夜天の守護者   作:混沌の魔法使い

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第90話

第90話

 

機動六課にクイント台風が直撃した次の日、パンデモニウムの一室では

 

「ドライヴォルティス・・漸く貴方の出番ですよ・・」

 

私がそう言いながら調整槽を見上げると

 

ギンッ!!

 

閉ざされていた眼が開きドライヴォルティスが活動を始める

 

ドゴンッ!!ドゴンッ!!

 

自分の動きを封じている調整槽に拳を叩き付ける・・調整槽はドライヴォルティスの剛拳に耐える事が出来ず簡単に崩壊する・・そして自由になったドライヴォルティスは上空を見上げ

 

「グルル・・グオオッ!!!!!」

 

凄まじい雄叫びを上げる、私はその姿を見ながら

 

「ドライヴォルティス・・私の言う事が判りますか?」

 

そう尋ねると

 

「グルル・・」

 

雄叫びを上げるのを止め私を見る、ドライヴォルティスに一枚の写真を見せる

 

「良いですか?ドライヴォルティス貴方のターゲットはこの少女です・・この少女を見つけて殺しなさい・・良いですね?」

 

私がターゲットの写真を見せながら言うと

 

「グルゥ・・」

 

ドライヴォルティスは頷き、パンデモニウムから飛び出して行った・・私はその後姿を見ながら

 

「ドライヴォルティスに組み込んだ、ステルス能力・・上手く行っていれば守護者達に見つからず、この少女を殺す事が出来る・・」

 

ヴェノムの手の中には街で買い物している、ラグナの姿が写っていた・・

 

 

 

「また来っちゃったな・・もう・・ハーティーンは居ないのに・・」

 

私はハーティーンと始めてであった公園の中を歩きながら呟いた・・私の足は自然と公園のある一角に向かう・・

 

「ここにあった結界も無い・・本当にハーティーンがもう居ない・・」

 

ハーティーンが居ない間も維持されていた結界が存在しない・・それは術者が居ない事を示す・・私は俯きながら公園の奥に向かう・・

 

「ここでハーティーンと話して・・空を見て・・楽しかったな・・」

 

何時もハーティーンが腰掛けていた、切り株の隣に座り空を見上げながら呟く・・

 

「無愛想で・・ぶっきらぼうで・・それでもハーティーンは優しかった・・」

 

思い出すように呟く・・私は空を見上げながら・・呟き続けた・・

 

「本当は知ってたんだ・・ハーティーンがデクスだって・・悪い存在だって知ってたんだ・・」

 

お兄ちゃんもハーティーンもその事を隠していたが、私は知っていた・・ハーティーンがネクロの仲間だと・・

 

「それでも・・私はハーティーンと一緒に居るのが楽しかった・・何時かは居なくなってしまう・・そう判ってたけど・・それでも良かった・・」

 

ネクロやデクスは体を維持するのに魔力が必要だと聞いていた・・私にも一応魔力適正はある・・そんなに高い訳ではないが・・でも魔力適正がある以上何時かは、ネクロ達に襲われると判っていた・・出来るなら・・私の命を奪うのがハーティーンだったら良いなと思っていた・・だがそれは決して起きない事だ・・

 

「ハーティーン・・姿は見えなくても護ってくれてるんだよね・・」

 

ハーティーンに上げたペンダントを握り締めながら言うと、ペンダントに太陽の光が反射して輝く・・私はそれを見て笑みを零しながら・・

 

「はは・・まるで元気を出せって言われてるみたい・・でもそうだよね・・何時までも俯いててもしょうがないもんね・・大丈夫だよ・・私は前を向いて歩いて行けるから・・」

 

私はそう呟きながら振り返り、公園を後にしようとした時・・

 

ズドンッ!!!

 

まるで岩石が落ちたような音が響く・・私がゆっくりと振り返るとそこには

 

「グルルッ・・」

 

灰色の体に扇状に広がった翼を持った龍人が私を睨んでいた・・体中が警告を上げる・・逃げろっ!!速くここから逃げろと・・私はその声に従い一気に走り出した・・その瞬間

 

「グルル・・ウオオッ!!!」

 

龍が雄叫びを上げながら、宙に浮かび追い掛けて来た・・そのスピードは私より少し早い程度で遊んでいると判る・・私は走りながら・・

 

(助けて・・ハーティーン・・)

 

もう居ない筈の騎士に助けを求めていた・・

 

「はぁっ・・はぁっ・・」

 

必死で公園から出ようと走る・・この場所は公園の一番奥で、入り口までは歩いて20分は掛かる・・だから速くこの場所から逃れようと走る・・この場所から出る事が出来れば、八神中将達・・機動六課の魔道師達が・・お兄ちゃんが・・助けに来てくれるかもしれない・・だから私のやる事はこの公園から1秒でも速く出ることだが

