3区、駅北方の歓楽街。
夜、ネオンが乱反射するそんな空間を、安浦清子は歩いていた。
片手にアタッシュケース、もう片方の手に旅行用キャリーバッグを引きずり、規則正しく歩く姿はキャリアウーマン然としている。一際目を引く容姿をしているが、その表情は端的に言って無そのものである。何一つ考えが読めない。
大通りと裏路地の手前で、彼女は足を止めて左右を見回す。人通りのある中で立ち止まるが、周囲の人間は意識を向けない――いやむしろ「意識を向けることが出来ない」のだろうか。明らかに不自然に、彼女を避けるように人並みが動いているように見えなくもない。
やがて何か目的のものを発見したのか、彼女は足を進める。
色合いは目に痛い。にもかかわらず、何も立て札さえないビルだ。入り口には黒塗りのワゴン。
彼女の隣を、酔ったサラリーマンが若干片言な女性の客引きに引かれて連れられて行く。丁度それを見終わった後、視線を横に振り見れば、地面に転がった上着のない顔の青い別なサラリーマンの姿があった。
特にそれを助けるでもなく。背後から声をかけてくるホストクラブの客引きすらひらりと交わして、彼女はその建物、というか店の中に入って行った。
入ってすぐ事務所のような場所を無視し、下に行く階段に向かう(先ほどの男性は上の方に引き連れられて行ったようだ)。
地下に入ると、頭を染めた、ボーイのような糸目の青年が彼女を呼び止める。が、彼女が出した名刺を見て頭を下げた。特に笑うこともなく、彼女は少しだけ会釈をして、奥の扉を開ける。一瞬その顔をいぶかしげに一瞥してから、彼女は中に入った。
カラオケボックスのようになっている複数の個室が並ぶその道を抜け、奥の広いエリアへ向かう。
紫色の光に照らされて、そこでは多くの人間が踊っていた。若者もいればビジネスマンもいる。明らかにチンピラや
部屋の中央ではストリップにポールダンス。
明らかに正規のディスコでも風俗でもない。
だがそれを特に気にした様子もなく、彼女は周囲を見回す。誰かを探しているような様子に声をかけてくる男が数人。やはり目は正気ではなかったが、彼女は自分の胸を掴もうとするその手をとり、足を払い、その場に転がしヒールのつま先で蹴り飛ばした。「ひゅー!」と声が上がったところを見るに、周囲数人の酔っ払った男達に見られていたようだ。
一瞬そちらに視線を向け、しかしすぐ興味を無くしたように彼女は奥へと足を進める。
バーテンが酒を提供する中、一人無表情で酒を飲みながら、ストリップを見る強面の男。わずかに首から刺青のようなものが見える彼の隣に、彼女は堂々と座りこんだ。キャリーバッグの上にアタッシュを置き、軽くあくびをする。
突然現れた彼女に気づき、男は一瞬驚くも、その目の鋭さは変わらず。
「頼んでおらへんが」
そう言われ、無表情のまま彼女は一瞬ストリップの方に視線を向け、嗚呼と納得する。
「悪いけれど別件よ」
「誰や、お前」
「初対面のはずよ。それにしても……、中々綱渡りのようね。これから取り締まりも厳しくなるでしょうし」
「そないなもん、状況次第だ」
無表情に言ってのける彼女を、今にも殺してしまいそうな視線で睨む男。そんな男の様子を気にせず、彼女は酒をバーテンに頼む。出されたそれに、赤い錠剤のようなものを落として溶かし、男の方を見た。
「まぁ、始末人みたいなものかしら」
「……どこのモンや?」
「始末人と言っても『こっちの』方のではないから、そこはお気になさらず。ただ目当ての相手が貴方のところの関係者だって、友人に言われたから、顔を合わせに」
「何や?」
「文字通りの意味よ。ガサ入れとかじゃないから、そこはお気になさらず」
「
「ワッパ持ってたらここに入れないことくらい察してもらいたいかしら」
