仮面ライダーハイセ   作:黒兎可

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二年後のヒナミ「!?」


#073 花火/透過/正面

 

 

 

 

 丁度、クロナちゃんの研修バッジがとれた頃。早いもので、もう夏休みも後半。

 一度プールに行ったりしたくらいで、僕はと言えば勉強したり、勉強を見たり、あんていくで働いたりと、なんだか不自然なくらい平穏に過ごしていた。

 

 いや、実際に完璧に平穏という訳ではない。喰種に襲われるヒトの声も、捜査官に襲われるヒトの声も途絶える事はない。アオギリの活動が目立たなくなっても、そういう意味では僕らに暇が訪れることはないのだ。

 店長に修復してもらったドライバー。わずかに傷跡が残っているものの、動作的には安定していた。

 

 リゼさんは相変わらずだ。ただそれでも、最近はわずかに言葉に反応を示すようになってきた。もっとも何に反応してるかまでは、いまいち突き止められなかったけれど。

 

 そんな八月も残り何週間か。後半に入った頃。

 

「お兄ちゃん、花火大会あるんだって?」

「花火大会か。懐かしいなぁ」

 

 6区にある仮拠点。リゼさんを探していた時のそれは、未だそのまま。時折こうして集まったりして使っている。オルカの面々とも顔を合わせたりして調子を聞いたり、あるいは鯱さんについて聞いたりもした。「鯱さんから訓示をもらうなんて、羨ましい」とまで言われてしまったけど、それについては未だ解答が得られていない。

 

 それはともかく、月山さんが持ってきたチラシの中にあったそれに、ヒナミちゃんは目を輝かせた。

 東京在住なら年に一度は、テレビを付ければ確認できるような花火大会だ。昔一度だけ、ヒデと一緒に行ったっけ……。

 

「花火って、こう、棒みたいなの持って下に向けて、ちりちりするやつでしょ?」

「それは線香花火かな。打ち上げ花火って言って、もっとこう、空に向けて爆発するのがあるんだよ」

「爆発!?」

「綺麗だよ? 大きくて、キラキラしてて」

「へぇええええ!」

 

 興味津々といった風に、ヒナミちゃんの視線がチラシから離れなかった。

 

 そして颯爽と現れた月山さんが、とてもエレガントに言う。

 

「ご所望ならこの月山習、花火役をやってあげようかぃ? マドモアゼル」

「花火マンか! すごい!」

 

 きゃっきゃと喜ぶヒナミちゃんに、ぱぁ、と両腕を開くように花火が開く仕草をイメージした動きをする月山さん。喜んでるヒナミちゃんを見ていると、このヒトのサービス精神は凄いなぁと思う。

 

「さてリトルプリンセス? 花火大会に行きたいというのなら、僕がエスコートしてあげよう。

 カネキくんはどうするかい?」

「じゃあ、僕も行こうかなって思います。万丈さん達も誘いたいけど……」

「ふふん? では、あんていく側とは合流という形をとろうか。今頃バンジョイ君は、筋肉痛だろうしね」

「あはは……」

 

 遂に赫子が出せるようになった万丈さんだけど、そのお陰もあってか四方さんの特訓が最近更に激しくなっているらしい。実際その甲斐もあってか、身体能力事態はめきめきと伸びてきていたりもするのだけど、いかんせん赫子は攻撃に向いてはいなかった。

 

 とりあえず、その話をあんていくに。古間さんは入見さんや芳村さんと一緒に店を回るらしい。バンジョーさんに伝えて下さいと言うと、ふふんと笑いながら応じてくれた。

 西尾先輩は半笑いでデートと答えが返ってきた。

 

 そしてヒデは、

 

『あ、悪ぃ、その日バイトなんだわな。マジ悪い、給料その日良いんだよなぁー』

「そっか」

『悪い悪い、埋め合わせは今度な。あ、でもテレビは近いところだから、映像は一緒に見れるぜ!』

 

