仮面ライダーハイセ   作:黒兎可

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対者/三人/円環


#011 変身

 

 

  

 

 

 

 

『私らが本気で殴れば、大体の人間はぶっ飛ぶ。そうじゃなきゃ腕振り回してりゃ勝てるでしょ』

 

 体格差があっても、トーカちゃんの言う理屈が覆る事は、普通はないだろうと僕も思う。

 でも実際、それを逆転させたのはもっと物理的な理由だった。

 

 長身の捜査官を殴った時、僕の手が感じたのは重量と硬さだった。若干の柔らかさを伴うそれは、鋼ではなく、鋼のように鍛え上げられた筋肉。

 

 下手をしなくても僕等に匹敵するほどの、そういった物理的破壊力を秘めている体。

 

 トーカちゃんのそれを思わせられる、物理的な組み伏せこそが、そのパワーを象徴しているようだった。

 

 ぎりぎりで蹴りを入れて距離を取る。

 認識が甘かった。全ての捜査官がそうとは言わないだろう。でもトーカちゃんが苦戦するくらいの相手なのだから、きっとそれは別格だ。

 

「気を確かに……ッ」

 

 全力で向かうんだ。包丁も通さないこの体で。

 

「……赫眼か。らしくなって来たな」

 

 視界が一瞬ゆがみ、変化した僕の左目。

 目の前の捜査官は、自分のアタッシュケースに掌サイズの装置を取り付けて、ボタンを押した。

 

 

 

『――ドウジマ・1/2(ハーフ)!』

 

 

 

 その音と共に、アタッシュケースに分割線が走る。ケース状の見た目が分解され、中から芯のようなものが展開。液状だった一部のパーツが先端に結集し、ぎゃりぎゃりと音を立てながら回転して、棍棒のような形状に変化した。

 

 見たことの無い武器。これが、捜査官のそれか。

 仮面ライダーのドライバーじみたそれを見て、思わず僕は一瞬怯む。

 

 その隙を見て、捜査官のヒトは棍棒を振り下ろしてきた。

 

「死ね! クインケの錆となれッ」

 

 何より驚かされたのは、かすった箇所が「傷」になっていたことだ。

 そして彼の言った言葉で、脳裏に店長の言葉が思い出される。

 

 あのバックルの名前は、クインケドライバー。本来の用途は、喰種拘束。

 

 とすれば、このクインケというらしい武器は、僕等と戦う為に作られたものだということだろう。

 

 映画とかじゃないけど、くそ、格好良いじゃないか。まるでこちら側が悪役のようで――いや、実際人間側から見れば、ぼく等の方が悪なのはまぎれもない事実なんだろう。

 

 戦況は危うく、僕は彼に追い詰められる。

 そして、彼は決定的なことを言った。

 

「この世界は間違っている。

 歪めているのは――貴様等だ!」

 

 ――仲間が再起不能になったり、死んだりして。それを怒るのは当たり前の感情だ。

 

 トーカちゃんが襲った捜査官も、他の喰種が殺した人達も。

 あんていくのようなことをして、全てを賄えるはずは無い。リゼさんのように多くの喰種が、数え切れない悲しみを生み出してきたのだと思う。

 

 僕だって思う所は、多い。

 彼が言うことが、間違いじゃないと人間(ぼく)は思う。

 

 でも――じゃあ、ヒナミちゃんは?

 リョーコさんは? あの生き方が、間違っていたと言うのか?

 

 ――喰種だって、大事な誰かを失えば悲しいし、怒りも、虚脱感も覚えるんだ。

 

 そこに眼さえ向けられれば、全員じゃなくてもいい。そうすれば、少しでも――。

 

 

 

 

――君は、両方の世界に同時に立てる、只一人なんだよ。

 

 

 

 

 嗚呼、そうか。店長の言葉を思い出し、理解する。

 

 僕だけなんだ。人間(ぼく)だけが、喰種(ぼく)だけがそれに気付ける。伝えることが出来る。

 お互いのデフレスパイラルの中にあってなお、僕だけがその狭間に取り残されているのだから。

 

 ならば僕は、それをしなきゃならない。

 

 

 

「……だったら、分からせます。

 ”人間”として――”喰種”としてッ!」

 

  

 

 例えどれほど滑稽で、例えどれほど嘲笑の対象であったとしても。

 例えどれほど後ろ指をさされて、例えどれほど裏切られたとしても。

 

 傷を受けて、傷を返して。それじゃいつまで経っても、誰も、何も報われない。救われない。

 

 僕は――母さんの死に顔を見て、思ったんじゃないか。

 

 

 

 誰かを助けたいと。誰かに手を差し伸べたいと。

 

 

「……ふん。何をわからせると?