いまいち正体を掴みかねているようだが、彼女は特に気にせず、さくらんぼで酒と解け始めた赤いそれを混ぜる。
「インベーダゲーム、分かるかしら」
「?」
「ああいう感じの人間よ」
ますます訳がわからないと眉間に皺を寄せる男。既に片手が懐に伸びかけているが、それさえ気にせず彼女は肩をすくめた。そして先ほど見せた名刺を見せる。
「これ、なんだけど。貴方のところのよね」
「……それが?」
「引き渡してくれないかしら。そうすれば、たぶん『騒がないで』済むと思うのよ」
空気を悪くするつもりもない、と彼女は笑う。「本当なら今は二区でお魚でも探して居なければいけないのを押して、必要だからここに居る。今、東京はとてもとても大事な時。どんな意味でも『外』から来るのに乱されるわけにもいかないらしいのよ」
「……意味わからん。
「外、というのは合ってるかしらね。だから、頼めないかしら?」
十数年後、住み易い東京のために。彼女の言葉の意味を計りかねているらしく、男は彼女の冷めた目を睨み続ける。お互いに視線を逸らさず、じっと固まる。
ことここに至って、明らかに彼女の態度に男は疑問を抱く。言葉に熱はなく、淡々と話すその様はやる気のないOLのようにも見えなくもない。しかし今の自分を目の前に、何一つ臆することなく躊躇することなく言葉を話す彼女に、男は興味を抱いた。
「ウチのこれが何したか、言うてみ?」
名刺を指差しながら話す彼に、彼女は「人喰いよ」と無感情に言った。
だが、それに男は息を呑んだ。ここに来てようやく彼女の正体に思い至ったらしい。見ればスーツの襟元に白い鳩を象ったエンブレムがついていた。
「だから、渡してもらえないかしら」
「……証拠は」
「?」
少し頭を傾げる彼女に、男は言う。
「確か、しょっ引かれる話やったっけな。でも、証拠は。これがバケモンっちゅう証拠あるんか」
「ない訳じゃないわ」
「でも、今出しとらんってことは、つまり、ないんやろ」
「……まぁ、写真でもあれば楽だったのかもしれないわね」
「コイツはな、俺が看板持ちだった頃から居た奴や。今でも大事にしてくれちょる。
シャブ取り締まる言うた時も、なんやかんや手貸してくれたんは、こいつや。そう易々とって訳にはいかんの」
「……何やってんスか、兄キ」
話していると、男の後ろからもう一人、男が現れる。オールバックの髪に、強面の男と同年代だろうに若く甘い顔をしている。さぞ女性に声をかけられるだろうという雰囲気で、ぱっと見ればホストか何かだと感じるだろう。だが右の頬がやや引きつったような形で固まっており、何かしらやはり堅気のソレではない。
その現れた男に強面の男が何か言おうと口を開いた瞬間、彼女はその男の顔面に酒をかけた。「何するんや!」と掴みかかる強面の男だが、それを左手で強引に引き剥がし、彼女は顎をしゃくる。終始丁寧だっただけに「らしくない」その仕草に、強面の男も視線を動かす。
見た先、酒を浴びた男は顔を押さえていた。おさえていたが――しかし嗚呼、その両目は、明らかに違う色をしている。うすらぼんやりとした光であっても、少なからず白目でないことくらいははっきりと理解できるし、何より、変色した瞳孔の色の反射までは誤魔化し様はなかった。
「血を入れたのよ。あんまり使わない手なんだけど」
淡々と言ってのける彼女に、強面の男は驚いた表情で目の前を見ていた。男は、喰種は、少しだけ悲しそうな表情をし――そして、拳銃を取り出して狙撃した。
「――!?」
「?」
男はさも当然のように、強面の男の腹部を狙撃した。驚愕の表情を浮かべる男。そして安浦も疑問を浮かべる。何故自分を撃たなかったのかと。
だが理由はすぐわかる。拳銃を投げつけ、強面の男ともども彼女を壁に突き飛ばしたのだ――ご丁寧に拳銃まで彼女に投げて。
