雁夜おじさんに憑依してしまった大学生   作:幼馴染み最強伝説

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楽しい楽しい話し合い

「ふ、ふふふ………やっと………やっと帰ってきたぞ!」

 

両手を大きく広げて、俺は思わずそう叫んだが、仕方のないことだと許してほしい。

 

何せ、冬木に帰ると志した日から一ヶ月。

 

本来なら三日程度で帰ってこられるはずのそれが、帰り道わかんない、帰る場所わかんない、言葉も通じないの三連コンボだ。俺が大好きなのは食う寝る遊ぶの三連コンボだというのに。ずっとゲームは友達。

 

そんなこんなで危うく聖杯戦争どころか、遭難して餓死するみたいな事になりかけた俺だったが、なんとか冬木に帰ってこられた。これがドラクエならルーラとかあるから帰ってこられたんだが、そうは問屋が卸さないらしい。

 

さて、あとは間桐邸に帰るだけ………「雁夜くん?」ん?

 

取り敢えず近場の公園にあったベンチに深く腰を下ろして、帰ってきたことに達成感を感じていたら、黒髪美人に話しかけられた。なんか幸薄そう………というか、何処かで…………見た事あるとかいうレベルじゃないな。

 

「……ああ、葵さん」

 

なんとか疑われないように目の前の女性の名前を口にする。

 

遠坂葵。

 

今回の聖杯戦争の参加者にしてギルガメッシュの最初のマスターである遠坂時臣の妻であり、間桐雁夜の想い人。そして言わずもがな遠坂凛と桜のお母様。よく覚えてないが、魔術師の母体として超優秀な没落家系の娘だっけ?我が弱いのに桜の事を雁夜に頼んだせいで雁夜が聖杯戦争に参加する事になっちゃったんだよな。最終的には言峰のせいで暴走した雁夜に首絞められて挙句精神崩壊だったか。ま、雁夜おじさんに俺が憑依したからそれもないけどね。

 

「どうしたの、その格好」

 

「格好?……ああ」

 

葵さんに指摘されて気づいた。

 

一ヶ月も放浪のような事をしていたせいで、髪はボサボサだし、服も若干ボロくなってる。一応これに着替えたの一週間前なんだけどなぁ。仕方ないか。

 

「軽く遭難してたんだ。今回はなかなかハードだったから」

 

「大変そうね」

 

もういろんな意味でハード。泣きたくなるくらいに。

 

「ところで今日は一人?凛ちゃんと桜ちゃんは?」

 

早速ストレートにカマをかけてみる。桜が間桐に養子として行っているか否か、これがある意味では聖杯戦争が近いという合図でもある。

 

もしこれで葵さんが普通の反応ならまだ聖杯戦争まで時間がある。もし、表情を曇らせれば聖杯戦争開始までもう時間はないと言っていい。

 

俺の問いに葵さんは目を伏せるだけだった。

 

それだけでわかった。

 

既に桜は遠坂の娘ではなく、間桐の娘になっているということが。

 

そう思うと少しだけ時臣に対してイラっとした。

 

それは雁夜とは違うものだ。

 

時臣としては魔道を尊びつつも子の幸せを望み、子の才能を活かすために信頼できる間桐に自らの子を託したのだ。あんな虫ジジイだと始めからわかっていたならば時臣も別の家を探していたに違いない。あれでも時臣は魔術師としても、人としても、良き父だと言えただろうから。だが、子の意志を聞かなかったというのはいただけないから、少しだけ灸を据えてやろう。二、三日悪夢を見る程度のな。

 

「何があったかは聞かない。でも、これから起こる事。俺がする事は許してほしい。それが俺が貴女に出来る友人としての手助けだ」

 

「雁夜くん?貴方一体何を………」

 

「里帰り。少し、うちの爺さんに話があるんだ」

 

俺はそれだけ言うと、間桐の家に向かった…………通行人に道を聞きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こうしてみるのは始めてだけど、随分と陰気臭い所だな。ここは」

 

二十分程度で着いた間桐邸はなんというかお化け屋敷かと思った。

 

やたらと家はでかいのに、人の気配が全くしない。

 

実際、今ここに住んでいるのは妖怪ジジイと桜、後兄貴。

 

メイドが何人もいそうなこの家に二人と一体、そして何百匹の虫だ。そりゃ陰気臭くもなる。

 

