第94話
「ちくしょーっ!!本当に攻撃効いてるのかよーッ!!」
さっきから攻撃を当てているのだが全く弱らないヨルムンガンドを見て絶叫するヴィータに
「魔法が弾かれるよ・・龍也さんどうしよう・・」
上空のなのはの普段からは決して想像出来ない声を聞きながら、私はヨルムンガンドを観察していた
(この巨体だ・・攻撃力はあるはず・・なのに何故攻撃してこない?)
時折炎を吐いたり、足を叩き付けて来るがそれも時々でじっと何かを待っているようにも見える・・それに私が攻撃の素振りを見せると
「カウダッ!!」
その巨大な尻尾を振り回し私の動きを束縛に出る、攻撃範囲が広く回避は難しいが当たるほどドジではないつもりだ・・その尻尾を回避し着地すると
「大丈夫ですか?兄上」
近くに居たシグナムが心配そうに声を掛けてくるので
「問題ない・・それよりそっちは?」
シグナムに大丈夫かと尋ね返すとシグナムは
「こっちも大丈夫です」
そう微笑む返すシグナムを横目にヨルムンガンドに視界を戻す、するとなのはやフェイト目掛け
「タイラントサベージッ!!!」
巨大な足を力任せに振り回すその姿を見て
(何かを待っているのか?)
何かを待っているようにしか見えず、何か嫌な予感を感じていた・・
どうすれば・・どうすれば良いの?・・私はエリオ君の攻撃を回避しながらどうすれば良いのか考えていた・・
「・・・・・」
無言で私とルーちゃんにストラーダを向けるエリオ君に普段の面影は丸で無い・・その何処までも暗い瞳のエリオ君に
(・・絶対にエリオ君は取り戻すんだから・・)
少し離れた所でニヤニヤと楽しそうなヴィルヘリヤを横目に、少し離れた所にいるルーちゃんと合流し
「ルーちゃん・・どうすれば良いと思う?」
私では良い作戦が思いつかず尋ねると、ルーちゃんは
「私達に出来るのは龍也達が合流してくれのを待つだけ、私やキャロ、フリードの火力じゃエリオは愚かあのネクロのプロテクションは破れない・・でも逃げてるだけだと気付かれては駄目・・適度にネクロにも攻撃しないと」
そう、その通りだあのネクロに時間稼ぎが目的だと気付かれては駄目だ、つまりエリオ君を回避し、ネクロには適度に攻撃をしなければならない・・かなり難しいがやるしかない・・私達が自分達の作戦を話していると
ユラッ・・
私とルーちゃんの前に影が落ちる、それと同時に横に跳ぶと
ザンッ!!
さっきまで私達が居た所にストラーダが突き刺さる、それを見てエリオ君は本気で私達を殺すつもりなんだと再認識し、私達はさっき決めた作戦通り、2人で同時に駆け出した
「うふふ・・やっぱりそう来たわね」
私は全て自分の思い通りに動いている事に確認し、微笑みながら2人の魔道師を見ていた、仮にも自分の好きな人間を攻撃できるか?・・答えは否・・そんな事は出来はしない・・だから魔道師の取る行動は判っている
ヒュンッ!!
