雁夜おじさんに憑依してしまった大学生   作:幼馴染み最強伝説

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王の集いし夜

ウェイバーとライダーがそこを訪れた時にはすでに瓦礫の山だった。

 

おおよそ、魔術師というよりも警察の鑑識のような地道な調査によって、割り出したキャスターとそのマスターが『いるであろう』場所は、『いたかもしれない』場所へとクラスチェンジを果たしてしまっていた。

 

「ふむ。どうやら、一足遅かったらしいな」

 

瓦礫の山を見たライダーがそう呟く。

 

一般人が見れば、謎の倒壊事故で済まされるそれも、聖杯戦争と呼ばれる魔術師の闘争に参加している彼らから見れば、なんらかの意図があって、何者かが破壊したとしか思えない程に不自然過ぎた。

 

ましてや、キャスターの工房があったかもしれないとなると、尚更だ。

 

それが第三者によるものか、それともキャスター陣営が工房を破棄するためにわざわざこんな大掛かりなことをしたのか、判断に困るところではあるものの、連日の隠蔽する気など微塵もない大胆な行動を鑑みても、前者である可能性は極めて高かった。

 

「畜生……やっと手がかりを掴んだと思ったのに……」

 

「気にするでない、坊主。聞くところによると、キャスターとそのマスター。心底外道だったそうではないか。ならば、悔しがる前に喜ぶべきであろう」

 

ウェイバーの頭をガシガシと乱暴に撫でながらライダーは言うものの、ウェイバーとして、とても素直に喜べたものではない。

 

彼がキャスターを標的としていたのは、正義から来る行動ーーなどではなく、ひとえに監督役が提示した追加令呪の報償が目当てなのだから。

 

勿論。そんな事情はライダーには明かされていない。自らを束縛する令呪が徒らに増える事を喜ぶサーヴァントなどいるわけがないからだ。

 

「それにな。キャスターの件は無駄足になったが、これを為した者が誰かは大体の検討はついたぞ」

 

「誰なんだよ、そいつは」

 

「馬鹿者。聞く前に少しは自分で考えてみろ」

 

溜め息と共に吐き捨てるライダーの言葉にウェイバーはムッとしつつ考え込む………が、すぐにそれも止める。

 

何故ならそれは考えるまでもない事だったからだ。

 

「もしかして………例のサーヴァント、か?」

 

「何故そう思う?」

 

ライダーの問いかけに普段の小馬鹿にしたような態度は含まれていない。単純な疑問だけがそこにあった。

 

「正直、どのサーヴァントも凄い……けど、セイバーもランサーも、こういう物を壊すなら普通の攻撃以外の方法を取るだろうし、二人とも、そういうことをする性格じゃない。ランサーのマスターは……僕もよく知ってる。あの人に限って、こんなあからさまな事はしない。アーチャーは性格からしてあり得ないし、アサシンは脱落してる。だけど、あの規格外のサーヴァントなら、殴って壊す事なんて造作もないんじゃないか?……マスターの意図はどうか知らないけど」

 

過程はどうであれ、ウェイバーの憶測は正しかった。

 

先の戦闘を知らない者でありながら、結果的にはこれの元凶を言い当て、それに対してライダーも同意見であったらしく、一度頷いた。

 

「余もそう思っておった。ただ、そうなるとあのサーヴァントのマスター。なかなかに優秀な奴だわな。こうも他の者に悟られずに行動するとはな。英霊達の戦場に単身出てくる気概と根性。おまけに策士ときたか。うーん、こいつは欲しいなぁ」

 

ライダーの呟きにウェイバーはまた始まった、とそう思った。

 

ライダーの真名がばれたのも、元はと言えば他のサーヴァントを自身の臣下として、軍門に降らせたいが故の突発的な行動だった。

 

あの場にいた人間ならば、誰もが度肝を抜かれただろう。

 

サーヴァントが真名を自らバラすなど愚の骨頂。聖杯戦争において、真名は重要な情報の一つであり、それを知るか否か、バレるか否かで勝敗が決まる可能性すらもある。故にサーヴァントによっては、真名を敢えてマスターにも教えないという者もいるほどだ。

 

