ついでに詠唱も入れてみました。個人的な趣味で。
詠唱ありってカッコいいよね!
聖杯戦争まで残り半年となったこの頃。
ついさっきまで何事も順調に進んでいた。そうついさっきまで。
「おじさん!おねがい!」
何時もは控えめで自分の意思をあまり口に出して言わない桜ちゃんがこうまで強気に出てきて、懇願してくる。非常に良い傾向だ。世の中控えめな事はいいが、言いたいことはきっちり言える人間にならないといけない。
ただ、内容が内容だけに喜べないのも事実。
「あれ買って!」とかなら喜んで買ってあげた。だって俺のポケットマネーからじゃなく、間桐の財でどうにか出来るから。間桐の財力って凄いね。まぁ、勝手に使ってるんだけどね。いいじゃん、聖杯戦争終わるまで養ってもらっても。
そんなわけで欲しいものならだいたい買ってあげられるのだが、当然のようにそれは買えるようなものじゃない。じゃないとこんなに困らない。
さて、そろそろなんで困っているかを言ってあげよう。というか、言ってくれる。
「わたしにもあのふしぎなちからをおしえて!」
と、つまりこういう事だ。
桜のいう『ふしぎなちから』とは俺が使っている魔法のこと。ポ○モンの技みたいに見えるが、そういうのじゃない。
事の発端はつい先程の事だ。
聖杯戦争で何処で襲われてもいいように、色々と細工をして回りつつ、土地勘を得ていた。
間桐雁夜に土地勘はあれど、俺自身に土地勘はないし、相手には衛宮切嗣がいる。
外道で畜生以外の何者でもない存在が相手にいるんだから、やれる事は大体やっておかないと桜ちゃんが危険な目にあう。
トラップ方式の魔法があれば良いのだが、魔術と違い、発動条件をほぼ必要としないせいでトラップには向いていない。心の底から嫌だが、また臓硯にトラップに向いた魔術でも教えてもらおうかなと思っていた時、小さな手に何かを乗せて桜が入ってきた。
その手に乗っていたのは小鳥なのだが、息も絶え絶えで今にも死にそうだった。
おそらく他の鳥に襲われて酷く弱っているところを桜ちゃんが拾ってきたところだろう。
助けてあげてほしいと頼まれた俺はケアルを使用し、小鳥を全快させた。鍛えられた生物ならともかくとして、それぐらいならケアル程度で抑えておかないと、何かあった時に大変だと思ったからだ。
元気になった小鳥はすぐに桜ちゃんの手から飛び立ち、開かれていた窓から飛び立っていった。
それを見て、ちょっと良いことしたなと考えていたら、これである。
何故に。と思ったが、普通に考えれば思い当たる節しかなかった。
というのも、この頃の女の子はテレビの魔法少女に憧れる年頃。
煌めく魔法で悪を滅殺しちゃいたい年頃なのだ。
そうでなくても子どもというのは未知に憧れる。そうして子ども心を悪い方向に悪化させたのが厨二病。つまりは俺みたいなやつ。でも俺は厨二病が魔法使いになってるから、最早厨二病を超越した何か。
それでもってケアルは発動した瞬間にキラキラとしたエフェクトの様なものが出る。
子どもにはそれがとても綺麗に見えただろう。
それで小鳥を救えるのだから、使えるのなら使いたいだろう。俺だって使いたい。大学生だったけど使いたい。ファンタジー要素たっぷりじゃん!FFだけにな!
