雁夜おじさんに憑依してしまった大学生   作:幼馴染み最強伝説

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閑話:2

 

◇お姫様救出大作戦?◇

 

「うぅ〜、寒い。なんでここだけ吹雪いてるんだ?」

 

「これもアインツベルンの人払いによるものだ。低レベルの魔術師なら凍死するまで彷徨い続ける事になる」

 

俺、間桐雁夜と衛宮切嗣は視界を覆うほどの吹雪の中、少し離れた位置にある森林に囲まれた城の見える場所にいた。

 

聖杯戦争が終わって翌々日。準備を整えた俺達が何をしに来たのかというと、切嗣とアイリスフィールの娘、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの奪還である。

 

これは聖杯をどうにかすると話し合った時から切嗣との交換条件として約束していたことだ。妙に構えられても面倒なので聖杯戦争を終わらせてすぐにこちらに来た。これならバレないかとも思ってみたが、翌々日だというのに、遠見の魔術か何かでこちらを見ているのか、完全に門前払いされているらしい。

 

「なあ、切嗣。森ごと吹き飛ばすのはアリか?」

 

「……君は僕達の娘の墓標をあの城にするつもりかい?」

 

「冗談だ。だからこいつがいるんだろ」

 

俺が指差したのは、もうこれ以上ないくらいに不機嫌そうな表情のギルガメッシュ。なんなら俺を消しとばしかねない上に場違い極まりないこいつが何故ここにいるのかといえば、単に俺に負けたからである……ゲームで。

 

「……カリヤ。我は王だ。故に約束は違わぬ………違わぬがこれはどういうことだ。何故、我がこんな不愉快極まりないところへ来ねばならん」

 

理由は一応説明した。でないとバビロンで城を吹き飛ばしかねないと思ったからだ。実際、今すぐにでもこの辺り一帯を消しとばしそうだしな。

 

「俺の方も約束でな。囚われの姫を救わないといけない。魔法をぶっ放してもいいが、其れよりもより明確な脅威――サーヴァントを引き連れてる方がインパクトがあるだろ?」

 

聖杯戦争をしていてわかったことだが、どうにも初見で魔法使いというのは伝わりにくい。だから、こういう脅しの時は俺が力を振るうよりもサーヴァントが暴れた方が相手にも脅威が伝わるだろう。

 

「あの狗はどうした。このような瑣末な事、王の仕事ではあるまい」

 

「クー・フーリンは別用。お前は暇そうだったし、一緒にゲームしてやっただろ。賭けにも俺が勝ったんだから文句言うな」

 

「……………カリヤ。次は我が勝つぞ」

 

「わかったから、さっさとやれ」

 

「……貴様というやつは………どこまで王の使いが荒いのか」

 

ギルガメッシュが手を上に上げると、夥しい数の宝具が顔をのぞかせる。

 

「……まあよい。偶には庭師の気分を味わってみるのも一興だろう」

 

そう言うと、一斉に展開された宝具が森林めがけて放たれる。

 

響く轟音と爆音。

 

森林を吹き飛ばし、地を抉る一撃は絨毯爆撃と言っても遜色ないものだ。

 

きっちりと城は避けているのは俺が事前に言い聞かせたからである。森ごと城を吹っ飛ばすのなら、俺でもできるが、ピンポイントで森だけ無くして更地に出来るのはギルガメッシュだけだ。俺だと山火事になるか、どデカイ氷山を作るか、地割れを起こすかの規模になり、イリヤスフィールが大変なことになりかねない。

 

その点、王の財宝は破壊力こそえげつないものの、最大補足数は一から千という事もあり、切嗣では出せない火力を出しつつ、俺よりも威力を抑えられる。

 

それが一分くらい続いた頃だろう。

 

城までの道のりにあった森林は全て跡形もなく消し飛び、普通に歩いて行くだけで問題ないレベルになった。

 

「よし。それじゃあ行くか」

 

更地になった場をそのまま歩いて行く。一枚の幻想的だった絵のような様相は見る影もない。

 