因みにそんな聖杯戦争では愚行を犯したライダーではあるが、本人は全く気にしていない。

 

「よし、決めたぞ。あの者も誘うとしよう」

 

「はぁ?何言ってるんだよ」

 

「帰るぞ、坊主。宴の準備だ」

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「切嗣。もう身体の方はいいの?」

 

「ああ。アイリのお蔭で、殆ど万全の状態だよ」

 

キャスター、ケイネス、そして雁夜の襲来の翌日。

 

あれ程の激戦を言峰綺礼という同盟を結ぶ可能性が一番無かった者と共闘する事で辛くも生き延びた切嗣は固有時制御による副作用と雁夜から受けたダメージをアイリスフィールに癒してもらいながらも、既に次の作戦への準備に入っていた。

 

殆ど万全とは言ったものの、あれからまだ半日しか経っておらず、状態としてはせいぜい六、七割といった状態だが、昨日の夜見せつけられた圧倒的で、暴力的なまでの強さ。

 

あれを見て、悠長に構えている暇などあるはずもなく、気を失い、目が覚めてから、ひたすら思考を巡らせているものの、未だ良い作戦は思い浮かばずにいた。

 

(もっと注意深く見るべきだった。あんな規格外のサーヴァントを連れているなら、マスターも常識の範疇を超えていることくらいは想定すべきだった)

 

今も悔やまれる。

 

相手にもこちらにも情報がない初戦であれば、或いは勝ち得たかもしれない。

 

実際、綺礼と組んだ時、倒す一歩手前までいった。

 

理解不能な現象によって、次の瞬間には壁に吹き飛ばされていたものの、間違いなく、あと一秒あれば、雁夜は死んでいた。

 

しかし、二度目は違うだろう。

 

例え綺礼と組もうとも、雁夜に届くことは無い。

 

そう切嗣は確信していた。

 

他のマスターと組む事はない。相棒という点でいえば、綺礼との相性は非常によく、他のマスターとでは最悪と言えた。

 

ならば、闘わず倒す方法は?

 

冬木ハイアットの時のように爆破解体する方法をとるとどうなるか?

 

それも考えたものの、切嗣は止めた。

 

そんな事をしても雁夜には効かないとそう確信していたからだ。

 

あの超近距離でのクレイモアを目立った外傷もなく立ち上がった相手だ。爆破解体で死ぬようなビジョンが思い浮かばない。それに相手は『間桐』だ。そんな事をしようとすれば、たちまち気づかれる。

 

セイバーの宝具によって消し飛ばそうにも、左手を負傷している現状、令呪を使用せねばならず、例え令呪を使用して宝具を放ったとしても、隕石を何事もなく降らせるようなサーヴァントがいれば、防がれる可能性すらもある。

 

(これだけの事をしておきながら、未だに真名の糸口どころか、宝具すらわからない。ここまで来ると、間桐雁夜の経歴は完全にダミーと捉える方が正しいな)

 

魔導から逃げ出した落伍者、と経歴上なってはいるものの、ここまで来ればそれに信憑性などなかった。

 

あれ程の実力の持ち主が、魔導から逃げ出した落伍者であるはずがない。

 

此度の聖杯戦争のために周囲の目を欺き、ただ静かに、己が牙を磨き続け、虎視眈々と聖杯を手に入れるために、汚名を被りながらもその時を待っていたのだろう。

 

そう、切嗣は思った。

 

完全に的外れな思考に至ったのは仕方のないことである。

 

例え、この聖杯戦争にどれだけ優秀な魔術師がいたとしても、雁夜の正体に気づくことはないだろう。

 

その身に神の恩恵を受け、偶然その魂が身に宿ったなど、他の魔術師が聞けば卒倒するレベルなのだから。

 

「アイリ。セイバーを……」

 

呼んでくれ、そう頼もうとして、切嗣は言葉を紡ぐのをやめた。

 

今更何を固執する事があるのだろうか。

 

英霊の存在を嫌悪し、相入れることは無いと思っていた自らのサーヴァント。

 

それは事実だ。そしてこの聖杯戦争で何があろうとも、互いの思想や理想が交わることは無い。

 

だが、それに固執して、勝利を落とすというのであれば、それこそ本末転倒だ。

 

