雁夜おじさんに憑依してしまった大学生   作:幼馴染み最強伝説

9 / 23
魔術師と魔法使い

「えーと、確かこの辺だったような……」

 

タマモがキャスターめがけてライダーキックをぶちかましていた頃。

 

分かれた雁夜はアインツベルン城へと向かっていた。

 

彼がアインツベルン城に向かうのには幾つか理由があった。

 

まず一つ目はタマモにキャスター討伐と子供たちに救助をさせつつ、そちらにセイバーとそしてセイバーのマスターを狙ってきたランサーを向かわせること。

 

二つ目はその両者のマスターをサーヴァントが帰ってくるまでに打倒、或いはマスターとしての権利を奪うこと。

 

三つ目は切嗣のみを狙って襲撃してきたアサシンのマスター、言峰綺礼を殺害ないし、再起不能にすること。

 

特に三つ目はかなり重要であった。

 

言峰綺礼の存在は現時点では殆ど無害と言える。

 

この時点では本人に聖杯にかける望みなど存在しないし、本人も無気力に等しいため、実質的に時臣の手駒といえる状態であり、時臣の意向に反する事も、また独断行動をすることもほぼない。

 

だが、外道覚醒を果たしてしまえば、たちまち言峰綺礼は危険人物へと変貌する。

 

何を考えているのかわからない。何を企んでいるのかわからない。敵なのか、味方なのか、それすらも状況によっては左右するこの存在は次回の聖杯戦争を全力で阻止しようとしている雁夜にとって、今回の聖杯戦争における目的の一部でもあった。

 

「お、あったあった」

 

アインツベルン城についた雁夜は正面の扉を見つけ、堂々とそこから入ろうとする。

 

他の場所から入るのもいいが、それは相手が魔術師殺しである衛宮切嗣相手には些かどころか、愚行にも等しい行為である。

 

(理想的なのは切嗣をここで確実に脱落させつつ、綺礼はこの世界から退場してもらうこと。とはいえ、マジカル八極拳の使い手だし、しぶとそうだから、その辺は切嗣辺りに協力してほしいんだよな。あのての輩は悪運強いから、追い詰めてもワンチャン逃げられる可能性が……)

 

雁夜の思考は其処で止まった。否、強制的に止められた。

 

背中に放たれた水銀の塊が雁夜を吹き飛ばし、アインツベルン城の門を突き破って、中へと吹き飛ばした。

 

「いたたた……補助かけてないと土手っ腹に風穴空いてたな」

 

あらかじめかけておいたリジェネによって、背中を襲う痛みを徐々に癒しつつ、雁夜は吹き飛んできた方を見やる。

 

暗闇から姿を見せたのは巨大な水銀の塊と共に歩いてきたランサーのマスター。ケイネス・エルメロイ・アーチボルトだった。

 

「今ので死んだとばかり思っていたが、悪運は強いようだな。間桐の魔術師よ」

 

「そりゃどうも。それよりもロード・エルメロイともあろうお方が不意打ちとは随分なご挨拶だ。貴族の嗜みは何処に捨ててきたんで?」

 

「安心したまえ。今のは挨拶ではない。先日、君のサーヴァントによって浅からぬ傷を受けた礼だよ。三流魔術師風情が事もあろうにサーヴァントの力を振るってあろう事かマスターを狙うなど不意打ちも甚だしい」

 

倉庫街での一件でケイネスはコメットによる絨毯爆撃で直撃はしなかったまでも、二次災害によって軽くはない負傷をしてしまった。

 

もっとも、ケイネスほどの魔術師ともなれば治療をするのにそれほどまでに時間はかからないのだが、ケイネス自身はこの聖杯戦争を『選ばれた魔術師による戦争』という一種の聖戦にも近い感覚で捉えている。

 

故にサーヴァントはサーヴァントで、マスターはマスターでという区切りを付けているのだが、それを在ろう事か雁夜はタマモでケイネスを攻撃したように見せかけた。

 

それに対してケイネスは『三流魔術師が正面から闘うことを恐れ、サーヴァントによる攻撃で自分を排除しようとした』とそう考えた。

 

