仮面ライダーハイセ   作:黒兎可

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#022 折骨/鉛鎧

 

 

 

 

 

『――ともあれ、こちらは中々面白い子も多いよ。中々に事情を抱えている子も多いがね。

 ただ米村という子が、少々いただけない。能力は伸びしろがあると思うのだが、意志が戦闘に向いていなくてね』

「お疲れ様です、真戸さん」

『いやいや。そのうちそっちに足を運ぶから、その時はまたよろしく頼むよ、亜門君』

 

 真戸さんの電話が切れ、俺は思わずため息。資料室にて、俺は再度自分に渇を入れた。

 

「あんまり無理しない方が良いですよ、亜門さん」

「中島さん」

 

 扉が開くと、ここ最近よく仕事をして居る彼が、疲れた笑みを浮かべた。缶コーヒーを持ってきた彼に例を言って、受け取り開封。かれこれ前日は夜遅くまでここでラビットについて調査資料を漁っていたので、カフェインは正直に言えば助かる。

 

「しかし何というか20区も物騒になってきたもんですよねぇ。大食いに美食家に、ラビットと」

「……表面化しているのと、潜在的なものでの比較は難しいですが。でも、それでも周囲に比べて大人しいというのが、俺は不可思議にも思えます」

 

 俺の言葉に、中島さんは首を傾げた。

 

「真戸さんの勘は、外れたことがないんですよ」

 

 そう前置きをしてから、俺は少しだけ説明。何某かのグループによって、区の中の喰種たちによる捕食が一定レベルで押さえ込まれているだろうこと。数が低いため発覚は少なく、また大々的に動く喰種も一部を覗いて見当たらないのは、やはりどこか歪であると。

 

「実際、喰種関係の事件の、20区での発生件数をグラフにまとめてみたんですが、やはり偏りがありました。周囲の区と比べて、断トツに。

 CCG本部やそれに類するものがないにも関わらずと考えれば、やはりその背景には組織的なものが見えるのではないかと思ってます」

「組織的ですか……。とすると、目だってるのは組織の方針から外れたものと?」

「そうかもしれませんね」

 

 

――僕を、人間のままでいさせてくれ。

 

 

 あの時、眼帯の喰種の言葉が脳裏を過ぎる。一度は死を覚悟し、また敬愛する上官の死も覚悟した。運よくどちらも死にはしなかったが、真戸さんは捜査官としては事実上、再起不能となった。そういう意味で相手の目的は達成されているのかもしれない。

 

 俺はあの眼帯を、20区にある喰種組織の一人なのではなかと疑っている。

 

 こう言えば酷く滑稽な話ではあるが、だが、ヤツは言った。人間として、喰種としてと――。

 

 思考にとらわれていると、資料室の扉がノックされる。向こうには女性調査員の……、何と言ったか名前までは覚えて居ないが、彼女が俺の名前を呼んだ。

 

「本局の方がお見えになられました。第二会議室の方でお待ちになられてます」

「資料は俺がバッチリまとめておきますんで、行っちゃってください」

 

 二人に礼を言ってから、俺は部屋を後にする。

 エレベータに乗り、俺は外を眺める。

 

 統計的に見て、喰種関係の事件が本部直下地域と並んで少ないこの区。その深奥に、真戸さんは強大な闇を見た。

 

 ならば、その後を調査する(おう)のは俺の役目だ。

 そして、そのためには力が足りない。 

 

 一度強く拳を握ってから、俺は少し深呼吸。確かに中島さんの言う通り、ここのところ根を詰めすぎていたかもしれない。真戸さんも、いついかなる時でも戦闘に移れるコンディションこそが大事であると言っていたか。

 

「そういえば、20区も本部からの捜査官が派遣される場所か」

 

 つい先日、11区における大抗争と言っても差支えがない事件があったため、自動的に周辺の区の警戒度が引き上がることになっていた。

 これは慣例という訳でもないが、特定の箇所で大規模戦闘が行われた場合、その周囲に難民のように散ることがあるのだ。取り越し苦労と言われる事もあるが、この準備は決して無駄になることはない。

 

 少なからず、俺はこれを甘く見ることは決して出来なかった。

 

「しかし、一体誰が配置されるのだろうか……。そう言えば、俺のパートナーもか」

 

