仮面ライダーハイセ   作:黒兎可

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#019 招待/月光

 

  

 

 

 

――喰わせろ、もっと!

 

「うぅ……ッ」

 

――なんで助けてくれなかった!

――熱い、痛い!

 

――もっと、もっと血を――ッ!

 

『滑稽よねカネキくん。(わたし)なんかと比べようもないくらい』

 

 脳裏で響くリゼさんの声と、まとわりつく死者や喰種たちのイメージ。振り払おうとしても動けず、僕は唸るしかない。

 

『馬鹿ね。結局、何だかんだ言いながら、お母さんの二の舞じゃない?』

 

 そんなことはわかってるんだ。結局助けられなかった以上、僕は――。

 

 ぎゅ、という感触が、左手にある。

 握られるようなそれは、さっきまでの喰種のイメージと違って、どこか柔らかくて。

 

 そしてそれを意識した瞬間、僕の体感は現実のものに戻った。

 

『まあ、せいぜい頑張りなさい。私は、貴方の横で楽しませてもらうだけだから――』

「……あれ? あ、そうか店か」

 

 目を開けて天井を見れば、なんとなく見覚えのある場所。自宅ではないここは、あんていくの二階だ。状態としては、ソファに横になっている感じ。

 僕は起き上がり、周囲を見回す。

 

 と、右手の方でトーカちゃんが寝ていた。

 

「……なんで?」

 

 どうしてか、ソファに突っ伏す形で。足を床に付けながら、トーカちゃんは寝息を立てていた。

 

 そして、僕の手を握っていた。

 何なんだこの状況。

 

「とりあえず起そうか……。トーカちゃん? トーカちゃん?」

「……とぉ、さん?」

 

 寝ぼけ眼なトーカちゃんというのもかなり珍しいけど、僕を見つめる事数秒。飛び跳ねるように僕から退いて、彼女はわたわたと手を上下に振った。

 

「だ、大丈夫?」

「あ、いや、うん。最近寝れてなかったからか……。

 ……み、見てんじゃねぇ!」

「やっぱり理不尽!」

 

 視線を僕から外して、ふんと鼻を鳴らすトーカちゃん。それを見てて、なんとなく僕はさっきの夢を忘れられた。

 

「えっと、どうしてトーカちゃんが、ここに?」

「時間考えろ。一応シフト入ってるし。まあそれが理由じゃな――きゃッ! 来たッ」

 

 と、トーカちゃんは叫んで飛び退いた。入り口の方の隙間から、いつかベランダで拾った鳥が飛んできたのだ。

 

「ヘッヘッヘッヘ」

 

 慌てたトーカちゃんは、そのまま僕の腕にしがみつき、警戒するような目をインコに向けていた。……色々と僕としては、心臓に悪い体勢なんだけど、そこのところどう考えてるんだろう。

 

「ヘ~~~~タレッ!」

「って、僕のこと?」

 

 そんな風に言いながら僕の頭を突いてくる鳥。更に飛び跳ねて、ソファの裏側に回って様子を伺うトーカちゃん。

 

「わ、私、下行くから」

「あ、うん。行ってらっしゃい」

 

 僕をつついているのを尻目に、トーカちゃんはそそくさと部屋を後にする。

 丁度そんなタイミングでヒナミちゃんがひょこりと顔を出した。

 

「あー、ヘーちゃんダメだよ、飛んじゃ」

「……ひ、ヒナミちゃんだよね」

「ヒナミだよ!

 お姉ちゃんに借りたの色々」

「そうなんだ……」

 

 マスクにカツラにサングラスに麦藁帽子に……、ごてごてしすぎて逆に怪しい格好になっていたヒナミちゃん。てくてくと歩いてきて、持っていた鳥かごにオウムを入れた。

 

「そういえば、結局この子どうすることにしたの?」

「あ、それはね――」

「飼い主が現れるまで、ウチで預かる事にしたんだ」

「店長、四方さん!」

 

 扉の向こうから、ぱりっとした服装の店長といつも通りな四方さんが歩いて来た。店長は微笑みながら、ヒナミちゃんの視線に合わせて「みんなで交代で世話しよう」と言った。

 

「他の言葉もしゃべるかなぁ」

「教えれば覚えるかもな」

「名前どうしよう。”ヘタレ”?」

 

 これはまた、仕方ないのかすごいのか……、いやヒナミちゃん、きっと意味わかってない。

 流石に四方さんも助け船を出した。

 

「……もっと考えてやった方がいいんじゃないか」

「でも、どうしよう。ヒナミ名前とかつけたことないから……。 

 羽根に星っぽい模様があるから、うーんと……」

 

「シューティングスターウィングはどうだ?」

 

 がば、と僕とヒナミちゃんが四方さんの顔を見た。

 シューティングスターウィング? シューティングスターウィング!?