「ほらね・・やっぱりこう来るわけよ」
飛んで来た魔力弾を簡単にかき消し呟く、目的は守護者が来るまでの時間稼ぎ、でもそれを気付かせまいと適度に攻撃をしてくる魔道師を見ながら
(・・これからどうなるかしらね?・・どう転ぼうが楽しみだわ)
洗脳を解くには最初に言ったとおり、私を殺すか、自分達が死ぬか、坊やが死ぬかの三択しかない、あの魔道師がどの選択肢を取るのかと考えていると
「「ヴィルヘリヤ様」」
背後の2体のネクロが現れる、私は若干興が削がれたと感じながら
「何?タイラントにパワー?」
タイラントにパワーはかなりの巨体を誇るネクロだ、タイラントは何故か背中に山を背負い、パワーは斧を持っている、肉弾戦が得意なネクロで本来はカーズの配下のネクロだが、カーズが負けたので回り回って何故か私の配下に成っている2人組みだ、私が何か?と尋ねるとパワーが
「はっ、今しがたヴェノム様が目的を達成したと陽動はもう良いそうです」
そう・・完全に忘れてたわ・・今回の目的は陽動だったのよね
「なので後は我々に任せて、パンデモニウムにお戻りください」
私が本来の目的を思い出しているとタイラントが戻れと言う
「嫌よ、折角面白くなって来た所なんだから・・もう少ししたら勝手に帰るからほっといてよ」
2人の魔道師が徐々に坊やに追い詰められている・・ここからどうなるかが見たいのに帰る訳が無い、私の性格を知っているタイラントとパワーは少し考え込む素振りを見せたが
「判りました、ヴィルヘリヤ様の命に従います・・しかし万が一何かが起きては困るので私達もここに残りますが宜しいですね?」
冷静に言うパワーに
「はいはい、好きにすれば?・・でもあの魔道師の邪魔をしちゃ駄目よ?」
私は念を押してから魔道師と坊やの方に視線を戻した・・
「ど・・どうしよう・・?」
私とルーちゃんは追い詰められていた・・確かにエリオ君は正気を失っている・・だがお父さんに教えられた戦闘技能は体が覚えている・・大分長い事逃げる事は出来たが・・それももう終わりかもしれない・・
「まずい・・こんな時ガリューがいてくれたら・・」
瓦礫を背に呟くルーちゃんを見ながら・・何か?・・何か無いか?と考える・・ヴィルヘリヤは洗脳を解くにはどうすれば良いと言っていた?・・
「「!!・・そうか・・それしかないよね・・」」
ルーちゃんと同時に呟く・・もう残された手はそれしか無かった・・私達が何をしようとしているのか理解したフリードが
「きゅくっ!!きゅっく!!」
鳴きながら体を振るフリードの頭を撫でながら
「ごめんね・・私にはもうこれしか思いつかないの・・」
エリオ君を取り戻す方法はもうこれしかないと私とルーちゃんは判断したのだ・・隠れるのを止めエリオ君の居る通りに立つ
「・・・・」
黒く濁った瞳のエリオ君がストラーダを引きずりながら歩いてくるのを見ながら、ゆっくりと歩き出す
「・・エリオ君・・」
「エリオ・・」
ルーちゃんと一緒にエリオ君に声を掛けるが
「・・・・」
私達の事を本当に倒すべき敵として認識しているのか、ゆっくりとストラーダを振り上げたエリオ君に聞こえているか判らないが声を掛ける
「エリオ君・・私はエリオ君と一緒に居れて凄く楽しかったよ」
聞こえているかは判らないでも言わないといけない気がしたから・・私とルーちゃんはエリオ君の眼を見ながら声を掛け続けた
「私は・・余り長い間エリオと一緒に居れなかった・・でも一緒に居た時間は私にとっての宝物・・」
ルーちゃんが言い終わると同時にストラーダに魔力刃が展開される、私達はそれを見ながら
「だから・・大切なエリオ君に言うよ・・例え私とルーちゃんを殺しちゃっても悲しまないで・・私達は・・姿は見えなくてもエリオ君と一緒に居るから・・だから悲しまないで・・ずっと笑っていて・・お願いだよ・・」
2人でそう言うと目を閉じた・・それと同時に狂気の刃が振り下ろされた・・
ザンッ!!