 真戸さんが捜査官としては、事実上引退に追い込まれたこともあり、間違いなく後任の問題が出てくる。俺より上官になるか、下になるかは分からないが、出来る限り仲良くやりたいものだ。

 

 ベテラン勢は空きがなかったはずだが、さて……。扉をノックすると、向こうから聞き覚えのある声が返って来た。

 

「おお? しょげた顔だなぁ。またベソかいてんのか、んっ?」

「し……、篠原さん!?」

 

 刈り上げたような頭に、人の良さそうな表情。体格は俺以上で、立ち姿だけで力強い。

 アカデミーの元教官、俺の恩師にして「特等捜査官」、篠原幸紀(ゆきのり)がそこに居た。

 

「あんまり俺、ここ良い思い出ないんだけどねぇ。ハハハ。

 で、こっちが法寺。面識はあったろ?」

「亜門君、お久しぶりです。班を組むのは初めてですね」

「ご無沙汰しております。こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

 やや硬い笑みを浮かべながら、法寺項介准特等捜査官は俺に手を差し伸べた。握り返すと、やはり顔の雰囲気とは違う、現場の人間の手をしていた。

 

 二人は共に、かつての真戸さんの相棒。

 共に多くの結果を出し、叩き上げ実力派の初代パートナー。

 クインケの使い方を徹底的に叩き込まれた、俺の兄弟子と形容しても良い二代目パートナー。

 

 どちらも優秀で、真戸さんとも縁深い。

 これほど手厚い編成に恵まれると言うのは、俺としてはかなり驚きだった。

 

 そしてもう一人、これまた懐かしい顔を見た。

 

「ほ、本局対策I課の滝澤政道二等です!」

「滝澤か。久々だな」

「お……! 覚えていていただけましたか!」

 

 照れながらもガッツポーズを決め、震える彼。アカデミーの講習で呼ばれた際の生徒の一人に彼が居た。

 

 しかし、それにしては反応がどこか……。

 と、法寺さんが俺に耳打ち。

 

「彼、有馬さんと君のファンなんですよ。どうやら授業で感化されたらしく、スクラップブックも作る勢いです」

「それは……、何か照れますね」

 

 真戸さんと共に過ごしたここ数年のことをまとめている、というのがどうにも気恥ずかしいが。でもそれでも、以前真戸さんの言っていた「心の火」が、こうしてまた広がりを見せていたことに俺はわずかに震えるものがあった。

 

「昨年度のアカデミー、次席卒業でしたがまだまだ新米。君からも色々お願いします」

「言わずもがなですよ。

 まだまだ慣れないことも多いだろうが、よろしく頼む、政道(せいどう)

「は――ハイ! 亜門さン!」

 

 語尾が少し裏返っていたのに、俺は少しだけ苦笑いが浮かんだ。

 と、ここで俺は疑問に思う。

 

「……? この編成だと、ひょっとして俺は篠原さんと組むことになるんですか?」

「あー、いやいや。真戸の見舞の時に言ったろ? ちょっと手のかかる奴が居てさ。俺はそっちに手が回ってる感じだ。

 制度的なこともあって中々組ませられる奴がいなくて、向こうでも今てんやわんやだ。まあ、しばらくは俺の方と一緒になるけど、しばらく待っててちょ」

 

 少し手を合わせて頭を下げる篠原さんに、はい、と俺は応じた。

 応じはしたが、本心では少しばかり残念だった。

 

「さて、これから忙しくなるぞー? 全体会議で情報は聞いていると思うが、11区だ」

「派遣されていた本部捜査官が『全滅』したと聞いています」

「そうそう。混乱を押さえる為に情報は押さえてるけど、事実上11区で闘えるのはほとんど残ってない。追加で派遣して区民を守っているが、切迫している。

 そして――11区を中心に9、10、12区でも『捜査官殺し』が行われてる」

「……しかし、何故20区が?」

「捜査官殺しに準じることがあった、というのもあるけど、一番は個体レベルでのレート判定だろうさ。まあそれでも、他に比べれば派遣者は少ないには少ないんだよ」

 

 ここはとにかく、単独で危ないのが多い、と篠原さん。

 

「さかのぼれば梟、黒犬に魔猿。最近じゃ美食家やSSレートの大喰いに、ラビット。それに実は、ジェイソンの目撃情報もあったくらいだ」

「ジェイソンの……!」

 

 人間に対して拷問を楽しんでいる喰種である、ジェイソン。丸出さん曰くとびきりのクズ野郎とのことだが、それもまさかここの区で?