「……全く、サーヴァントっていうのはどこまでも無茶苦茶な存在だな」

 

辺りを見渡しながら歩いて行く俺と切嗣………って、何故にギルガメッシュは帰ろうとしているんだ⁉︎

 

「我は帰る……おい、待てカリヤ。何故我の腕を引っ張る」

 

「もしかしたらこの城を護ってる奴らがいるかもしれないだろ。そいつらも吹き飛ばしてくれ」

 

「貴様……ひょっとして、我を露払いに使おうというつもりか?」

 

あ、ヤバい。そろそろギルガメッシュが本気でキレそうだ。ちょっと雑過ぎたか。

 

「まさか。これは英雄王ギルガメッシュにしか出来ない事なんだ。露払いなんて滅相もない」

 

ちょっと真剣な表情で頼んでみる。

 

(そんな口先だけで大丈夫なのか?)

 

と、切嗣が耳打ちしてくる。

 

「……カリヤ……」

 

肩をプルプルと震わせるギルガメッシュ。流石に騙されは……

 

「仕方あるまいな!気は乗らんが、そこまで言うのなら、我手ずから雑種共を間引いてやろう!」

 

(英雄っていうのは本当に馬鹿の巣窟だな……)

 

切嗣が呆れたように小声で呟いた。いや、俺もそれは思ってしまった。まさかこんなあからさまな持ち上げに気を良くするなんてな……。

 

「行くぞ、カリヤ!それとそこのみすぼらしい雑種!いい加減、この鬱陶しい場にも飽きた。早々に片付けるぞ」

 

「やりすぎるなよ、ギルガメッシュ。あくまでも殲滅じゃなくて救出だ」

 

「ふん。どちらも変わらん。鬱陶しい雑種共を間引けばいい」

 

「それで巻き込むかもしれないって言ってんだろうが!絶対城を攻撃するなよ、そっちには俺達が………行く必要はないかもしれないな」

 

「……当然だな。これだけ暴れれば、当主殿が黙っているはずがない」

 

「雑種と思えば……出来の悪い人形と来たか。興醒めだな」

 

ぞろぞろと俺達を出迎えたのは、様々な武器を携えた者達が出てくる……ギルガメッシュの発言とアインツベルンとくれば、ホムンクルスか。

 

「当主殿!僕は娘を、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンを迎えに来ただけだ!それ以外の理由はない!」

 

森林を吹き飛ばすのは想定外だったが、一応実力行使の前にダメ元で用件だけ伝えてみろと切嗣を説得してはみた。

 

そしてその答えは……静寂、そしてホムンクルス達の臨戦態勢を見て、伝わった。

 

当然か。聖杯を持ち帰らなかった挙句、その次に利用しようとしているイリヤスフィールを寄越せなど、あちらからしたらふざけているとしか言いようがない。

 

……まあ、だからと言ってこちらが譲歩する気は微塵もないんだけどな。

 

次は俺の番だ。

 

「交渉決裂とは実に残念だ。アインツベルンの当主。こちらとしても御三家の一角を潰えさせるのは忍びないと思ったが、ここからは実力行使だ。滅んでも恨むなよ」

 

割と無茶苦茶な事を言ってると思うが、約束はきっちり果たさせてもらう。

 

俺が手をかざし、ホムンクルスの軍団手がけて魔法をぶっ放そうとした時――。

 

「キリツグー!」

 

その時、切嗣の名を呼びながら、ホムンクルスの軍団の間から走り出してくる小さな人影が見えた。

 

「イリヤ!」

 

「ほう。人間とホムンクルスの混ざり「お前はちょっと黙ってろ」」

 

余計な事を言いそうだったので、ギルガメッシュを黙らせる。戦力のためとはいえ、感動的な再会が台無しになる。

 

「キリツグの言ってた通り、ずっと良い子で待ってたよ!」

 

「ああ……だから、父さんも、迎えに来たよ。母さんも……日本にいる」

 

