仮面ライダーハイセ   作:黒兎可

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#026のあたりの時系列の話です

※独自設定、解釈注意


番外編 嶺除/娯楽

 

 

 

 

 

 人間とか喰種だとか、究極的にそれが問題になってくるのはお互いがお互いに、ある程度の極限状態になってからなんじゃないかって思う。

 

 喰種は人肉しか食べられないから、人間を殺す。でもそれだって、死体が保存してあればそれから拝借すれば良いだけらしい。まぁ相手もこっちと似たようなアイデンティティを持ってるから、食べたくない部位とかも当然あるだろうけど……。人間は雑食だ。でも状況によっては、共食いだってすることもある。喰種もそうだって話なんだから、それはつまり、問題なのは状況なんじゃないかと。

 

 まぁ……、自分の親友が「喰種」になってしまったから、そういう風に考えるようになったのかもしれないけれど。

 

「で、聞きたい事っていうのは何なのかしら」

 

 三晃さんは、そんなことを言いながら俺を見てため息をついた。

 三晃……、下の名前まではまだ聞き出せてない(「鳥」って字は入ってた気がする)。俺とカネキの大学の先輩にあたる女性で、印象は地味系だけどそこそこ美人っぽくて――喰種の一人。

 俺達人間を捕食する怪人とされている、亜人種。

 

 そして今、俺が最も欲している情報を持っているだろうヒトでもあった。

 

 俺達は今、20区駅前近くにあるカラオケボックスに入っていた。どっちもギリギリ場所がわかる場所がそこしかなかったっていうのと、カラオケボックスなら防音も万全であることが理由だった。

 ただ身体を洗った後だって聞いていた通り、ほんのりとシャンプーと水の匂いが、女の子の匂いと一緒に漂っていて、ちょっと緊張する……。

 なお怪しまれない程度にと、最初に二人して何曲か歌ったりして……、んー、なんか普通だ。

 

 そして本題に入ったわけだけど、その前に。

 

「いやその……、あ、その服気に入ってもらえましたか?」

「まぁまぁね。ちゃんと『地味っぽく』見えるのにおしゃれさがあるっていうのは、中々いいセンスしてるんじゃないかしら」

 

 肩をすくめて微笑む三晃さんは、少し自分のブラウスの襟元をつまんだ。

 そう、これ服この服。三晃さんから「情報が欲しかったら見返りを準備しろ」ということを言われて、俺がちょっとだけお金叩いて買った(一月くらい前に買っていた)一品だ。ちなみにこれを送ろうとした相手は……、まぁ、うん、そういう話は止めようぜ。

 

「でもなんとなく、もっとアクティブな子の方が似合いそうな気もしたけれど、要求してから短時間だったしそこは察しておいてあげるわ」

 

 っていうか、普通に見透かされてるっぽい。おかしいな、このヒトと話したのなんてまだ片手で数えられる回数くらいだっていうのに……。そんな旨のことを言ったら「生きるためには必要なものよ」と言い返された。

 

「短時間で相手のヒトとなりを見られるようにならないと、少なくとも危険性くらい判別できないといけないのよ。それは当たり前よ、女子として」

「……えっと、『種族的』な理由とかじゃないんスね」

「もちろんそれもあるけど、ほら、私、一応お金持ちだし」

 

 なんだか住む世界が違うようなことを言われた。

 いや、そういう話をしたんじゃなくって。

 

「……簡単に言うと、コレっす」

 

 俺の取り出した地図を見て、彼女は少し、微妙に嫌そうな顔をした。その反応からして、何か知ってるっぽいな、このヒト。

 

