仮面ライダーハイセ   作:黒兎可

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#032 遭遇/赫者/覚者

 

 

 

 

 

「鈴屋と言ったか。あの若者、ジェイソンと会わなければ良いが……」

「黒磐特等……。特等は、13区担当でしたね」

 

 俺は走りながら、特等の言葉を耳にし確認をとる。

 うむ、と頷いて、彼は言った。

 

「”喰種”が増えれば、その地区では”喰種”同士での共食いが増える。どういう訳かそうなっちょる」

「共食い……」

「13区とて例外ではない。

 共食い嗜好の喰種は稀だが、通常の赫子に加え新たな赫胞が『体内で形成』され、混じり、『身に纏うような鎧』のような赫子を扱う者が出てくる……。

 便宜上、我々は『覚者』とかけ、『赫者』と呼んでいる。

 通常の喰種とは別次元の強さを持ち、とてもじゃないが手に追えない……」

 

 黒磐特等は、少しだけ上向きに声を上げた。

 

「しかし、名は体を現すか」

「喰種、だもんね。お互いさえ捕食の対象ってのは、ちょっと哀れだわなー」

 

 篠原さんが同意し、頷いた。

 俺は、ふと思い出しながら確認した。

 

「篠原さんは、以前に戦ったことが?」

「よく覚えてるな。アカデミーん時にちょっと話したか。

 ……十年くらい前のことだ。今でもよく覚えてる」

 

 当時の部隊は、真戸さんと篠原さんのコンビに上司の伊庭さん。

 加えて丸出特等のチームに、二等だった頃の有馬さん。

 

「今でも有馬の武勇伝として語り尽くされてるけど……。対フクロウ戦がそれだ」

「梟……ッ」

「SSS級とかいう頭のおかしなレベルの危険度。ヤツは赫者だった。みんなかなりヤられてね……。三度目か、その時はいわっちょも大変だったよ」

「うむ。まあ、有馬のお陰でどうにかなったが」

 

 聞けばなんと、有馬さんはクインケを使い捨てのごとく戦い、敵に致命傷を与える事に成功したと言う。

 

「いくら什造が強くても、いきなりそこまでのと戦うのはちょっと危ないというかなぁ」

「有馬も、実践でいくらか経験を積んだ上でだったからな。今ならIXAを使って変身(ヽヽ)すれば事情も違うが」

 

 

 

 そうこうして強行しているうちに、丸出特等からの連絡が入る。

 

「1~2棟は概ね制圧、この3棟も間もなくといったところか。

 ……ここ終わったら、他のところに部隊回した方が良いんじゃないか?」

「Bレート前後しか遭遇しちょらんからの」

「ジェイソンはそうすると向こうかもなぁ……。シッポブラザーズも見かけないし」

「美郷! 『エメリオ』をリコンストラクション(クインケの必殺技モード)しておったが、まだ持つか?」

「予備弾装は充分に」

 

 俺は、五里二等のクインケを見る。射撃の特性からして「羽赫」のクインケか。集団戦だと中、長距離の援護は必須か。燃料切れが早いのが球に瑕だが。

 

 とそんなことを考えて居ると、彼女がぎりっとこちらを睨む。

 

「何を見ている、亜門鋼太朗! ジロジロ見るな!」

 

 それだけ言って、さっと顔を逸らす彼女に、思わず「悪い」と謝りながら、クラの調子を見る。

 

 流石に真戸さんがチューニングに口を出したと言うだけあって(地行博士がそう言っていた)、使い勝手は申し分なしというところか。

 

「ここを抜ければ次で最後だ。行くぞ――ぬぅ?

 止まれい!!」

 

 と、黒磐特等が足を止める。

 それに続き、俺達も彼の視線の先を見た。

 

 

 

 広い部屋。周辺に比べればくらか頑丈か。 

 その出入り口の場所で、フードを被った男が一人。

 

 

 

 男、いや喰種の顔は見えない。顔の上半を被う、何かの鳥を連想させる仮面を付けている。

 

「な~んでこんな所で出ちゃうかなぁ」

「篠原さん?」

 

 俺の言葉に、篠原さんは頭を左右に振り。

 

 

「ヤツだ――」

 

 

 ほぼそれを言った瞬間、フードの喰種は左手を突き出し、軽く握り。

 

 

「ライダー、変身――」

『――()(カク)ッ! 赫者(オーバー)!』

 

 

 左手を腰のあたりで叩き落し、奴は、「変身」した。

 

 

 

 

「――”隻眼の梟”、だ」

 

 

 

 

 その宣言と、目の前に現れた仮面の喰種と――その喰種が腰に付けてた「もの」に、身体が固まった。

 

 梟? あれが、真戸さんの言っていた?