銃声に視線が男達に集中するが、人間らしからぬ身体能力で距離をとった男と、その場に倒れこんだ彼女とでは、状況の読めない周囲からすれば明らかに脅威度合いが違う。一部の、正気がトんでしまった者達を除き、悲鳴とパニックがホールを支配した。
「兄貴が撃たれた!」「何だ、何があった!?」「変な女だ!」「奪われた!?」「何だこりゃ――」
「……やってくれるじゃない」
ことここに至っても、彼女は無表情を崩さず立ち上がる。朦朧とした意識で呻く男を転がし、後ろで蹲るバーテンに「諦めて呼ぶべきよ。あ、証言よろしく」と言って、アタッシュケースを手に持った。
そして下に置いてあったキャリーバッグを横倒しにし、ヒールの踵で一気に泊め具を蹴り上げる――! タイトスカート、照明が薄いためか中は見えなかったが、そこは大した問題ではない。中に収められていたのは、二丁の自動拳銃と革のベルト。ホルスターには弾倉が複数つけられており、それを彼女は左肩にたすきがけ。両手に拳銃を持ち、手元でくるくると西部劇のごとく回転させる。
「死ね――!」
青龍刀を中腰に構え襲いかかってくる男のそれを、ピンヒールのつま先で回し蹴りし銃の底面でこめかみを抉る。
一撃でその場に倒れる男の後ろからの狙撃は、狙い済ましたように蹴り上げた刀に当てて交わす。パニック状態で銃声が響く場内、いち早く逃げようという人間も多く、入り口は酷く混雑している。それを一瞥しながらミラーボール目掛けて、彼女は躊躇いなく発砲。
爆発したミラーボール。その大部分の底面が、彼女を撃った男の頭に落ちる。ミラーが刺さっているのを歩きながら抜いてあげつつ、彼女は人ごみの方にはいかない。アタッシュケースを手に取り、奥にある室内の階段を上り、南京錠がかけられている部屋のそれを破壊。扉の中に入れば、半裸でヨダレを垂らす、明らかに手遅れの人間たち。それを気にせず、彼女はアタッシュケースについているボタンを押した。
地上の事務所の床の一部が抜けた。
突然の爆音に、書類整理をしていた男が腰を抜かす。水の漏れる音と電線がばちばちという音と共に、先ほどまでかかっていた地下の音楽と照明が消えて、更にパニックが起こる。
彼女は気にせず、アタッシュケースを元に戻し、ベルトから取り出したアンカーのついたワイヤーを一階に突き刺した。ボタンを押して一気に地上に上る様は、それこそ映画か何かだ。
突然現れた美女に混乱したままの事務の男。見たところ堅気ではなさそうだが、身分は低そうである。
「今さっき上ってきた男、喰種。
私、喰種捜査官」
「は、は、はぁ!?」
「どこに言ったか教えてもらえるといいんだけど、駄目かし――ら?」
倒れた男が何か言う前に、彼女の甲頭部に銃口が突きつけられた。
背後を振り返ろうとすると、当然だが「動くな」と引き金に力が込められる。
「どこの者だ、お前。ともかく武器を捨てろ」
「……」
言われるまま、足元にアタッシュケースと拳銃を捨て、両手を挙げる彼女。いわゆる降参のポーズだ。
背後の男は舌打ちをする。ほんのり紫煙の煙が彼女の目の前を過ぎった。
「ダイナマイトでも使ったか、お前。あ? お前、ここを兄貴がどれだけの時間かけて準備したと思ってるんだ。あ?」
「兄貴さんのことが心配なら、今すぐ救急車でも呼んだ方がいいと思うけれど」
「は?」
疑問符を浮かべた男に、油断も慢心もありはしなかった。が、しかし顔をしかめたそのほんの一瞬、呼吸が乱れたそれに合わせ彼女は身体を傾けた。身体の前面を倒し、その勢いで上げた左足で、ピンヒールの踵で金的を蹴り上げる。男が悶絶する間もなく、そのまま彼女は更に身体を倒し、柔軟体操もかくやと180度。顔の横に上げていた両手で地面の拳銃を手に取り、自分の前方に投げ出されて気絶した男に両手を合わせた。
