仮面ライダーハイセ   作:黒兎可

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#083 究極/生刃/取引

 

 

 

 

 

「――白いな」

 

 ベルトの帯は、黒。赤かった色は、ドライバーを覆うように集中している。

 そして、僕の全身は――真っ白な姿に変化していた。所々ジッパーのようなものが着いたような、そんな形に。そして首と口元を覆う、普段のマスクを白くしたような(クラッシャー)

 

 その代わり、目を覆うものは何もない。

 

 内側から破裂するかのごとく潰された側でなく、複眼に覆われていた「人間の目」が、目の前の死神を見据えた。

 

 目の前の、黒い鎧の死神に。

 彼は、有馬貴将もまた僕を見ていた。

 

「重そうだね」

 

 言葉があまりに日常的で、でも決して、警戒を怠ることは出来ない。

 

 そして彼の言う通りだ。僕は今、ちょっと重い。

 何せ背中からは、六つと一つ――合計で七つの赫子が出ているのだから。

 

 もう、誰の声も聞こえない。まるで全てが、僕の一部であると言わんばかりに――。

 

 尾赫を除き、上からそれぞれの箇所から、一対ずつ。全てがまるで昆虫の羽根を思わせるような形で、そしてその色は、トーカちゃんのそれを思わせるものだ。脈打つ血が、RC細胞が、この姿を維持することが無茶であることを僕に知らせる。

 

 ――きっとこの相手と戦うにしても、持ってあと、一、二撃。

 

 でも、ここで生き延びなければそもそも話にならないのだ。店長を助けに行くにしても、トーカちゃんの元に帰るにしても。

 

「……君は、”喰種”か”人間”か」

「僕は――名無し(ハイセ)だ」

 

 ドライバーに指を当て、レバーを二度、落とす。

 電子音は普段と変わらず――それでも、僕の身体は普段を超えた感覚と、力がみなぎった。

 

 

「ライダー ――――――――・キック!」

『――赫者(オーバー)! 崩壊撃破(ブレイクバースト)!』

 

 

 地下空間といえど、天井は高い。複数の柱によってささえられているせいもあるのだろうけど、そんな空間を僕は「飛んだ」。赫子が羽根のようにうなり、長い跳躍とか、そんなものではない力を僕に与える。

 巻き起こる風――小規模の嵐のようなその中で、有馬貴将は少しだけ足がとられ。でも、あちらもクインケを動作させて、こちらの動きを見据えていた。

 

『――リコンストラクション!

 ナルカミ・フルボルトブレイク!』

 

 

 吹き荒れる風の中で、彼は何一つ変わらず、放電するようなクインケを構えている。

 そんな彼目掛けて、僕は両足蹴りを、上空から叩きこんだ――。 

 

 瞬間、猛烈な速度で振られたクインケ。その先端から生成された「電気のような赫子の刃」と、僕の両足とが激突する。

 

 嵐のような風で乱れる放電と、徐々に徐々に勢いを殺される僕。

 

 このまま、せめてこのまま押し切ることが出来るのなら――。

 

『――リコンストラクション!

 IXA・フルプラズマ!』

 

 ――でも、そんな僕の考えはいとも簡単にねじ伏せられた。

 

 明らかに僕と彼とでは、年季が、戦力が違いすぎた。

 

 

 武器の方のクインケを下ろした途端、彼は猛烈な勢いで僕の足を掴んだ。それさえもこちらの勢いが勝ちそうなものだけれど――同時に、彼が握った瞬間、僕の両足が「燃えた」。

 見えるのは、猛烈に赤く光輝く手のひらのアーマー。何が起こっているというのか――まるで、自分の身体が内側から発火したような、そんないびつさだった。

 

「――ああああああああああああああああああああああッ!」

 

 それでも、なお、僕は羽根のような赫子を羽ばたかせる。無理やりにでも全身させようと、、猛烈な勢いで。

 

 押さえられてる状態でなお後方に風を押しやり、自分の推進力としたのが功を奏したのか。拮抗状態だった僕らの配置関係において、僕が相手側に前進した。

 みしり、と地面にヒビが入り――。

 

「やるね……」

 

 彼の肩の腕のアーマーが、こちらの威力に耐えられず弾け跳んだ。

 

 ヒビが入り、下に着込んでいた白いコートが見える。それが風の力でズタズタになろうとも、でも、捜査官は態度を変えない。痛みなど感じていないように、そのまま、僕を地面に叩きつけた。

 

 これでも、これでも勝てないのか?

 

『――リビルド!