 

「……カネキくん、昨晩は店に泊まったのかい?」

「あ……、すみません。許可もとらず。

 ここ数日、家じゃちょっと、寝付けそうになかったんで……」

 

 四方さんの方をさらりと流した店長はともかく。

 

 月山さんのイメージと、囁き声とがフラッシュバックする。

 四方さんは「大変だったな」と、少し目を細めて言った。

 

「行かなくても良いとは言ったろ」

「えっと……」覚えていないとは言い辛い。

「イトリが言うことを、正面から受けるな。俺も昔……」

 

 表情の優れない四方さん。何があったのか果てしなく気になる。

 

「……何にしても俺が止めるべきだった。

 にしても、よく一人で帰って来た。大丈夫だったか?」

「……」

 

 僕は、言葉を選びながら言った。

 

「沢山の喰種が――笑ってました」

「……」「……そうか」

「僕や、普通の人が傷ついたり、バラバラにされるのをまるで、ショーか何かのように」

 

 実際のところ、彼等に取ってのそれはショーなのだ。マグロの解体だったりとかと、さして違いはないのだろう。

 店長は笑みこそ浮かべなかったけど、それでも、落ち着いて諭すような口調で言った。

 

「全体的に見れば、どうしても我々は命の価値について軽薄になりがちだ。

 加工された食物を見て、君は可哀そうだと思えるかい?」

「……難しいです」

「そう。生きているのを目で見なければ、その重さをわからず、罪悪感も抱き難い。

 だが我々の場合は、その多くが自らの手で、人間を殺して食べなければならない。生きていけないからだ。

 そして喰種もまた、血の海の上を歩くことを、正面から受け止めることは難しい」

 

 結果として、目を逸らしてその感情を殺す。

 

「それを繰り返すことで、命の重さを忘れる」

「……でも、トーカちゃんや……、あんていくの皆は、違うと思います」

 

 僕の言葉に、店長は少し驚いたような表情になった。目を開けたりはしなかったけど、それでも雰囲気で伝わる。

 僕は、少しだけ空元気で笑って、言葉を続けた。

 

「例えそうであったとしても、全ての人達がそうじゃないと、僕は知ってます。そう、思いたいです」

「……ありがとう」

 

 眉間のあたりを押さえて笑う店長に、僕は少しだけ頭を下げた。

 

 

 

   ※

 

 

 

 用事があると去った店長や四方さんを見送ると、入れ違いというか、入り口でトーカちゃんが立っていた。

 

「あれ、トーカちゃん?」

「ッ」

 

 僕の顔を見ると、何故か顔を赤くして、睨んだりしてきた。どうしたんだろう。

 しばらくワタワタして胸に手をやり、深呼吸すると部屋の中をチラリと見た。

 

「……アンタ、盾やって?」

「あー ……、やっぱ嫌い?」

「別に、ニガテじゃないケド……」

 

 この間、盛大にゲロっていたことは目を瞑る事にした。

 ヒナミちゃんも、そんなトーカちゃんの様子に困ったような表情。

 

「逆にあんまり刺激して、緊張させない方がいいかもね」

「そ、そうか……。ワリィな鳥、ヒナも」

「大丈夫だよ、お姉ちゃんも無理しないでね」

 

 胸を張ってお姉さんぶるヒナミちゃんに、トーカちゃんも「お、おう」と、いつになく弱気な反応を返した。

 と、ここでトーカちゃんから一言。

 

「そういやアンタに客来てるよ、カネキ」

「へ? えっと……、誰?」

 

 まさか月山じゃないか、と警戒をしながら聞くと、半眼になって「知らん」とトーカちゃんは言った。

 

「人間の女。幸薄そうな感じの」

「さ、幸……?」

「ワリと地味? あんまり印象にとっつかない感じ」

 

 容姿について色々言われましても。というか、気のせいじゃなければ形容に棘があるような。

 

「何でそんな不機嫌なの?」

「……別に」

 

 ぷいっと視線を逸らすトーカちゃん。とりあえず用心に越した事はないか。

 念のためマスクやらドライバーやら何やら色々入ってるジャケットを上に羽織り、僕は下に下りた。 

 