 

「下三つが今のところ危ないから、ここ上じゃん? で、上下から挟み込まれると危険度がドっと上がるから、保険ってのもかねて一応ね。情報だけで牽制になる場合も多い、というのも、少しはあるかもしれないけど」

「そうですか」

「うん。で、滝澤、亜門。ここまでの話で、何か気付いたことはあるか?」

 

 彼の言葉に、不意に真戸さんとの話し合いが過ぎる。その話と今回のこれとではベクトルが異なるものの、俺は二つに共通したある部分を理解していた。

 

 いまいち何かを察しきれて居ない政道に代わり、俺が口を開いた。

 

「――組織化された喰種集団が、CCGを潰そうとしている?」

「あ……!」

 

「ま、そういうことだろうね。……奴等は俺達が壊滅した後、東京をどうしたいんだろうねぇ」

 

 遠い目をしながら言う篠原さんに、俺はあえて断言する。

 

「……決してさせません。

 ここは、我々人間の場所です」

「だな」

 

 俺達のそのやりとりに、政道は「自分、なんか燃えてきました!」と目を輝かせていた。法寺さんも篠原さんも、俺もこれには少し眩しい思いをする。

 

「とりあえず今後の方針としては、私らの方は美食家、大喰いの捜査を中心に行う。

 亜門は引き続き支部全体と協力して、ラビットを探せ」

「真戸さんの、ある意味弔い合戦です。気を引き締めて行きましょう」

「まあ、こんなこと言ったら『勝手に殺さないでくれるか』と言われそうだけどね」

 

 ははは、と笑いながらも、二人の目には熱が灯っていた。

 

「じゃあ早速、明日から捜査班の編成について……、おっと失礼」

 

 篠原さんが突然電話を手にとり、話をはじめる。しきりに恐縮する様は、どこかアカデミーで教鞭をとっていた時の彼を思わせた。

 

「あれは一体……?」

「あー、まーたジューゾーか」

「じゅ……?」

「問題児ですよ亜門さん。簡単に言うと」

 

 その言葉で、おそらく政道の言ったそのジューゾーが、今の篠原さんのパートナーなんだろうと理解した。

 

 

 

   ※

 

 

 

「だから僕ずっと言ってるんですからね。絶対間違ってないんですからね」

「はいはいわかったわかった。本当か嘘かはすぐわかる事だから」

「たくぅ。手帳なくしただけで掴まるのはやっぱり獲物が小さすぎるからなんですよ。確かに使いやすいですけど、これじゃ本末転倒ですよぅ」

「あー、もうわかったって五月蝿いな君……」

「僕もそうですけど、あなたもイライラしてますねー。疲労回復にはチョコがいいそうですよ、食べます? じゃなきゃ、このカルシウム入りビスケットとか。ちゃんと個別包装なんで安心してくださいよー」

「あ? あー ……、受け取れないんだよそういうのは」

「難儀なお仕事ですねー」

「大きなお世話だッ」

 

「あの~ ……、先ほどの篠原です。ウチのがお世話になってると」

 

 篠原さんがCCGの手帳を見せながら、交番に入って行く。

 それを見て、中年の巡査は驚いた顔をした。

 

「あ、ら、本当に」

「だから言ってるでしょ。ほらほら、食べましょうよー」

「どっちにしても規定違反になるからなぁ」

「じゃあ冷蔵庫入れておきますです」

 

 そう言いながら、巡査の椅子に座らせられていた、白い少年は……、少年? は、巡査が止める間もなく靴を脱いで奥の生活スペースに上がりこんでいった。

 

「すみません、まさか本当にCCGの方だったとは……」

「いえいえ、そっちの判断は間違ってないと思いますよ。あれじゃ只の不審者ですからね」

「いや、容姿もそうなんですけど、血だらけのナイフ持ってて、おまけに『僕は喰種捜査官だー』なんて言うから……」

「僕より若い捜査官だって居たと思いますよ、昔は確か」

 

 そう言いながら、顔色の悪い白い少年(こうして見ると少女のようにも見える)はよたよたと歩いて来た。俺の感想はと言えば、こいつが捜査官? というものだ。

 