 いや、それ以上にあのベルトは――。

 

 俺の脳裏に、眼帯の喰種と、幼少期のかすかな記憶の「仮面ライダー」が重なる。

 

 

 

 

『久しぶり、と言うべきかな。アリマくんは居ないのかね? シノハラ特等。

 悪いがこちらも時間を押しているのでね。先に行かせる訳にはいかない』

 

 低い声で、こちらを見定めるように話かける梟。その声は、酷く冷静なものだった。

 

『――ライダースパーク』

 

 それと同時に赫子が光り、梟の周囲に弾丸のごとく赫子の結晶が出現。

 それらが回転し、部屋中、俺達だろうが床だろうが壁だろうが関係なく射出された。

 

「散開! 後方に寄れ!」

 

 黒磐特等の声に複数の捜査官が応じる。五里二等は射撃で応じようとするが、一発の弾の大きさの桁が違う。

 

 それでもぎりぎりで交わせるのは、しかしどういったことだろう。

 

『寄らば、斬る。離れれば撃つ。逃げるのならば追いはしない』

「ほざけ! 俺の懐の足しにしてくれる!」『――ロク・1/3(ア・サード)!』

 

 田井中上等の二股の槍が向かう。が、梟はそれを赫子の下の片手で受け止める。

 

『ライダーパンチ』

 

 そして、その手に赫子を数本纏わせ、一撃。

 壁にヒビが入るほどの威力でたたき付けられ、動かなくなった。息はしているようだが、とてもこれ以上戦える状態ではない。

 

「……マル、まずいよ。梟だ」

『――梟だ? ……間違いないんだな』

 

 丸出さんは通信機越しにしばらく押し黙る。

 そうしてる間にも梟は捜査官に向かって攻撃を仕掛けていた。

 

『――篠原ァ! 「死んでも良い優秀なヤツ」以外は別に向かわせろ。

 お前等「アラタ組」で勝てないなら誰も敵いはしねぇ。最小限の被害で挑め』

「……りょーかい。チノムツ! みんな連れて7に行ってくれ。

 あとヒラといわっちょ、頼む」

「うむ! 13区担当の上等以上は残れ!「「「「「はい!」」」」」」

 

 黒磐特等の言葉に、五里二等が私もと言うが、他の部隊に回される。この場において梟のそれに威力で対抗できない以上、他の場所で活躍させた方が適確ということか。

 

 そして、篠原さんが言う。

 

「亜門、お前もだ」

「――! 何故ですか、俺も――」

「上官命令だぜぃ?」

 

 少しだけ笑いながら言う篠原さんに、俺は、真戸さんの震える手を思い出し――。

 

「――俺はもう、真戸さんのような、あんな人を生み出したくない!

 俺も戦わせてください!」

 

 篠原さんは顎を引っ掻き、困ったように笑った。

 

「アカデミーん頃の、イガグリ坊主の頃から何も変わってねぇな……。

 おい、ちょっとこっち来い!」

「は――」

 

 そして、一撃頬を殴られる。

 

「――喰種捜査官の仕事を思い出せ。あと、俺らナメんな。

 お前は、簡単に死なれちゃ困る優秀なヤツだ。真戸が手放しに賞賛するくらいのな」

「…………ッ」

 

 

 

『おしゃべりは終わったかね?』

 

 

 

 梟がこちらに声をかける。篠原さん達が話している間、距離が開いたからか梟はこちらに手を出してはこなかった。

 

「や、待たせたね。でも以外と律儀だよね、君」

『今、必要でないというだけだ』

「あー、そう? じゃ、俺らも準備しますか――」

「うむ」

 

 そう言いながら、篠原さんと黒磐特等は、腰に装着された――独特な形状の、黒いバックルのハンドルを、両サイドに開き。

 

 

「変――身ッ!」「――変身ッ!」

『――ッ』

 

 

 クインケの制御装置、赫眼が埋め込まれたそれを右手に構え。

 黒磐特等は自分の顔の左側に一瞬構え。篠原さんは自分の体の右横に腕を伸ばし――両者ともその腕を胴体の前で一回転させ、ベルトに装填。

 

 そして、それぞれ左手と右手で、ハンドルを閉じた。

 

 

『――アラタ・1号(イチゴウ)! リンクアップ!』

『――アラタ・2号(ニゴウ)! リンクアップ!』

 

 

 電子音と共に、この場に現れる両者のクインケ。

 篠原さんのそれは、ここまで連れて着ていた犬型のもの。黒磐特等のものは、大型の猛禽類のようなそれ。

 