 相手は、ちょっと想定外の人物だった。

 

「――貴未さん!?」

「……!」

 

 驚いたようにこちらを見る彼女。気のせいじゃなければ、目の下に隈ができてる。いくらか、やつれた印象を受けた。

 

 店内に人はいない。

 彼女は震えながら、僕に近づいてくる。

 

「カネキくん……、ニシキくんが――」

「へ? え、えっと――」

 

 店に降りて来たトーカちゃん。この場で話を続けるのが正解か否か。

 

 正直に言えば、トーカちゃんも巻きこんだ方が色々話は早いかもしれない。でも、逆にそれはトーカちゃんが喰種だと明かすようなことで。

 僕自身、この人のことを完全に信用しきってるわけでもない。情報は最小限にとどめておいた方が良いか。

 

 場所を変えさせてくださいと言って、僕は彼女を連れてあんていくの裏手に。建物と建物の隙間は人通りが少なく、ちょっと不安だ。でも、ここなら秘密の話をするには持ってこいだろう。

 

 震えながら、彼女は貴未さんは一つずつ言う。

 

「お腹の傷も全然治らないし、珈琲じゃもう全然無理だって……。

 どうしたら良いか全然わかんないし、もう、頼れる相手が君しか……」

 

 彼女の言葉からは、西尾先輩の力になれない自分に対する苦悩が、ありありとにじみ出ていた。

 

「本当に、人間以外食べられないの? だったら、私を――」

「……それは、嫌なんじゃないですか? だから、今、貴未さんは僕の元に居るんだと思います」

 

 自分の腕を押さえて言う彼女に、僕は頭を搔きながら答えた。混乱していて、前後が見えなくなっているのかもしれない。少し慎重になりながら、僕は彼女に言う。

 

「食べられなくはないそうですが、栄養にはならないそうです。だから、やっぱり肉が必要なんだと思います」

「それじゃ、どうしたら……」

 

 僕の分の肉を分ける事は難しいことじゃない。でも、それだけで解決できるようなことじゃないだろう。

 今、西尾先輩に必要なのは、回復できるくらいには食べることだ。

 

 でも、それでも――。

 

 気休め程度にしかならないだろうに、僕はジャケットから肉のパックを取り出し、彼女に手渡した。

 

「これ……?」

「防臭用に色々やって分かり難いかもしれませんけど、それなら、きっと食べられます」

「……」

「でも、たぶんそれだけじゃ回復はしません。だから、少し知り合いに当ってみます」

 

 見捨ててしまうのは簡単だ。

 だけれど、僕は見て見たい。大事な相手が喰種だと知っても、なお傍に寄りそいたいという、このヒトの言葉が、気持ちが、本物なのかを。

 

 冷蔵庫の鍵は店長持ちで、僕がヒトを狩れる道理はない。

 相談するとしたら店長か。

 でも……あ、トーカちゃんに知られたらそもそも肉パック手渡したことで、また色々言われそうだ。

 

 ただ、そうであっても。

 

「……ありがとう、カネキくん……。

 ありがとう……」 

 

 口を押さえて、涙ながらに頭を下げる彼女のそれだけは、きっと心からの言葉で。

 僕にとっては、それだけの価値があるものなんだろうと思った。

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 

 誰に相談すべきか。考えて悶々としている夕方。日が落ちてきた頃に、窓に「コン!」と何かがぶつけられた音がした。

 あんていくの2階だ。窓を開けて下の路地を見れば、人影はない。

 

 だからこそ、おかしい。数秒と待たずに窓に手をかけたのだから、せめて足音くらい聞こえてもおかしくはないはずだ。

 

 下に落ちているものを見て、嫌な予感が僕の胸中を過ぎる。

 

 そしてそれを、バラが挟まれたカードを開いた時点で、予感は確信に変わった。

 

「月山習……ッ」

 

『Dear 金木 研

 呼ぶは今宵の22時、下記の場所にて晩餐を。

 ささやかながら僕なりの 特別な日を約束しよう 

 

 呼ばれるゲストは只一人、君がきょう日話していたか。

 

 PS.あんていくの裏で君が話していた女性も招待した。危害は加えていないが、もし来るのを拒めばどうなるかは断言しかねる。 

 

  月山 習』

 

 貴未さんがあの後に攫われたのだとすると、やはり月山習は僕の周りを探っていたということになる。だとすれば、彼女が掴まったのは僕の責任ということか――。

 

 丁度そのタイミングで、ガンガンと店の入り口が叩かれる。

 わざわざ開いている扉を叩く相手は誰かと見れば、よろよろとしていた西尾先輩だった。息絶え絶え、歩くのもままならないといったくらいなのに、彼は僕の顔を睨んできた。

 

「貴未は……、来た、のか……?」

「……これ」

 

 手紙を手渡せば、読んだ後数秒固まり、地面を強烈に殴りつけた。

 

「――クソがッ!