圧倒的な殺意と憎悪を身に宿しながら、ケイネスは虎視眈々と雁夜と相見える機会をうかがっていた。

 

そして計らずも此度、セイバーのマスターを討ち取らんと向かったアインツベルン城で雁夜を見つけ、以前の礼とばかりにアインツベルン城の扉の門ごと魔術礼装月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)で叩き切った。

 

死んでいなかったのは想定外ではあるものの、それもサーヴァントによる補助を受けているものだと考え、ケイネスは見下すように地に伏したままの雁夜を見た。

 

「立ちたまえ。いかに自分が愚かな行いをしたか、その身に刻んであげよう」

 

「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ。天才魔術師殿」

 

「ほざけ、虫ケラが。ScaIp()!」

 

「Haste」

 

ケイネスの詠唱と共に鞭の振るわれるそれを雁夜はヘイストによって加速し、その全てを回避する。

 

元々、戦闘向きの魔術師ではないケイネスが製作したこの魔術礼装はケイネスの詠唱により、予め設定された攻撃を放つため、攻撃内容は比較的単調であり、避ける動体視力があれば回避が可能とされている。雁夜にはそれを見るほど、目はきかないまでも、回避方向を読まれていなければ、回避する事自体は可能なのだが。

 

カチッ。

 

「あれ?」

 

何かを踏んだ。雁夜がそう理解した時には色々と遅かった。

 

城内に仕掛けられていたクレイモア地雷が炸裂。2,800発にも及ぶ鉄の球が雁夜とケイネスに向けて放たれた。

 

凄まじい轟音とともに城内に荒れ狂う鉄の球は城内の様々なものを削り取り、美しい洋風を一瞬にして廃墟同然にまで変貌させた。

 

「ふん。機械仕掛け頼みとは……ここまで堕ちたか、アインツベルン」

 

だが、その鉄の雨の中でケイネスは何事もないかのように立っていた。

 

それはひとえに月霊髄液による自動防御の賜物である。

 

侮蔑の混じった言葉の端々にも怒りが滲んでおり、それは魔術師達の聖戦を汚したとする切嗣への怒りだった。

 

雁夜に対する怒りはもうほとんど無かった。というのも、魔術師を侮辱しているアインツベルンが許せないというのもあるが、それ以前に雁夜は絶対に死んでいるのだ、と、そう思ったからだ。

 

あの超至近距離で爆発に巻き込まれた。

 

機械仕掛けに関して疎いケイネスでも、月霊髄液の自動防御越しに威力はわかった。それを超至近距離で浴びたのだから、確実に死んだとすら思っていた。

 

(あれでは三流魔術師風情では形すら残るまい)

 

そう見切りをつけ、自動索敵を発動させようとした瞬間だった。

 

「ほ、骨折れるかと思った……てか、絶対に折れただろ」

 

「何ッ⁉︎」

 

ケイネスは声のする方向を向く。

 

そこには服が破れてはいるものの、何事もなかったかのように立ち上がっている雁夜の姿があった。

 

「忘れてた。ここって罠屋敷じゃん」

 

「貴様………何故生きている?」

 

「何で死なにゃならん。さてと、当初の目的通り、切嗣倒しに行かないとな」

服の埃を払った雁夜はケイネスに目もくれず、一目散に切嗣のいるであろう場所へと向かう。

 

それをケイネスは逃げ出したのだと勘違いし、すぐさま索敵にかかった。

 

(逃がさんぞ、虫ケラどもめ。魔導を侮辱し、私を侮辱した罪。その身に刻んでやろう)

 

さながら勝者のように余裕のある笑みを浮かばせながら、ケイネスは歩みを進める。

 

それが破滅への一歩である事に気がつかずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんなんだ、あれは)

 

先の光景を見て、切嗣は密かな恐怖心を抱いていた。

 

超至近距離からのクレイモアによる攻撃。

 

魔術師思考の人間達に戦争の常套手段などわかるはずもないが、あの距離、あの威力からの攻撃はケイネスのような高位の魔術礼装でもない限り、影も形も残らないはずだった。

 

だというのに、間桐雁夜は服が破れた程度。

 