ましてや、既にセイバーとは何度か言葉を交わしている。最早、無視を決め込む道理すらそこにはなかった。

 

(私情を挟んで勝てるほど聖杯戦争は甘くはない……か。頭では理解していたというのに、僕もまだまだだな)

 

自嘲めいた笑みを浮かべる切嗣にアイリスフィールは首をかしげる。

 

「切嗣?どうしたの?」

 

「いや、何でも。ただ、漸く気づいたよ。この聖杯戦争を勝ち抜くには、今の関係ではダメだという事がね」

 

そう言われて、アイリスフィールはただ頷いた。

 

経緯はどうであれ、切嗣とセイバーの間にある関係が良い方向に向かっているという事を、アイリスフィールは悟った。

 

そしてその発端は間違いなく雁夜とのやり取りだ。

 

故に、敵であるにもかかわらず、アイリスフィールは感謝した。切嗣とセイバーの確執を取り除いた雁夜とそのサーヴァントに。

 

「セイバーを探してくる。念話で呼ぶのもいいけど、今のアインツベルン城の状態も、自分の目で確かめておきたいからね」

 

「そう。あまり無理をーー」

 

その時、轟音がアインツベルン城のある森に響き渡る。

 

目眩がしたかのようにアイリスフィールは一瞬ふらついた。

 

「大丈夫かい、アイリ?」

 

「え、ええ。大丈夫。少し不意を打たれたわ。まさか、ここまで無茶なお客様をもてなすと思ってなかったから」

 

「すぐにセイバーを向かわせる。アイリはここに」

 

「ええ。切嗣も気をつけて。さっきの音、このやり方。おそらく……」

 

「ライダー……だろうね」

 

アイリスフィールの言葉に切嗣は頷くとそう答えた。

 

轟音と共に響き渡った雷鳴は間違いなく、一昨日の倉庫街で見せつけられた宝具『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』によるものである。

 

雷気を纏う神牛の戦車ーーあれ程の対軍宝具を手加減抜きで解き放たれれば、森に敷設した魔法陣のポイントが根こそぎにされていたとしても無理はない。

 

結界が万全な状態であるのならいざ知らず、前日にキャスターとケイネスによって術式が引っかき回されたばかりで、まだ再調整のできていないタイミングであるが故に術式はさらにめちゃくちゃになっていた。

 

「おぉい、騎士王!わざわざ出向いてやったぞぉ。さっさと顔を出さぬか、あん?」

 

既に正門を踏み越えたのか、ホールから堂々と呼びかけてくる声は、案の定、征服王イスカンダルのそれに違いなかった。

 

間延びして聞こえる声はおおよそ、これより戦闘に臨む者の語調とは思えない。まるで、久しぶりに古い友人にでも尋ねるかのような気の抜けた声。

 

(ルール無用の聖杯戦争で、他の英霊を真名をバラしてスカウトしようとする輩だ。常識で考えるだけ無駄か)

 

理解しようとするのを半ば諦めつつ、おそらく先に向かったであろうセイバーに合流するように自身もその場へと向かう。

 

視線の先、自身よりも早くに到着したセイバーは白銀の甲冑を実体化させ、戦闘態勢に入っているというのに、その場で呆然と立ち尽くしていた。

 

遅れて到着した切嗣がみたのは、確かに声の主であるライダーの姿だったがーー。

 

「城を構えていると聞いて来てみたがーー何ともシケたところだのぅ、ん?」

 

「ライダー、貴様はここに何をしに来た?」

 

気色ばんで呼びかけるセイバーではあったが、あまりに理解しがたい光景に眉を顰める。

 

「おいこら騎士王。今夜は当世風の格好(ファッション)はしとらんのか。なんだ、のっけからその無粋な戦支度は?」

 

セイバーの甲冑姿を無粋と称したライダーの服装はウォッシュジーンズにTシャツ一枚。おおよそ、今から戦を始めるものの格好ではなかった、

 

ライダーの巨躯の後ろにいるウェイバーもまた、判然としない微妙な表情でセイバーと切嗣を見ていた。その顔に『帰りたい、早く』と書いてある。無理矢理連れてこられたのは火を見るよりも明らかだった。

 

