夜天の守護者   作:混沌の魔法使い

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第97話

 

第97話

 

キンッ!!

 

軽い金属音を立てながら私の手からレヴァンティンが弾け飛んでいく・・今まで長い間戦ってきたが・・こんな事は一度も無かった・・騎士が己の武器を失う・・それは死でしかないからだ・・

 

「どうしたのシグナム?・・何処か調子が悪いの?」

 

私の手からレヴァンティンを弾き飛ばした張本人、テスタロッサが心配そうに声を掛けてくる、私は

 

「大丈夫だ・・少し手が滑っただけだ・・」

 

自分でも嘘だと判る言い訳をしながら、レヴァンティンを拾い上げ

 

「私から頼んでおいて悪いが・・模擬戦はもういい・・ありがとうテスタロッサ・・」

 

礼を言ってから演習場を出ようとすると

 

「どうしたんだシグナム?・・ここ最近調子が悪いように見えるが・・大丈夫か?」

 

私達の模擬戦を見ていた兄上が心配そうに話しかけてくる、真っ直ぐに私を見る兄上から視線を逸らしながら

 

「・・だ・・大丈夫です・・本当に手が滑っただけで・・兄上が心配する事ではありませんから・・それでは失礼します」

 

私は早口にそう捲くし立て、逃げるように演習場を後にした・・

 

 

 

「・・・今の気配・・気の所為か・・?」

 

私は走り去っていく、シグナムの後姿を見ながら呟いた・・一瞬・・そう本当に一瞬だがシグナムからアイギナの気配を感じたのだ・・天雷の書の中で眠りについているはずのアイギナの気配がするわけが無いのだが・・私が首を傾げていると

 

「龍也、シグナム何処か調子が悪いの?」

 

バリアジャケットを解除したフェイトが尋ねて来る

 

「判らない・・本人が違うと言うのだからその言葉を信じたいのだがな・・」

 

最近のシグナムはどこかおかしい・・体の切れや魔力の収束がまるで出来ていない・・まるで始めて魔法を扱う見習い魔導師の様だ

 

「・・そうだけど・・でもやっぱり何処かおかしいよ・・さっきの切り払いだってそんなに力を入れてなかったのに・・あんなのでシグナムがデバイスを落とすなんて信じられないよ」

 

シグナムを心配しているフェイトに

 

「明日、私がもう1度シグナムに聞いてみよう・・悪いがスバル達の訓練を頼む」

 

本来なら今日はスバル達とチンク達の訓練を見る日だが、どうしても気になる点がある・・その事を調べようと思い、フェイトに訓練を頼むと言っていると

 

「納得できませんっ!何故龍也様で無く、フェイトに訓練をして貰うのですか!!私は納得できませんっ!!」

 

セッテが納得できないと言いながら近付いてくる、良く見ると・・

 

「・・私・・ばっか・・こんなの・・もう嫌っす・・」

 

ぐったりとしているウェンディが見える、どうやらセッテを止めようとしていたのだろう・・私がそんな事を考えていると

 

「聞いているのですか!!龍也様!!どうして私がこんな女の言う事を聞かねばならないのですか!!」

 

最初はフェイトと言っていたが、遂にはこんな女呼ばわりされたフェイトは明らかに不機嫌になっている

 

「すまない・・しかしどうしても気になる事があるんだ・・今日だけで良いフェイト達の言う事を聞いて訓練をしてくれないか?」

 

セッテに頭を下げながら言うと、セッテは慌てたように

 

「ああ・・私はそんなつもりで言ったのではなく・・と・・とりあえず頭を上げてください・・」

 

かなり慌てた口調で言うセッテの声を聞きながら頭を上げると、セッテは

 

「判りました・・龍也様に用事が有るなら我侭は言いません・・言われた通りにします・・」

 

明らかに気落ちした様子でチンクの所へ歩いて行くセッテに

 

「本当にすまない・・今度セッテの好きなチーズケーキを焼いてやるからな」

 

こんな物で機嫌が治ると思えなかったが、そう言うとセッテは

 

「本当ですね!!楽しみに待ってますからね!!」

 

飛び跳ねそうな勢いで振り返り笑顔で言うセッテに困惑しながら頷き、私は演習場を後にした・・その際聞こえてきた

 

「消えろ!!この女狐がっ!!」

 

「そっちが消えれば良いでしょっ!!」

 

セッテとフェイトの怒声は聞かなかったことにしたかった・・

 

 

 

 

「ふむ・・中々興味深い資料だ・・」

 

私は珍しく遺跡内ではなく、自分のテントの中でチンクから送られて来た、エリオ君の新しいモードインペリアルの情報を解析していた・・魔獣の事も気になるが・・それ以上にこっちを調べる事に興味を惹かれたからだ・・魔獣の詳しい情報があるであろう部屋は既に見つけている・・だがプロテクトが硬すぎて入る事が出来ず、困っている時にこの資料が来た・・気分転換には丁度良いのでこうして解析している

 

「成る程・・3人の魔力を収束して、データ化した騎士甲冑のデータを造り替えているのか・・」

 

変化していく過程を見ていて気付いた・・まずデュナスとグランドが粒子化、その後に3人分の魔力でデータ化したデバイスを集め、エリオ君を基点にその情報を上乗せしているのだ、考えてみれば簡単な事、3人分の魔力に3つのデバイス・・その力が強大なのは子供でも判る理屈だ、私はそんな事を考えながら

 

「だが・・そんな簡単な事に気付かなかった私も子供か・・」

 