下には幾らかの打撃痕などが残っているのかもしれないが、その程度なのだ。

 

先日の倉庫街で流星群を降らせたサーヴァントのマスター。

 

寄せ集めた資料には一年前から聖杯戦争のために帰ってきた落伍者とされている。

 

急造の魔術師であるならば大した障害にはなり得ない。

 

サーヴァントが強力であればあるほど、間桐雁夜は戦闘を行う余裕が無くなる。

 

そう思っていた。

 

だというのにさっきの映像に映ったのは常軌を逸した能力。

 

あれでは急造の魔術師ではない。まるで代行者か、それに準じる存在と相対しているのではないかと思ってしまう程だった。

 

(幸いにして、敵は二人。利用次第ではどうにでも……っ⁉︎)

 

切嗣がその部屋から出ようとした時、ドアノブが吹き飛んだ。

 

完全に不意をつく形となったものの、切嗣は咄嗟に身を横に転がし、ドアと壁に板挟みにならぬよう回避する。

 

「おっ、この部屋で当たり……あだだだっ!」

 

切嗣は雁夜が入ってきたとわかった瞬間にキャリコの引き金を引く。

 

雁夜は両腕をクロスさせてガードするも、痛いものは痛いため、普通に悲鳴をあげていた。

 

(あれを凌いだとなると、これも効かないか………)

 

キャリコが通じないという現状を切嗣は冷静に判断していた。

 

あの距離からあの一撃が効かないのであれば、当然ながら効くはずもない。

 

今のは咄嗟の判断と攻撃に出られないようにするためのものだ。そしてキャリコでも『痛い』のであれば、本命は間違いなく通じる。

 

切嗣が懐から自身の切り札を抜こうとした時

 

パソコンを置いていた長テーブルに何かが走り、円状に床ごと下の階に落ちた。

 

「見つけたぞ、小虫ども」

 

円状に出来た穴から出てきたのはケイネスだった。

 

「魔導の面汚し共め。私自ら引導を渡してくれる。Scalp」

 

先程のように月霊髄液がその形状を変化させ、その一部を槍のようにして、切嗣と雁夜を貫かんと襲う。

 

固有時制御二倍速(タイムアルター・ダブルアクセル)!」

 

その詠唱と共に切嗣の速度が加速する。

 

月霊髄液の攻撃をいとも容易く躱し、ケイネスの作った穴を出て、その場から逃げる。

 

雁夜もまた回避はするのだが、その場から逃げ出すことはせず、その代わりに詠唱を始めた。

 

「湧け、Water(ウォータ)!」

 

詠唱と共に突如鉄砲水がケイネスを襲う。

 

だが、その程度の一撃では月霊髄液の自動防御を打ち破ることは叶わず、ケイネスは不敵な笑みを浮かべる。

 

「やっぱり一番弱いのじゃ無理か。次はもっとキツイのでいこうかな」

 

「それだけか?やはりサーヴァント無しではこの程度か、出来損ないの魔術師が」

 

「出来損ないの魔術師か………ロード・エルメロイ。その言葉には少しばかり語弊があるな」

 

「ほう。まさか、自分が純然たる魔術師だとでも宣うつもりか」

 

「違う違う。俺は魔術師(・・・)じゃない」

 

即座にそう言って否定する雁夜に訝しむケイネスだが、それもすぐに頭の中から振り払う。

 

(この男が何と言おうと、所詮はあの程度の魔術の行使しか出来ん急造の魔術師。サーヴァントが帰還するよりも先に早く片付け、セイバーのマスターにも懲罰を与えねば)

 

そうしてケイネスが月霊髄液に攻撃の指令を出そうとしたその時、雁夜はケイネスーー正確には月霊髄液の方へと手を突き出した。

 

「?」

 

「天空を満たす光、一条に集いて神の裁きとなれ! ――Thundega(サンダガ)!」

 

雁夜の詠唱が終わると同時に凄まじい一筋の閃光がアインツベルン城を月霊髄液ごと貫いた。

 

計り知れない一撃を予期せず受けた月霊髄液は四方に飛び散り、その端々を黒く染めていた。

 