 とのこと。

 

 どうしたものかなと思ってトーカちゃんに連絡を入れると。

 

『……ちょー、ごめん。依子と一緒に回るって言ってあった……(アンタそういうの行く感じじゃなかったし)』

「?」

『い、いや、こっちの話』

「あー、うん。仕方ないよね。残念だけど、依子ちゃんと楽しんでいって」

『ん、わかった。……(私だって残念だし)』

 

 なんだか呟きレベルじゃないボリュームの独り言が聞こえてきたりもしたけど、そのことには触れないでおいてあげた。

 

 そして最後の最後に、一緒に付いてきて僕の教科書を読みながらうつらうつらしていたクロナちゃんは。

 

「い、行く! 浴衣、じゅんびしなきゃっ」

「浴衣?」

「ヒナミちゃんも、一緒に着よう。きっと可愛い」

「ふふん、ならばレディズ、ものはこちらで誂えようじゃないか! 存分に飾りたまえッ!」

 

 喰い気味に乗り気で、そして何故か月山さんもテンションが上がっていた。

 

 そして松前さんがクロナちゃん達の採寸をしている間……、採寸した覚えもないのに、何故か僕の分の浴衣を月山さんが持ってきたり。

 サイズがぴったりすぎてちょっと気持ち悪かったりもしたけど、それはさておき。

 

 ヒナミちゃんはクローバー柄の、パステルカラーの浴衣。 

 クロナちゃんは……リンネソウかな? 紫の花の描かれた紺の浴衣。いつかのように、あるいはあんていくの制服着用時のように、やっぱり片腕をまくっていた。

 

 仕立てに時間がかかったこともあって、一通り虫除けスプレーをかけるころには、もう夕暮れ。電車に乗ろうとすると、さっと月山さんが制して、松前さんが車を出してくれた。……なんかこう、経済面で頼りっぱなしというか、彼は彼で打算があってのことなんだろうけど、申し訳ない気分になってくるのは性分なんだろうか。

 

 ちなみに座席の配置は、助手席に月山さん。僕はクロナちゃんとヒナミちゃんに挟まれる形。

 

「似合う?」

「うん。二人とも可愛いと思う」

「えへへ~」

 

 照れるヒナミちゃんをほほえましそうに見つめるクロナちゃん。その横顔を見てるとなんとなく、時々トーカちゃんがしているような顔を思い出す。姉の顔、と言えば良いのだろうか。

 

 交通整備で車が封鎖されているところまで送ってもらい、後は徒歩で向かう。 

 

 そしてその道中、何やら酷く落ち込んだ様子のバンジョーさん達を発見した。イチミさん達が励ましているのは、一体……。

 

『あ、カネキさん』

「えっと……、どうしたんですか?」

『いえいえね? シュウとハルがデートしてるのを見て、ほほえましそうに付いて行ったら迷子になっちゃいまして……』

『バンジョーさんwww 入見さんちょー怒られてましたよねwww』

『その辺にしといてやれ』

『しばらく石みたいに固まって待っていろって言われて、結果こんなんです』

 

 ……怒られたのか、そっか……。あまりつつかない方が良いだろうと判断して、僕は万丈さんの肩を叩いた。

 

「お、カネキか。よし、……今日はばりばり遊ぶぞ! ヒナちゃんほーれ」

「うわああ! バンジョーさん高い!」

「……でか」

 

 立ち直りが早いわけでもなく、万丈さんは一旦忘れることにしたらしい。妙に張り切って、ヒナミちゃんを高い高いしたりしながら歩き始めた。

 

「あ、赤い魚?」

 

 金魚すくいに目を奪われたヒナミちゃん。お店のお爺ちゃんにちょっとおまけしてもらいながら、僕とバンジョーさんとヒナミちゃんで金魚すくいをした。クロナちゃんが入りたそうな顔をしていたけど、スペース的に諦めたらしい。

