仮面ライダーハイセ   作:黒兎可

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#030 先行/追落/排都

 

 

 

 

 作戦が開始されてから、既に三時間近く。

 

「……何でCCGが撃ち負けてるんだ、あぁ?」

「敵は11区の支部から奪った『盾』と『弾丸』があるからッスよ。パネェ……」

「そうじゃねぇんだよ! 何で撃ち負けてるか聞いてるんだッ!」

「そ、そりゃ、敵側にゃ元傭兵の『スコープ』も取り込まれてますから! 射撃の腕もかなり立つんでしょう!?」

「確かに戦場じゃ死体(メシ)にゃ困らないだろうがなぁ……。

 たく、他のヤローに技術仕込んだのはそいつだなオィ」

 

 ベース車からそんな会話をしながら、丸出さん達が出てくる。

 

 俺達は後方で、攻めあぐねている膠着状態が動くことを待っていた。

 

「なーんで動かないんですかぁ? こんな暇ならまさみちと一緒に遊んでた方が気が楽でした~」

「……本人の前で言うなよ。

 現状は、攻められないから、だ」

 

 俺は退屈そうにする鈴屋に説明する。クインケの要領で作られた盾と、コーティングされた「Qバレット」という弾丸。こちらの狙撃が通らず、また向こうの狙撃がある程度通っている現状では、何か大きな動きでもないと攻めきることが出来ない。

 

「だったら後ろから回ればいいじゃないとですか~」

「伏兵が潜んでるリスクもあり、おまけに海だ。迂回しようにも手前がこの森の有様だし、そう簡単に事は運ばない」

「加えてクインケとQバレットじゃ、威力でも持続性でも断然前者の方が良いってこと。

 有馬でも居れば状況は劇的に変わるんだけどなぁ、全く……」

 

 篠原さんは愚痴を言いながらも、足元で「鈍い色をした犬」のような何かの顎を撫ぜていた。なるほど、確かに犬だ。顔面にあたる箇所には目がなく、マスクのような装甲のようなもので構成されている。手足もよく見れば筋繊維のようなものがむき出しで集っており、なるほど確かに元は赫子なのだろう。

 

 それが行儀良く「おすわり」をし、篠原さんの指示を待っているというのが不思議な光景だった。

 

 ……そして何故か起動時、本物の犬のように俺にまとわりついて来たことが果てしなく謎だった。

 

「なんかおもちゃとかないですかねー、退屈にならないやつ~」

「あまり遠くに行くなよ、突入の際に遅れる」

「わっかりましたです~」

 

 鈴屋はそう言いながら、周辺の部隊の様子を歩いて確認。

 丁度そんなタイミングで、篠原さんに話しかける人が一人。

 

「篠原」

「いわっちょ。前の方どうなってる?」

「見た通り膠着状態だ。丸出も青筋立て始めてる。

 別ルートの突入も検討はしているが、やはり焦れているな。指揮官殿は戦車まで出せと言っておる」

「喰種が人間の武器使うっていうのに対する皮肉かな、それ」

 

 篠原さんより背は低いが、体格はより強固。目はぱっちりとしていて、見つめられるだけで妙に気圧される。

 彼は黒磐(くろいわ) (いわお)。本作戦の副指揮官を努める特等だった。

 

「で、我等が指揮官殿は前に出ていって何をするんかねぇ……」

「ありゃまたハゲるぞ。すんごい顔をしておった」

 

 と、そうこうしている間に丸出さんが狙撃班の一人から銃を手に取り、乱暴に発砲!

 

 すぐさまそれが、何らラグも乱れもなく狙撃している喰種数体の眉間に、易々とヒットした。前線から引いてしばらく経っているが、やはり腕は確かということだろう。

 

「おいテメーら! 祭りの的屋じゃねンだぞ!