「お母様が⁉︎」

 

「ああ。イリヤが良い子にしてたから、母さんも早く帰ってきてくれたんだ」

 

「やったー!……って、なんでキリツグ泣いてるの?」

 

「なんでかな……多分、目にゴミでも入ったんだ」

 

そうして我が子を抱きしめる切嗣は聖杯戦争で対峙していた人物とは思えない程に弱々しいものだった。やっぱりこいつには人を殺すのは向いていない。割り切ってはいるだろうが、その本質は俺達一般人と変わらない感性をしている。

 

しかし、一触即発の空気では油断できないな……と思っていたら、一向に襲ってくる気配はない。

 

返事がないだけで一応通じたのか?まあ、サーヴァントを引き連れて攻めてきたら流石に拒まないか?

 

そんな事を思っていたら、切嗣も何もされてないことに疑問を感じたのか、イリヤスフィールに問いかける。

 

「ところでイリヤ。アハト翁は……大爺様はいるかい?」

 

「うん。でもね、お外がうるさくなった時に急に大爺様が寝ちゃったの」

 

「「………」」

 

「む。なんだその目は」

 

最初の威嚇がえげつなかったせいで卒倒したのか………いや、予想通りの反応ですけども!

 

切嗣の娘を迎えに行ったつもりだったのに、何故だか俺達の方が悪役な気がしたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ロード・エルメロイの日常◇

 

「知ってるか?最近日本から来た講師の話!」

 

「ええ。なんでも三十歳の若さで魔法に至った天才なのよね!」

 

「月に二回しか講義してないらしいから、倍率半端ないんだってよ!」

 

「俺、偶々受けられたんだけど、凄い人だった!皆に平等だし、普通に魔法見せてくれたし」

 

廊下で話をしている生徒達の口から発せられるのは先日、この時計塔の非常勤講師として招かれている間桐雁夜の事だ。

 

自分が着々と勝利の準備を積み重ねていたのをよそに勝手に聖杯戦争を終わらせてしまった忌々しい宿敵……といえばいいのだが、ケイネスも知っていた。というか、その講義で知らされてしまった。間桐雁夜の異常性に。

 

時計塔きっての天才講師。九代を重ねる魔導の名家アーチボルトの嫡男で、エリート中のエリートだった。

 

だが、すべては聖杯戦争から狂った。

 

サーヴァントに嫁は取られ、サーヴァントと仲直りしたかと思えば聖杯戦争は終了、剰え自分に敗北の苦汁を舐めさせた相手は時計塔で不動とも言えた自分の地位さえも脅かしている。

 

腹立たしいことこの上ないが、ケイネスにもわかる。間桐雁夜には勝てない。自身の全てを費やしても勝てないと。

 

そして自分のプライドを抜きにすれば、雁夜には寧ろ尊敬の念すら送っている事も。

 

一人の魔術師として、魔導を極め、魔法の境地に達しているということは間桐雁夜が家督をあえて継がず、たった一人の力でその境地に達したということ。

 

それを認めずして、いったい何を認めろというのか。

 

それがケイネスの苦悩でもあった。

 

そして目下もう一つの悩みがあるとすれば……。

 

「雁夜殿。如何ですか?」

 

「ああ、ありがとう、ディル」

 

ケイネス専用の部屋に雁夜が居着いてしまっていることだ。

 

「……間桐雁夜。何故、貴様が当たり前のようにここにいる?」

 

「いやぁ、俺って非常勤講師だから自分の部屋が無くてな。かといって人目につくところじゃ、絶対に生徒が寄ってくるだろ?だから、基本的に人が来ないここが一番ベストと思ったんだ」

 

さも当然のように自分の部屋でくつろいでいる雁夜にケイネスは肩をわなわなと震わせる。

 

本当なら怒鳴り散らして追い出しても良いのだが、そう出来ない理由がある。

 

「あら、お帰りなさい、ケイネス」

 

「ああ、ただいま、ソラウ」

 