嘗てのイスカンダル王が、侵略先の異文化に並々ならぬ興味を示し、率先してアジア風の衣装を纏っては側近達を辟易させたという逸話については切嗣も知っている。その姿や言動を鑑みても、セイバー以上にライダーと自身の相性は最悪だとそう思った。マスターを連れ回すところや、その豪快さは切嗣の聖杯戦争に臨むスタイルを徹底して叩き壊すものだ。それでは『魔術師殺し』も形無しだ。

 

おまけにライダーの携えているモノ。今夜に限っては武器でもなんでもない。

 

樽、だった。

 

どう見ても、どこから見ても、何の変哲も無い、ごくありふれたオーク製のワイン樽。筋骨逞しい腕でそれを軽々と小脇に抱えている様子は、もはや配達に来た酒屋の若大将といった風情である。

 

「もう一度問うぞ、ライダー。ここに何をしに来た?」

 

緊張感を維持しながら問いかけるセイバーに、ライダーはさも当然とばかりに言う。

 

「見てわからんか?一献交わしに来たに決まっておろうが。ーーほれ、そんなところに突っ立ってないで案内せい。どこぞ宴にあつらえ向きの庭園でもないのか?」

 

全くもって図太い神経の持ち主である。

 

セイバーは心底うんざりした様子で切嗣をみた。切嗣自身、ライダーのようなタイプは苦手だった。英霊と称される人間の中でも特にだ。興味を持たれる前に「さっさと案内をしてしまおう」とセイバーにアイコンタクトを投げかける。

 

アイコンタクトを投げかけられたセイバーは目を瞬かせた後、こくりと頷く。

 

「来い、征服王。貴様の『挑戦』。受けて立つ」

 

切嗣から一任された以上、セイバーがそれを断る道理がなかった。

 

自身も王で、相手も王であるのだから、それを断るのは臆したと思われても仕方のないことだからだ。

 

「ふふん、その反応、解っておるようだな。騎士王」

 

「私も王、そして貴様も王だ。それを弁えた上で酒を酌み交わすというのなら、それは一つしかない」

 

そしてセイバーはわかっていた。この征服王をして、何も酒盛りをするためだけにここに馳せ参じたわけではないことを。

 

「おうとも。今宵は貴様の『王の器』をとことん問い質してやるから覚悟しろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宴の場所として選ばれたのは、城の中庭にある花壇であった。

 

昨夜の戦闘の傷跡もここには及んでおらず、一応はもてなしの面目も立つ場所である。他の場など先の激戦で目も当てられないような事になっていたりする。

 

ライダーが持ち込んだ酒樽を真ん中に挟んで、二人のサーヴァントは差し向かいにどっかりとあぐらをかき、悠然たる居住まいで対峙している。下手にはウェイバーと、そして切嗣の代わりにアイリスフィールが並んで座り、共に先の読めない展開に気を揉みながら、一先ずは成り行きを見守ることに徹していた。

 

「聖杯は、相応しき者の手に渡る定めにあるという。それを見定めるための儀式が、この冬木における闘争だというがーーなにも見極めをつけるだけならば、血を流すには及ばない。英霊同士、お互いの『格』に納得がいったなら、それで自ずと答えが出る」

 

竹製の柄杓で樽のワインを一杯、一息で飲み干したライダーは静かな声で口火を切る。

 

セイバーもまた、差し出された柄杓を手に取ると樽の中身を掬い、ライダーに勝るとも劣らない剛胆な呷りようで、それを見届けたライダーが「ほう」と愉しげに微笑する。

 

「それで、まずは私と『格』を競おうというわけか?ライダー」

 

「その通り。お互いに『王』を名乗って譲らぬとあっては捨て置けまい。いわばこれは『聖杯戦争』ならぬ『聖杯問答』……はたして騎士王と征服王、どちらがより、聖杯の王に相応しき器か?酒杯に問えばつまびらかになるというものよ」

 

そこまで厳しく語ってから、ライダーは悪戯っぽい笑いに口を歪めて、白々しく小馬鹿にした口調でどこへともなく言い捨てた。

 

「ああ、そういえば我らの他にも一人ばかり、王を名乗る輩がいたな」

 

「戯れはそこまでにしておけ、雑種」

 