 所詮は喰種(クズ)。戯言に耳を傾ける必要もなかったか!!!」

 

 彼の言葉は、もう耳に入らない。

 落ち着け、思い出せ。

 

 振り切る速度は、トーカちゃんの足よりは遅いじゃないか。

 

「動きは良くなったか。だがこの程度、取るに足らんッ!」

 

 腹を抉るような一撃。

 でも思い出せ。西尾先輩の一撃ほど重くはない。 

 

 距離をとり、僕は軽く挑発。

 明らかに、彼の動きが直線的になる。

 

 ……言葉から感じてはいたけど、やっぱり真っ直ぐというか、真面目というか、直情型。そういうところ、トーカちゃんを思い出す。

 

 問題は、やっぱりあの棍棒だ。

 生身で一撃喰らったら、きっと動くことも出来ない。

 

 でも逆に言えば、それさえ押さえられれば後はどうにかできる――。

 

 

『何をためらってるの? カネキ君?』

 

 

 頭の中で、彼女の声が聞こえる。

 

『私の赫子(ちから)が欲しいんでしょ? なら――』

 

 怖い。怖いんだ。

 あの時僕は、ヒデを食糧としか見ることができなくなっていた。

 

 だからこそ、必要以上に目の前の彼を傷つけてしまうのではと、心の底から安心できなくて。

 

 だけど、今戦ってるこの瞬間は――。

 

 

『慎重ね。でも――』

 

 

 ――貴女(リゼさん)の力を、受け入れます。

 

 再度の接近で、口元のチャックを外し、(クラッシャー)を展開。

 そのまま、僕は彼の肩に齧りついた。

 

 

 顎が、今まで感じた事のないほどの力を発揮する。

 

 

 いただきます、という感想が、一瞬で塗りつぶされる。

 以前トーカちゃんに放り込まれた時や、口移しされた時のそれとも違う。

 

 自分の手で、口で、欲してもぎ取ったそれは、文字通り危険なものだった。

 

 

 捜査官から飛び去る。

 痛みにうめく彼を見ながら、僕は、全身の衝動を抑える事に精一杯。

 

 快楽。

 恍惚。

 

 生きた肉を剥ぎ取ったこの体感は、文字通り頭がとろけてしまいそうな威力を持っていた。

 

 これが、喰種が当たり前の人間から失ったものの代わりに、手に入れた快楽。

 

 服を口から吐き出して、意識を研ぎ澄ます。

 

 

 何をやっても食欲が、もっと、もっとと僕の体を支配しようと蠢く。

 

 

 でも、喰種(ぼく)人間(ぼく)を見失わない。見失ってはいけない。

 

「はぁ……、はぁ……」

「――ッ!」

 

 

 咄嗟に僕はドライバーを左手に握り、取り出す。

 それを腰に装着すると、背中から出ていた赫子が集り、両端からベルトのように固定。

 

 確信があった。今ならいけると。

 

 全身に走る痛みに、食欲が勝りかけている今だからこそ。

 

「貴様が――」

 

 そのまま、驚愕した表情を浮かべる彼に、飛びかかり。

 

「変……」

 

 バックルから左手を持ち上げ、僕は言う。

 

「――身ッ!」

 

 そして、僕はレバーを落した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眼帯の喰種は、バックルのようなものを取り出し、自らの腰に当てた。それがベルトのように構成された時、俺は、えもいわれぬ衝撃を味わった。

 

「何故……、貴様が――」

 

 飛びかかりながら、奴の口が動く。

 それは、俺にとって許容できるものではなかった。

 

 

 

 

「変……、身!」

「貴様等が仮面ライダーなわけがない――ッ!」

 

 

 

 

 目の前で、彼の姿が大きく変わって行く。

 

 やぼったい服装は、体に張り付くような黒いものに。

 所々にある白いパーツと、赫子を出すためにあるような穴。

 

 そして鳴り響く、電子音。

 

 

『――(リン)(カク)ゥ!』

 

 

 それが示すように、この喰種の赫子は鱗赫だった。

 俺はドウジマを振りかぶり、飛びかかってくる喰種に叩き付ける。

 

 だが結局数秒後、悲鳴と血を上げたのは俺の右肩だった。

 