 IXA・ランス!』

 

 そしてバックルから制御装置を抜き取り、それを宙に投げる有馬貴将。空中でバラバラとなり再形成されるクインケは、僕の攻撃のせいかパーツがいくらか欠損している。

 

 そして彼は、そのバックルの中央にあった、制御装置が収まっていた黒いものを取り出し――。

 

 

 僕の、アラタさんのドライバーの、左端に「接続した」。

 

 

 瞬間、僕は完全に変身できなくなった。体力的な問題とか、そんな次元ではなかった。突然、体中の力が抜けるような――まるではじめてクインケドライバーを装着したあの時のような、そんな倦怠感と痛みが、身体を襲う。

 

 死神は僕を見下ろして、言う。

 

「そのギアは、『クインケの認証』があってはじめて起動する。

 クインケドライバーに付けた場合、認証されていない限り『変身は出来ない』」

 

 言ってる意味が四割くらいわからなかったけど。でも、それでも確実にわかったことがあった。

 この状態で、僕は変身することが出来ない。

 レバーを落としても、何ら音声さえならない。まるで、電源から落とされてるような感じさえする。

 

 がしゃん! と中央の装置がなくなったドライバーを閉じて、彼はランス状になったクインケを持ち上げる。

  

 見下ろす顔は、逆行で確認できない。火こそ消えたものの足の感覚さえ、物理的にも既におぼつかない。

 

 その刃の先端は――僕の、右目を狙っている。

 

「あ――」

 

 刃はもう、数秒とたたず振り下ろされ、再び僕の脳髄をえぐることだろう。

 そしたらきっと……、もう、終わりだ。

 

 こんな形で終わるのかと、そういう気持ちもある。きっと悲しませてしまうだろうということも、深く思う。

 

 だけれど、こんなのどうしたらいいっていうんだよ――。

 

 やっと、やっと……、自分が守りたかったものが、自分だけじゃなくて。ちゃんと、ちゃんとまっとうに、「愛することが出来る」ようになったかもしれないのに――。

 

「――ごめん、トーカちゃん」

 

 

『――大丈夫よ、研くん。

 だってホラ――間に合ったから』

 

 

 

「――――お゛に゛い゛ち゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!!!!!」

 

 

 

 

 そんなクロナちゃんの叫び声と共に、死神の身体が「ぶれた」。

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 

「ぶるぅああああああああああч」

『――鱗・赫ゥ! 尾・赫!』

 

 目の前の、突如現れた謎の喰種。俺達の隊が襲われ、うちの何割かはコイツに喰われてしまった。他は気絶しているか腕がなくなってしまったかして、連絡をとる暇すらない。

 

『おおッ!』

 

 しかし、何だこの喰種は。アラタの攻撃に対してビクともせず、腰につけたクインケドライバーで自在に赫子を変化させている。

 そして同時にー―見間違えようもない。

 

 顔面に浮かび上がる、六本の痣。

 

 思い出すのは今年の初めの頃か。金木くん、ハイセと遭遇し、俺達はとある強大な喰種相手に共同戦をした。

 その時、ハイセが泣きながら戦い、そして決した相手こそが、おそらくこの眼前の喰種だ。バラバラに飛び散った肉片、そのうち一部はまとまっていたと思ったが――。

 

「お前は……、何をやっているんだッ!」

 

 知らず、俺は思わず叫んでいた。何の義理があってか? いや、きっとそれは、金木くんのあの、ボロボロになりながらもなお助けに行こうとしていた姿を見たからだろう。

 どうしても、目の前で暴走する喰種に、言わなければならないと感じた。

 

「ハイセは……、金木くんは、お前を助けようとしていたんだ! 人間と喰種と、その共存を望む彼が!

 なのにお前は、今――」

 

 何故今、彼の望まないようなことをしているのかと。彼が悲しむだろうことをしているのかと。

 

 そう問いただそうとした瞬間、目の前の喰種の焦点が、俺に合った。

 その瞬間だけ、喰種の目は完全に「正気」だった。

 

  

「だけど、それで僕はカネキさんを助けられますよね?」

 

 

「――君は……ッ」

「今の僕なら――みんな助ける! それが、できる、じゃΣ」

 

 

 篠原さんは以前言っていた。喰種は、哀れだと。

 嗚呼、今ならそれがよく理解できる。助けるために、ここまで己を壊すことが? 一瞬見えた、暴走していなかったはずだろう少年をここまで狂わせるほどのことが? 例え喰種とはいえ、彼に、金木くんを慕っていたような笑顔を浮かべて、みずから死を選んだ少年が――?