 

「グルルッ・・」

 

龍が私の前に回りこみ、思うように出口に向かう事が出来ない・・この龍は適度に尻尾で私に攻撃してくる・・それは業と外しているのだろう・・私は尻尾による攻撃を交わさせて貰いながら・・

 

(私が疲れるまでこうやって追い回すつもりだ・・)

 

この龍が本気なら私はもう死んでいる・・この龍は私が疲れるまで追い回して・・私が立ち止まったらそこで殺すつもりだろう・・そんな事を考えながら必死で走っていたが

 

「グルォォッ!!」

 

遊びは終わりだと言いたげに龍が吼え、尻尾が私に迫る

 

「!!」

 

反射的にしゃがみ辛うじて回避できたが・・運動神経がお世辞にも良いとは言えない私は尻餅を着いてしまった・・

 

「グルル・・」

 

龍がゆっくりと近付いてくる・・

 

「あ・・あ・・」

 

ジリジリと後退するが直ぐに動けなくなる・・龍がその様子を見て笑いながら拳を振り上げる

 

「・・けて・・」

 

涙を零しながら私は自然と呟いた・・

 

「助けて・・・」

 

脳裏に浮かぶ・・漆黒の騎士の姿・・

 

「助けて・・助けてよ・・ハーティーンッ!!!」

 

私がそう叫ぶと同時に龍人が拳を振り被る・・私が反射的に眼を閉じた掛けた瞬間

 

「させ・・る・・かああああっ!!!」

 

男の怒声と共に黄金の光が駆け抜ける・・それにつられて目の前の黄金に輝くバイクに跨る男の顔を見る

 

「ハーティーン・・?」

 

好戦的な色を紫色の瞳に浮かべ・・逆立った金髪の男が居ない筈のハーティーンに思えてそう呟くと

 

「遅くなってすまない・・だがもう大丈夫だ・・俺がお前を護るから」

 

謝る男の姿に確信した・・この男・・いや・・この人は・・

 

「良かった・・生きてたんだね・・ハーティーン・・」

 

私はそう呟くと同時に意識を失った

 

 

 

 

時は少し遡る・・ラグナがドライヴォルティスに追われている頃、パンデモニウムが眠る渓谷の下では・・

 

(・・える・・き・・こ・・える・・だれ・・だ?・・俺を呼ぶのは・・)

 

俺は誰かに呼ばれる声に目を覚ました・・俺は深い闇の中に佇んでいた

 

「ここは・・俺は・・誰だ?」

 

判らない・・俺が誰なのか・・そして俺を呼ぶのが誰なのか・・俺がそんな事を考えていると

 

「「思い出せ・・思い出せ・・」」

 

俺の前に2人の男が姿を見せる、1人は漆黒のライダースーツに逆立った金髪の男・・もう1人は闇色の甲冑に紺のマントを羽織った騎士・・2人は繰り返し思い出せと言う・・だが判らない・・俺が何を忘れているのか・・それが判らないから思い出しようが無い・・俺は再び目を閉じようとした時

 

「・・けて・・」

 

聞こえる・・誰だ・・誰が俺に助けを求めてるんだ・・?

 

「助けて・・・」

 

閉じかけていた目を開く・・その間も誰かの助けを求める声が聞こえる

 

「助けて・・助けてよ・・ハーティーンッ!!!」

 

その瞬間、俺の脳裏に1人の少女の笑顔が浮かび上がる・・そして凄まじい量の情報が流れ込んでくる

 

『それは貴方自身が見つけないと・・』

 

『ううん・・私じゃ判らないよ・・ハーティーン』

 

『でもきっと、いつか判る日が来るよ!・・ううん・・私も一緒に考えてあげるよ!』

 

『んっふふ・・ハーティーンの手は暖かいね・・』

 

脳裏に少女と話している騎士の姿が思い浮かぶ・・

 

『ハーティーン、お兄ちゃんが呼んでるから私もう帰るね・・また会おうね、ハーティーンッ!!』

 

彼女は・・ラグナは・・俺に色んな話をしてくれた・・そうだっ!!・・思い出した・・

 

「お前は俺か・・」

 

目の前の騎士に話しかけると

 

「ふん・・漸く思い出したか・・そうだ・・俺はお前で・・お前は俺だ・・とっとと全てを思い出して、ラグナを助けに行け」

 

騎士はそう言い放つと漆黒の球体となり、俺の中に入ってくる・・その瞬間俺の両手首に龍を思わすブレスレットが現れる・・その瞬間再び俺の中に情報が流れ込んでくる

 