 喰われた分のダメージと、ドウジマを振りまわした分のダメージ。

 

 何よりその「飛び蹴り」が、ドウジマを真っ二つに砕いていた。

 

 

「相手を……、見誤ったか。

 すまん張間、お前の――」

 

「――逃げてください」

 

 そして、目の前の喰種は、おかしなことを言い出した。

 

「……今、変身して抑えていますけど、無理です。早く行って下さい」

「な、何を――ッ」

「このままドライバーを外したら、きっと僕は貴方を殺します。でも、もう――付けてられないッ」

 

 震えながら、目の前の喰種は自分の右手を押さえ、ドライバーのスイッチを押させまいとしているようで。

 

「どうせその状態じゃ戦えないんだ。だから早く――」

「ふ、ふざけるな! 貴様等を前に背を向けるなど――」

 

「早く!」

 

 彼は、震える声で。

 涙を流しながら、言った。

 

「頼むから――僕を、人間のままで居させてください……」

「……ッ」

「限界だから……っ、もう、このままだと、只の喰種になるから……。みんなみたいに、いられないから……ッ

 早く……、行って……ッ」

 

 その立姿に、俺は言葉を失った。

 

 

 

 

   ※ 

 

 

  

 

 私は一瞬、何が起こったのかわからなかった。

 自分の命が助かったのと同時に、目の前の男の手から、クインケが飛んで。

 

 いや――そうじゃない。

 

「消されたのは右手か」

 

 そう言いながら、目の前の捜査官はヒナミの方を見る。私もつられて視線が動き――。

 

 背中から出る、姿形が違う二つが混じったそれを見て、言葉を失った。

 

「もう……、お姉ちゃんを傷つけないで……。

 お父さんを、お母さんを――」

 

 ヒナミは叫びながら、背中の赫子を、あらん限りに乱した。

 

「――私に返してよぉ!!」

 

 お母さん同様に、展開されたそれは四つ。

 ただより、蝶の羽根を連想させる形。下二つは父親のそれに近い形状をしていて、それを捜査官目掛けて放つ。

 

 ヤツは笑いながらそれを交わしてヒナミに攻撃するけど、それさえ母親の形をした上二つでガード。

 

 

「地行君がびっくりしそうだな。

 素晴らしい……、両親の特性を見事に引き継いでいる! こうして赫子は進化するか! はははッ!」

 

 

 欲しいぞと言いながら、ヤツは武器を父親に切り替えて、しかける。

 

 それさえ巻き取り、持ち上げ、本能的なものなのか反射的なものなのか、勢いに任せて奴の左足を根元から切断した。

 

 

「……っ」

 

 

 この勢いは、ニシキとやりあった時のカネキみたいな感じがする。

 感情が暴走して、赫子を制御しきれていないような――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベルトを装着していた激痛から解放されても、今度は食欲が全く収まらない。

 全身の服装が元に戻った瞬間、赫子が解体され僕の背中に戻り、いつもより更に肥大化していた。

 

 食欲を晴らす方法は何だ?

 

『簡単じゃない?』

「そうだ! 一旦ヒトを殺して肉を――違うッ!」

 

 自分が口走りかけた事実に、思わずもう一度ドライバーを装着し、倒れる。

 

「誰か……、助けテ……」

『良いじゃない。そのままやりたいようにすれば』

「このままじゃ――」

『素直になるのが一番簡単よ。だって、(あたし)だって本当は――』

 

 

 ざ、という足音が僕の耳に届く。

 顔を上げれば、烏のような仮面をしたフード姿の男性。

 

「――見ていたんだ。お前を」

「『……あら、随分懐かしい声ね? でも今は、誰でも良いの。

 だって――』」

 

 ――『(あたし)、すごくお腹が空いてるんだもの』

 

 手に残る、鈍い感触。

 流れる血の熱さ。

 

「……芳村さんが目をかける理由が、分かった気がする」

 

 段々と、外れた仮面の下の唇から流れる血を見て、僕は、僕は――。

 

「俺も知りたくなった。お前の、これから先を。

 だから――戻って来い、(けん)

 

 その一言で、僕は、完全に正気を取り戻した。

 

「よ……四方、さん? なんで、あっ、れ? 僕、僕は。

 何てこと、ああ、ああ――」

「……心配するな。とりあえず、食べろ」

 

 肉のパックを差し出して、四方さんは言う。

 

「あっちには店長が向かった。今は――落ち着け」

 