 篠原さんが軽くアイアンクローをしながら、どこで何をやっていたのかを聞いていた。

 

お犬(ヽヽ)の散歩してたら落しもの拾って、ぶらぶらしてたら襲わたんですよ。

 だからやっぱり、変形しないクインケだと説得力が低いんですってばー。僕専用のが欲しいんですってー」

「まーた持ち出したのか、全く……。我がまま言うんじゃないっ」

 

 ぽかっと軽く殴られて、うう、と頭を押さえる。見た目や挙動は完全に少年のものだ。

 

 やれやれと頭を振る巡査に、少年は笑顔で近づいた。

 

「だから言ったじゃないですかー。謝ってくださいよぅ一応」

「いや、こっちも悪かったけどね? でも紛らわしいでしょう。国の人間なら相応に、信用される振る舞いをした方が――ッ」

 

 だが、それ以上彼の言葉が続くことはなかった。

 

 彼の口に、棒キャンディーがラベルを向かれて突っ込まれたからだ。突然の事態に口を塞ぎ、身動きがとれない彼と、俺達。

 

 それを行った彼の眼は、挙動に反して妙に真っ黒な目で。

 得物がキャンディでなくナイフだったなら、それこそ一撃で彼は殺されていたことだろう。

 

「お耳が遠いですか? 僕は気にしない大人ですけど、相手は見て言った方がいいですよー。喰種なら反証する暇もなく死ぬでしょうし」

「う、う……っ」

「あ、チョコレートはいくつか入れてあるんで、暇な時に食べてくださぁーい」

 

 ではお仕事お疲れさまでーす、と両手を上げて、彼は巡査から離れる。

 机の上にあった、複数のナイフ型クインケの装填されたポーチを腰に巻き、足元にあったアタッシュケース――「真っ黒な」クインケを起動させる。

 

 しかし、クインケはどうしてか姿を変化させなかった。

 

「優しくならないと、お犬(ヽヽ)が懐いてくれないですけど、嫌われちゃいましたかー?」

「さあてね。はぁ……」

 

 巡査に謝り倒す篠原さんに背を向け、彼は俺の方を見た。

 

「ありゃ、ひょっとして亜門さんですかぁ?

 篠原さんの下っ端の、鈴屋什造でーす。三等でーす、よろしくお願いしますです」

 

 いや大きいですねーと笑いながら、彼は俺の周りを回る。

 何度思っても、この状況は何なんだという思考がぐるぐると俺の頭の中を回るが。まるで正気を取り戻すように、俺は思わず言った。

  

「……挨拶するのは良いが、何だそのだらしない格好は」

「ええ!? ショックです、僕変でしょうか亜門イットー」

「変じゃないところの方が少ないだろ! スーツ! ボタンは第一まで止めて、ネクタイ! ズボンは足首まで隠れるものを履け、あと職務中の相手に食べ物を強要してやるな!」

「さ、差し入れのつもりでしたですのにぃ」

 

 言葉がおかしなことになっているが、勢いがついたためか俺は止まらない。

 

「大体、何だその縫合跡。怪我してる訳でもないんだろう?」

「あー、ボディステッチですよ。おまじなです」

「ぼ、ボディ……?」

 

 困惑する俺を前に、彼は得意げに糸と針を取り出した。

 

「糸ピアスですねー。お友達に教わったんです。ほらほらこうやって」

「!」

 

 鈴屋は何一つ躊躇いなく、針を自分の皮膚に刺して貫通させ、糸を通す。

 そのまま慣れた手つきでくいくいと、糸を体に通して行く。

 

「針は殺菌してあるんで、病気は心配しないんです」

「いや、止め……ッ」

「色の付いたやつだと結構キレーなんですが、針と糸だけでお手軽にできるんですよ。ほら、キンモクセー!」

 

 ぱっと、自分の左手に出来た花を俺に見せびらかす彼。そして楽しそうに、糸切り鋏で切断。

 

「簡単にやり直しもできるんで、重宝してますよー」

「……」

 

 俺ははっきりと認識した。

 こいつは、まともじゃない。

 

 

 

 

 




什造が勝手に持って行った起動しなかったクインケは篠原さんのです、と言うとなんとなく正体がわかるかもしれません。正式登場はもうちょっと先なんです;
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