「……で、何が聞きたいのかしら。この地図、というか赤ペンで印がつけられているものから。

 逆に私も聞きたいのだけれど、貴方、この場所について何を知ってるのかしら」

「……んー、知ってるかって言うとアレですけど……。

 前にあんていく近くで、明らかにガラが悪そうな『喰種』見かけた時、ちょっとまぁ、発信機を」

「危ないことするわね」

「ちょっとした冒険ッスよ。で、そのGPSで割り出した座標っす。

 そしてここで座標が途切れた直後――カネキが大学に来なくなった」

「偶然じゃない? と、言うべくもないって顔よね。……誤魔化されるつもりもないと」

 

 俺の方を見て、三晃さんはやっぱりため息をついた。

 

「教えてあげなくもないけど、知って貴方はどうするの?」

「『あんていく』がここ数日、臨時休業してるってことは、たぶんカネキ助けに動いてるってことだと思うんスよ。でも……、それだけじゃ間に合わない気がする」

「間に合わないって?」

「勘です。知ってるでしょ?」

 

 俺はこの手の、嫌な予感ってものを外したことがない。

 前に三晃さんと知り合って、彼女が喰種だと俺が知るまでの一連の出来事も当然含んで。

 

 そういえばカインさんって、あの後どうなったんだろう……?

 

「死んだわよ?」

 

 平然と、三晃さんは俺のつぶやきに答えた。

 

「厳密には殺された、だけれど」

「…………」

「あら、怖くなった?」

 

 くすくすといじめっ子みたいに笑う三晃さん。話を聞いた俺の、ちょっとした身震いを見たからだろう。三晃さんはカインさんのことを、だいぶ疎ましがっていたし、()りかねなき気はしていたけど……。

 でも、見透かしたみたいに「安心なさい」と三晃さんは続けた。

 

「殺したのは、丁度貴方が発信機を付けた相手と同じところに属してる輩だから。よかったわね、私が地味で」

 

 地味、関係あるんスか? その話。

 

「……その相手は?」

「私の質問の途中だったわね。

 知って、貴方はどうするの? ――永近くん」

 

 俺は、それに即答した。

 

「助けます」

「……具体的には?」

「俺がなんとか出来そうなことなら、ちょっと手を出します。

 無理そうなら、通報します」

「CCGってことよね、それ。あんていくに迷惑がかかることにならないかしら?」

「カネキが無事なら、それで良いです」

 

 三晃さんは驚いたように、俺の方を見た。意外そうな顔をしてる。

 

「……貴方、あそこ行きつけなのよね。勿論『正体』を知った上で。

 なのに、それを簡単に切り捨てるの?」

「切り捨てるとは言わないですよ。ただ仮面ライダーも居るんだから、大惨事にはならないんじゃないかなーって」

「……無責任ではあるけど、まぁ、当たらずも遠からずなんじゃないかしら」

 

 賢いというか、優先順位が滅茶苦茶ね、思っていたより。

 そんな呟きをして、彼女はアイスコーヒーを飲んだ。何だろう、呆れられているのだろうか。

 

 ただその予想は違ったらしい。

 

 

「――私が高校生だった頃の話よ」

 

 

 おもむろに、三晃さんは俺に話し始めた。

 

 

 

   ※

 

 

 

 私がまだ高校生だった頃。まぁ見た目は今同様に地味さ優先で組んでいたけど、そんな話はおいておいて。

 

 そこで無駄に目立つ男が居たのよ。容姿は良いし、成績優秀だし、スポーツ万能だしっていうのが。おまけに女子にも男子にも独特な、貴族的な視点で接するような、変な男がね。ピンク色のフィルターがかかった連中には、さぞ王子様めいて見えたことでしょうけど。 

 まぁ、喰種なんだけど。仮にMくんとでも呼びましょうか。

 

 そのMくんと私は、学内数少ない同種の仲間ってことでお互い情報交換したりとかして、色々波風立てずにやっていたのよ。

 

 そんなある時、現れたのが、Hさんって言って、まぁ、こっちは人間なんだけどすさまじい変わり者でね。

 

 色々あって意気投合して、MくんとHさんとは友達になったのよ。

 