 ……そして中々上手く行かない。

 

「おお!? 穴ぁ……」

「あー、駄目か」

「難しいね」

 

「――カネキくん。僕が君の(タモ)となろう!」

 

 これが本物の金魚すくいッ! といつかの台詞を思わせるようなことを言いながら、月山さんは圧倒的な速度で金魚をとっていく。なんでも器用にこなすな、このヒト……。

 お店のおじいさんが目を見開いて「こいつぁ世界とれるぜ!」と呟いたのが、なんか印象的というか……って、あれ? この人、今朝の公共放送で映ってなかったっけ。何で見たかは覚えてなかったけど。

 

 盆踊りを鑑賞しながら道中、あんていくに豆を提供してくれている輸入雑貨屋さんが、ちゃっかり珈琲を売ってたりしたので、みんなで買って飲んだり。

 あるいはクロナちゃんがくじ引きで、綿菓子を引き当てたり。

 

「これがわたあめかぁ」

「見てるだけにしようなぁ、ヒナミちゃん」

「食べると、うぇってなるよ――」

 

 万丈さん達の忠告より先に、かじりついていたヒナミちゃん。変な味と言いながら、吐き出すに吐き出せないといった様子だった。

 

「やれやれいけないレディだねぇ」

「だって、食べてみたかったんだもん……」

「さ、これでそのチャーミンマウスをお拭き?」

「ありがとー」

 

 紳士だなぁ……。いつもこうだといいのに。

  

 そしてためしに千切って、僕も一口。口全体の水分という水分を奪っていくような、砂みたいなざらつきと、そのくせ喉にへばりつく様なネットリ感。記憶にあるわたあめとの味の齟齬に、ちょっと僕もこれには辟易した。

 

 そんな僕を見かねてか、クロナちゃんが珈琲のあまりを差し出してきた。

 

「ありがと」

「うん」

 

 受け取って一口もらうと、何故かガッツポーズを決めるクロナちゃん。首を傾げると「何でもない」と、何故か自信満々といった風に頷かれた。

 

「さて次は……って、あれ? 西尾先輩?」

「うぅ……、お、カネキじゃねぇか」

 

 ふらふらとしてる西尾先輩。貴未さんと一緒に、おそろいの浴衣姿でほほえましいけど、なんだろう表情が優れない。

 

「えっと、どうしたんですか? 大丈夫ですか? 珈琲いります?」

「あ゛? ……いらねぇよそんな執念じみた一杯。

 っていうかアレだ。カネキお前、トーカどうにかしやがれ。というか少しは年上敬うようにしやがれってんだあー、ったく」

「に、ニシキくん、どっかで休もうか」

 

 ……何があったというのだろうか。そしてトーカちゃんは一体何をやらかしたというのだろうか。

 二人に開いているベンチをすすめて、僕らはまた歩き出して――。

 

「……あれ?」

 

 そして、逸れた。

 一瞬の出来事だった。あれおかしいな、五秒も経たないうちに、完全に見失ってしまった。元の方向へ戻ろうにも、人並みに押し流されてあれよあれよと更に遠くに。

 どうしたものか……。とりあえず月山さんにメールだけ送っておいて、僕は周囲に視線を向ける。

 

 ――羽赫のベテランを連れてこいッ!

 ――クッ、有馬さんが居れば……!

 

 ……そして何だか、聞き覚えのあるような声が耳に入った。 

 ちらりと射的屋を見れば、亜門さんと後輩っぽい捜査官の二人が、店の前でうなり声を上げていた。

 

 …………生活圏が近いから十分にこういう遭遇もあり得はするのだけど、なんとなくその光景を僕は見なかったことにした。うん。っていうか、案外亜門さん子供っぽいところあるんだな。前に話した時は、かなり落ち着いていた印象だったけど。

 

 そして月山さんから連絡が入ったけど……、どうやらお互い距離が開いてしまったらしい。花火もそろそろ打ち上がるし、それが終わってから合流しようかという話をしていたら――。