何が起きたのか、ケイネスには理解できなかった。否、理解したとしてもそれはあり得てはいけないのだ。

 

たった二節程度の詠唱から生み出された圧倒的破壊力のある魔術。

 

過去、自身が目にしてきた魔術師は数多くいれど、その中にこんな事をやってのける人間はいなかった。

 

そもそも不可能なのだ。

 

人間であれば、魔術師であればある程にそれは理解出来る。

 

先程のそれはたった二節程度で放つことの出来る威力を超えている。

 

するにはキャスタークラスに至れるほどの素質を持ち、それでいて大掛かりな下準備を施す必要がある。

 

だが、ここはアインツベルンの本拠地。

 

セイバーのマスターである切嗣にはその機会はあれど、雁夜にはその機会が全くない。

 

ともすれば、雁夜はそれをどう行使しているのか。ケイネスが問いかけるよりも先に雁夜が口を開く。

 

「さて、ご自慢の魔術礼装は綺麗に吹き飛んだけど、まだ戦えるかい?ロード・エルメロイ?」

 

そう言われ、ケイネスの混乱していた思考回路はさらに混乱する。

 

先程の一撃で月霊髄液は四方に飛び散り、使用不可能となった。

 

では、他の魔術礼装はあるのか?答えは否だ。

 

それはケイネスが準備を怠っていたわけではない。

 

切嗣によって、本拠地としていたホテルを爆破解体され、その際に大量の魔術礼装を失ったからだ。

 

それでもこの礼装は失わなかった。その事から月霊髄液はケイネスの傑作の一つだったと言える。

 

だが、今は違う。

 

その唯一の魔術礼装を失い、サーヴァントもおらず、身一つで放り出されている。

 

当然ながら魔術を絶対とし、戦闘向きではないケイネスに肉弾戦の経験はなく、完全に詰んでいた。

 

しかし、ケイネスのプライドはそれを認めない。

 

まだ誰も脱落していない。

 

そんな状況で自身がいの一番に脱落するなどあってはならないのだ。

 

ケイネスが魔術を行使しようとした時、既に雁夜はケイネスの懐に入っていた。

 

「おやすみ、ケイネス」

 

補助魔法によって引き上げられた筋力から放たれたブローはケイネスのボディを見事に捉え、その身体をくの字に曲げる。

 

その際、ケイネスは吐血し、呆気なく意識を失った。

 

「まずは一人か。一人目でこれじゃあなかなか骨が折れそうだな」

 

意識を失ったケイネスにストップをかけた後、雁夜は切嗣を追いかけた。

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分前、マスター同士の攻防があった頃。

 

「あー、もう。次から次へと鬱陶しいですね。このイソギンチャク」

 

「俺達三人の力を持ってしても、これではジリ貧だな」

 

「それに此処には子供たちもいる。迂闊に力を解放すると子供たちまで巻き込んでしまう」

 

子どもを囲うように立つ、セイバー、ランサー、サーヴァントの三人は迫り来る海魔の波を打ち払いながら、打破できない現状に苦言を呈していた。

 

その気になれば、この海魔の波を消しとばし、迫る事は可能だ。

 

けれど、その際に発生する暴力的な力は海魔と共に子どもも襲う。

 

その為に迂闊に仕掛けられないでいるーーーというのが、セイバーとランサーの見解である。

 

だが、サーヴァント。タマモは違った。

 

(男装王とイケモンがいる以上、取りに行く事は出来ますけど、セイバーかランサーに取らせちゃうとご褒美が………………あ、そうだ!)