ライダーの放言に応じるように、眩い黄金の光が一同の眼前に湧き起こる。

 

その声音、その輝きに見覚えのあるセイバーとアイリスフィールは、ともに身体を硬くした。

 

「アーチャー、何故ここに……」

 

「いや、な。街の方で暇そうにしているこいつの姿を見かけたんで、誘うだけ誘っておいたのさ。ーー遅かったではないか、金ピカ。まぁ余と違って歩行(かち)なのだから無理もないか」

 

「よもやこんな鬱陶しい場所を『王の宴』に選ぶとはな。それだけでも底が知れるというものだ。我にわざわざ足を運ばせた非礼をどう詫びる?」

 

「まぁ固いことを言うでない。ほれ、駆けつけ一杯」

アーチャーの怒気を磊落に笑い飛ばしながら、ライダーはワインを汲んだ柄杓をアーチャーに差し出した。

 

どう見ても和やかさから程遠い剣幕のアーチャーはライダーの態度に激怒するかと思いきや、あっさりと柄杓を受けとり、何の躊躇もなく中身を飲み干す。

 

アーチャーもまた、王の格を量る為の聖杯問答に参加している身なのだ。認めていないとはいえ、王を名乗る輩が出してきた酒を飲まないわけにもいかない。

 

「ーーなんだこの安酒は?こんなもので本当に英雄の格が量れるとでも思ったのか?」

 

アーチャーが眉を顰めるのも無理はない。

 

かの英霊は最も古き王。神秘の溢れた時代に生きた英雄王なのだ。例え現世において、素晴らしいものだとしても、かの英霊が生きた時代ではとても高級とは呼べない代物になる。最も、現世においても、今ライダーが持っている物は最高級とまではいかないが。

 

「そうかぁ?この土地の市場で仕入れたうちじゃあ、こいつはなかなかの逸品だと聞いたぞ」

 

とはいえ、ライダーとしては十分に美味かった上、自分の気に入っている人物からの薦めとあって、食い下がった。

 

それをアーチャーは鼻で笑って一蹴する。

 

「そう思うのは、お前達が本当の酒を知らぬからだ。そも、王の宴に用意する酒を、雑種に選ばせるなど論外だ」

 

「それは申し訳ないことをした、英雄王」

 

その時。ふと、一陣の風に乗って、何者かの声が響き渡った。

 

「生憎、絵に描いたような凡人の雑種でね。王よりも些か以上に劣るのは勘弁願いたい」

 

「おおっ、漸く来たか!」

 

現れた者の姿を見て、ライダーは待ちくたびれたとばかりに声を上げ、セイバーとウェイバーとアイリスフィールは目を剥き、ギルガメッシュは目を細めた。

 

「どういう了見だ?よもや、この場に『王』ではないものを呼び寄せるなど」

 

ライダーを睨みつけるようにギルガメッシュはその紅蓮の双眸を細める。

 

この場には確かにウェイバーやアイリスフィールはいる。

 

だが、それはあくまでもマスターとして同席せざるを得ない事情があるからだ。単独行動のスキルを持つアーチャーと違い、セイバーやライダーにそれはない。ある程度近くにマスターがいなければならないのだ。ましてや、闘わないといったものの、それも絶対でない以上、同席はしなくてはならない。

 

だが、その者は違う。

 

たった今、サーヴァントと共に現れ、そしてサーヴァントは霊体化したまま、ましてや、セイバー、アーチャー、ライダーの他に王を名乗るサーヴァントは存在しない。

 

「なに、『聖杯問答』をするのは我ら王ではあるが、民の声を聞くのも悪くないと思ってな。我らと対峙してなお、堂々と臆せずに意見を述べられる者は此奴くらいのものだろう?余としても、あの時マスター一人で戦場に現れたその気概は気に入っておってな」

 

「英雄王に次いで、征服王にもお褒めにあずかるとは、凡人の身でありながら末代にまで語られる栄誉ある事だ」

 

朗らかに笑い、ライダーに渡された柄杓を呷った後、毅然とした様子で告げた。

 

「間桐雁夜。至らぬ身ではありますが、此度の『聖杯問答』に参加させていただく」

 

 

 

 

 

 

 


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