『すまない・・ルシルファー・・私ではジオガディスを倒しきる事が出来なかった・・恐らく・・遠い未来・・再び奴は蘇るだろう・・』

 

俺の前に真紅の服を身に纏った男と漆黒の騎士が現れる・・男はゆっくりと漆黒の騎士の前に立ち

 

『私はお前に過酷な運命を与えてしまう・・誰よりも私を理解してくれたお前に・・』

 

真紅の服に身を包む男は涙を流しながら何かを呟く、その瞬間騎士の体を青いクリスタルが包み込み始める・・騎士はゆっくりとクリスタルに飲み込まれながら

 

『気にするな・・俺はこうなる事を判っていた・・だからお前が気に病む事はない・・』

 

そう笑う騎士に男は

 

『すまない・・本当にすまない・・ルシルファー・・我が生涯の親友よ・・』

 

騎士は最後にもう1度微笑み、クリスタルの中に完全に飲み込まれた・・その瞬間・・閉ざされていた記憶の扉が完全に開いた・・そうだ・・俺は・・蘇るジオガディスのカウンターとして、神王によって体を封印された・・そして目覚める前にヘルズ、ヴェノムによって洗脳され・・ハーティーンなり・・ジオガディスの為に戦った・・俺は全ての記憶を取り戻した・・俺の本当の名は・・

 

「漸く、思い出したか・・」

 

話しかける男・・いや・・俺自身に・・

 

「ああ・・今全てを思い出した・・俺は俺の名は・・ルシルファー・・ルシルファーシャッカス・・かつて剣帝と呼ばれ・・神王と共に戦いし騎士が1人・・」

 

俺がそう言うと目の前の俺は満足気に頷き

 

「そうだ・・だが・・お前はルシルファーであり、ルシルファーでは無い・・」

 

そう判っている・・俺の中にはハーティーンとしての記憶もある、この地点でもう俺はルシルファーでは無いのだ・・良く考えると目の前の俺自身とは口調が少し違う・・おそらくハーティーンとしての部分が強いからだと思う

 

「そうだな・・俺はもうお前ではない・・俺はまったく別の人間だ」

 

俺がそう言うと

 

「そうだ、俺とお前は既に別人・・護りたい者も願いも違う・・だからこそ・・だからこそお前はまた歩いていける・・立ち止まるな・・進み続けろ・・さすれば道は開かれん・・」

 

男はそう言い残し徐々に足から粒子となり俺の中に吸い込まれ消えた・・その瞬間漆黒の世界に急速に色が入る・・そして俺は

 

「う・・ウォオオッ!!!」

 

俺の体を封じているクリスタルを力任せに破壊する

 

「・・ラグナ・・今行く・・ネガティブゲイト」

 

漆黒のゲートを作り出すそして

 

「グレイダルファー・・モードビークル・・」

 

左手首のブレスレットが消え、俺の前に黄金のバイクが現れる、俺はバイクに跨り漆黒のゲートの中へ飛び込んだ・・バイクのエグゾースト音を聞きながら街の中を走る、暫く走ると俺の前に魔道師が現れ何かを言うが・・

 

「邪魔を・・するなああっ!!!」

 

バウンッ!!

 

バイクを跳ね上げ、その魔道師を飛び越える・・もっと・・もっと速く・・あの場所へ・・ラグナのいる場所は判っている・・俺とラグナが始めてあったあの場所にいるはずだ・・ただそれだけを考えバイクを走らせる・・そして・・

 

「グルルル・・」

 

ラグナに拳を振り下ろそうとする龍を見つける

 

「させ・・る・・かああああっ!!!」

 

全速力で体当たりをし、龍を吹っ飛ばすそしてラグナの前に立つ・・ラグナは閉じていた目を開き

 

「ハーティーン・・?」

 

ぼんやりとした声で呟くラグナの手に頭を置き

 

「遅くなってすまない・・だがもう大丈夫だ・・俺がお前を護るから」

 

そう言うとラグナは

 

「良かった・・生きてたんだね・・ハーティーン・・」

 

ラグナはそう言うと意識を失った、俺はラグナの前に立ち

 

「起きろっ!!グレイダルファー出番だっ!!」

 

右手首のブレスレットとバイクが輝き、騎士甲冑が展開される・・漆黒に甲冑に紺のマント・・それを確認しながら両手に現れたグレイダルファーを握り締め、駆け出した・・

 

「グルルッ!!!」

 

両手の鋭い鉤爪を振りかざして龍が迫ってくるが

 

「遅いっ!!!」

 