 

「お二方。このイソギンチャクの相手はお任せしますね」

 

「其方はどうするつもりだ?」

 

「どうするって………こうするんですよ」

 

身を沈めたタマモは跳躍する。

 

それは戦線を離脱するためのものではなく、敢えてキャスターの視界から外れない事で攻撃を誘った。

 

「逃がしませんよ、私の神聖な儀式を邪魔した以上はジャンヌ共々、この場で死してもらいましょう!」

 

「なーにが神聖な儀式ですか。貴方みたいなヒス男はとっとと聖杯に帰れって奴ですよっ!」

 

キャスターの意志に答えるように跳躍しているタマモに向けられる海魔。

 

タマモはそれを最小限の動作で薙ぎ払い、無力化していく。

 

その様子に何をしているのかと疑問を抱いたセイバーだが、不意にキャスターの方を見たときに気がついた。

 

「ッ⁉︎そういうことか」

 

「?どうした、セイバー」

 

「彼女の狙いはおそらくキャスターまでの距離に存在する海魔(アレ)を自分に差し向ける事だ。キャスターの方を見てみろ、ランサー」

 

「ッ!成る程、故にあれ程中途半端な位置に飛んだというわけか」

 

「この程度の数ならば、私も賭けに出られる。ランサー、この賭けに乗る気はあるか?」

 

「内容を聞かんとどうにもな。だが、それ以外に現状を打破する機会はない」

 

「ランサー。風を踏んで走れるか?」

 

「ふっ。その程度……造作もない」

 

ランサーは二槍を構え直し、蠢く海魔達の隙間から僅かに見えるキャスターの方へと向く。

 

当のキャスターは完全に意識をタマモへと向けているため、セイバーとランサーが何をしようとしているのか、全く気がつかないでいた。それどころか、空中で動きが制限されているにもかかわらず、未だタマモが無傷で健在している事に怒りを覚え、愚かにもさらにそちらに海魔をあてた。

 

そしてキャスターを護らんとする海魔の集団が手薄になったその時をセイバーは見逃さなかった。

 

風王鉄槌(ストライク・エア)ーーーッ!」

 

セイバーの持つ聖剣ーーエクスカリバーを纏っていた超高圧縮されていた風ーー『風王結界』のもう一つの使い方。凝縮された風を一点集中、解放することで圧倒的なまでの破壊力を生み出す。

 

その一撃は地面を抉り、海魔の波に穴を穿つ。

 

直前にセイバーの行動に気がついたキャスターだったが、何もかもが遅かった。

 

自身を守護していた海魔は跡形もなく消し飛び、再生するにも少なからず時間を要する。

 

相手がセイバーだけなら良かった。だが、今地上にはセイバー以外にももう一人いるのだ。

 

風王鉄槌によってクラスによって高められている敏捷性を爆発的に引き上げたランサーの突進は文字どおり一発の弾丸だった。

 

「いざ、覚悟!」

 

行く手を遮る海魔はいない。それほどまでにキャスターの防御は手薄だった。

 

「ヒイイイイイィィィィッ⁉︎」

 

超スピードで自らに迫るランサーにキャスターはただ悲鳴をあげる。

 

海魔がいたからこそ、数の暴力で押していたからこそ、キャスターには余裕があった。

 

だが、こうなってしまえば、キャスターは何の宝具も持たないサーヴァントに等しい。それ故にランサーに抵抗出来る力などなかったのだ。

 

「抉れーー破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)ッ!」

 

突き出された槍は吸い込まれるようにキャスターの手にあった魔道書へ向かう。

 

それにキャスターは当然ながら反応など出来るはずもなく、魔道書は鮮血とともに溜め込んでいた魔力を散らく。

 

そして媒介を失った海魔もまた、その場で砕け散り、その身を鮮血に染めた。

 

ランサーの方向へと振り返ったキャスターの表情は先程同様に恐怖に歪んでいたが、すぐにランサーのした事に気付き、狂気と怒気の入り混じった表情に染まる。

 

「貴様……キサマキサマキサマーー」

 

自らの髪を掻き毟り、激しい憎悪の言葉を撒き散らすキャスター。

 

だが、海魔が消えたその瞬間にキャスターの死は確定していた。

 

「天誅、鉄槌、天罰必中。そこに直らなくても、叩き直す!」

 

慣性の法則に従って、キャスターの頭上へと舞い降りたタマモの一撃は叩き直すどころか、キャスターの頭を砕き、叩き潰した。

 

本人が気がつく間も無く、頭部を失った身体は立ち尽くしたまま、その身体は空気に溶けるように消失した。

 

それは今まさにケイネスが雁夜によって打倒される寸前の出来事であった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。