雁夜おじさんに憑依してしまった大学生   作:幼馴染み最強伝説

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聖杯浄化作戦

 

聖杯浄化作戦決行の日が来た。

 

決行の日が来たといっても、別にやる事はただ大聖杯の元にいって、いつも通りにFF魔法をぶっ放すだけだ。

 

メンツは俺とタマモ、切嗣とセイバーの四人。

 

切嗣の補佐である久宇舞弥やアイリスフィールは、念のためにとある事をしてもらっている。

 

何もなければ僥倖だが、こういう時に限って、上手くはいかないものだ。

 

「どうしたんですか、ご主人様。そんな難しい顔をして」

 

「……タマモ、セイバー。この龍洞にサーヴァントらしき気配はあるか?」

 

「いえ、全く」

 

「彼女の言う通りですね。それらしい気配は感じません」

 

そう二人は言うが、何かとてつもなく嫌な予感がする。この龍洞に入った直後くらいからだ。それが大聖杯の汚染具合を感じ取ってのものか、はたまた今まであまり働いていなかった危険察知能力がここにきてフル稼働しているのかはわからないが、どちらにしてもろくなもんじゃないのは確かだ。

 

だが、それはどうにも俺だけじゃないらしい。

 

切嗣もここに来た時から、懐に手を入れたまま、警戒心を崩していない。もしかして……マスターにだけ察知出来るとかそういうのか?

 

「……あともう少しで大聖杯のあるところに着く。一応、切嗣とセイバーは宝具の準備を。タマモ」

 

「はい♪ではでは、今こそタマモちゃんの良妻パワーを発揮する時ですよ~!」

 

そういうとタマモは立ち止まり、すっと息を吸った。

 

「ここは我が国、神の国、水は潤い、実り豊かな中津国

国がうつほに水注ぎ、高天巡り、黄泉巡り、巡り巡りて水天日光

我が照らす。豊葦原瑞穂国、八尋の輪に輪をかけて

これぞ九重、天照……! 水天日光天照八野鎮石 」

 

タマモの詠唱と共に呪詛による結界が張られる。

 

うおっ、凄いなこれ。身体の底から力が湧きあがってくるみたいだ。

 

「普通なら一時的に魔力消費を無くすものですが、ご主人様に呼び出されたお蔭で生命力やらなにやらまでも色々アップしちゃってるみたいですね。軽い骨折くらいならその場で治るくらいに自然治癒力も上がってますし」

 

一部しか力を取り戻していないとはいえ、そこまでチート宝具だったか、それ。ライダー辺りと組んだらえげつない事になりそうだな。それかアサシン。

 

まぁ、何はともあれ、この龍洞内限定では魔力は限定的に無限。仮に聖杯を消しとばしたとしても、現界できなくなるなんて事はないし、その間にセイバーがこの世界に残るための手段も行使できる。

 

このまま歩き続けていけば、大聖杯のもとにたどり着く。

 

それらがどんなものかを俺は直に目にした事はないが、切嗣が「あんなもの」と称した以上、外見すらもロクでもない事になっているのだろう。

 

人が一人ずつしか通れない通路を歩き続けていると、一旦開けた場所に出た。

 

その一瞬の出来事だった。

 

「ご主人様!」

 

「カリヤ!」

 

ほぼ同時。タマモが俺の首根っこをひっつかんで無理矢理退かせたのと、セイバーが何かを弾くように不可視の剣を振るったのは。

 

ガギンッ!

 

硬いものがぶつかり合う音と共に眼前で火花が散る。

 

「ーーへぇ、今のを察知して防ぐか。てめえら、なかなか優秀なサーヴァントを連れてるみたいだな」

 

奥の暗がりから男の声が聞こえてくる。

 

聞いた事のある声だ。この世界で、での話ではない。もっと前、俺が間桐雁夜に憑依する以前の話。

 

……もし、この声が他人の空似でないなら、最悪の予想が当たる事になる。が、どちらにしても敵が見えないと話にならないな。

 

「全員、目を瞑れ!ーーフラッシュ!」

 

二秒ほど待ってから、俺は魔法を撃つ。

 

本来ならこういう使い方をするものではないが、伊達に一年の準備期間があったわけじゃない。応用できそうなものはこういう使い方もできるようにしてある。最も効果はあまり続かないが………

 

「こいつは驚いた。なんの予備動作も無しに魔術を行使する奴がいるとはな。俺がキャスターのクラスで呼ばれるよりも強えんじゃねえのか?」

 

暗かった龍洞内が、俺の魔法で照らされた時、案の定、そこには最悪の予想が当たる結果が待っていた。

 

違う点があるとすれば青いタイツ姿であるはずのそいつが、服装はおろか頭のてっぺんからつま先に至るまで、黒に染まっている事。

 

「クー・フーリン……だと……っ⁉︎」

 

「ほぉ……何を根拠にそう言ったのかは知らないが、ビンゴだ。そんでもって、死にな、魔術師!」

 

「そんな事を宣言して、私がやらせると思うなんて、浅はかなサーヴァントですねぇ」

 

