雁夜おじさんに憑依してしまった大学生   作:幼馴染み最強伝説

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ひゃっほう!

久々の投稿だぜ!

原作も全巻買ったので、これからは遠慮なく書ける!………と見せかけて実習あるし、平日は微妙な事になる事確定ですね。

あー、学校行きたくない、働きたくないでござる。ずっと執筆したい。


激闘の後に……

テーブルを飾る肉と酒。

 

ミコルタの大宴会場にはエリンの貴族達が一堂に集い、今が宴の最高潮。

 

荒くれ者たちの力自慢や飲み比べも、今日に限っては御法度だ。

 

むくつけき武人達も、今宵ばかりは雅な花の香に酔いしれる。

 

そう、これは愛でるための宴。

 

アイルランド大王コーマック・マック・アートの息女グラニアが、遂に婚約を交わすのだ。

 

相手は誰あろう、クーアルの息子フィン・マックール。

 

知恵の鮭の油に英知を授かり、癒しの水を司る大英雄。彼こそは天下に無双と謳われるフィオナ騎士団の首領である。

 

その力と名声は大王に並び立つ程の益荒男。これ程に目出度い縁談が他にあろうか。

 

老雄フィンに付き従うのは、その息子にして詩人のオーシン。その孫にして英雄のオスカー。そして一騎当千のフィオナ騎士団の勇士達。

 

駿足のキールタ・マック・ロナン。ドルイド僧ジャリング。『戦場の戦慄』ガル・マック・モーナ。コナン・オブ・ザ・グレイ・ラッシィズ。そして最強の誉れも高き『輝く貌』のディルムッド・オディナ。

 

何れも劣らぬ豪傑揃い。

 

その誰もがフィンを敬愛し、揺るがぬ忠義を誓っていた。

 

偉大なる英雄を首領に仰ぎ、その一命に剣と槍と命を託す。これこそが騎士たる誉れ。吟遊詩人に謳われて語り継がれるべき、輝かしき武人の本懐。

 

その道に憧れて。その道を貫いて。

 

いつか我が身は誇り高く戦場に果てるものと、そう信じて疑わなかった。

 

ーーーーあの運命の宴の夜に、一輪の花と出会うまでは。

 

『我が愛と引き換えに、貴男(あなた)聖誓(ゲッシュ)を負うのです。愛しき人よ、どうかこの忌まわしい婚約を破棄させて。私を連れてお逃げください。……地の果ての、そのまた彼方まで!』

 

涙ながらに訴えかける乙女の眼差しは、一途な恋に燃えていた。

 

それが我が身を焼き滅ぼす煉獄の炎になることを……既にその時、英雄は理解できていたのだ。

 

それでも彼は拒めなかった。

 

名誉を試す聖誓の重さと、自ら奉じた忠臣の道とーー果たしてどちらがより尊かったのか。幾度、自問して葛藤しても、答えに至ったことはない。

 

だから、彼を駆り立てたのは、きっと誇りとは何の関係もない理由。

 

英雄は姫と手を携えて、ともに前途の栄華に背を向けた。

 

こうして、ケルト神話の伝承に語り継がれることになる、一つの悲恋の物語が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー奇妙な夢をくぐり抜け、ケイネスは目を覚ました。

 

見た事も、経験したもない遥かな太古の景色。だが、不可解な事ではない。

 

サーヴァントと契約を交わしたマスターは、ごく稀に、夢という形で英霊の記憶を垣間見ることがある。

 

ケイネスとて、当然召喚した英霊ーーランサーにまつわる伝承は熟知している。まさかあれほど真に迫った光景として目の当たりにするとは思わなかったが、先の夢はまぎれもなく、『ディルムッドとグラニアの物語』の一場面だ。

 

(私は……)

 

開いた目に飛び込んできたのは寂れ切った、伽藍堂の空間。

 

廃墟ならではの埃じみた空気と、冬の夜の冷気が寒さを感じさせる。

 

人の営みの痕跡など、過去に遡っても見当たらない、機械装置だけの冷たい空間。

 

見覚えのない場所ではない。ここは冬木ハイアット崩壊後、ケイネスが仮の隠れ家として居を据えた、街外れの廃工場だ。

 

まだボヤける意識のまま、ケイネスは数時間前の出来事を思い出す。

 

キャスターを追跡し、アインツベルンの森へと辿り着いた。

 

そしてその時、時を同じくしてアインツベルンの森に侵入していたサーヴァントとそのマスターを単身追いかけ、倉庫街での報復を行おうとしてーーーー敗れた。

 

顛末の全てを思い出したケイネスだったが、その頭の中にあったのは屈辱でも憤怒でもなく、純粋な疑問だった。

 

自身の最高傑作である魔術礼装月霊髄液(ヴォールメン・ハイドログラム)を一撃の元に消し炭とした雷の魔術。

 

たったの二節で放たれた一撃にしてはあまりにも規格外な威力はサーヴァントにすら通用するものであることはケイネスも理解した。

 

何故あれ程の一撃を自身に向けなかったのか?当たっていれば、間違いなく即死であった事は明白だ。

 