 それを快く思わない連中も中には居て……、Mくんモテたからね。

 それに対してHさんは割合、上手く対応していたと思うけれど。でも、それでも駄目なのが居たのよ。一人。

 

 その一人が問題だったのよ。

 

 彼女は、Mくんのことが好きで。同時にHさんのことが、根っから嫌いで。なんで貴女がMくんの隣に立っているんだって、大きくつっかかって来て。

 Hさんは逆に、そんな彼女のことを気に入ってたみたいでね。何て言っていたかしら……。『自分の感情のために命かけるって、すごくキラキラしてるね~』だったかしら。口ぶりは完全に他人事だったけど、本人は応援しようとしていたみたいなのよ。あわよくば写真くらい撮れればって考えていたらしくて。

 

 だからまずかったのよ。

 

 学校には、Mくんの協力者がいて……、もちろんHさんじゃとか私じゃないわよ? その彼女がMくんに報告する程度は無問題だったのだけど、タイミングが悪すぎたのよ。

 

 Mくんは彼女のことを知ってしまった。

 

 Mくんは、彼女を観察するようになって……、Hさんが言っていたキラキラが、欲しくなった。

 つまり、目が「食べたくなった」のよ。 

 

 後はまぁ……、Hさんが自分から、私のことを誘って二人きりで遊びに出かけたのは、たぶん最初で最後だと思うわ。

 すごく残念そうな顔して「写真とれなかった~。先こされた~」ってやっぱり適当なこと言っていたけど……。たぶん分かってしまったのよ。だって普段の口ぶりと、明らかにニュアンスが違ったから。

 

 だってそれはある意味、Hさんが彼女とMくんとが二人きりになれる瞬間をセッティングしたことが原因だったんだから。

 そして、お互い似たような性質があっても、妥協点を探ることを――「共存させよう」って考え方が、きっと相手にないってことを。

 

 そしてその後、彼女が好きだった別な男の子が、そのことをどうやってか嗅ぎ付けて、数人で襲いかかって。当たり前のようにMくん歯牙にもかけなかったみたいだけど、そこに多少の感傷もなかったっていうのが決定打だったのかしら。たぶん。

 

 彼にとって、彼女は対等な存在足りえていなくって、たぶんペット扱いなんだろうって。本心からペット扱いでしかなかったんだろうって。

 

 だから、彼女は彼の友達なのよ。

 

 ひょっとしたら、Mくんがほんの少しでも別な形に傾いていれば、もしかしたら違った関係だったかもしれないけれど。

 それでも、今でも彼女、言うのよ。彼のことを一番分かってるのは私だーって。

 

  

 

   ※

  

 

 

「その後にもまた色々あったらしくって、そっちは教えてもらっていないわ。

 まぁ本題とずれたけど。

 端的に言ってこの関係で死んだ人間と喰種の数は、大体30人。関係者含めて肉体的なそれ以外でも、被害をこうむったのだったら100超えるんじゃないかしら」

 

 私の視点から見ても、明らかに普通じゃない数よ、と三晃さんはこっちを胡乱な目で見る。

 

「何で私がこの話をしたか、わかる?」

「……」

「貴方が今やろうとしていることは、これと同じよ? 当事者同士の結果がどうであれ、かならず大きな不幸が生まれる。わかる?」

 

 聡い人間は喰種に近寄るべきではない。

 嘘の付けない喰種は人間に近づべきではない。

 

 さもなくば――不幸が拡散する。

 

「そんなもの、結局当事者同士の考えてるような結末に収束するはずはないわ。その一つの選択で、貴方は未曾有の危機を引き起こすかもしれない。その結果、貴方も、カネキくんも、不幸になるかもしれない。

 それを分かって、聞きたいのよね」

 

「俺は……」

 

 少し逡巡する。

 でも、逡巡するまでもなく、答えはもう出ていた。

 

 だから、俺はあえて、彼女にならって少し昔話をした。

 