 さっさとあの陰険な狙撃部隊ぶっ殺せ!」

 

 篠原さんと黒磐特等は、ともに「荒れてるな」「うむ」と頷きあった。

 

「流石ですね、丸出さん」

「あれでも真戸と一緒に作戦したこともあんだぞ。相性は悪かったが連携は充分出来てたしな」

「主張の違いくらい能力でカバーできるのは稀有か」

 

 俺達が狙撃班の動きを観察しながらそんなことを話していると。不意に、丸出さんが笑顔のまま、ある方向を見て固まった。

 

 その先には、鈴屋が居た。

 ヤツはバイクのアクセルを鳴らしていた。

 

「いわっちょ、あれ丸出のだよね」

「だな」

「……後で差し入れ何かやろう」

 

「どいてくださーい」

 

 アクセルのエンジン音が、ガンガンに鳴り響く。

 この時点で、俺と篠原さんとの顔色は悪くなった。

 

「――おいおい! おいおいおいおいぃぃッ!!?

 待てちょっと、おいゴラァァァ!」

 

 そう叫びながら丸出さんがバイクの背もたれを掴み走った。

 

「ちょ、おいマル! 手ぇ離せ、ケガすんぞ馬鹿!」

「バカはコイツだ、何俺の愛車を――おおおおおおぉぉ!!? !? !?」

 

 そしてヤツは、丸出さんの静止を振り切って。

 

 勢いを付けて前輪を振り上げ、フェンスをよじ登り上空へ。

 

 

 

「リアルでっていう~!」

「おまあああああああああああああああああああ――ッ」

 

 

 

 叫ぶ丸出さんの声に、涙が滲む。

 

 そのまま鈴屋はバイクの座席を空中で蹴飛ばし、二段ジャンプをして狙撃者たちの居る場所へ。

 銃撃を繰り出しつつ、数秒も掛らず奴は、前線を動かした。

 

 

「入ってどぞです~♪」

 

「~~~~~~ッ、とつげェェェェェェェェェッき!!!!!」

 

 

 篠原さん達が「魂の叫びだな」「うむ」と言いつつ、準備を始めた。

 

 なんてやつだ。余りに滅茶苦茶すぎて、俺でさえ思わず笑いが零れる。

 有馬さんが二等だった時代も、こんな風だったのだろうか。

 

「鈴屋テメェ、何がなんでもホシ上げろよゴラアアアアアアアアアアア!

 狙撃班はクインケもちから離れるなよ、スマートに片付けるんだ、いいなァ!」

 

 おんおん泣きながら指示を出す丸出さんに同情の視線が集るが、それでも誰一人として状況を甘くは見て居ない。

 俺は真戸さんから送られたクインケを背負い、全体に続いて走った。

 

 

 内部は連戦だ。連戦、連戦、また連戦。

 共通の仮面を付けた喰種たち。一部は狙撃が面を割りダメージを入れるが、フードやマントは対策がしてあるのかダメージが通り難い。

 

 気を抜けばそれだけで首が落ち、胴体に風穴が開く。

 

 そんな中を、俺達はひたすらに走りぬける。

 

 

「手数は引き受ける。はぁああああ――ッ!」

『――リコンストラクション!

 エメリオ! フル・シューティング!』

 

 独特な形状をした銃型のクインケが、発光しながら電子音を鳴らす。

 形状が膨れ上がったようになり、ガトリングのように銃口が変化。そのまま雨あられのごとく弾丸を射出し、周辺一帯を薙ぎ払う。

 

 短い髪に、いっそ雄雄しいほど決意に満ちた目。

 彼女は五里二等だったか。武装は羽赫ベースだろう。

 

 俺もクインケの制御装置を取りつけ、起動させる。

 

『――クラ・スマッシャー!』

 

「へ 、このタイミングで準備とは余裕が――」

「……」

 

 俺の準備に合わせて襲ってきた喰種を、背後から軽々切り裂くは平子上等。汗一つかかず表情一つ変えない動きは、まさに有馬さん仕込と言えるかもしれない。

 