 僕の頭をぽんぽん叩いて、四方さんは自動販売機の前へ誘導してくれた。

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 暴走してるように見えたヒナミの攻撃。

 でも、それが最後の最後で止んだ。

 

「ヒナミ……ッ」

 

 とどめを、と言おうとすると、ヒナミは首を左右に振った。

 

「わたし……、思った。このヒトに仕返ししたら、このモヤモヤ消えてくれるかなって。

 でも、『私たちみたいな』このヒトを見てて、戦って、わかった」

 

 赫子を萎ませながら、彼女は両手で目元を被う。

 

「――復讐なんてどうでもいいんだよ。わたし、かなしいだけだから。

 おとうさんと、おかあさんに、あいたくて……。

 かなしいだけだったから……」

 

 三人でまた暮らしたかっただけなんだと。

 一人は寂しいと、ヒナミは声を上げて泣く。

 

 両親を呼びながら、ヒナミは泣くばかり。

 

 その身体が、不意にアヤトとだぶる。

 

 

「……ふん、反吐が出る」

 

 

 捜査官の男は、さっとクインケに手を伸ばそうとして――。

 

 

 

『――そこまでだ』

 

 

 

 

 

 バイクのエンジン音と共に、ああ、店長が、仮面ライダーがこの場に下り立った。

 

 

 

 

   ※

 

 

「うわお! 変なのキター!

 でも月山君、興味ないだろうけど」

 

 

 

   ※

 

 

 

 ぼろぼろの外套のようになったそれに、機械的にも思える赫子の集合体。

 それを身に纏い、顔面は片方だけ開いたようないびつな、フクロウを辛うじて意識させるような仮面。

 

 腰には羽赫を示す模様のクインケドライバー。

 

 

 私も、捜査官も目を見開いて、その場で硬直した。

 赫子で武装されたバイクから降りて、店長は捜査官を見る。

 

 

「隻眼……? 梟? 貴様か!? 貴様かあああああああああああ――ッ!」

 

 

 捜査官は突然、狂ったように笑い出した。

 そしてそのまま、赫子を振るう。

 

 店長は、その一撃を肩に受けながら、微動だにせず。

 

 ただ、刃のような右手を構えて。

 

 

『――ライダー、スラッシュ』

 

 

 びゅんと振られた一撃は、刀身が伸び、捜査官の左の胴体と左肩を切り。

 しかし切断しない程度に調整されたそれは、相手の動きを封じるのに充分で。

 

「ククク……、この状況になって冷静になれずしくじるとは、私も亜門君のことを言えないなぁ……」

『……』

 

 仮面ライダーは、捜査官を見たまま動かない。

 

「生きる価値だと? 生きたかっただと?

 死ね。私から、アキラから彼女を奪った貴様等を、貴様を、私は報復せねば――」

『――そのやり方では、私に届く前に終わる事だろう』

 

 店長の言葉に、捜査官は目を開いた。

 

『命を奪う行為に貴賎はない。復讐は義務であり、それ以上の理由がなければそこで終わりだ。

 そして、理由がない以上は連鎖的に同様の暴力を生む。今回のように』

「その程度で私は、折れる、わけには――」

『嗚呼、折れないだろうとも。君の目からは、私と同じ色を感じる。

 だがだからこそ――考えろ捜査官。君が何を、一番に考えなければならないか。その戦えない体で、何を守らなければいけないか。

 私がかつてそうだったように、それを手放してはならない』

 

 くつくつと笑う捜査官。

 

「――わかったぞ? お前は、違う(ヽヽ)な?」

『……』

 

 その前に行き、店長は顎を蹴り飛ばす。

 

 その一撃で、相手の意識は刈り取られた。

 

「……店長」

 

 ベルトのレバーを上げ、変身を解除する店長。

 

 巻き戻りのように全身の赫子がばらばらとなり、いつもの柔和な笑顔が浮かぶ。これには泣いていたヒナミもびっくりした顔をしていた。

 

 黒いコートに黒帽子。目立たない服装。

 

「カネキ君から頼まれてね。ヒナミちゃんを保護してくれと」

「店長、あの……」

 

 大丈夫、と彼は微笑む。

 

「間もなく四方君が来るだろう。後は彼に任せなさい。私は……先に帰ろう」

「どうして……」

「いくら赫子を分離して武装させたとは言え、長時間水につけたらエンジンがやられるからね。

 手入れも必要だし」

「……そ、そんな理由?」

 