「喰種に撃たれたのよ。ちなみに拳銃だった理由だけど、私を犯人に偽装するため。
わかったら警察でも救急車でも連絡なさい? 早いうちなら死にはしないでしょうから」
混乱する若い男を無視し、彼女は表に出る。と、突然背後から、というよりも屋上から腰を巻き取られ、上に引きずり上げられた。ちょっとした逆バンジーである。これには驚かされたのか目を見開いた。
そして排ガスで曇った空に投げられるものの、やはり映画か何かのように空中で回転し、華麗に屋上に着地。拳銃はホルスターに、片手にはアタッシュケースといういでたちは色々と現実感がなくなる。
そんな彼女を前に、喰種の男は、己の尾てい骨近くから伸びた赤い触手の先端を、ドリルのように回転させた。
「一応聞いておくけど、何で撃ったのかしら」
唐突に安浦が会話を始めたせいだろう。男は眉間に皺を寄せる。表情に浮かぶ疑問符に対して、彼女は当たり前のように続けた。やはり、淡々と。
「彼、貴方を庇おうとしてたわよ?」
「――いや、善意からじゃねぇさ。せいぜい強請るタネ持ったくらいに考えるだろうよ」
引きつった形で固まった右頬を更に引きつらせて、彼は自分の手を見つめ、そして彼女の方を見た。
彼女は彼女でアタッシュケースを置き、再び拳銃を両手に構える。
「そう」
それ以上言わず、彼女は両手の拳銃を乱射した。
放たれた弾丸が、単なる鉛球であるはずはない。おそらく己の触手を――赫子を傷つけられる系統のものだろうと判断し、彼は身を屈め、赫子を彼女目掛けて伸ばした。
それに対し、安浦はアタッシュケースを蹴り上げ、それを盾のようにする。ガワを貫通し反対側まで赫子の先端が出るが、しかし、嗚呼、どうしたことだろう。抜けない。それどころか、急速に先端の赤い色が黒ずんでいく。
己の異変にいち早く築いた彼は顔をしかめるが、しかしそれに説明してくれるような安浦清子ではない。
拳で殴るようにホルスターを叩き、空中に放り出された弾倉。それをノールック、そして勢いに任せて両方の銃底に叩きこみながら、男めがけて走る。さながらやはり映画か何かのような光景に、男は戦慄した。
二連射。狙撃の勢いで上が大きく上に跳ね上がるくせに、距離がせばまったせいか、その射撃は正確に男の両腿を狙ってくる。
無理によけようと動きはしたが、一発は当たりその場で膝を付く。
そんな彼の顔面めがけ、彼女は走ってきた勢いそのままにシャイニングウィザード――飛び膝蹴りッ!!!
いかに喰種といえど、多少消耗した上でこの一撃は痛かった。ぐらりと倒れ、息絶え絶え。
そんな彼の腹部に、彼女はホルスターについていた、幅の広い独特な装置を――まるでベルトのバックルか何かのように、男の腹に落とした。
途端、自動的に帯のように、赤いそれが出現する。そして男は呻き、意識を失った。
さっと取り出した緑色の薬を、男に無理やり飲ませる。
「とりあえず、重要参考人……人? 確保ぉ。
あら、丁度弾切れね」
ふぅ、と息を吐き、冷徹そうだった表情をほがらかなものに変える。印象があまりに変わりすぎており、やわらかなそれは酷く惹かれるものがあるだろう。先ほどまで男から伸びていた赫子は、ぼろぼろと崩れ去り、アタッシュケースを貫通していたそれもなくなる。
ふぃ、と息を吐きながらそれをとりに向かう彼女。
その背後から、赫子の弾丸が彼女めがけて撃たれた。
いかにして気づいたかは定かではないが、それさえ彼女はその場で回転し、拳銃を使って「叩き落とす」。もっとも全く全てを交わしきれた訳でもなく、ベルトが切れ、弾き飛ばされた。地面に弾倉から弾がいくつか落ちる。
軽く人間業を超えたそれを前に、拍手をする――髪を染めたボーイ姿の男。
「……やっぱり二人居たわね」