笑顔でケイネスを出迎えたのは、婚約者であるソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ。ケイネスの唯一の癒しであり、また雁夜を追い出さない理由でもあった。

 

「ちょうど良かったわ、ケイネス。貴方が気に入ってくれた紅茶に合ったお菓子を作ってみたのだけど、どうかしら?」

 

「すぐにいただくとしよう。ディルムッド、紅茶の用意を」

 

「畏まりました、主よ」

 

実に慣れた手付きで紅茶を用意するディルムッド。

 

それもこれも間桐雁夜の影響を受けているというのが実に腹立たしいのだが、ソラウがいる手前、怒れないというのもあるし、そうでなくとも一応は恩人である雁夜を怒鳴り散らしていいものかというのも大いにあった。

 

聖杯戦争が終わって二週間経った頃。

 

全サーヴァントが受肉し、聖杯の浄化という形で幕を閉じた聖杯戦争。

 

他の陣営こそ円満な形でサーヴァントとマスターの関係が終了または継続していく中、ケイネス達のところだけはそうもいかなかった。

 

ディルムッドの魅了にかかったままのソラウ。そしてそれを強く拒絶することはないディルムッド。

 

完全に聖杯戦争序盤の頃に逆戻りしてしまっていたこの陣営の関係。それを打ち破ったのが何を隠そう雁夜とタマモであった。

 

挙式を控えているということで、知り合いに片っ端から招待状を送っていた雁夜は取り敢えずケイネス達に渡しに来た時――。

 

『お前、凄い酷い顔してるな。大丈夫か?』

 

『雁夜さん。これきっとあれですよ。あのイケモンに嫁寝取られて病んでるやつですよ』

 

『あー、ランサーか。苦労してるんだな、お前』

 

そう軽く言ってのける雁夜に精神的に参っていたケイネスは掴み掛かったのだが、次の瞬間に返ってきた言葉は予想だにしないものだった。

 

『それ。俺達がどうにかしてやろうか?』

 

そして今に至る。

 

いったい何をどうしたのか、それは教えてはもらえなかったものの、ソラウにかかっていた魅了は解かれ、ディルムッドもケイネスの用意していた魔貌封じで魅了を振り撒くことは無くなっていた。そして魅了の解かれたソラウは何故かディルムッドに恋慕を抱いていた時のようにその心をケイネスに向けていた。

 

嬉しい。確かに嬉しいのだが……。

 

(時折、目が据わるのは何故なのだろうか……)

 

偶にケイネスを訪ねてくる女子生徒がいた時、ソラウはいつも通りの笑顔だと言うのに、何故かものすごいプレッシャーを放っている。

 

嫉妬してくれているというのならケイネスは嬉しい……が、どうにもそれより危ない匂いがする。

 

「時に雁夜殿。騎士王や光の御子殿はいつ手合わせ出来そうですか?」

 

「クー・フーリンなら頼めばすぐ来る。アルトリアは……どうだろうな。働いてるから……まあ、どうにかしてやる」

 

「おおっ……かたじけない」

 

「礼はいいさ。また今度貸しは返してもらうからな」

 

ついでに言うと、ディルムッドもケイネスよりも雁夜に懐いているようにも見えたりする。別にケイネス的にはどうでもいいことなのだが、雁夜の周りに大英雄が集まっているというのは少し奇妙だ。

 

「間桐雁夜。この際、君が好き勝手に出入りしている事は目を瞑ろう。それで話というのは何かね?」

 

「ああ、その事なんだがな……ライダーのマスター、ウェイバー・ベルベットについてだ」

 

ウェイバー・ベルベット。

 

その名を出された途端にケイネスは眉を顰める。

 

当然の事だ。自分の用意した聖遺物を盗んだ挙句、事あるごとに邪魔をしてきた輩だ。

 

凡才の身でありながら、くだらない妄想を書きなぐった論文を破り捨てた事に関してはケイネスとしては当然の事をしただけだと思っている。自分に非はなく、ただの逆恨みだと。