その龍の攻撃は確かに鋭いだろう・・だが俺から見ればスローモーションにしか見えない、俺は左でのダガーで弾き飛ばし、即座に右のダガーで龍の腹を穿ち即座に蹴り上げる

 

「グウウウッ・・・」

 

後方に跳ぶ龍を見ながら俺は疑問を感じた

 

(おかしい、ここまで派手に戦っているのに・・守護者たちが来ない・・こいつ・・何らかの方法で魔力の波動を消しているのか・・)

 

守護者達が出てこない事をに疑問を感じ・・目の前の龍を見る・・そして気付く体とは不釣合いな大きさの角に

 

(あの角が・・怪しいな・・試してみるか・・)

 

俺は一気に踏み込み龍の角を切り落とした

 

「ギャアアアッ!!」

 

悲鳴を上げる龍と同時に遠く離れた所から強大な魔力が動き始めるのを感じた・・

 

 

 

 

ルシルファーがドライヴォルティスの角を切り落とした瞬間

 

ビーッ!!ビーッ!!

 

六課に警報が鳴り響く、私は慌ててブリーフィングルームに行き状況を確認する

 

「兄ちゃんも来たか、今な市街の公園に突然魔力反応が2つ現れたんや、1つはSS、もう1つは兄ちゃんと同じSSS+」

 

はやての説明を聞きながら首を傾げた、幾らなんでもそれほど強大な魔力を感知できないのはおかしい・・私はそんな事を考えながら

 

「・・ダークマスターズかもしれん・・はやて、なのはとフェイト連れて出撃する、ヴィータ達とティアナ達を待機させておいてくれ・・それとスバルは医務室に戻せよ」

 

今禄に動けないスバルは正直足手纏い・・だから医務室に戻しておけというと

 

「判ってる、それとヴィータ達も待機させとく・・だから兄ちゃん達も気をつけてな?」

 

心配そうに言うはやてに頷き、私達は公園に向かった・・そこで私は目を見開いた・・

 

「ギャアアアアッ!!!」

 

龍・・恐らくデクスだろう・・だが私が驚いたのはそこではない、龍を両断し、消滅させた騎士の存在だ、その背後にはラグナが倒れていた、その騎士が身に纏うは消えた筈の漆黒の騎士が身に纏っていたのと全く同じ物・・私達が困惑していると

 

「トランプソードッ!!」

 

7本の剣が騎士に向かって放たれたが、当たると思った直後騎士の姿が掻き消え

 

「ふん・・不意打ちとは・・相変わらず卑怯な事だな?ヘルズ」

 

ラグナを抱き抱え私達の前に着地した騎士にヘルズは

 

「ふん・・そういう貴方こそ・・しぶといですね・・私の剣でその心臓を確実に抉ったつもりだったんですけどね?」

 

普段と同じ口調のヘルズだが、その目には憎しみの色が見て取れた・・騎士は

 

「俺はそう簡単には死なん、神王との・・親友との誓いを果たす為に」

 

神王?・・どうしてこの騎士の口から神王の名が?・・私達が騎士とヘルズの関係に困惑していると

 

「そうですか・・それならば・・良いでしょう・・剣帝・・今度こそ決着をつけましょう」

 

ヘルズが指を鳴らすと、ヘルズの影から無数のネクロが姿を見せる、私達もデバイスを起動させ戦闘体勢に入ると騎士が

 

「勘違いするな・・ヘルズ・・俺は剣帝・・ルシルファーではない・・俺は・・異端の騎士・・ハーティーンだっ!!!」

 

漆黒の甲冑に紺のマントが色を変えていく・・漆黒の甲冑の肩や篭手の部分に金の装飾が入り、紺のマントが白に染まる・・騎士・・いやハーティーンはラグナを降ろし何かを呟く、するとラグナを漆黒のプロテクションが包み込んだ・・ハーティーンはそれを確認してから私を見て

 

「守護者・・俺についてこれるか?」

 

挑発するような口調に確信した・・この男がハーティーンだと

 

「ふっ・・ついて来るのは私じゃない・・お前の方だろう?」

 

同じ様に挑発するように言うと、ハーティーンは腰の鞘から変わった形の刀を抜き放ち

 

「ふん、言ったな・・なら・・最後までついて来いっ!!」

 

ヘルズに向かい突撃していくハーティーンを見ながら

 

「なのは、フェイト、2人はネクロを頼むぞっ!!」

 

「「はいっ!!!」」

 

ネクロ達をなのはとフェイトに任せると言ってから、私も腰の鞘から剣を抜き放ち、空を舞った・・

 

今ここに最強の守護者と最凶の剣士が揃った・・

 

 

第90話に続く

 

 


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