 

 

 丁度、ひゅるると光が尾を引き、空を駆ける。

 

 弾ける振動と共に、光の帯が宙を散り始める。

 

 

「練習かな。うん、さて後何分くらいか……」

『カネキくん、リトルヒナミがどうやら見えないようだ。少し開けた場所に移らせてもらう』

「あ、はい。合流するときは、こっちから連絡入れます」

 

 電話を切って、僕は空を見上げた。

 

 

 次の一発が打ち上がるのに、多少の時間はかかったけど。それでも、雨あられのごとく打ち上げられるそれは、見ていて懐かしい気分になる。

 小さい頃、お母さんが肩車してくれたっけ。珍しく駄々をこねたのに「仕方ないわね」と笑って、お母さんが一緒に連れてきてくれて――。

 

 

「うわー、キレーだねトーカちゃん」

「……ん」

 

 そして、割と近くからした声に、思わず僕は周囲をきょろきょろ見回してしまった。

 すぐに見つかった。空を見上げながら、ぼうっとしている様子のトーカちゃん。髪をまとめて右側に流している。頭には貴未さんがくれた髪留め、浴衣はそれに合わせてか、赤い帯の映える青にウサギ柄。

 たんぽぽ柄の浴衣の依子ちゃんも、そろって似たようにぼうっとした顔で花火を見上げていた。

 

 なんとなく邪魔しちゃ悪いかなぁと思って、少しだけ距離をとろうと一歩足を進める。 

 

 と、何かを感知したのか依子ちゃんが視線を下ろし、僕と目と目が合った。……はっは~ん、と言いたげな表情を浮かべた。僕が止めるまもなく、そのままトーカちゃんに耳打ち。

 

 僕の顔を見るやいなや、猛烈に目を大きく見開くトーカちゃん。

 

 後ろから「そーれ」と押されて、こちらに倒れこむような形に。

 抱きとめて、見下ろす形になるトーカちゃん。驚いた表情のせいか、上目遣いは睨んでいる印象はなくって、素直に言えばかなりどきりとした。

 

「ちょ、なんで研が――って、依子!」

「ふっふっふ。いやいや、友情もいいけど、トーカちゃんは彼氏さんも優先してあげないとね! 後でまーた色々聞かせてね~。じゃ、また! えっと……、ケンさん?」

「だ、だから……、嗚呼、もうっ」

 

 頭を左右に振るトーカちゃん。依子ちゃんはその場から離れて、どこかに行ってしまった。

 

 奇しくも、二人で取り残される形に。

 

「「……」」

 

「「えっと――」」

 

「あ、トーカちゃんから」

「いや、カネキからでいいから……っ」

 

 何だこの、ぎこちないやりとり。というか、何故こんなに緊張しているのだろうか、我ながら……。

 一旦立たせてから、再度向き直る。

 

「えっと、奇遇だね」

「……アンタ、ヒナたちはどうしたの?」

「逸れた。僕が」

「あ゛? ……まぁ、ヒト多いし、仕方ないか」

「そういえば、西尾先輩に何したの? すごい顔色悪かったけど」

「……」

「うん、微妙に笑いながら顔逸らしても誤魔化せないからね」

「いや、ちょっと、依子の持ってくる食べ物、処理させた」

「……後で謝ろうね」

「え~ ……」

 

 西尾先輩に対しては、どうしてか扱いが雑なトーカちゃん。

 なんとなく花火を見上げながら、僕は確認をした。

 

「んー、せっかくだし、どこかお店寄る? 合流までに、少しくらいなら時間、融通効くと思うんだけど」

「どっかって言ったって……、ヨーヨーとか邪魔だし、金魚はどうせヒナが一匹くらいとってくるだろうし」

 

 トーカちゃん、大正解。

 

「食い物は結構アウトだし、あんまりないんだけど……。 

 ――あっ」

 