黒く染まったクー・フーリンが殺意を迸らせながら、俺に攻撃を仕掛けてくるよりも速く、その目の前にはタマモがいて、一打の元にクー・フーリンを吹き飛ばした。

 

「貴方が何処のどなたなんて、私には関係ありません。ですが、ご主人様にその穂先を向けるというのなら、等しく死に値する。何よりも不意打ちで殺そうとしたのが許せない。覚悟は……出来ているんでしょうねぇ?」

 

顔は見えないが、声音からわかった。

 

完全にタマモはブチ切れている。俺が不意打ちで殺されかけた事、そしてなおも俺を殺そうとクー・フーリンが動こうとした事に。

 

だが、そんな状態でもなお、タマモは念話でこんな事を言ってきた。

 

『ご主人様。ここは私にお任せください。何故こんな所にサーヴァントがいるのかはわかりませんけど、事は早く済ませた方が良いはずです』

 

良いのか?とか大丈夫か?なんて聞かない。

 

タマモがやると言っているのだから、俺がどうこう言うのは彼女を信頼していないのと同じだ。

 

それにタマモの言う通り、何の気配もなく、クー・フーリンは突然現れた(・・・・・)。なら、俺の予想が正しいなら、時間をかければかけるほどにこちらが不利になる。

 

「……わかった。行こう、二人とも」

 

「いいのかい?ここはセイバーと二人がかりで倒した方が効率が良いと思うが?」

 

「いや、そうなるとおそらく後が大変な事になる。可能性の話だから、そうならない可能性もあるが……」

 

「……最悪の事態は想定しておけ……か。わかった、今回の作戦では基本的に君の指示に従うと決めていたしね。君にとってこれが最善の手段なら、これ以上、僕は何も言わない」

 

そう言うと、俺達は走り出した。

 

「……セイバーさん。ご主人様、かならず守ってくださいね」

 

「……承った。貴方のマスターも、この身を賭して必ずや守り抜こう」

 

タマモの近くを通り過ぎる直前、そんな言葉が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、ご主人様も行きましたし……さっさと起き上がって下さいよ、『クランの猛犬』さん?」

 

「やれやれ、後ろにいたセイバー(剣使い)の方が残るかと思ったが、そっちが残ったか。見当が外れたぜ」

 

つまらなさそうにクー・フーリンは吐き棄てる。

 

例え、彼が『聖杯を守るため』に現界したサーヴァントであっても、その魂が汚染された状態で出てきていたとしても、強い者と闘いたいという衝動は消えてはいない。強いて言うなら、目的のためならば手段は選ばないといっただけだ。

 

「まあいい。不意打ちっつっても、俺を吹っ飛ばすくらいは出来るみたいだしな。ちっとは楽しませてくれよ」

 

槍兵は静かに自らの宝具を構え、殺意を迸らせる。

 

だが、対するタマモは未だ構えずに、問いを投げかけるだけだった。

 

「一つ聞きます。七騎のサーヴァントが召喚されているにもかかわらず、ましてや、まだランサーも脱落していないのに、何故貴方が出て来たんですか?」

 

「はっ。そりゃ、そっちがよくわかってんだろ。俺はただ「聖杯を狙っている奴らを殺せ」って命じられてるだけでな」

 

「そうですか。では、もう一つ。貴方は私やご主人様の事を知っていますか?」

 

「いや。さっきも言ったが、俺は命令されてるだけだからな。それに相手が誰だろうと関係ねえ」

 

その言葉を聞いた瞬間、タマモの口元が三日月のように歪んだ。

 

「ふ、ふふ、そうですかそうですか。ならーー」

 

瞬間、クー・フーリンの視界からタマモが消えた。

 

「貴方の負けですね」

 

「ッ⁉︎」

 

この時、クー・フーリンを救ったのは、積み上げられてきた戦闘経験と野生の勘だった。

 

肋骨を粉々に砕かんばかりの勢いで放たれた蹴りを槍を盾に使用する事で防いだ。

 

宝具であるはずの槍が軋みを上げ、そのままクー・フーリンはまたもや壁に叩き込まれそうになるが、直前で踏みとどまった。

 

「さっきの攻撃に反応するとは少し想定外ですねぇ。本気で攻撃していたのなら、殺せていたかもしれませんけど……」

 

「なんだと?貴様、手加減していたというつもりか!」

 

タマモの言葉にクー・フーリンは激昂する。

 

当然だ。英霊として、戦士として、手を抜かれているというのは許せるはずもない事だ。

 

しかし、タマモは首を振る。

 

「手加減はしてませんよ。殺さないようには加減してましたけど、だって……」

 

一発で死んだら、お仕置き出来ないでしょう?