 

 理解……、したくない。

 

 背中から四つの赫子を排出し、もはや元が人間と同様の顔と思えないほど歪ませて笑い、目の前の喰種は俺を放り投げ、地面に叩きつけた。アラタの制御装置にダメージが入ったのか、変身が無理やり解除される。ドライバーこそ壊れてはいないが、再び変身できるかは怪しい。

 

 

 ――脳裏を過ぎる、両親の顔。

 ――思い出せない二人の顔に続く、あの男の顔。

 

 

 なぜ……、何故このごに及んでまで、お前なのだ。

 

 

「え、い、よ、う、ほ、きゅ????」

 

 首を傾げて、そのまま360度、奇怪な音を鳴らしながら回転させる喰種。

 

 そして奴は、俺に向かって口を開き――。

 

 

 

「じゃまああああッ!」

「!?」

 

 

 

 猛然とした勢いで、何かが喰種に激突した。バイクのように見えたそれは、そのまま喰種を引きずり、遠くで電柱に激突し、爆発。

 

「安、久……?」

 

 炎上するそこから立ち上がる人影に相対する。 

 かろうじて意識を失う直前。最後に見たのは――煤で顔の所々を黒く染めた、安久の横顔だった。

 

 

 

 

  

   ※

 

 

 

 

 

 絶叫するクロナちゃんは、とび蹴りを有馬貴将の肩に浴びせた。

 弾き飛ばされるように、宙を舞う有馬貴将。でも、それさえ空中に投げられたランスのクインケを使い、天井に突き刺し、こちらの様子を伺っていた。

 

 そんな彼と、僕との間に立ち、まるで僕を背に庇うようにしている彼女。声は、間違いなくクロナちゃんだった。だけれど――。

 

「大゛丈゛夫゛? お゛兄゛ち゛ゃ゛ん゛」

「……ッ」

 

 クロナちゃんの姿は、とてもじゃないけれど直視できなかった。

 

 眼帯は、とっくの昔に外れている。その顔がすすやオイルで汚れているのも、まだいい。

 

 問題は――口と、頭と、喉だ。

 返り血を浴びたのか、その頭は真っ赤に染まっている。そしてそれは口の、顎もまた同様。何かを食いちぎったような、そんな血の流れが彼女の下顎のそれだ。

 

 そして――何があったのか、クロナちゃんの喉は「潰れていた」。……物理的に。

 

「こ゛め゛ん゛ね゛、少゛し゛ト゛シ゛っ゛ち゛ゃ゛っ゛て゛。

 四゛方゛さ゛ん゛か゛捨゛て゛て゛た゛ハ゛イ゛ク゛て゛来゛て゛も゛、遅゛く゛な゛っ゛た゛」

「クロナちゃん、一体、何が――」

「て゛も゛ね゛?

 強゛そ゛う゛な゛の゛居゛た゛か゛ら゛、『食゛へ゛て゛き゛た゛』。全゛部゛は゛無゛理゛た゛っ゛た゛け゛と゛。反゛抗゛さ゛れ゛て゛、声゛、ひ゛と゛く゛な゛っ゛ち゛ゃ゛っ゛た゛」

 

 言ってる意味がわからない。

 

 でも、言葉から察するに……強そうな喰種が居たから、食べてきた、と言ってるのか? その時のせいで、居間みたいな状態に?

 ボロボロの複は、首から胸元にかけて傷が走った、痛々しい状態だ。治りが襲いということは、尾赫で付けられたものだろうか。

 

 ぐい、と口元をぬぐうクロナちゃん。彼女は、有馬貴将をじっと見る。

 

「……誰かな?」

「……同゛い゛年゛で゛、妹゛で゛――」

 

 言いながらクロナちゃんは、以前僕と戦っていた時に付けた量産型のドライバーを取り出し、腰に装着し――。

 

 

「――今゛は゛、恋゛す゛る゛乙゛女゛、た゛!」

『――ブレイドモード』

 

 背中から噴き出した赫子により、形成される姿は以前のものといくらか違う。ベースは相変わらず、剣道の胴衣のようなものだ。だけれど……。

 

「い゛く゛よ゛、シ゛ロ゛」

「う゛う゛う゛う゛う゛」

 

 大きく違う点が、三つ。

 

 一つは全体の服装が、異様にボロボロなこと。

 二つ目は身体の腹部が、ドクロのような赫子で覆われており、それがうなり声を上げていること。

 

 そして何より第三に――顔面さえ覆おうとしている「複数、目がある赫子の束」をまとう彼女の両目が、赤く、黒く染まっていたこと――。

 