 両者がそれぞれバラバラに展開し、二人の身体を包みこむ。

 

 

『……そうか。”レッドエッジドライバー”か』

 

 

 

 クインケの鎧を装備した二人は、単体で見ても異形の甲冑に身を包んでいると言うべきか。

 

 

 

「――散れ!」

 

 

 

 篠原さんのその掛け声を聞き、各々が動き出す。

 去り際、ちらりと視界の端に入った梟は。自分のベルトを撫でていた。

 

 その姿が、どこか悲しげに見えたのは、おそらく俺の錯覚だろう。

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 

『――聞こえるかい? カネキくん』

 

 

 

 ヤモリが僕に話しかける。 

 声がくぐもっているから、きっとまたホッケーマスクを被っているのだろう。

 

 彼のいう様に、色々なところで音が響いている。悲鳴だったり爆発音だったりというのが、本棟から離れているここにさえ響いているのだ。ということは、敵は自ずとしれる。ここまで大規模に対抗するのは――。

 

『ここに今、白鳩がガンガン攻めて来てるんだ。

 ”この場”で俺達がヤツらを引き付けるのが、俺たちのお仕事だ』

「……」

『……迷信や噂を君は信じるかい?』

 

 どこかやさしげな声で、僕に近づきながらヤモリは言う。

 

『こんな話を、拷問されてる時に聞いたんだ。「共食い」すれば”喰種”の血が強まるって。

 当時は本当、生きる事に苦労していたからねぇ。せっかく「覚り」を開いたっていうのに、仕方なかったんだけどね。で、その話を思い出して試してみたんだ。そしたら――』

 

 ぱきり、と指を鳴らすいつもの音が聞こえた。

 

『――赫子が研ぎ澄まされるんだよ。そのお陰か、今じゃ13区でも敵なしになった。

 だから、俺はこの酷い迷信は真実だと思ってる』

 

 

 きっと、俺達は奪い合うように作られてるんだよ。

 

 

『本当、こう思った時に喰種は救いがないなって思った。他人から奪って、奪われてってのを繰り返してな。

 ……初めて君を見た時から、俺は思ってたんだ。君は俺と一緒だ。昔の俺と。どんなに楽しくっても、内側が空っぽなんだ。どんなに愛しく思っても、所詮は自分以外見えていないんだ。どんなに勇気を振り絞っても、結局只の臆病風でしかないんだって。

 だから、君にも身に付けて欲しかった。

 決断する強さを。理不尽を前に立ち向かう怒り(パワー)を』

 

 マスクを外して、彼はすごく悲しそうな声になった。

 

「でも、どうやら駄目だ。君は俺にはなれない。

 だからせめて――俺の中で生きてくれ」

 

 いただきます、と手を合わせるヤモリ。

 

「――すみません」

 

 

 

 僕は――。ヤモリの頬にかじりつき、抉った。

 

 

 

「……な?」

 

 

 最初、ヤモリは意味がわからないというような声をだした。

 僕は、口の中に入れた肉を咀嚼。味は、僕の肉と大差ない。不味い。とても食べられたものじゃない。

 

 でも、こうでもしないと今の、ドライバーと薬で弱められている僕は、力が足りない。

 

 手錠をされて後ろ手に縛られた腕に力を入れつつ、かがむ。そして椅子の足の部分に手錠の鎖を引っ掻けたまま壊し、僕は立ち上がり――。

 

 

 見上げたヤモリの顔は、どうしてか愉しそうに笑っていた。

 

 

 

「――遂にやりやがったね君いいいいいいぃぃぃぃッッ!」

 

 

 

 嬉しくて嬉しくて仕方ないというような声を出すヤモリ。

 

 僕は跳び上がり、ヤモリの首を鎖で締めた。

 そんな状況でも愉しそうに笑うこの男が、どうしてか僕には理解できない。

 

 

「あ、はは、でも、流石にここで、死ぬのは、まずい、なぁ――ッ!」

 

 

 そして自分の首を締めるそれを、鎖を断ち切り僕を投げ飛ばす。

 

 僕は、投げ出された先、転がったバケツの中から――僕から切り離されたそれらを、軽く幾つか摘み、頬張った。

 

 

「酷いなぁ、カネキくぅん。ニコに笑われちゃうじゃないかぁ」

「僕を食べようとしたんだから、逆に喰われたって、文句、ないよね?」

 

 まあ、答えは聞いてないですけど。

 

 指差す僕に、ヤモリは本当に、本当に愉しそうに爆笑した。

 

 

「それだよ、それだよカネキくぅぅぅん!

