仮面ライダーハイセ   作:黒兎可

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アキラさん戦略勝ち


#074 口外/天唾

 

 

 

 

 

「はい、真戸ちゃんのクインケ。おおむね以前の状態に近いけど、少しだけレスポンスが上がってるから練習少しして試した方が良いと思うよ」

「感謝します」

「いやいや、常連さんだったし、インターン先だったし……、ねぇこっちにまた戻ってくる気ないかね?」

 

 1区にあるラボラトリ。広い廊下を歩きながら、俺は前方を歩く二人の会話を後ろから聞いていた。地行博士とアキラだ。珍しくスーツ姿ではなく白衣を纏い、髪を適当にまとめているのはここで働いていた時のそれだろうか。

 

「アカデミーでクインケオーダーしてきて、あまつさえ製造工程まで見ようって魂胆してたのは君だけだよ」

「父の影響で。大変ためになりました」

「その結果こっちまで手を出すんだから、頑張ってる頑張ってる。

 ……あ、そうそう。亜門上等。ドウジマの件なんだけど――」

 

 ドウジマ……、ハイセに折られた張間のクインケ。その改良案と時期について、博士は楽しそうに、そして真剣に話していた。

 途中、アキラは「確認するものがある」と離れたため、最終的に博士と二人きりとなった。

 

「尾赫の形状が形状だったから、分解してジャッキアップにして両手足に装着できないものかなーってちょっとたくらんでる」

「ジャッキアップ?」

「アンカージャッキというか、パイルというか。まぁそこは後で設計書というか、説明書に目を通して置いてください。

 そして肝心のドウジマ本体も――」

 

 そしてドウジマそのものの改良に、俺はかなり驚かされた。

 正直、そのアプローチは全く予想していなかったからだ。

 

「……そうですか」

「意外ですか?」

「はい、確かに驚かされましたが……」

「真戸しかり、なんだかんだ射撃は弱いからねぇ甲赫ばっかり使ってると。重量級が難しいこともあってってのもあるけど……。おっと話がそれましたね。

 とにかくギミックが凝る関係もあるから、しばらくお待ちください。『プロトアラタ』のアーマーで合体、リンクテストも兼ねる部分があるから」

 

 あと真戸上等から頼まれていたものもあるし、と博士は疲れた笑みを浮かべた。

 

「わかりました。しかし……、見事な構成案です」

 

 俺の戦闘スタイルは、基本的に重量に寄るところが大きい。必然それ以外の扱いに関して、甘くなりがちだ。実戦で使うものは、それゆえ甲赫が多い。

 そういったこともあって使いあぐねていた素材を、修復をかねて改良するのだから見事としか言いようがない。 

 手放しで博士のことを褒めると、彼は「おや?」という表情をしていた。

 

「僕が構成した?」

「はい。アキラからはそう伺いましたが――」

「案外テレやなんだねぇ彼女。

 ……実際、僕がしたことなんて制御系周りの調整だけだよ。アイデアから設計、回路、運用方式に作成依頼含めて、ぜんぶ真戸ちゃんの手腕だよ」

「!」

 

 確かにアキラはこちらに所属していた頃の話は、博士経由で聞いている。重要テスト物品であったはずのアラタを届けに来た事もあったくらいだから、派遣される形とはいえかなり重宝されていたと俺も思ってはいたが――。

  

「最近も、よく休日に足を運んでくるよ彼女。知ってると思うけど、アラタ含めて試運転とか協力してもらってるんだ。ちなみにバイクに変形するなんてエエェェェェエエエエエキサイティンッグ!!!! なアイデアも彼女から出たものだしね」何故その言い方に力を入れるのか。「予算次第だけど、レッドエッジドライバーの廉価版と、アラタG3の量産型『AG3-(マイルド)』計画案を出したのも彼女だしね。制御機構とRCタンクまわりのノウハウさえあれば量産できなくもないけど、実用化の案を出すのは彼女が初めてだと思うよ」

 

 ドライバーまた増えるのって局長に泣きつかれたりしたけど、と博士は楽しそうに笑っていた。

 

「研究者としてもすばらしいよ。あとたぶん捜査官と研究者と両方だっていうのも大きいのかもしれないねぇ。

 亜門上等はパートナーに恵まれてるよねー。仕事かなりやりやすいんじゃないかと思うよ」

 

 博士はそのまま「じゃあ僕は”アラタ”の様子を見に行くから」と、急ぎ足で俺から離れていく。手持ち無沙汰のまま、ラボの受付の椅子に座った。手にはキャップ付きの缶コーヒーが一つ。一口飲んで、ふと脳裏を過ぎるのはカネキケンの顔と……、あの日に買ったストラップ。

 そういえば……、まだアキラに手渡せていなかったな。

 

「待たせた。出ようか上等」

「! あ、そうだな」

 