 ……最悪だ、何でこうなる……、何で……」

 

 顔を下げたままの西尾先輩に、僕は言う。

 

「…… 一緒に行きましょう」

「……あ?」

「本当は、そんな体で行かせたくはありませんけど――でも、それじゃダメだと思う」

 

 僕の脳裏に過ぎる、母親の死に顔。

 今でも顔から血の気が引く思いだけど、だからこそ僕は、もう二度とあんな思いはしたくない。

 

 それはきっと、誰だってそうなのだ。

 

 出来たはずのことが出来なくて、失敗して、後悔するっていうのは。

 

 だったら、たとえどれほど道化的であっても。実際に何もできなかったとしても。

 後悔する選択肢だけを、僕は、決して選ばせることが出来ない。

 

「月山さんの狙いは僕です。本来無関係の貴未さんが巻き込まれたなら、行かなきゃならない。

 僕が囮になります。だからその間に――」

「誰が、俺の腹に、風穴開けたんだよッ」

 

 西尾先輩は、拳を握り、しゃがんだ僕を殴る。いつかのそれが嘘みたいに、弱弱しい一撃だった。

 

「今更信用、できっかッ」

「……それを言えば、ヒデや僕を襲ったのも、食べようとしたのも貴方だ。僕だって、貴方のことを信用はできない」

「なら――」

「でもッ!」

 

 僕は西尾先輩の肩をつかみ。目を覗きこむ。

 

「貴未さんは、泣いてたんですよ。貴方のために、貴方のことを想って。

 貴方以外、もう何もないって言いながら」

「……」

「もう一度言います。僕だって、西尾さん(ヽヽ)は信用できてません。でも、貴未さんの、貴方に対する想いは信じたい……、信用したいんです。

 だから――西尾先輩の彼女への言葉を、信じます」

 

 一瞬驚いたように固まった西尾先輩。僕はいつもの角砂糖を取り出して、彼の方に差し出す。

 

「どうするか、今、決めて下さい」

「……チッ、何なんだよお前は」

 

 角砂糖を手に取り、西尾先輩は口に放り込んで。 

 

「……行くぞ、カネキ」

 

 ものすごく嫌そうに、でも、それでも僕の言葉に肯定を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 古い教会の入り口で、僕と西尾先輩は足を止めていた。

 手紙に指定された住所はここなんだけど、どういうことだろう、内部から妙に軽快な「猫踏んじゃった」が聞こえてきてた。覇気のない先輩でさえ、思わず僕と一緒に顔を見合わせたくらいだ。

 

 なんで猫踏んじゃった?

 

『フフフンフッフー♪ フフフンフッフー♪』

 

 しかも月山さんの鼻歌まで聞こえてくる始末。

 

「い、行きましょうか」

「……おお」

 

 西尾先輩もテンションがおかしくなってる。

 いや、これも含めて月山の作戦だとすれば、天晴れと言うところか。でも彼の性格的に、素でやってる可能性もなくはない。

 

 扉を開けた先では、上機嫌にピアノを弾いている月山習が居た。

 

 その後ろ、台の上で貴未さんが縛られ、目隠しや猿轡をされて動けなくなっている。

 

「フッ、しばらくぶりだねカネキくん。あの日以来、色々考えたり準備したり忙しくてね。だが、最高のロケーションが提供できたのではと思ってる。喜んでく――」

 

「――月山ァァッ!!」

 

 僕が何かいう前に、西尾先輩が絶叫した。月山さんは「ん?」と首を傾げると、心底不思議そうに聞いた。

 

「おやおや西尾錦君じゃないか。どうしたのだい? 呼んでなかったと思ったが」

「貴未に手、出して、ねーだろぉな……ッ」

「随分げっそりしてるじゃないか。どうしたんだい? ちゃんと食べないと身体が持たないよ君」

「そいつ、返せキモキザ野郎ッ」

 

 彼の言葉を聞いて、月山さんは「Ah!」と言わんばかりにポンと手を叩いた。

 