 困惑する私やヒナミに、店長はふっと笑った。

 

「カネキ君の方も色々大変だったらしい。私が連れ帰るより、再会してから帰りなさい」

『――()(カク)ッ! 赫者(オーバー)!』

 

 そう言って店長は、また変身してバイクに乗り、そのまま壁面を走行して上っていった。

 少しだけ茫然としていた私だけど、ヒナミはそうでもなかったらしい。

 

 さっきまで殺されかけていた捜査官を、ヒナミは岸の方へ運び、頭だけを水から出していた。

 

「……なんで、そんな」

「……なんでかな」

 

 ヒナミもわからない、という顔をしている。

 破れた捜査官の左手袋。その下には結婚指輪と、傷だらけの素手があって。

 

 私は――たまらず、ヒナミの背中を抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眼帯の喰種が言っていた言葉は、大きく理解できない。

 だが、目の前にある光景だけは理解できる。

 

 俺は、倒れた真戸さんを抱き起こし、生気のないその顔を見て――絶叫した。

 

 何故、こうならなければならないだ。あの時、足止めさえなければ。

 

 腕をもがれ、足をもがれ、それでもなお戦ったこの気高きヒトが。

 

 

 

 この日ほど、自分の力不足を嘆いた日もない。

 

 そしてこの日ほど、自分の今までを呪った日も。

 

 

 

 

   ※

 

 

  

「おい、大丈夫か?」

 

 四方さんが声をかけた方向には、ヒナミちゃんやトーカちゃんが居た。

 表情は優れない。でも、生きてた。生きていてくれた。

 

「二人とも……。私は大丈夫です、でも――」

「ヒトが来るようだ。早く行こう」

「……やっぱり、殺さないんですね」

 

 僕の言葉に、「決まりだからな」と四方さん。

 

「この傷なら、復帰するのも難しいだろうし、復帰するにしても長い時間が必要になるはずだ」

 

 その一言だけで、ヒナミちゃんを背負って先を行く。

 

 トーカちゃんは、捜査官の方を見て、しばらく足を止めていた。

 

「……どうしたの、トーカちゃん」

「……今度、話す」

 

 ばっと振り返り、トーカちゃんは僕の横を通り過ぎる。

 僕は、その背中に言葉が出てこなかった。

 

「生きてていいのかな、私」

 

 道中、ヒナミちゃんが呟いた一言。

 思い付く言葉は少ないけど、それでも僕は言う。

 

「……リョーコさんは、ヒナミちゃんに生きていて欲しいと思うよ。あの時言った言葉って、そういうことだと思うから」

「お兄ちゃん……」

「僕も、トーカちゃんも、店長も、四方さんも、みんなみんな、そう思ってる。

 ヒナミちゃんが生きてて、嬉しいって」

「……うん」

 

 目を閉じて、四方さんの肩に顔を埋めるヒナミちゃん。

 疲れたのか、こちらにも寝息が聞こえて来る。

 

「……これから、どうなんだろう」

 

 20区の捜査官は、もっと増えるんだろうか。

 トーカちゃんやヒナミちゃんや、そして僕を狙って。

 

 腹部に再装着したドライバーをいじり、レバーに指がかかりそうになって、思わず手を引いた。

 

 視線を上げると、トーカちゃんが腕と腰を庇いながら歩いていて。

 

「……トーカちゃん、肩かすよ」

「あ? いらないっつの」

「まあまあ」

「いや、だからいらないって」

「まあまあまあ」

「その『まあ』ごり押しすれば大体通るみたいなの止めろよっ。

 い、いらないって言ってんでしょーがッ!」

 

 それでも結局押し切られて、トーカちゃんは「意味わかんない」と顔を背けていた。

 なんだかんだ言って、この子も無理をするタイプの子だと思う。だったらこっちが察するか、窺うかして動かないと駄目なんだろう。

 

 空を見上げて月を見て、僕の脳裏にはあの捜査官の言葉がループしていた。

 

 この世界は間違っている。

 ただ、そうであっても――それはきっと、誰かが一方的に傷ついて良い理由にはならない。

 

 母さんのハンバーグの味をなんとなく思い出しつつ、僕は口の中に残る血の味を、なめとった。

 

 

 

 




真「……勝手に殺さないでくれ、亜門君」
亜「ファ!?」

カネキの変身後は、白い方になった後のスーツだと思っていただければ幸いです。きっと今のままだと似合ってません;
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