 アキラに声をかけられ、思わず俺は動揺した。

 少し不可思議そうにしていたが、彼女は軽く流すことにしたらしい。

 

「さ、て。クインケの改良、『例の』出撃前に間に合うかどうか……」

「間に合わなければクラを使おう」

「ギミックが少々複雑すぎたか……? だがジャッキアップがあれば、リコンストラクションの効率が……。

 嗚呼、そういえば昼はどうするか」

 

 振り向き様にそんなことを聞いてくるアキラに、俺は「寄るところがある」と断った。

 

「珍しいな。どこに行くというのだろう?」

「色々だな。……主に、墓参りだが」

 

 俺の言葉に、アキラは少し上を向いて考える仕草をして、予想外のことを言ってきた。

 

 

「……せっかくだ、同行させてはもらえないだろうか」

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 教会の周りをめぐり、数箇所にちらばったかつての家族の墓を参った。

 昼食はコンビニで買った菓子パンで済ませ、花束を数個買い、配りまわる。正直言って骨が折れるが、毎度のことなので特に違和感は抱かない。

 

 もっとも、だからこそアキラの方が気になっていたのだが……。

 

「……つまりドライバーの反復動作に応じての操作には限界があるとするのなら、逆に制御装置の機構を……、いや、そうするとRcバッテリーが……」

 

 俺が運転する車の横で、ぶつぶつと独り言を続けていた。

 独り言というよりも、明らかに技術系の話であり、気のせいでなければアラタG3の量産に関する話な気がしないでもない。

 

 やがて日が暮れる頃になり、ようやく最後の一件を残すばかりとなった。

 目的地の近くになったあたりで、アキラがこちらを向いた。

 

「君は……。毎年やっているのか?」

「一応はな。俺の原点であり、そして戒めだ」

「戒め?」

「嗚呼。……痛みを忘れないように」

「そうか。……どうでも良いが、今までずっとクリスチャン系が続いたのだが、突然寺に来たのは道を間違えたか?」

「いや、ここで合ってる」

 

 手前にある駐車場で降り、階段を上る。

 日も暮れかけた中、夕日に照らされる見覚えのある墓石。水をかけ、花を差し替え、俺は手を合わせた。無言ながら、アキラもそれに習う。

 

「……どうでも良いかもしれないが」

「何だ?」

「その、宗教的に構わないのか? こういうのは」

「……別に俺がそうだと言う訳ではないが、まぁ、祈る先に神を見るなら問題はないと言われた覚えはあるな」

 

 ただそれであっても、せめてわずかに見つかった破片しか残ってなかったとしても。安らかに眠っていて欲しいと思うのは、生きている人間の性だろうか。

  

 境内から頭を下げる住職に頭を下げつつ、石階段を降りる俺達。

 

「……今回の大規模作戦」

「?」

「相手が”隻眼の梟”であるのなら、おそらくは母の仇だ。一度だけ目にしたことがあったが、おそらくそれだ。

 ……両親はかつて二人とも、24区のチームに居たらしい。若かりし日の丸手特等も共にな。そしてF地点の深部に奴は居た」

「……」

「班員数名の首を、あっという間に切り取ったそうだ。最も実力があった母が殿を引き受け、わめく父を特等は無理に引っ張ったそうだ。

 ……後日戻れば、原型をとどめないほど食い荒らされた母の姿がそこにあったらしい。

 つまり今回の作戦、私にも父にも――私達『家族』にとって、大きな意味がある」

 

 今回の私の配置は、願ったりかなったりだ。

 そう言って、アキラは微笑んだ。

 

「運よくか悪くかはわからないが、少しでも息の根を止めるのに役立てれば良い」

「……お前は――」

 

 真戸さんの書いたというレポートを読んだのか、と確認をとろうとして、俺は、躊躇した。

 この期に及んで何を躊躇しているというのだろうか。俺は。

 

 アカデミーで教鞭を振るいながら、真戸さんの書いた「梟」に関するレポート。戦闘パターン、出現率、実際に交戦した篠原特等、黒磐特等らの証言。それらと合わせ、以前に20区で目撃されていた「仮面ライダー」のような存在と仮定した場合の集計を元にした、梟のレポート。……第二の梟のレポート。

 それを元に組まれた、今回の大規模襲撃作戦。それにはどうしても、きっと、彼が――ハイセが現れる。

 

 俺は決めた。喰種の側に居るというのなら、迷わず戦おうと。

 

 だがだからこそ……、第三者が事情を知らないからこそ、話せないからこそ、この内に未だくすぶるわだかまりが解けないのだろう。

 

「……今回、俺は別働隊だ。決して無茶はす――」

「君は、どういう気持ちなんだ」

 

 階段を降り、車の手前に立った時点で。

 アキラは振り返り、俺の顔を見上げた。

 

「気持ち?」

「信念や、父が言うところの『ともし火』はあるだろう。だが、それに向かう上等は、どこか変な感じがする。

 私の勘だがな」

「……疑問は、確かにある」

 