 

今度は見逃すまいと視線をタマモを注視していたクー・フーリンは気づかなかった。

 

タマモが吹き飛ばした方向は最初にタマモが立っていた場所で、その足元には呪符があった事に。

 

クー・フーリンの足元にあった呪符が発動し、クー・フーリンは迎撃姿勢を崩される。

 

「チェックメイト」

 

拳を振りかぶったタマモにクー・フーリンは咄嗟に頭部を庇うように槍を振るう……が。

 

「どっせい!」

 

「ッ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」

 

鋭い拳がクー・フーリンの……股間に入った。

 

「まずは金的!次も金的!懺悔しやがれ、これがトドメの金的だぁー!」

 

殴られ、蹴り上げられ、トドメのライダーキックよろしく、跳び蹴りがクー・フーリンの股間に放たれる。

 

何が起きたのか、クー・フーリンにはわからなかった。

 

わかったのは一つ。自分の股間の辺りから感覚が消え去った事と、あまりの激痛に脳が麻痺するかのような感覚に陥った事だけだった。

 

「ーーーーッ⁉︎」

 

最早、彼の声は悲鳴になっていなかった。

 

それもそのはず、いくら英霊になっていたとしても、サーヴァントになっていたとしても、それは男である限り、絶対にして無二の急所。

 

見ているだけでも悶絶しそうなほどに攻撃を受けたクー・フーリンはそのままくずおれる。

 

だが……

 

「んー、おねんねの時間はまだ早いですよ?今こそ、英霊の矜持を見せないと♪」

 

顔色が真っ青のクー・フーリンの頭をガッシリと掴み、持ち上げる。

 

「ここは私の結界の中、即死さえ免れれば、いくらでも治癒しますからねぇ………ここからは煮るなり焼くなり好き放題。ご主人様を殺そうとした罪は万死すらも超え、死ぬことすらも許されない大罪。さぁて、『クランの猛犬』さん。今こそ、本当の犬の気持ちになってみましょうか?パ・ト・ラ・ッ・シュ?」

 

「い、犬って言うな………」

 

それがクー・フーリンが放った最後のマトモな言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何やら絹を裂くような悲鳴が聞こえました」

 

セイバーが立ち止まり、そんな事を口にするが、俺は特に振り返る事もなく、セイバーに言う。

 

「って事は勝負があったんだろうな。まぁ、元々見えてた勝負だけどな」

 

「違いない。余程のサーヴァントでなければ、君のサーヴァントには手も足も出ないだろう。少なくとも、セイバーを足蹴りに出来るくらいの強さがないとね」

 

俺の言葉に切嗣は同意するように言い、セイバーもこくりと頷いた。

 

しかし、そうなると絹を裂くような悲鳴をあげたのはクー・フーリンの方になるわけだが………まさかな。ギャグ時空ってわけじゃないし、今は割と真剣な問題だ。そんなふざけた事があるわけない。

 

それに、俺の予想だとあのクー・フーリンは俺達みたいな輩から聖杯を護るために出てきたはずだ。他のサーヴァントが居てもおかしくないはずなんだが………それらしい気配はない……事もなかった。

 

「カリヤ」

 

「わかってる……これは」

 

サーヴァントかどうかはわからないが、とてつもなく、禍々しい気配を少し先から感じる。

 

これが汚染された聖杯?だとすれば、本当に目も当てられないかもしれない。例え、直接その身に浴びなくても、近くにいるだけで精神が汚染されそうだから、ここからエクスカリバーで消しとばして欲しいが………それではダメだ。

 

あくまでもそれは最終手段。本来の目的は聖杯の浄化だ。

 

なら、例え精神が汚染されるような事があったとしても、俺は聖杯を浄化しなければならない。

 

よしっ、行くぞ!

 

両頬をパンと叩き、俺達は歩みを進める。

 

そして次に大きく開けた場所に出た時、俺達の目に飛び込んできたのはーー。

 

「「「は?」」」

 

な、なんだあれ?

 

きっと俺達三人の心中はそんな感じだっただろう。

 

汚染された大聖杯の影響からか、この空間がよろしくない事はわかる。ついでに言うと、さっきの禍々しい気配もある……目の前に。

 

だが、その目の前にある禍々しい存在こそが問題だった。

 

「おい、切嗣。お前、大聖杯確認したよな?」

 

「……ああ。確かに確認したはずだ」

 

「……なんかドス黒いのがどうのこうの言ってなかったっけ?」

 

「……言ってましたね、切嗣。ですが、アレはどう見ても……」

 

「…着ぐるみにしか見えないね」

 

俺達の視線の先、そこにいたのはーー。

 

「ぐふふふふ。ようこそ、間桐雁夜、衛宮切嗣、セイバー。君達を歓迎するよ」

 

小学生の落書きか、と言いたくなるような絵面にふざけた口調。

 

だというのに、禍々しさをそのままに全てを知っていると言わんばかりのこいつの名はーー。

 

「初めまして。僕の名前は……そうだね。聖杯くん、とでも名乗っておこうか」

 

ふざけた世界のふざけた願望機こと、聖杯くんだった。




シリアスで終わると思った?残念!ギャグでした!

なんでクー・フーリンが出たのかは……まぁ、大体察していただけたと思います。最後の登場人物で。

シリアスを期待していた方!申し訳ありません!それもこれもギャグに走ってしまった結果です。反省はありますが、でも後悔はしてません。

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