そういうわけで頼まれているのだが、弱ったものだ。
俺のこれは俺にしか使えない力であり、誰にも教えられないし、使うことの出来ない力だ。
この力は魔法であって、魔術ではないのだ。適性も何もあったものではないし、試しに唱えてみるなんてこともできない。詠唱がないから。いや、まあ敢えて必要のない詠唱をつけてみるという手もある。本編じゃなかったが、タクティクスシリーズはあった気がするしな。
かといって、ストレートに「これは魔法だから、おじさんにしか使えないんだ」とも言えないしなぁ。
夢をぶち壊すのも気がひけるが、ただでさえ、あの時ぶっ放しまくったのが原因で臓硯が地味に探ってきているので安易に魔法なんていえない。
ど、どうしたもんか………うーん。
「え、えーと、桜ちゃん。桜ちゃんにはまだちょっと早いかな」
「なんで?」
「桜ちゃんが使うと失敗する可能性が高いし、失敗した時に大変な事になるんだ。おじさんも大変な目にあったから」
「たいへんなこと?」
「うん。いっぱい痛いし、おじさん涙が止まらなかったよ」
ちょっと脅しみたいになるが、こうでも言っておかないと諦めてくれそうにないしな。ごめんね、桜ちゃん。
「じゃあいつになったらつかえるの?」
「あ、え、うーん……」
何時になっても使えないんだ。聖杯に望めば話も変わるだろうが、それはあくまでしっかりと機能している聖杯。俺と同じ力を望めば問題ないだろうな。もっとも、その聖杯はマトモに機能なんてしないから、やっぱり無理か。キャス子がいればなんとかなりそうなんだけどなぁ……。
「ひ、人それぞれかな?おじさんは結構最近使えるようになったけど、桜ちゃんはおじさんとは違うし、早いかもしれないし、遅いかもしれないから、何時になるかはわからないかな」
「そうなんだ……」
うぐっ。あからさまに落ち込んだ。
こういう子どもが露骨に落ち込んでいるのを見るといたたまれない気持ちになる。
「桜ちゃん」
「なに?」
「まだ桜ちゃんには使えないかもしれないけど、こういう事はしてあげられるよ………慈悲に満ちた大地よ、繋ぎとめる手を緩めたまえ……
桜ちゃんに向けてそう唱えると、桜の身体が宙に浮いた。
浮遊系の時空魔法。本当ならダメージ床とか地震系の魔法に対する魔法だけど、こういう使い方もありだろう。
「わわわっ⁉︎わたし、お空とんでる!」
飛ぶというか、正確には浮くなんだけどな。地面の高さに合わせて上ったり下がったりするし。
床から高さ約一メートル半。大人にしては飛んでいるとは形容し難いそれも、桜のような子どもには十分飛んでいるような高さだろう。実際、桜ちゃんの身長よりは浮いている訳だし。
「身体を前に倒したら前に進むよ」
「やってみるっ!」
体を前に倒すとふわふわとゆっくりとした速度で宙を移動している。
その状態に桜はより一層目を輝かせて、宙を舞う。
嬉しそうで何よりだ。どれ、この辺で……
「翻りて来たれ、幾重にもその身に刻め、
詠唱ってこれであってたか?まあ間違えてても正解知ってるやつなんてこの世界にはいないから、寧ろ勝手に深読みして警戒する程度に収まるだろうな。寧ろ好都合だ。
「あ!速くなった!」
ヘイストは端的に言うと対象の素早さを上げる魔法ではあるんだけど、某RPGと違って素早さというより対象を身軽にしてとかだったから浮いている桜にはあまり意味がないかもと思ったがなんとかなったな。昔のやつみたいにヒット数ならどうしようとか思った。
十分くらい空中ではしゃぎ回っていた桜だったが、レビテトの効果が切れたのか、ゆっくりと地面に降りてきた。
「終わっちゃった……」
「何時迄も、ってわけにはいかないからね。それだとずっと地面に降りられなくなっちゃうし」
一生浮いたままだと何かと不便だろう。特に寝るときとか。
「おじさん。もう一回!」
「駄目。桜ちゃんは気づいてないけど、あれをするとおじさんも桜ちゃんもいっぱい疲れるんだよ?特に桜ちゃんはいっぱい遊んだから特にね」
一概に魔法だから副作用がないなんて言い切れないしな。
あまり浮いていたら、地面に降りた時の感覚がおかしくなる可能性もあるしな。あれはせめて一日一回くらいにしておかないと。それに他の用事もあるしな。
「また今度してあげるから。今日はもう寝たほうがいいよ」