 ふと何かを思いだしたような声を上げて、トーカちゃんは僕の手を握って。

 

「少し寄りたい所あったから、付き合って」

 

 人ごみをかき分けるように、僕の手を引いた。

 

 

 

   ※

 

 

 

 お祭りの屋台から少し離れて、いくらか人気が少なくなってきたあたり。

 トーカちゃんに連れられた先は、ちょっと古い神社だった。

 

「えっと、ここって?」

「おみくじやりに来た感じ。高校受験の時もこっちに来たし」

 

 慣れたように境内に入って、巫女さんからカラカラみたいなものを受け取るトーカちゃん。ぐるぐると回して出てきた弾に書かれた番号を、巫女さんが探す。

 

「ここ一番の勝負がある時は、なんとなく使ってる」

「へぇ~。……勝負? 模試って、もう終わったよね。試験も開いてるし」

「そっちじゃなくって。……ん」

 

 そしておみくじの内容を見て、トーカちゃんは微妙な顔になった。

 後ろから覗いて見る。中吉で、勉学方面に関しては中々悪くない感じの文面だった。

 

「……(なんで恋愛方面「待ち人来ず」なのよ)」

「?」

「(いや、でも努力次第でって書いてあるし。……)……ん」

 

 おみくじをまとめて、適当に木の幹に縛り付けるトーカちゃん。それ、お正月とかじゃなくて作法的に正しのかどうか、僕は知らないから何も言えないんだけど……。神社から何も言われないから、いいのだろうか。

 

「カネキ、こっち」

 

 僕の手を引くトーカちゃん。何故か神社の裏側に回りこむ。

 竹林は案外と低く切りそろえられていて、意外と花火の打ち上がる様がよく見えた。

 

 

「案外、ここ穴場」

「へぇ……。あ、ハート型」

「スペードに、ダイヤに……、何あれ?」

「クローバーは無理があったみたいだね、流石に」

 

 とりとめもない会話をしながら、トーカちゃんは段々と、指を絡めてくる。ちらりと横を伺うと、さっきと違って、トーカちゃんは下を俯いていた。

 心なし、少し耳が赤いような――。

 

「――研!」

「へ? あ、はい」

 

 唐突に顔を上げて、トーカちゃんがこっちに詰め寄った。いつかみたにガンを付けられるような勢いだったけど、彼女は明らかに焦っていた。てんぱっていた。

 

「好き!」

 

 それだけ言って、トーカちゃんは固まった。

 

 …………。

 いやいやてんぱりすぎでしょ、それは流石に。

 

「……な、何の前触れもなかったね、あはは……」

「……いや、えっと、だから……、うん、好きだから」

 

 どうしよう、完全にリアクションがとれない。

 

 明らかに空回りを起こしてるトーカちゃんと、なんだかしまりがなくなってしまった僕だ。状況的にこのまま流してしまいたいのが本心であったけど、でも、トーカちゃんは一度深呼吸して、僕に顔を向けた。

 

「……私は、研が好きです」

 

 突然丁寧語になって、僕はかなりうろたえた。

 

「え、えっと……」

「お父さんみたいなところも、お父さんみたいじゃないところも。

 一人でなんでも抱え込んじゃうところも、言われても中々直らないところも。

 嘘付いてそれを隠すのが下手なところも、こっちの強がりとか案外見抜いてくるところも。

 優しくて、本当はすごく寂しがり屋で……。そーゆーの、全部含めて好きです」

「……」

「で、きればその……。駄目?」

 

 小首を傾げないで下さい。

 ぐだぐだここに極まれりだけど、ころっといっちゃいそうです。

 

 僕も内心、大慌てなのか口調が統一されない。

 

 とりあえず、一旦落ち着こうか、うん。……。

 いやいや落ち着けないよ、これは。

 