 他の捜査官たちがクインケで前線を切り開く中、俺はそこから少し外れ、注意のそれている喰種たちの頭部を、根こそぎ「薙ぎ払った」。

 

 細いバットのような形を持つこのクラ。

 

 ごろごろと転がる頭部を見て、周囲の喰種たちは警戒して距離をとる。

 

「篠原さん、次の棟に向かいましょう! ……鈴屋は?」

「連絡とれないね、これ……」

 

 相変わらず予想がつかない。とんでもないやつだと思いながらも、しかし下手に連携がとれないと、ヤツの場合はもっと危険な可能性もあるかと思い直した。

 

 そんなタイミングで通信が入る。

 

「ん、どうしたそっちは――」

『――だ、誰か来てくれ!? う、兎の黒いマスクの――うあああああああああああ!』

「おい! しっかりしろ、聞いてるかオイ!?」

 

 俺にも聞こえたその通信は、少なからずこちらの心情を揺さぶる情報だった。

 

 兎、ラビットか? ヤツがここに? 

 

「亜門、悪いが――」

「……わかっています。眼前に出てくればその限りではありませんが」

 

 態度はどうであれ、思考は冷静に敵を廃除すべく考えるべし。

 真戸さんの言葉を思い出しつつ、俺は深呼吸。思考を整え、次の戦闘に備える。

 

 

 

   ※

 

 

 

『どうしたの? そんな顔して。

 クスクス、可愛い♪』

 

 リゼさんは僕の頬を撫ぜて、楽しそうに引っ張ったりする。

 

『あなた、髪綺麗ね。伸びたし、白いし。イメチェンにしては悲壮すぎるけど』

「リゼ、さん――何でッ」

『何でも何も、私はずっと貴方といるじゃない』

 

 そう言いながら、彼女は僕の腹の当りに軽く手を当てた。

 その時点で、僕は彼女が何なのかに気付いた。

 

「……幻覚?」

『あるいは悪夢かしら。まあ、全部が全部夢って訳でもないんだけど』

「どういう意味ですか?」

『自覚ないみたいだから言うけど、貴方、私の記憶も少し「混じってる」みたいよ?』

 

 リゼさんはそう言って、くすくすと笑う。

 不意に思い出すのは、テレビのドキュメンタリーで臓器移植を受けた相手が、元の臓器の持ち主の知識や記憶を発現させたりする話を。

 

『優しくされたかった? ん~、してあげても良いけど、それが欲しいなら私なんて呼ばないわよね』

 

 ちょっと失礼して、と言いながら彼女は僕の背後に回り、首に手をかけて軽く抱きしめた。

 不思議と、漂う臭いは母さんを連想した。

 

『何、話くらいは聞いてあげるわよ? 「弱くて」「可愛い」研くん?』

「……僕は」

『「傷つけるより傷つけられる人になりなさい」だったかしら。その生き方の結果お母さんが死んで、それが嫌で、だから手を差し伸べたいって思って。

 傷つけられるだけじゃ駄目だから、なお誰かを助けたいだなんてそんなの――滑稽ね』

 

 リゼさんの言葉に、僕は苦笑いが浮かんだ。

 

「……自覚はありますよ。道化だって、茶番だって。でも、それが性分ですから――」

『――本当の貴方はもっと暴力的で、苛烈で、口汚くて素敵なはずよ?』

「そんなはず、ないじゃないですか」

『そうよね。だって――そっちの方が、都合が良いから』

 

 楽しそうに、あるいは嫌らしく僕を笑う彼女に、反応が上手く返せなかった。

 

『ねえ、お母さんってどんな人だったの?』

 

 幻覚のせいなのか、僕の両腕は自由に解けていて。

 でも、さっと手を重ねてくるリゼさんのそれを、解くことが出来なかった。

 

 少しだけ顎を撫でつつ、僕は言った。

 