坊やの鎌が振り下ろされ、それと同時に血しぶきが上がる・・私はその光景を見ながら
「ふふふ・・中々面白い見世物だったわね・・さてと・・坊やを始末・・あら・・?」
確かに血しぶきが上がっているのだが、2人の魔道師は立ち続けている・・ではあの血は誰の?・・私が困惑していると
「・・けるな・・」
唸るような坊やの声が聞こえた・・まさかと自力で私の洗脳を打ち破ったと言うの!?・・私が混乱している中
「えっ?」
魔道師が首を傾げながらえっ?と言うと坊やは
「ふざけるなって言ったんだっ!!!僕は!!キャロとルーテシアと一緒に居るって決めたんだっ!!それなのに・・2人を殺して悲しむな?・・笑っていろ・・?・・ふざけるなっ!!2人が居なくちゃ笑えるわけ無いだろっ!!」
そう怒鳴ると坊やは振り返り私を見る・・その目には強い殺意があった、それにさっきは見えなかったがどうやら自分で自分の足を切り裂いてその痛みで自意識を取り戻したようだ・・私は
(・・坊やって言って侮っていたけど・・中々強い心を持ってるみたいね・・でも・・)
私の思い通りにならないおもちゃは要らない・・だから
「私の洗脳を破ったのは褒めてあげるわ・・でももう終わりよっ!!・・ダークネス・・ウェーブッ!!」
全力で私は砲撃を放った、それと同時に一瞬プロテクションが見えたが直ぐに私の砲撃に呑まれ消えた
「うふふ・・これで終り・・後は死体を持って守護者の所へ・・!!・・何この魔力は!?」
強烈な魔力を感じ、歩き去りかけたが・・本能的に振り返り私は眼を見開いた
グルルルル・・・・
「!!!」
思わず私は後ずさりをした・・私には見えた・・巨大な体を持った龍の姿を・・私が驚いていると
「許さない・・お前だけは・・許さないぞ・・」
その龍の姿が消えると同時に坊やが姿を見せる、漆黒の騎士甲冑に両腕には銃の様な物が装備され、左腕には今までの槍とは違い斬る事に特化していると思われる槍に・・その背には力強い真紅の翼が現れていた・・私には坊やがまるで龍の化身の様に見えた
「お前だけは・・僕のこの手で倒す・・覚悟しろっ!!」
そう叫ぶと同時に坊やは背中の翼を羽ばたかせ突撃して来た・・
エリオ達を砲撃が飲み込む少し前・・
「ダークネス・・ウェーブ!!」
迫ってくる黒い砲撃から二人を護らないと反射的にプロテクションを張るが
ズキッ・・
洗脳を解く為とは言え自分の右足を切り裂いたのは失敗だったのかもしれない・・踏ん張る事が出来ず徐々にその砲撃が迫ってくる・・
「エリオ君っ!」
「エリオッ!」
自分の後ろに居る、僕が護りたい者の声が聞こえる・・僕は痛む右足に無理やり力を入れる・・だが思う様に力が入らず徐々に後退して行く・・それにプロテクションにも亀裂が入り始めている・・このままでは長く持たない・・それでも2人を護る為に砲撃を防ぎ続ける・・このとき僕が思い出していたのはブリッズとランレ・デルーパとの戦闘時の事だ、僕は2人に護られた・・だから今度は・・僕が2人を護るっ!!僕がそう決意を固め目を開いた瞬間・・世界が停まった・・
「えっ・・?」
突然起きたその現象に驚いていると、急に僕の前に紫色とピンク色の球体が現れていた・・驚きながら振り返るとそこには
「「・・・・」」
腕を組んで祈りを捧げているキャロとルーテシアの姿があった・・2人とももう限界が近いのに・・それでも僕を助ける為にデュナスとグランドを呼び出してくれたのだと・・僕がそう思うと同時に球体は一気に宙に浮かび上がり螺旋を描きながら、魔力の粒子となり僕に振り注ぐ・・それと同時に聞き覚えの無い声で
ジョグレス・・
静かだが確りと意思の篭った声が聞こえた・・それはまるで包み込むような力強さに満たされていた・・
バサァ・・
僕がそんな事を考えていると何かが羽ばたく音が聞こえた、それと同時に真紅の翼が現れ騎士甲冑が変化していく・・全身を覆っているが重さはまるで感じない・・だが防御力が低い訳ではない・・恐らくグランドより強固だろう・・だが僕が1番違うと感じたのは
「暖かい・・それに感じる・・2人の力を・・」
デュナスやグランドとは違う・・体全体を包み込むような2人の魔力を感じながら、左手に握られていた新しいストラーダを振るった・・
ヒュン・・
それほど力を込めたつもりは無かった・・だがその一振りで僕たちに迫っていた砲撃は跡形も無く消し飛んだ、それと同時にヴィルヘリヤと2体のネクロが視界に飛び込んでくる・・ヴィルヘリヤは何かに怯えるような素振りを見せ、2体のネクロは臨戦態勢に入っていた・・僕は確りとストラーダを握り締めながら
「許さない・・お前だけは・・許さないぞ・・」
この世で一番大事な者を殺させようとした、ヴィルヘリヤを逃がすつもりは無い・・ここで仕留める
「お前だけは・・僕のこの手で倒す・・覚悟しろっ!!」
僕は背中の翼を羽ばたかせ、ヴィルヘリヤ達に向かって行った・・
第95話に続く