 以前、クロナちゃんは言っていた。喰種になったから、ナシロちゃんと一緒にもういられなくなってしまったと。喰種なんかならなければ良かったと言って、そしてなぜか謝り続けていた。

 今の状況と、さっきの彼女の言葉で、僕はおおよその事情を察した。

 

 理由はわからない。でも――クロナちゃんは、ナシロちゃんを「食べた」のだろう。

 

 好き好んで、そんなことをするはずはない。とすれば僕らに拾われるまでの間に、何か大きくあったということだろうか。

 

 ばきばき、と。どうやらまだ変身は終わって居ないらしい。以前なら手に竹刀のような形で集まってきていたはずの、背部の赫子が――彼女の背中を貫き、腹部のドクロの額のあたりから、上方向に伸びた。

 

 前方と後方に、血が撥ねる。それが僕の顔面にもかかった。

 

 前傾姿勢で、クロナちゃんはうなり続け、天井にぶら下がる彼を見ている。

 

「……剣というより、サイみたいだね」

「「ああああああああああああ――っ!」」

 

 クロナちゃんと腹部のドクロは、同時にうなりながら「壁を駆けて登った」。そのまままさかと思えば、有馬貴将めがけて飛びかかり、突進をしかける。

 対する彼はもう片方のクインケでそれをいなし、再度電撃を放つ。

 クロナちゃんの、腹部から出ている剣が避雷針のようになり、彼女の身体に直撃する。

 

「~~~~~~~~ッ」

 

 白目を向き、絶叫するクロナちゃん。

 でも、それでも彼女は飛び上がり、空中の彼目掛けて腹から出た刃を向ける。

 

 何度も、何度も、何度やられても。

 

「や……止めて、クロナちゃん」

 

 僕の言葉さえ、彼女は聞く耳持たず、全身が痙攣しながらも立ち上がり、向かう――。

 

 やがて天井からクインケが抜け、地面に降りてきた彼は。満身創痍といった彼女に向けて言った。

 

 

「ひょっとして、――にそそのかされたかな?」

 

「……ッ!」

「うん。いいよ。来な」

 

 何を言ったのか、よくは聞こえなかった。

 それでも死神は、ただ漫然とこちらを見て、鎧に使っていた黒いクインケを構えるばかり。

 

 立ち上がろうとして、でも、クロナちゃんはバランスを崩して、僕の方に倒れた。

 無理やりに立ち上がろうとして――伸びた彼のクインケによって、足の先を切られて。

 

 それでもなお立ち上がろうという意思を見せる彼女に、僕は……。

 

 

「なんで……、なんで逃げないんだよ、君は!」

「……に゛げ゛た゛く゛な゛い゛か゛ら゛。も゛う゛」

 

 赤く染まった左目で僕を見て、少しだけ力なく笑うクロナちゃん。

 そして続く一言に、僕は言葉を失った。

 

 

「――私は、金木(ヽヽ)くん(ヽヽ)のことが大好きだから」

 

 衝撃的すぎて、いっそクリアに聞こえた、その言葉。

  

 冗談でも何でもなく、だったのか? それは。

 いや、でも、僕は――。

 

「知゛っ゛て゛る゛。全゛部゛知゛っ゛て゛る゛。と゛い゛う゛よ゛り゛見゛て゛た゛。た゛か゛ら゛、別゛に゛振゛り゛向い゛て゛く゛れ゛な゛く゛っ゛て゛も゛い゛い゛の゛」

 

 切れた足に赫子を纏わせ、足に見立てて立ち上がるクロナちゃん。

 

 ただ、ただ、言葉を続ける。

 

 ――人間を辞めた私に、人間のことを思いださせてくれた。

 ――他の幸せがあったかもしれないっていうのは、辛かったけど。

 

 ――でも、今、不思議とそう悪い気分じゃないの。

 

「金゛木゛く゛ん゛か゛、両゛方゛、大゛事゛に゛し゛て゛た゛か゛ら゛。た゛か゛ら゛――貴゛方゛か゛守゛り゛た゛い゛も゛の゛に゛な゛ら゛、私゛は゛命゛を゛か゛け゛ら゛れ゛る゛!」

『――バーストモード』

 

 ドライバーの右のダイヤルを真下まで落とすと、バックルからそんな電子音が響く。きっとブレイクバーストに準じる機能なのだろう、それは。

 

 思った通り、彼女の赫子の剣部分が真っ赤に発光し――そして、同時に彼女の身体を貫通する箇所から、血が、噴き出した。

 

 絶叫しながらも、クロナちゃんは走る。

 

 僕は……、片方のみの視界が、既にかすみ始めている。それでも、僕は目を離すことができないでいた。

 

 あんていくに入ってから、まだ日が浅い。彼女はきっと、僕らほど「あんていく」に対する思い入れは、少ないのかもしれない。でも――それをただ、僕のためだけにとして、自分の命を投げ出す姿は。

 どこかリオくんや……つい最近までの自分を見ているように思えて。

 

『――リビルド!