 

聖杯戦争後は征服王に振り回されながらも、以前のように時計塔に通っているが、別段聖杯戦争を通じて魔術師として一皮むけたとは言えない。人間としては成長したのだとケイネスから見てもわかったが、やはり凡才は凡才のままであった。

 

「彼が……どうかしたかね?」

 

「時計塔にいる間だけで良い。面倒を見てやってくれ」

 

「何故だ?そんな事をして何の得がある?」

 

「あるといえばあるし、ないといえばない。ただ、彼は自分の持つ才能が何たるかを理解していないだけだ。育ち方さえ間違えなければ、ケイネス。お前と同じくらいの人間になれる」

 

「はっ、馬鹿馬鹿しい。魔道は血統を重んじる。代々積み重ねてきた成果あってこその魔術師だ。たかだか三代の浅い家柄でこの私と同列になれると?努力すれば天才にも勝ると?それが君の持論かね?」

 

「いいや。俺だって努力だけで超えられる壁に限界はあると思っている……だけどな。彼にも才能はある。それをお前が伸ばしてやってくれ」

 

はっきり言って、何故に雁夜がこんな事を頼んできているのかは皆目見当もつかない。

 

つかないが、断る理由がほとんど無い上に無下にも出来ない。

 

さっきからディルムッドが何か言いたそうにしているし、ソラウも自分を説得しようとしているのが雰囲気でわかる。完全に劣勢だ。

 

「……ならばこうしよう。ウェイバー・ベルベットを私の助手としよう。本人は嫌がるだろうが黙殺する。ただし、間桐雁夜。君のその魔法究明。私にもさせてもらおう」

 

「別にいいぞ。なんなら、俺の講義の時、助手役してくれるか?俺、説明下手で時々困るんだよ」

 

「……助手役というのは気に入らないが、それでいい。君の魔法。解明して、このケイネス・エルメロイ・アーチボルトの功績の一つとしよう」

 

たかだか助手程度で魔法にも近づけるのなら、こんなに安い事はないとケイネスは内心でほくそ笑む。雁夜が魔法というものを少し軽くみすぎているというのは考えものではあるものの、そのお蔭で魔道の極みにこんなにも簡単に近づけるというのは有難くもある。本来なら人の身では到達できないとされている魔法だ。生粋の魔術師であるケイネスが魅せられない筈もない。

 

こうしてケイネスは魔術師としての半生を魔法解明に費やす事になりながらも、妻と共に仲睦まじく暮らしていく事になり、その間にもうけた子ども達がウェイバーの教え子となるのはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇もう一つの聖杯戦争:序章◇

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ」

 

魔方陣の中心から召喚による魔力の紫電が迸り、術者である間桐慎二は小さな悲鳴をあげる。

 

本来、魔術の才能を持たない慎二が何故サーヴァントを呼び寄せる術を唱え、ついにはサーヴァントを召喚する事に成功したのか。

 

それは召喚の魔力を代用したものがいるから。そしてそのものこそが触媒であり、また本来のマスターであったからだ。

 

「召喚に従い、参上しました。私はサーヴァント・魔法使い(ウィッチ)これからよろしくお願いします……あれ?」

 

現れたのは東洋人の容姿をした黒髪の少女。

 

基本的に東洋の英雄を呼ぶ事が難しい聖杯戦争において、その少女の出現は異例といえるが、それ以前に慎二はその少女に見覚えがある……否、瓜二つの少女が目の前にいた。

 

「お、お前……なんで桜と同じ顔をしてるんだよ……」

 

そう。触媒とした間桐桜と瓜二つだからだ。

 

髪の色や瞳の色などは違っても、それ以外は殆どが同じなのである。

 

そして召喚された少女もまた、同じ疑問を抱いていた。

 

「私……ですよね?でも、見た目が違いますし、それにここはお父さんが壊しちゃったから無いはず……」

 

「おい、僕の話を聞いてるのかよ!」

 

