ってる!!」
ぬいぐるみを抱き抱えリビングに戻ったヴィヴィオを見ながらフライパンを振るった・・うん良い焼き具合だ・・私はフライパンの中のオムレツを見ながら笑みを零した
「ご馳走様でした~」
にこにこと笑うヴィヴィオに笑みを浮かべながら、食後のお茶を飲んでいると
「お兄様!!パイを完成させましょう!!」
「頑張るぜ~」
リィンとアギトがパイを作ろう、と言って来る
「そうだな・・では早速作ろうか」
今から作って、冷やせば昼食の後にデザートとして出せる、時間的には丁度良いと判断しエプロンとバンダナを身に付け、キッチンに入る
「まずはパイの型に昨日作った生地を入れて・・ここにジャムを入れて・・作った生地を短冊に切って・・×字に交互に編んでいって・・溶かしバターを塗って・・オーブンで焼くと・・これでアップルパイの完成だ」
オーブンにパイを入れて時間をセットし、キッチンから出て焼きあがるのを待つ・・
チーンッ!!
タイマーが鳴る、私は微笑みながら立ち上がりオーブンから焼きたてのパイを取り出す
「うわぁ・・美味しそうです・・」
「本当だ・・美味そうだな・・」
リィンとアギトがキラキラとした目でパイを見ながら呟く、私は小さくパイを切り3人の前に置く
「食べて良いですか?」
首を傾げながら尋ねる、リィンに
「まだ焼けるんだ・・少し位食べても問題ないさ・・今お茶を淹れて来よう」
ヴィヴィオ達に紅茶を淹れ様と思い立ちあがると
「お父さん、ちょっと良いですか?・良い匂いですなんですか?」
「お父さん・・何か作ったんですか?」
「龍也・・遊びに来たよ・・」
エリオ達が入って来て、良い匂いだと笑い何か?と尋ねて来る
「丁度良い所に・・今なアップルパイが焼き上がった所だ、リビングに入って食べておいで、ヴィヴィオ達も食べてるから」
食べておいでと笑いながら言うと、エリオ達は笑いながらリビング向かった・・私はエリオ達の後姿を見ながら
「やはり子供だな・・甘い物は大好きと言う所か・・」
私はそんな事を考えながら人数分の紅茶を用意していた・・その間リビングから聞こえてくる楽しげな、エリオ達の声が妙に嬉しかった・・そして改めて感じた・・この平和な時こそが・・私が護りたい物なのだと・・
第89話に続く