カオスの完成は程遠いと思ったが・・この資料のおかげで完成は近い・・そんな事を考えていると

 

ピピッ・・

 

龍也から通信が入る・・よっぽどの事が無ければ連絡を寄越さない、龍也からの通信に何かあったのだろうかと思いながら通信機の電源を入れ

 

「どうした龍也?何かあったのか?」

 

軽く微笑みながら尋ねると龍也は神妙な表情で

 

『何かとは上手く言えないのだが・・シグナムの様子がおかしいんだ』

 

龍也から見たシグナム君の話を聞いている内に、私は1つの仮説にたどり着いた

 

「龍也・・これは仮説だが・・シグナム君はアイギナにハッキングされてるのではないか?」

 

私の考えを言うと龍也は

 

『お前もそう思うか?・・私も色々考えたのだが・・これにしか思いつかなかったんだ』

 

そう言う龍也に私は

 

「それしかないだろうな・・安定しない魔力・・身体能力の低下・・それにシグナム君からアイギナの気配・・その全てが意味している」

 

私がそう言うと龍也は

 

『ありがとう・・私の考えで合っているのだな・・少しセレスに話を聞いてみることにする」

 

統制人格であるセレスなら対処法を知っているかも知れない・・そういう期待を込めた口調の龍也は

 

『忙しい時にすまない・・だが助かったよ・・私では確証をもてなかったからな』

 

モニター越しに頭を下げる龍也に

 

「気にしないでくれ、私だって偶にはお前の役に立ちたいからな・・それじゃあすまないが、私は調べ物があるから失礼するよ」

 

そう声を掛けてから通信機の電源を切った、私は椅子に深く座り直し

 

「さてと・・私は私のすべき事をするとしようか・・」

 

今私が出来る最大の事・・それは遺跡の最深部にある部屋に眠る魔獣についての伝承・・それを知ることだ・・私はそんな事を考えながら、遺跡の最深部のプロテクトの解除作業を始めた・・

 

 

 

「話は聞いていたな・・」

 

通信機を片付けてから部屋の隅を見ながら言うと

 

「はい・・聞いておりました・・」

 

滲み出るようにセレスが姿を見せる、私はセレスの顔を見ながら

 

「シグナムは今アイギナからハッキングを受けている・・これに間違いは無いのか?」

 

そう尋ねるとセレスはゆっくりと頷き、そして

 

「申し訳ありませんっ!!・・私もまさかアイギナがハッキングをしている等と思いもしなかったのです、全てはこの私の責任です」

 

深く頭を下げるセレスに

 

「セレス・・頭を上げてくれ・・過ぎてしまった事を変える事は出来ない・・私達がすべき事はシグナムをどうやって元に戻すかだ」

 

そう言うとセレスはゆっくりと頭を上げたが・・その顔はまるで今にも泣き出しそうな子供の様な顔をしていた

 

「・・アイギナのハッキングを止めさせる方法は1つだけあります・・ですが・・これにはリスクもあります・・」

 

セレスの話を聞いた私は

 

「それしか方法は無いのか?」

 

確認の為に尋ねるとセレスは

 

「はい・・これしかシグナムを元に戻す方法はありません」

 

ぼそりと呟くセレスに私は決断した

 

「そうか・・それでは仕方ない・・明日・・賭けに出るしかないか・・」

 

賭け所かこれははっきり言って負けると決まっている言っても良い勝負だ・・だがこれしか方法が無いのならこれに賭けるしかない

 

「分の悪い賭けは嫌いじゃないが・・今回ばかりはそうも言ってられんか・・」

 

勝つか負けるかでシグナムのこれからが決まる・・この勝負は負ける訳には行かない・・私はそう呟きながら窓の外から夜空を見上げた・・明日・・シグナムの全てが決まる

 

 

 

私は自室にベッドに横になり天井をぼんやりと見上げていた・・私の胸の中にあるのは恐怖だけだった・・自分が自分で無くなる様な言い知れぬ恐怖を感じていた

 

「こんな気持ちは初めてだ・・」

 

闇の書の騎士だった時にも感じなかった・・感情に私は戸惑っていた・・この気持ちを持った理由は判っている

 

「兄上・・」

 

部屋の隅に置かれている、私達と兄上の写真を見る・・普段ならそれで落ち着くが今回は違う

 

「怖い・・怖い・・私が居なくなってしまう・・兄上の傍から・・」

 

そう・・私は兄上の傍に入れれば良かった・・確かに恋心を抱いていたのは認めよう・・だがその所為でこうも恐怖を感じるのならば

 

「私は・・プログラムのままで良かった・・」

 

そう唯のプログラムとして・・兄上の傍に居れば良かった・・私が望んだ事はきっと間違いだったのだ・・兄上に愛されたいと・・想ったのは間違いだったのだ

 

「私は・・私は・・心など欲しくなかった・・唯の道具であれば良かった・・」

 

そう召喚された時のまま・・心を持たず・・道具として存在すれば・・こんな恐怖を感じることは無かったのだ

 

「私は・・どうすれば・・「私に体を寄越せ・・お前のような弱者は王に必要ない」・・まただ・・私は何を言っているのだ・・」

 

判らない・・突然意識が途絶え何かを呟く・・その何かは判らないが・・

 

「それで兄上を護れるのなら・・私は・・それでも構わない・・」

 

私が消え、別の何かになったとしよう・・自分が消えるのは怖いが・・それで兄上を護れるならば・・私はそれでも構わない・・私はそんな事を考えながら眠りに落ちた・・

 

 

第98話に続く

 

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