「ああ、すみません。えーと、どちら様(・・・・)でしょうか?」

 

「僕はお前の主人だ!見ろ、これがその証拠だ!こ、これの力はわかってるんだろう⁉︎」

 

「それ……ですか」

 

少女は慎二へと一歩ずつ近づいていく。

 

ごく自然に慎二の手にしていた本――偽臣の書へと手を置くと……

 

「岩砕き、骸崩す、地に潜む者たち。集いて赤き炎となれ。Fire(ファイア)

 

「ひっ⁉︎」

 

本に火をつけた。

 

「な、何するんだよ、お前!」

 

「厄介なので燃やしました……あ、ごめんなさい!何も言わずにいきなり。火傷とかしてたら治しますよ?」

 

「呵呵ッ。慎二、やはりお主には荷が重かったようじゃのう」

 

暗闇から姿を見せたのは矮躯の老人。一族の家長たる間桐臓硯だ。

 

「何を成したかは知らぬがな。お主、桜じゃろう?」

 

「ええ。お久しぶりです、といえばいいんでしょうか。お爺様」

 

「いいや。その様子からして、お主は間桐の魔術をその身に受けておらぬようじゃしの。さてはあの落伍者が聖杯を手にしたか……或いはそもそも間桐を捨てなんだか……どちらにしてもお主にとっては僥倖よな、桜」

 

「ええ、全く。そしてお爺様。貴方にとっては奇禍だったようですね」

 

「ほう?」

 

臓硯は気づいていた。

 

先程から目の前の少女が――サクラが自身に敵意を向けていた事を。

 

だが、それがなんだというのか。

 

臓硯の本体は此処にはない。その本体である蟲は桜の心臓に潜み、もし仮に反逆しようものならいつでも殺せるのだ。

 

例え相手がキャスターだとしても。その限りでは無い。何かを成す前にこちらが桜を殺してしまえるのは相手もわかっているはずだと。

 

それ故の余裕。

 

相手がキャスター程度のクラスにとどまらない存在である事を知らないが故の慢心だった。

 

RAISE(レイズ)

 

それは一瞬の出来事だった。

 

サクラの手に魔導書が現れたかと思うと、たった一言。そう唱えるだけで、間桐臓硯の瞳から光が消え、肉体を構築していた蟲が崩れていった。

 

「サーヴァントって凄いんですよね。本当ならグリモア有りの全詠唱でないと成功率が低くなるのに」

 

「お、お前……お爺様に何したんだ⁉︎」

 

「別に何もしてませんよ?ただ、腐った肉体は不便だろうと思って、生き返らせてあげただけです」

 

にこりと笑うサクラに慎二は恐怖のあまり気を失った。

 

もちろん、サクラは別に威嚇したつもりもない。ただ、状況が状況だけに慎二の心が保たなかっただけだ。

 

「あ、そんなところで寝てたら風邪ひきますよ?起きてください。えーと、何処かの誰かさん」

 

揺すってみるものの、全く起きない。

 

仕方が無いのでサクラはこの世界の自分に向き直った。

 

「えーと、大丈夫ですか?マスター」

 

「……ぅあ……え?」

 

まるで今の今まで意識がなかったかのようにぼんやりとした瞳で桜は自分のサーヴァントを見上げる。

 

始めは虚ろだった瞳も、徐々に焦点が合っていき、瞳に光が戻った時、桜は目を瞬かせた。

 

「わ、私?」

 

「はい。間桐桜、偉大な父と母を持つ魔法使いです!……っていっても、お父さんほどじゃありませんけど」

 

えっへんと胸を張るサクラは最後にぼそりと呟くが、そもそもこの世界には魔法使いが今は存在しないため、サクラこそが最強の魔法使いであったりする。

 

「なんで私が……?」

 

桜の疑問はもっともである。

 