確か人避けも兼ねているんだったか。まぁ、どっちでもいいけどな。

 

門を開けて、間桐邸内に入る。

 

勘当されているとはいえ、流石に自分から家を出た人間が帰ってくれば何事かと思って、トラップの類いは発動しないか。流石に昼間っから魔法使いたくないし、何より試し撃ちは臓硯でしたいから。

 

それにしてもこの肌を刺すような感覚。覆いたくなるような汚臭。よくもまあこんなところで生活ができるものだ。

 

取り敢えず勘で書斎まで行ってみるか。なんとなくあいつのいる場所はわかる気がする。

 

昼間だというのに廊下は仄暗く、何処かジメジメしている。

 

一応人は二人住んでいるが、桜は多分蟲蔵、兄貴は酒をあおっている頃だろう。そのせいで人の気配は全くしない。

 

お、一段とデカイ扉があるな。これを開けて………と。

 

「ーーその面。二度と儂の前に晒すでないと確かに申しつけたはずだがなあ」

 

俺が扉を開くと同時に中から嗄れた声が聞こえてきた。

 

中にいたのは一人の老人。

 

見た目はそろそろ百歳に到達しそうなレベルの皺のある肌をしている禿げた老人だが、正体を知っている俺からしてみれば蟲の集合体でよく人に見せられるなあとちょっと感心してたりする。

 

「よお、臓硯。それとも、お久しぶりです、お父様。とでも言った方がいいか?」

 

「ほざけ。お主が魔道から背いた時点で血縁関係など無いようなもの。元より、そのような親孝行な性格ではあるまい」

 

「お前が人間なら、孝行する気も起きたがな」

 

「能書きは良い。何用でここを訪れた?まさかとは思うが、金銭を要求しにきたわけではあるまいな」

 

「お前に頼むくらいなら、もっとブラックな企業に頼む。ーーーー遠坂の次女を養子に迎えたそうだな」

 

ストレートに問う。

 

実際、葵さんは何も言ってはいなかったが、桜が養子に出された事は目に見えていた。事故で死んでしまったと言うのなら話は別だが、それなら何か仄めかすくらいはするだろう。俺が『間桐』だから、言えなかったんだ。例え、家から逃げ出した落伍者だったとしても。俺は結局間桐の人間として扱われるのだから。

 

「フフフ、耳の早い」

 

臓硯は気味の悪い笑い声を上げる。どうやら当たりらしい。

 

「そんなにまでして、こんな落ちぶれた魔導の血を残したいのか?」

 

「それをなじるか?他でもない貴様が?一体誰のせいで、ここまで間桐が零落したと思っておる。雁夜。お主が素直に家督を継ぎ、魔導の秘伝を継承しておれば、ここまで事情は切迫せなんだ。それを貴様というやつは」

 

「小言は後にしろ、吸血鬼擬き。お前は不老不死になりたいだけだろう?そう。聖杯を使ってな」

 

聖杯。

 

俺がその単語を口にした途端、臓硯の表情が変わった。

 

「雁夜。お主……」

 

「臓硯。俺を聖杯戦争に参加させろ、間桐の人間としてな」

 

そう言うと臓硯は一呼吸置いて、人の神経を逆なでするようなイラっとする笑い声を上げた。

 

「カカカカッ!馬鹿を言え、今日の今日まで何の修行もしてこなかった落伍者が僅か一年でサーヴァントのマスターになろうだと?」

 

「ああ。その証拠。見せてやろうか」

 

「何?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

連れてこられたのは蟲蔵だった。

 

あの場で見せても良かったが、もしも俺の力が凄まじいものであったときのために無くなっては困るものがあると笑い声を抑えながら言っていた。このクソジジイが完全に見下してやがる。

 

「まさかとは思うが、遠坂の娘はまだ何もしていないんだろうな?」

 

「『まだ』な。主が今日来なければ今日から始める予定だったのだがな」

 

おお、ギリギリセーフか。危うく、桜ちゃんが原作通りに乙女を蟲に食われるところだった。そういうのはやっぱり好きな人にあげないとな。俺は男だし、好きな人もいないからわかんないけど。

 

「さて、雁夜よ。主の力。どれほどの物か、儂に見せてーー」

 

「ファイラ!」

 

「ッ⁉︎」

 

有無を言わせず先手必勝!もちろん狙いは臓硯一択!