「そうか、君の食材だったか……。これは済まない、僕としたことが競合してしまったようだ。

 が、しかし! 今日の僕は崇高な目的の元にここに居る、彼女のことは諦めてくれたまえ。せっかくの、最高の食材を調理するための調味料(スパイス)なのだからッ!」

「ああッ!?」

 

 無駄にテンションを上げながら月山さんは僕のことを指さして「インニヴィターブル!」と叫ぶ。

 

「そう必然、僕が欲するものさ。

 なにせカネキくんは喰種でありながら、ヒトを食べない。しかし僕等喰種が最も活性化するのは、ヒトを食べている時だ。なら何が必要か、何をしなければならないかを考えに考えた三日三晩!

 そして思い付いたのさ。カネキくんを最高の鮮度で味わうための方法を。

 それは、第三者の介入。すなわち――」

 

 上を向きながら、恍惚とした表情で彼は拳を握り占めた。

 

「――カネキくん()食べている時に、カネキくん()食べる!

 シンプルかつ、まさに最高の贅沢だと思わないかい?」

 

「へ、変態だ……!!!!」

 

 僕は、正直、本気で引いた。男色の気があるんじゃないかと思った時以上に、引いた。きっと鳥肌が立ったはずだ。

 

 月山さんは微笑みながら「心外だな」と言う。

 

「僕は僕さ。美食家、食の求道者さ。だからこそ、その姿勢は時に他者からは理解されないが――」

 

 そして、グン、と彼の距離が僕と詰まる。

 

「仮

 にそ

  う

  感じ

   た

   の

   なら」

 

 飛び跳ねながら、彼は僕に接近してきた。高度によって声の音が上下し、謎の迫力と共に彼は、僕に飛びかかった。

 

「そうさせているのは君なのだから、責任をとってくれたまえ」

 

 君は、自分が美味しそうだという自覚を持つべきだ。

 

 そう笑いながら、彼は軽々と西尾先輩をぶっ飛ばした。これじゃ囮だとか、それ以前の問題だ。

 

 準備を誤った。来るんなら、せめて二人じゃなくて、もっとまともに戦えるもう一人連れて来るべきだった。誰かなんてことはともかくとして。

 

 僕は咄嗟に、彼の腹に拳を二回。上体を半回転させる要領で、体重を少し込めた一撃を二回。

 思いの他喰らったのか、彼は一歩後退。その瞬間を狙って、上段回し蹴りを叩きこんだ。

 

 でも、それをを月山さんは軽く受け止めた。

 

「んん、なかなかなかなか。雛鳥が巣立とうともがいているようだね。

 実に愛らしい」

「――ッ」

 

 まずい、これは誘われたか。

 

「だからこそ、今一度味合わせてあげよう。

 これが――本物の拳」

 

 ぐっと握った月山さんは、右手を軽く振り被り、そのまま僕を殴る。モーションが大きくないためそこまで吹き飛ばなかったが、逆にそれだけの動きで僕は地面に転がされた。

 立ち上がるのは下策と考えて、腹に向かって突進をかけようとすれば。

 

「本物の蹴り」

「っはが――」

 

 腹から血が込み上げ、口から炸裂する。今度こそ吹っ飛ばされて、壁に背を預けた。

 

「さあ、て。肉はよく解しておかないとね。

 次はどんな攻撃が受けたいかい? そうだね――僕のオススメは、これさ!」

 

 痛みにうめく僕に向けて、三日月の面を取り出して彼は投げてきた。

 

 コン、と頭に当ると、それは見事な軌跡を描いて彼の手元に戻って行く。

 

「本物の、ブーメランッ!!」

 

 このヒト、素面なんだろうか。

 変態認定した僕が言うのもアレだけど、色々と怖い。 

 

 ゆらりと立つように見える彼の足取りは軽快で、それこそ鼻歌させ歌っている。

 

 

 ――パンッ

 

 

 そんな彼が、ぐらりと、目を押さえて揺れた。

 

「じゃあ、こんなんどう?」

 

 僕の目の前に、彼女は、手を軽く振りながら立った。いつかのように、そしていつものように。

 

「――本物の、不意打ちかぁ霧嶋、さんッ!」

「トーカちゃん!!」

 

 僕と月山さんの反応に、トーカちゃんは「フン」と鼻を鳴らした。

 

 

 

 

 




トーカちゃんにもブーメランやらせようか一瞬本気で迷いました
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