 いや、だって、僕はトーカちゃんのことを好きになっちゃいけないんだよ。そうじゃないと、きっとトーカちゃんは不幸になるから。僕と君とじゃ、生きるベクトルがきっと違うんだよ。 

 そのことを言った所で、この子は分かってくれるだろうか――。

 

 顎を触りながら断るための言葉を考えていると、唐突に襟を掴まれ、押し倒された。頭の裏に鈍痛が走る。反射的に暴れたせいか、僕も彼女も服が乱れる。

 そして痛みに顔をしかめるよりも先に、トーカちゃんは僕の襟首を掴んで、ヘッドバッドをかました。

 

 そっちの方が痛かった。

 

 僕もトーカちゃんも、額を押さえてしばらく動けない。

 回復するまでに小一時間。

 

「……えっと、あの、トーカちゃん?」

「……あのさ。研。正直に答えて」

 

 また僕の襟を掴んで……、嗚呼もう着崩れってレベルじゃないよこれ。ともかくそうやって無理やり持ち上げて、トーカちゃんは僕の顔を見下ろす。

 

「私のこと、嫌い?」

 

 見下ろすトーカちゃんの目は、潤んでいる。

 

 嘘を付くことは出来た。自分にだって嘘を付いてきていたのだ、それくらいいくらだって可能だ。可能のはずだ。

 

 でも、僕はこのとき、自然と本心から彼女に答えていた。

 

「……好きになっちゃ、いけないと思ってる」

「な、んで?」

「トーカちゃんが……、大切だから」

「……意味わかんないし」

 

 目を拭うトーカちゃんに、僕は、やっぱりもう隠すこともせずに話した。

 

「トーカちゃんは……、お母さんにも、アラタさんにも、愛されて育ったんだと思う。

 僕は、トーカちゃんとは愛され方がきっと違った」

「?」

「……お母さんは、自分が一番大事だったから。

 だから、僕に注いだそれは、ひるがえって自分に注いでいたのと一緒だったから――」

 

 少しオブラートに包んで、僕の昔の話をした。お母さんにわがままを言えない環境で。お母さんの機嫌で左右された昔の僕のことを。

 それでも、なお僕はお母さんが好きだったと。どうしてか顎がかゆくなる。

 

「だからきっと、仮に僕らがそういう関係になってもさ。たぶん……それは、不幸なことなんじゃないかって、思うんだ。だから……」

 

 僕の言葉に少し押し黙ってから、トーカちゃんは僕の目を覗きこんで言った。

 

「じゃあ……、研は、それで幸せになれるの?」

「…………」

「研は、わかってるじゃん。そういうのが駄目だって。だったら……、たぶん大丈夫だと思う」

 

 だから、そんな風に言わないでと。

 僕の頭を、トーカちゃんは着崩れた浴衣の胸元に抱き寄せた。浴衣の感触と、胸の柔らかさと、下着のごつごつとした触覚と――不思議と、落ち着くような匂い。

 

「みんな……、勝手にいなくなっちゃうから。怖いのよ。研もいつか、どっか行っちゃうんじゃないかって」

「……」

「私は、アンタが居なくなった方がきっと、不幸だよ。だから……そんなこと言わないで」

 

 ――愛が欲しいっていうなら、私があげるから。

 ――人一倍、誰よりも、お母さんの分もあげるから。

 

「だから――自分から不幸になりに行かないでよ

 そんな風にならないでさ。アンタは、みんなの、私たちの居場所みたいなもんなんだから」

「……僕は――」

 

 気が付くと、僕の視界はにじんで、ぼやけていて――。

 

 

「――僕も、トーカちゃんが好きだよ」

 

 

 それだけ言うと、嗚咽が漏れた。

 トーカちゃんは何も言わず、少しだけ抱きしめる力を強くした。

 

 

 

 

 




トーカ「・・・(どうでもいいけど、浴衣、一人で着直せるかな?)」両肩が抜けて、足も片方思いっきり根元まで出てる状態
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