 

「……誰にも話したこと、ないんスけど」

「何かしら?」

「俺、カネキほどじゃないにしても、ちょっと家、複雑なんスよね。例えば今みたいに、こんな時間に出歩いたところで気にする人間もいないっていうか。

 だからか知らないんスけど、放っておけなかったんスよ。カネキが。丁度父親がいなくて、気が弱かったカネキ見てると、なんとなく自分を見てるみたいで。母親も亡くなった後の塞ぎ方みてたら、もっともっと」

 

 三晃さんは、何も言わず俺の方を見ていた。自分の小っ恥ずかしいところを明かしてるからか、少しその視線に照れそうになる。なるけど、ここはガマンガマン。

 

「だけど――カネキは、立つんですよ。それでなお」

「立つ?」

「俺みたいに道化して、誤魔化して、なぁなぁで済ましたりしないで、きっちり正面から当たって砕けて。

 でもその代わり、どんなにボロボロになっても立ち上がるんスよ。それが見ててすげーなって思って……、同時にすげー、励まされるんすよ」

 

 誰かを蹴散らしたり、威圧したりするんじゃなくって。見てるだけで励まさたり、そういう強さっていうのもあるんだなって。当時の俺は、そのことがほとほと衝撃的だった。

 

「内緒ッスよ? でも、だからカネキ見てると、こっちも元気もらえるんスよ。

 だから思った。コイツが俺を助けてくれてる分だけ、俺も助けようって。そういうのは理屈じゃなくって、思っちまったものは思っちまったもんだから」

「……だから?」

 

 

「――アイツが死にそうになってるかもしれない。そんな状況で何もしないなんて、俺には絶対できそうにないです」

 

 

 後のことを考える、考えないではない。

 そもそもそれを考えたら、全く身動きがとれなくなってしまう。

 

 身動きがとれなくなってる間に、カネキが死ぬのは――アイツに何かあるかもしれないっていうのは。

 

 そんなのは、嫌だ。

 

 俺の話を聞いて、三晃さんはしばらく目を閉じて、深く息を吸って、吐いた。

 

「貴方に連絡先を教えたときのこと、覚えてるかしら?」

「……えっと」

「忘れてるなら無理には聞かないわ。私は、貴方なら丁度良い距離で、お互い協力して、お互いの平和を守っていけるんじゃないかと。波風立てないのが私の主義だったし、私は『嘘が付けない喰種』じゃないから」

 

 でも、と。三晃さんは俺の目を見て、続ける。

 

「でも……、そうね。逆のパターンは見た事がなかったかも」

「?」

「『嘘を付ける喰種』と『愚かな人間』が関わった場合、何が起こるかっていうことかしら」

 

 貴方は賢しくとも愚かよと、三晃さんは俺に笑いかけた。

 

「……なんで俺、いきなりディスられたっスか?」

「今の話でむしろ馬鹿にしない要素はなかったと思うけれど? でも、まぁ及第点かしら。

 ……いいわ。少しだけなら力を貸してあげる」

「マジで!?」

 

 思わず身を乗り出すと、三晃さんは俺の脳天に軽くチョップを叩きこんだ。痛ぇ……。

 

「何するんスか!?」

「今の近さで危機感を覚えない程、女子力が低い女子はいないと思うけれど」

「?」

「性差というか、パーソナルスペースは大事って話よ。

 なら私から言うことはないわ。

 

 ――せいぜい足掻きなさい? 永近くん。

  

 貴方のその頑張りが、(ほり)さんのそれの二の前になるかならないか。『楽しみに』させてもらうから」

 

 

 微笑んだ三晃さんのその表情は、まるで出来の弟を見守る姉のような、そんな感じのもので。

 タイプじゃない上こんな時にも関わらず、ちょっと、どきりとした。

  

  

 

 

 




カネキが嫌なのと同じようなことが、ヒデも嫌だという、そういうお話
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