「へぇ、気づいていたか。
……って、俺としては貴女、さっきみたいな表情の方が『そそる』から、そっちの方がいいけど」
細められていた目は、ばっちりと開かれている。赤く鈍く光る目を前に、彼女は再び表情を引き締めた。
「別に好かれようとしてる訳でもないし。それに、仕事だから」
「連れないねぇ」
「どちらにせよ、そこの彼はともかく貴方は『殺す』わよ。明確に」
せっかく仕事終わったと思ったのに、とつぶやく声は本気なのか冗談なのか。真顔で無感情に言われると、こう、本気度合いしか伝わってこないものの、台詞自体は色々と場にそぐいはしていなかった。
男は笑う。何が出来るのかと。先ほど弾切れだと、彼女自身が呟いたのを聞いたばかりだ。それが嘘だという可能性もなくはないが、話しながら銃底から空になったそれを二つ落としているところを見るに、どうも本当であるらしい。
クインケ――武器もなしに人間が喰種に勝てる道理はない。
一部例外こそあるものの、大半の喰種にとってそれは常識的な認識であり。
だからこそ、彼女のとった行動に反応が遅れた。
眼前に突如、投げられ迫る拳銃。
驚いてそれをしゃがみかわすと、途端、自分の眉間のあたりにふと迫るそれは、赤い銃弾。火薬がついたままであるそれは、弾倉からこぼれたものそのままである。
それを、彼女は男の動きに合わせて投げ――それこどろか、今倒れている男が「最初に使った銃」を使い、狙撃した。
爆裂する火薬と、その勢いではじけ飛ぶ、整形された赫子の弾丸。
ものの見事に男の脳天を射抜き、絶叫が響く。そのまま膝をついて倒れる男。
拳銃を再び使えるように整え、ホルスターに引っ掛ける安浦。そのまま視線を男に向ける。一見すれば意識はなさそうだ。だがそんな彼の足を、死んだかどうか確認するまでもなく掴み、引きずる安浦清子。
「よく、バレットで喰種を殺すことは出来ないっていうけど、あれ、間違いなのよ」
男が聞いている聞いていないを問わず、彼女は何故か話し始める。
「死ぬほど撃ち込めば、それは殺せるのよ。普通そこまでする人間はいないけど。
だから、私はあえてそうしようと思ったのよ。だって――」
行きついた先は、屋上のフェンス。先ほど彼女を一階から持ち上げた喰種が破壊したその場所まで来て下を見れば、地上6階分の距離感がある。
安浦はそのまま男の足を猛烈な速度で振り上げ、空中に投げ。
「――だってそっちの方が、ノリがよさそうだし」
ノリが良い方が戦いって勝つらしいわよ? と言いつつ、彼女も落ちる男の上方をとった。
そして二人して落下していきつつも、しこたま、本当にしこたま、男めがけて乱射した。一撃一撃で血を吹き上げる男。絶叫しながらも驚愕の表情で彼女を見る目は、やはり気絶はしていなかったと見える。
が、もう既に色々と遅すぎた。
ある程度狙撃し終わると、そのまま彼女は自由落下に身を任せる。もっともピンヒールを下に向けた状態で。
男の真下にはワゴンがあり、それにまず男が添乗に打ちつけられる。
そして落下して来た彼女が、男に着地。スカート関係なくおもいっきり膝を曲げ、そして男の心臓部にトドメとばかりに弾丸二つ。
落下と、銃弾の威力とに天井が異様なほどへこむ。
そして殺しきらなかった勢いを利用し、彼女は飛び上がり、何度か空中を回転。
新体操のごとく、綺麗に着地を決めた瞬間――背後のワゴンが、爆発した。
立ち上がる彼女。背後の炎が陽炎のように彼女を照らし――。
「……あら、やりすぎたかしら?」
そんなことを言う表情は、さきほどまでの冷徹さとは無縁の、困ったような、ちょっと可愛らしいものだった。
暁「ははよ、どうした?」
微「……」警察から報告を聞き、自分のもたらした情報でここまでやらかされると思ってなかったため頭を抱える