例え、全力で防御に徹していたとしても、消し炭になっていたのは火を見るよりも明らかだった。

 

答えは至って簡単。雁夜の方に微塵も殺意がなかっただけだ。

 

けれど、それをケイネスは知らない。ただ、情けをかけられたか、或いは生かすだけの理由があったのかのどちらかだと考えていた。

 

そしてそれ以上に疑問が尽きないのは、あれだけの威力を持ったものを使用するのに二節の詠唱のみであったこと。

 

あの規模のものを使用するのは『神童』と謳われたケイネスを持ってしても、それなりの下準備が必要で、条件が必要になる。

 

だというのに、雁夜はそれを必要としていなかった。

 

ましてや、それを使用したにもかかわらず、何事もなく立っていて、硬直していた自身を魔術でもなく、拳でねじ伏せた。

 

理解できない。

 

その行動も、専門分野である魔術さえも。

 

雁夜の事が何一つ理解できなかった。天才である自分が。

 

尽きない疑問に対する答えを得られぬまま、ケイネスは口を開く。

 

「ランサー」

 

「ここに」

 

ケイネスの呼び声に数瞬の内にランサーは彼の傍に実体化し、現れた。

 

「私をここに運んだのはお前か?」

 

「は。魔術の類いで動きを制限されていましたが、事は一刻を争っていたため、この場に帰り次第、ゲイ・ジャルグにてその魔術を無力化した次第です」

 

ケイネスの次の問いをわかっていたかのように、ランサーは運んだ事を肯定しつつ、その時の状況をケイネスへと告げる。

 

確かに、あの場は一刻を争う事態だった。

 

サーヴァントによる足止め。

 

セイバーと共闘したとしても、突破する糸口すら微かにしか見えない状況。

 

念話でも反応のないマスターに焦っていたランサーを救ったのは、別のサーヴァントの襲撃。

 

サーヴァントは我を忘れて一目散にアインツベルン城へと向かい、セイバーとランサーも脇目も振らず、自身のマスターの元へと向かった。

 

幸いにして、ケイネスは大した怪我もなく、救出する事に成功し、ランサーは安堵の溜息を吐いた。

 

もし、また忠義を尽くすことが出来なければ、この聖杯戦争に参加した意味など自分にはない。

 

それだけが聖杯にではなく、聖杯戦争にかけるランサーの、ディルムッド・オディナの願いだった。

 

「ランサーよ。その行動、褒めて遣わそう。お前がいなければ、私はマスターの手に落ちていた」

 

「ッ⁉︎も、もったいなきお言葉!」

 

初めて告げられたケイネスからの感謝の言葉に、ランサーは感動に胸を震わせた。

 

誰を討ち取ったわけでもない。何かを得たわけでもない。

 

けれど、間違いなく、ランサーは喪わなかった。

 

新たな主も、忠義も、たった一つの願いも。ランサーは守り切った。

 

「ランサー。いや、ディルムッド・オディナ。今一度問おう。お前は聖杯に何を望み、何を託す」

 

「願いはありませぬ。ただ一つ、主への忠義を示す事。それこそが我が望み。聖杯など必要ありませぬ」

 

ケイネスの問いにランサーは即答した。

 

聖杯など必要ない。

 

ランサーは聖杯戦争にかける願いは今生のマスターに忠義を示すこと。聖杯にかける大望など持ち合わせていない。

 

それこそがケイネスに不信感を募らせた理由の一つである事をランサー自身は知らないが、紛れも無い事実なのだ。ランサーは、最後の一人となり、自身の死をもってケイネスが聖杯にかける願いを叶えられるのならば、喜んで自害する。ただただ、たった一つの祈りの為に。

 

だが、この場において、ケイネスははっきりと断罪の言葉を告げた。

 

「やはりお前というサーヴァントは信用出来ん。過去の英霊が、人間風情の使い魔に身をやつすというのに、何の願いもない?忠義を示すことが出来ればそれでいい?馬鹿馬鹿しいにもほどがある」

 

「返す言葉もございません」

 

返す言葉などありはしない。それが嘘偽りのない、ランサーの願いなのだから。

 

例えどれだけ否定されようとも、その為だけにランサーはこの聖杯戦争に勝ち残る。勝ち残らなくてはならないのだから。

 

「しかし、だ」

 

ケイネスは一拍置くと、横になっていた簡易寝台から身を起こし、大地へと足をつけ、立ち上がる。

 

「聖杯戦争は私情を挟んで勝てるほど甘くはない。それを私も、お前も実感した。私情を挟んだせいで敗北したなどと、魔術師の風上にも置けん。………故にランサーよ。此度の聖杯戦争に限り、私はお前に関係する私情の一切を捨てよう。ただ、聖杯戦争を勝利するためだけに持てるだけの全てを振るう。そしてランサー。お前にも誓ってもらう。私情を挟まず、私に聖杯を捧げるためだけに、その二槍を振るい、共に戦場を駆けると」

 

淡々と告げられるケイネスの言葉に頭を垂れていたランサーは顔を上げ、ケイネスの顔を見た。

 

その顔には何の表情もない。あるのはただ一人の魔術師としての、戦士としての面貌。

 