「……優しい人だったよ。お仕事の間に、一つ一つ僕の分からない字を教えてくれたり。いっつも僕らのために、頑張って、頑張って」

『でも、寂しかった?』

「……よく、父さんの部屋で本を読んでたかな。書斎があってさ。どんな人かもわからなくても、でも、その周りの本があるだけで、少しはお父さんがわかったように、思ってた」

 

 本当に立派な人だった。お父さんが死んでても、仕事もして、家事もこなして。嫌な顔一つせず。

 

「……って、聞いてます?」

『研くんこそ、ちゃんと(ヽヽヽヽ)話してる?』

 

 毛先をいじりながら意地悪に微笑む彼女が、何を言おうとしているのかを、僕は「否定していた」。

 

「本当、僕の自慢の、大好きなお母さんだった」

 

 ――損をしたっていい。優しい人は、それだけで幸せなんだから。

 

 母さんのその言葉に、それだけで救われる気がした。母さんの作ったハンバーグが、とても安心できた。

 

『どうしてそんな「言葉」に、救われなきゃならなかったのかしらねぇ』

「……?」

『ふぅん。じゃあ――どうして、死んじゃったの?』

「……過労、だった。働きすぎだった」

『どうして?』

「それは……」

 

 リゼさんは僕の頭を抱きしめ、ゆっくりと、囁くように言った。

 

怒らないから(ヽヽヽヽヽヽ)、ちゃんと話して?』

「……母さんの、お姉さんの」

『うん』

「伯母さんが、よく家に来てた」

 

 今、戸籍上は僕の保護者となっている伯母さん。

 

 当時、伯母さんは母さんへお金の無心に来ていた。子供の学費に始まり、冷蔵庫とか、もっと身近なものまで。段々段々、頼むことに関するハードルは下がっていって、でも、お母さんは放って置けなかったんだろう。

 伯母さんの旦那さんが仕事を失って借金を作っても。

 

 母さんの負担は、日に日に大きく増えていった。

 母さんが休む時間を、僕は一度も目にしなかった。

 

『丁度その頃みたいね』

「その頃?」

『お母さんが休む時間なんてなかったんでしょう? それってつまり――』

 

 リゼさんの言葉を、僕は「拒否する」。

 

『ねぇ? 可愛い可愛い、研くん?

 お母さんが死んでから――どうだったの?』

「……」

 

 僕を引き取ると言ったのは伯母だった。せめてもの罪滅ぼしと言って引き取られた先。

 嬉しかったから、だから僕は、彼等の家族になりたいと、一生懸命がんばった。褒められれば嬉しかった。だから沢山頑張った。

 

 でも――僕に、居場所なんて初めからなかった。

 

「伯母さんは、結局、自分の妹と比べてたんだ。だから、僕と優一くんを比べてたんだ。

 そんなことしなくても――ただ無条件に愛されるだけで、子供は幸せなのに」

『誰も、研くんを見なかったのねぇ』

 

 僕の家族は、何があっても、どうであっても、亡くなった父さんと母さんだけだった。

 

『だから、永近君が心の支えだった』

「……友達が多く作れなかったから、下らない話をするでも、何をするんでも、ヒデが居たから」

 

 ただただ一緒に居て、バカやって、ずっとずっと一緒に成長してきて。

 その距離感が、どれだけ大事だったことだろう。その時間が、どれだけ僕を救ったことだろう。

 

「彼女とも、長続き全然できなかったし」

『……そう言われると、妬けるわねぇ』

「……え?」

『思えば、生まれが悪かったのよねぇ、(わたし)

 

 意味の分からないことを言ってから、彼女は僕から離れる。

 

『ねぇ、研くん? でも貴方、今のままじゃ――きっと皆、なくすわよ?

 自分の力不足のせいで』

「……」

 

 じゃ、また後でねと言って、彼女は姿を消す。

 

 気が付けば視界も身体の感覚も戻っていて、僕はそのまま。

 

 

 

 そして目隠しのように巻かれた押さえをとられて――目の前の光景に僕は、激情のまま叫んだ。

 

 

 

 

 

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