「……わかった。またあしたしてね!おやすみなさい、おじさん!」
「あはは、おやすみ。桜ちゃん」
寝るテンションじゃないな、あれ。まるで遠足前の子どもみたいだ。
さて蟲ジジイのところに………行く必要は無さそうだな。
「盗み見とは趣味が悪いな、臓硯。正面から堂々と入ってこいよ」
「ーーカカカッ。こうでもせんとまた儂の身体の一部が消し炭にされるでな」
部屋全体に響き渡る声。
部屋の至る所から極小から手のひらサイズまでの蟲が現れ、一箇所に集まると人の形となる。
醜悪なことこの上ない。反射的にファイガを撃ちそうになった。
「ほざけ。どうせ、俺の力を自分の不老不死に利用出来ないか企んでいたんだろう?生憎だが、俺のこれは神の奇跡レベルの代物ってわけじゃない。不老不死の肉体を作る術なんて持ち合わせちゃいない」
そんなえげつない魔法があったら大変だ。RPGだぞ。ゲームシステムがぶっ壊れるわ。
「それにお前の見たかったものはこれだろう」
俺は
そこには赤い、血の痣のようなものが形を成している。
「ふむ。思うたよりも時間がかかったようじゃが、どうやら聖杯には認められたということじゃな。一先ずは褒めてつかわすぞ、雁夜」
何様のつもりだ。と言いたいが、俺も割と焦っていた。
臓硯の言う通り、思ったよりも時間がかかった。
やはり原作の雁夜と違う意味で正規の魔術師とは違うからか?これも何故か右手にではなく、左手に宿ったわけだし。
「令呪が宿った以上、参加権は得た。後はお前が持ってくる触媒次第だ、臓硯」
「相変わらずの自信家じゃのぅ」
「この闘いに参加する奴は大体そうだろうが」
勝てる見込みもなく参加してるやつなんてそういないだろう。無作為に選ばれた人間はともかくとしてだ。全員が全員自信があって参加してるだろうから、大体こんなもんだ。
「そこまで自信があるのであれば、雁夜。主は暴れ馬も乗りこなす自信はあろう?」
「
「然り。より万全を期す為にも主はバーサーカーを呼び出してもらう」
「わざわざ狂っている使い魔を呼び出してどうする?やり辛いだけだろう」
「主ならばそれを御する事が出来ると見立てての計らいよ。バーサーカーは狂っている特性故、理性を代償とした強化がある。御しきる事が出来れば、これほど強力なサーヴァントもいるまいて」
よく言う。本当はサーヴァントを利用して自身が滅ぼされる事を恐れているが故にサーヴァントから理性を奪って忠実な僕にしようとしているくせに。
ただ、臓硯の言っている事もわからなくはない。
実際、正規の魔術師ではなかった雁夜がバーサーカーを呼び出した時、ステータスは補正がかかって強かったし、イリヤの方はそりゃもうチート級の強さだった(チート技が使えなかったけど)。
俺が呼び出したらどうなるかはわからないが、あわよくばえげつないステータスのサーヴァントになるかもしれない。何せ、俺には強化系魔法もあるし、いざとなれば狂化を解いたり、かけたりすることも叶う。例え原作通りでも痛くも痒くも無い。完全な上位互換になる。
それにどちらにしたって、結局は臓硯の一存で決まるんだ。
キャス子を呼んでもらおうにも、あいつがそれを恐れて「持ってこられなかったぜ、テヘペロ」とか言われたら終わりだし。文句は言えない。
あ゛ぁ゛……せめて雁夜の記憶があれば、ちょっとルポライターとして培われた土地勘やら知識やら独自の人脈やらで別のサーヴァントに関連するものを手に入れたり出来たかもしれないのに。
いや、まあ強奪しに行くのもありだが、それだと確実にバレる。全員皆殺しにすれば話は別だが、無意味な殺生はやだ。殺すのはこのジジイと百歩譲ってマスターくらいでいい。
「わかったよ。そこまで言うならバーサーカーを呼んでやる。触媒の方はあんたが良いのを見繕ってくれよ」
「言われるまでもない」
小憎たらしい笑みを浮かべて、臓硯と言う名の蟲の集合体は俺の部屋から消え去っていった。
一々腹の立つジジイだ。次は出てきた瞬間レイズでもしてやろうか。アンデッドみたいなもんだからもれなく即死コースだろう………あれ?蟲だから意味ないのか。
仕方ない。こうなったら、臓硯を殺すための魔法の合わせ技みたいなの考えておこう。れんぞくま的な要領でやればなんとかなるだろう。
覚悟しろよ、臓硯。聖杯戦争が始まるその日をお前の命日にしてやる。