 IXA・ディフェンダー!』

 

 僕によって欠損させられた箇所があるものの、それでもクインケを楯状に変形させて、死神はクロナちゃんの攻撃を受け止める――。 

 

 分散されていない威力は、その一撃で、クインケを貫通して――それでも、クインケの破壊には、至らなかった。

 

 

「……二人とも、か」

 

 

 そんな言葉がわずかに聞こえて。

 

『――リコンストラクション!

 IXA・フルブレイク!』

 

 気が付けば、楯状だったクインケが姿を変え、クロナちゃんの腹部を貫通し。

 刃がまた真っ赤に染まり――クロナちゃんの身体を「焼いた」。

 

 呆然とそれを、横倒しになって見ることしかできなくて。

 

 そして彼は、彼女の顔面に二回。表から「突き刺した」。

 

 

 かつかつと歩きながら、彼は僕を見下ろし。

 

 

 

「……取引だ――」

 

 

 ――カネキケン。

 

 

 その言葉を聞いて、僕の視界は、痛みと共に消えた。

 

 

 

 

 




 
 
 
 
 
「……」
 
 モニターに映るカネキケンたちの姿に、私は、呆然としていた。
 
 あの小さいのは言った。彼は誰かに愛されてると言えるって。でも私達はどうかと、そういって嘲笑していた。
 そして今、彼は、彼の仲間たちから愛されているのを見た。……見てしまった。
 
「クロ……、お姉ちゃん……」
 
 ナシロは、動けなくなっている私に声をかけた。我に返り、私はナシロの顔を見た。
 
 
 ナシロは――どれくらいぶりに見るのかな――満面の笑みを浮かべていた。
 
 
 喰種の身体になってからは、きっとはじめてみる、やさしげな表情だった。
 
「どうしたの? シロ。痛いの?」
 
 私の言葉に首を左右に振り――ナシロは、涙ぐみながら言った。
 
 
「私を置いていけないんなら――私を、”食べて”」
 
 
 その言葉に、私はまた、頭を殴られるような衝撃を受けて、固まってしまった。
 そんなの、だめだよ。だって私達は双子で、ずっと、ずっとずっと一緒で――。
 
「気になるんだよね? あの、お兄ちゃんのこと」
 
 カネキケンをちらりと見て、少し苦笑いを浮かべるナシロ。
 
「だったら、行けばいいと思うよ。きっと、みんなと同じように『愛してくれる』から」
「何、言ってるの? ナシロ、だから――」
 
「私は、クロナの笑顔が見れないのが辛いの」
 
 ナシロは……、堪えるように、震える声で私に言う。まるで姉と妹が逆転したみたいに、私をなだめるように。
 
「このままだと、結局、約束は守れないから……。
 だったらせめて、私も、一緒に『連れて行って』? そして、お姉ちゃんの命を『つながせて?』」
「……、そんなの、嫌っ」
「ぜーたく言わないの。ほら、お姉ちゃん」
 
 くいっと、私の頬を両手の人差し指で、ぐいっと引っ張り上げて。
 
「――キープスマイリングよ♪」
 
 それもまた、いつ以来か久しく聞いてなかった言葉で。
 
 笑顔のまま、ナシロの両手がだらりと垂れて。
 
 
 
 
 
 私は……。ナシロに、何を、言わせてしまった?
 
 
 
 
 
 たった一人だけ、一人だけしか残ってなかった、本当の家族に。妹に。
 
 悔やんでも、何をしても、答えは出ない。
 段々と、私ももう立っていられなくなってきている。玲にやられた傷が、思ったよりも深かったのと。ここにたどり着くまでで無茶したせいだ。
 
 腕の中で横たわる、ナシロ。
 
 私は……。私は……、私は――――――ッ!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 気が付くと、その場には私一人しかいなくて。
 前髪が、いくらか白く染まっていて。
 その場には、「人間の眼球」が転がっていて――。
 
 
 
 私の両目は、真っ赤に染まっていて。
 
 
 
 その目は……、ナシロの目は。私の気持ちに合わせたかのように、普通の色に、戻る事が出来た。
 
 
 
 
 
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