マスターは覚悟を決めた。後はそれに応えるだけだ。

 

ランサーもまた、感情の高ぶりを抑えつつ、戦士の貌で、ケイネスへと返した。

 

「フィオナ騎士団が一番槍。ディルムッド・オディナ。必ずや貴方に聖杯を捧げましょう。我が二槍は貴方と共に」

 

「よろしい」

 

ここにまた一つ。交わることの無かった魔術師とサーヴァントのコンビが互いに手を取り、ただ一つの願望機を求め、勝利を誓う。

 

(間桐雁夜。撤回しよう。貴様のような存在が断じて急造の魔術師程度ではない。次こそは、私の全身全霊をもって、貴様を斃す)

 

(不敬に値するが…………このような結果を生んだことに礼を言う、獣のサーヴァントのマスター。そして、獣のサーヴァントも、そのマスターも、必ずやこの俺が打ち倒そう)

 

だが、彼らの目に映っていたのは願望機(聖杯)ではない。それよりも強大な存在(間桐雁夜)であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「旦那、まだ帰ってこないのかなぁ」

 

キャスターがタマモの手によって、屠られてから半日が過ぎた頃。

 

キャスターのマスターである雨生龍之介はキャスターが下水道の中に製作した魔術工房で退屈そうに呟いた。

 

魔術工房と言っても、その中は酷いものだ。

 

酷いというのは出来の問題ではなく、その凄惨さ。

 

ありとあらゆる場に血が盛大にぶちまけられており、所々には肉片や臓物の欠片が落ちている。

 

そして、綺麗に並べられた今も生きている(・・・・・・・)子供で作られたナニカ。

 

常人が見れば、思わず胃の中のもの全てを吐き出し、その場からあらん限りの力を振り絞って逃げ出すような場所で龍之介はなんでもないような表情で寝転がっていた。

 

キャスターが贄として、誘拐した子どもを連れだしてから、半日以上が経過している。

 

龍之介もそれを自身の目で観たかったのだが、サーヴァント同士の対決が待っている戦場に連れて行くわけにはいかない。キャスターとしては龍之介にマスター事情を抜きにしても、龍之介に死んでほしくはないし、出来ることなら連れて行きたくはあったものの、魔術師ではない龍之介ではただ観るだけにしても余波で巻き込まれて死ぬ可能性もあったため、龍之介はキャスターが帰ってくるまでの間、こうして工房に身を置き、自身の作った阿鼻叫喚(芸術)で暇を潰していたものの、今では完全に暇を持て余していた。

 

「旦那は帰ってくるまで一時中断って言ってたけど………そろそろ限界かなぁ」

 

龍之介はキャスターの事を信頼し、敬愛している。

 

それ故に言いつけはキッチリ守るし、彼の行動全てが賞賛に値した。何もかもが龍之介にとっては新しい発見の連続で、新たな美を生み出し続けた。

 

とはいえ、ただの殺人機械ではなく芸術家である龍之介は芸術を生み出せない時間は酷く苦痛であり、我慢の限界が既に迫っていた。

 

だからこそ気づかなかった。

 

自身の右手からマスターの資格たる令呪が消失し、すぐ近くに接近する人影を。

 

「ーーやっぱり私だけが来て正解でした。こんな場所……ご主人様には見せられません」

 

「んー?」

 

暗闇からする声に龍之介は後ろを振り返る。

 

長時間暗闇にいた為、目は慣れているため、ある程度はその姿を知覚できた。

 

だが、大まかなシルエットを知覚した瞬間に龍之介の身体は宙を浮いていた。

 

ーー否、浮かされていた。

 

「あがっ!」

 

「なんて醜い。腐りきってやがりますね」

 

一撃で龍之介が死ななかったのは最悪の奇跡と言えた。

 

本気ではなかったとはいえ、規格外の性能を誇るサーヴァントに殴られ、天井に叩きつけられた上で、龍之介は偶然にも生きていた。

 

もっとも、既に内臓器官の機能は殆どが破壊され、停止しており、どう足掻いても死は免れなかった。

 

「……可哀想に。こんな状態でも、生かされている」

 

悲哀に満ちた表情でサーヴァントーータマモは周囲の光景を見渡した。

 

彼女がここに一人で来たのは、雁夜が昨日の激戦にて魔力のほとんどを使い切り、回復に努めているからに他ならない。

 

回復といっても絶賛睡眠中であり、タマモがこうして単独でここに来て、龍之介を勝手に殺したとしてもさしたる魔力の消費はない。微々たるものだ。

 

「私が物理傾倒じゃなかったら、してあげられることもあったのに………ごめんなさい。私が貴方達にしてあげられるのはこれが精一杯。赦してくださいとは言いません。どうか安らかに」

 

タマモは拳を振りかぶると下水道内の支柱をへし折り、壁を破壊する。

 

破壊が進行するとともに音を立てて崩れゆく魔術工房。

 

完全に崩壊した時、そこには誰一人として生存者はおらず、あったのは一人の青年と、行方不明になっていた数多の少年少女達の死体だけだった。

 

 


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