 

「ブリザラ!サンダラ!エアロラ!」

 

間髪入れずに連続で叩き込む。何故中級なのかは臓硯が近くにいるから。俺も巻き込まれちゃうからね、一番強いの撃っちゃうと。

 

炎、氷、雷、風の四連コンボに臓硯の肉体は塵と化した。わおっ、凄まじいまでの破壊力にお兄さんびっくり。フレアーとか撃った日には間桐邸は跡形もなく消えそうだな。

 

「………何のつもりじゃ、雁夜」

 

責めるような口調で俺の背後に現れたのは死んだはずの臓硯。

 

やっぱり本体は別のところにあるか。まだ桜の中に入ってないだけでこの蟲蔵の何処かかはたまたこの街の外か。どちらにしても場所がわからない以上、殺せないな。

 

「何。完全に舐めきってたから、身を以て知ってもらおうっていう子どもなりの考えってやつだ。殺すつもりは……というか、殺せる気はしない」

 

殺す気はめちゃあったけどな。あわよくばここで死んでもらおうとさえ思っていた。聖杯戦争?なるようになるだろう。いざって時は凛みたいに触媒無しの召喚をするだけだ。あ、凛は一応触媒ありか。

 

「それで?どうだった?あれくらいならあと十発や二十発撃てるが?」

 

ここに帰ってくるまでにある意味レベルアップして、MPが50も増えたからな!嫌なレベルアップのしかただったが、まあいいだろう。

 

「……良かろう。雁夜よ、主の力を認めようではないか」

 

「そいつはありがとう。俺は聖杯をお前に持ち帰る。その代わり、遠坂桜を俺の養子にしろ。俺が死ぬまでの間、今後一切桜に手を出すな」

 

「何じゃと?」

 

「ボケたのか、臓硯。聖杯持ち帰ってやるから、その前に桜の親権寄越せって言っているんだよ」

 

「ボケているのはお主だ、雁夜。まだ始まってもいない聖杯戦争に早くも勝ったつもりでいるのか?主は聖杯戦争というものが如何なるものなのか、わかっていない。確かに先程の魔術。我が魔導を捨てた身としては凄まじい。だがな、他の魔術師に追随を許さないというほどでもない。だというのに、桜を寄越せじゃと?あれの調整は子が生まれるまで続ける。元より六十年後の聖杯戦争にかけるつもりなのだ。桜の調整は主が聖杯を持ち帰るまで「なら、残念だが桜には死んでもらうしかなくなるな」何?」

 

「桜も女の子だ。こんな醜悪で汚物に塗れた蟲に陵辱されるくらいなら死んだ方が嬉しいだろう。それにその時は俺が桜の蘇生を聖杯に願うだけだ」

 

あまり使いたくはなかったが、最後の手段だ。

 

臓硯にとって、聖杯と桜は必須。

 

聖杯は不老不死のために欲しいし、それを手に入れるための子を作る桜もいる。

 

そこにポッと出で使える駒たる俺が出てきたから、一応参加させて、桜は保険で。みたいな感じにしようと臓硯は思っていたのだろう。だが、そうは問屋が卸さない。

 

桜の純潔は何が何でも守ってやる。近親相姦で無くすのもあれだが、こっちはそれよりも酷いを通り越して、いっそ清々しいレベルだ。其れ程までに酷い。

 

もし、臓硯を殺し、聖杯戦争に勝利し、平和を手に入れたとしても、桜の陵辱された記憶は消えない。封印してもそうすれば必ず日常に誤差が生まれる。その忌まわしき記憶は桜を逃がさないだろう。

 

なら、させない。

 

子どものトラウマっていうのは親がネタにして、子どもが恥ずかしがる程度でいいんだ。

 

「脅しているつもりか?」

 

「脅し?まさか。取引だよ、お父さん。家ごと夢を潰えさせるか。それとも血の繋がった息子にかけるかのな」

 

ファイアで蟲を丸焼きにする。

 

桜くらいのこどもを一瞬で殺すのにはこれくらいの魔法で十分だ。というアピール。

 

そしてそれは臓硯にも伝わった。

 

「…………良かろう。主の意志。しかと受け取った。せいぜい、死なぬようにな」

 

「心配してくれるとは、優しいなお父さん」

 

まあ、ただの皮肉だろうけどな。

 

俺には捨て台詞にしか聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 


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