何故、自分が英霊として呼び寄せられたのか。何故容姿に違いが見られるのか。何より、生命力に満ち溢れた瞳をしていられるのか、疑問でならなかったが、それはサクラの方も同じだ。これ程弱り切っている自分を見るというのはなかなかに異様な光景だ。物理的ならまだしも精神的にやられているというのはよほどの事をされたのだろうと悟っていた。

 

「本当なら私なんかが呼ばれるはずは無いんですけど、多分触媒を間桐桜()にしたからでしょうね。ちょうど、私もお父さんとお母さんの結婚記念日のプレゼントを悩んでいましたから、都合も良かったんでしょうね」

 

「都合が良かったって……そんな理由で聖杯戦争に参加したんですか⁉︎」

 

「結構重要ですよ?お金で買えるものでもなく、かといって魔術的なものは必要としてませんし。何がいいかわからなくて。そしたら私が呼んでいる気がしたので」

 

これには桜も呆気に取られた。英霊というのは規格外であると認識していたが、まさか自分が、よりにもよってそんな理由で参加してきたのかと思うと呆気に取られるほか無かった。

 

「何はともあれ。よろしくお願いしますね、マスター」

 

「こ、こちらこそ……」

 

自分に対して頭を下げるというのはなんとも不可思議な状況に首をかしげる桜だが、その時、左手に走った痛みに体を少し痙攣させた。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「は、はい。なんとか………あ」

 

左手を見た時、桜は気づいた。

 

兄の慎二に譲った令呪とはまた違った紋様の令呪が左手に宿ったことに。

 

かくして桜とサクラ。平行世界の同一人物の主従関係という奇妙な陣営が誕生した。




ということで、こんな事をやってみました。

え?バレンタイン?ナンノコトカワカラナイナー。

それはともかく、サクラのステータスはこんな感じ。

クラス:魔法使い

真名:間桐桜

身長:155cm

体重:秘密

スリーサイズ:秘密

属性:善

ステータス:筋力D/耐久D+/敏捷D/魔力EX/幸運A+/宝具EX

好きなもの:家族、鍛錬、料理、スラ太郎

嫌いなもの:外道とか悪者

平行世界の間桐桜。結婚記念日のプレゼントを悩んでいたら、呼ばれた気がしたので推参すると言う異例づくしの子。同じ桜なので基本的に超良い子。でも、悪い奴には問答無用で魔法をぶっ放しちゃう危ない子。コトミーは絶対に会っちゃいけない子。幸運は本当ならEXのはずが、マスター桜の影響で幾らか落ちた。それでも高い。超幸運持ち。魔法使いというイレギュラーのチートクラスで呼ばれたため、ステータスはともかく最強のサーヴァントとして君臨すると言う義母(タマモ)と同じ扱いに。実は他にもセイバーやランサーの適性があったり……。

スキル

詠唱破棄:A
詠唱を破棄して使用できる。なお、グリモアありきの場合は三割減。グリモアもなければ半分以下となる。サーヴァントになったお蔭で減少する割合が幾分かマシに。
神性:E-
神霊適性を持つかどうか。サクラの場合は神霊と神の恩恵を宿した雁夜の側にいつづけた影響で最低ランクの神性が宿った。
奇跡:C
時に不可能を可能とする奇跡。本当なら魔法を使用できなかった所を使用できるようになったという経験から。
異形会話:D
既存の生物ではなく、怪物などと言葉を通わせる事が可能。むしろそれしか出来ない。簡単な意思疎通は出来る。
ルーン:C
北欧の魔術刻印・ルーンを所持することを表す。クー・フーリンからの教え。
魔力放出::C
武器・肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することで能力向上をする。魔力のジェット噴射。アルトリアからの教え。

宝具
白の魔導書(グリモア)
ランク:EX
種別:-
レンジ:1〜?
最大補足:100
雁夜から渡された白魔法を使用するための魔導書。これを使用、詠唱する事でこの世界とは異なった魔法を発動する。白魔法故に直接的な攻撃はほぼ存在しないが、応用することで戦闘不能、あるいは即死させる事が可能な上に対魔力がほぼ意味をなさない。つまりチート。

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