 俺の抱いている疑念全てではないが、その一部をアキラに打ち明ける。

 

 何故、このタイミングなのか。大規模戦をやるにしても、海外勢力やアオギリの警戒が解けた訳ではない。真戸さんのレポートが書きあがった、提出されたからといって、作戦が信託されるのも早すぎる気がする。下手に安定を崩すべからず、崩すならばそれ相応に準備を怠るべからずと閉められた内容に対して、こうもCCGは行動が早いものだろうかと。

 

 ジレンマではあるが、最終的な被害を減らすために、泳がせるということを真戸さんも時折していた。実際、半年以上時間が経過したとはいえ、いやに「対象に対する情報が」少なすぎるのではないかと。

 

 これは言わないが――まるで「あらかじめ、その情報をCCGが持っていた」かのように。

 

「だが、それでも戦うべきだ。その気持ちに、揺らぎはない」

「そうか」

「……だから、改めて言う。無茶はしてくれるな。例え――」

「例えば、ドウジマの元の持ち主のようにか?」

「――ッ」

 

 詳しくは知らんが調べはしたさ、とアキラは肩をすくめた。

 

「もっとも、知るのは名前と、公的記録の関係ばかりだ。君と交友があったという程度だ。

 ……まぁ、ライバルと言えばライバルではあるようだがな」

「ライバル?」

「こちらの立場からすれば、少々、嫌な気分だがな。――私が会った事もない相手に対する、うじうじした気持ちをぶつけるな。

 そーいうのは――」

  

 許さんと。

 アキラは俺の手を引き、足を払った。普段なら決してそんなことはないのだが、動揺が激しかったせいか気が抜けていたせいか、面白いように簡単に転ばされる。そんな俺を見て「高さが揃ったな」などと言って――。

 

 アキラが、俺の額に唇をぶつけた。

 

 俺の頭を押さえ、目を閉じ、案外と勢い良く。

 時間にして一秒にも満たないだろうが、そのまま口を話して、アキラは俺を、冷静に見下ろしていた。

 

 それを、俺は呆然とて見上げるしかなかった。

 

「……はぁ。まぁすぐに答えは聞かんさ。気が向いたら教えてくれ。

 『私は』まだ、生きているからな」

 

 時間はこれからたっぷりあると。

 

 いくら鈍い俺でも、その言葉が指し示しているニュアンスくらいは掴む事が出来てしまい……。差し出されたアキラの手を、掴む思考さえ働かず、ただただ唖然としていた。

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 

 ――日は、沈んだ。

 1区に近づくのはいつ依頼か。こちらから寄る必要がある訳ではないが、しかし、確実さを喫するためにも、私にはあれが必要だった。

 

「――しばらくぶりだな、功善」

 

 駅を降り、巨大な川辺の上にかかる橋にてぼうっとしていると。私の黒装束に惹かれてか、目的の人物が来た。

 芥子――古い私の「友人」だ。私同様の服装をし、そしてその口はにちゃにちゃ、くちゃくちゃと何かを租借している。何を租借しているかは、もはや考えるまでもないだろう。

 

「自ら始末されに来たか? 功善」

「そのつもりはないが、どうしても、というのなら応じざるを得ないだろうな」

「全く面倒くさい。お前が欲しているのは――これだろう?」

 

 芥子が懐から取り出したそれは、手のひらに収まる程度の黒い装置だ。その中央には赤い結晶が埋め込まれており、わずかにだが、光っているようにも見える。

 

「わかっているのか」

「嗚呼。予想はつくさ。もっともお前は使えんだろう? 誰に手渡すつもりなのか……。まぁ関係あるまい。

 この程度で揺らぐこともない。せめてもの手向けだ」

 

 芥子は肩を振るわせ笑いながら、手に握っていたそれを地面に転がした。

 

「――ガキの居場所を、吐くつもりはないのだろう?」

「……」

「『隻眼の梟』についてだ。言うまでもなく、つながりは一目瞭然だろう。

 だというのに庇い続けるというのなら――それなりの覚悟はしておけ」

 

 お前は所詮、籠の中の鳥だと。 

 そう言い残し、芥子たちはこの場を去った。

 

 後に残ったのは、落とされた装置――本来ならクインケドライバーの、拡張スロットに差し込むその装置。

 

 それを拾い上げ、私は薄く目を開けた。

 

「……それでも、その選択肢だけはないさ芥子」

 

 あの子がああなってしまったのだとすれば。それは間違いなく妻を、あの子の母を殺した私のせいなのだから。

 あの子が大人になるまで一緒にいてやれなかった、私の責任であるのだ。

  

 

 

 咎を受けるべきは、私一人だ。それで構わないだろう。

 

 

 

 帽子を脱ぎ、そのまま投げ捨て。一歩一歩、力強く踏みしめながら私は歩き出した。

 

 

 

 

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