 その目だ! 何者にも侵されない、自分の領域を守る為に何でもかんでも一切合切排除するっていうその目――! ナキは性格的にそれは出来ないからやらなかったが、君なら! 君なら出来ると信じてい――」

「ごちゃごちゃ五月蝿いです」

 

 僕は走り、ヤモリの胴体に蹴りを入れようとする。

 でもそれを回避し、ヤモリは僕の首を掴んできた。

 

「あはは、負けん気が強いのも気に入った! でもいきなり先輩に手を挙げるのはいけないなぁ。

 ちょっと、新人教育だ――」

「いらないです」

 

 そう言って僕は、ヤモリの腕を足で絡め取る。以前やった動きに反応して、ヤモリは僕の足を掴んで笑った。

 

「どうするカネキくん! 折れるぞ、さぁ――」

 

 

「今更こんなので痛がりませんよ」

『――崩壊撃破(ブレイクバースト)!』

 

 

 変身していない状態だからか、体内のRc値が下げられている状態だからか。ベルトレバーの操作で僕は変身できずに拘束されていた。

 その状態で、あの時のようにレバーを二階落とすと、単にそれだけが電子音で叫ばれ。

 

 僕の掴まれてない右の足から、爆発するみたいに、血なのか赫子なのかわからないものが噴出した。

 

 

 回転しながら、そのままヤモリの即頭部をそれで抉る。

 

 愉しそうな顔をしながらも、しかし流石に痛いのか、表情を歪めて彼はぶっ飛ばされた。

 

 

 

 

『――アッハッハッハ! 研くんすごいじゃない、変身してないにしては!

 あの「おままごと坊や」もひっどい顔! あははははははははッ』

 

 僕の頭の中で、リゼさん大爆笑。

 今更ながらだけど、ひょっとして知り合いだったのかな?

 

『研くん襲う前に、私を捕まえるとか言って来てたかしら。

 ペンチ奪ってやったけどね、アハハハハハハ』

 

 なんだか、あんまり知りたくないような情報だった気がする。

 

 ヤモリが僕に執着していたのは、リゼさんの赫子と僕の気質だと言っていたけど、ひょっとしたらリゼさんそのものに対する意趣返しとかも、無意識にあったのかもしれない。

 

『で、どうするの?』

 

 僕はドライバーを解除して、外す。少なくともしばらく経たないと、赫子も本調子にはならない。抑制剤に加えて値を一定に保つという処置をされていたのだから、こちらだけでも外さないといけない。

 

 そういうロジックが一つ。

 そして、それとばまた別な感情論が一つ。

 

 

 折れた足をぐるりと、元の角度に調整。直るのにはもうしばらく時間がかかるかもしれないが、筋肉も喰種であるせいか、添え木なしでとりあえずは立てそうだ。

 

 

「――泣けるなぁ。痛いよカネキくん」

 

 叩きつけられた壁の向こう。立ち上がるヤモリに向かって、僕は笑う。

 その姿が、赫子に覆われて変貌していても。より異形に近い姿になって、どれほど恐ろしいものであったとしても。

 

 そして、僕とヤモリは右手の人差し指を同時に押さえ。

 

 

 

 

「――これは、なかなか大変な新人教育になりそうだッ!」

「――辞表って何処に出したら良いですかねぇ」

 

 

 

 

 同時に、指を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 

 意外と冷静というか、軽口が出てくる自分に驚いた。

 でも、頭の中は淡々と現状を分析している。

 

 敵は一人、僕よりは強大。僕自身は抑制剤の効果で赫子が上手く出せない。

 

 これだけでも、既にドライバーを使って戦うのが得策ではないということがわかる。

 

 加えて、何だあの姿は――。

 

『共食いの結果よ、研くん。まあ、あれは出来そこないだけど』

 

 出来そこない?

 

本物(ヽヽ)が言うんだから間違いないわよ。見て? あの喋り方――』

 

 

「うばう、うばう、うばううばう――おかあさあああああああああああああああああああああああん!」

 

 

 叫びながら、ヤモリは顔面と、右腕にまとった赫子をめきめきと膨張させる。

 

 

『全然制御できてないじゃない。あれじゃ駄目駄目ね。赫子の何たるかも全然わかってない。

 赫子は、想像力よ。イメージ勝負』

「?」

『出せるようになったら、「半分だけ」私に使わせて? そしたら、わかりやすく教えてあげるから。

 手とり足とり、ね♡』

 

 

 

「――ルールは大事だあああああああああああああッ!」

 

 

 叫びながら突進してくるヤモリ。

 僕はドライバーをバケツの中に一旦放り捨てて、跳ぶ。

 

 腕のそれが分岐して、ムチのように上空の僕に向かい。

 

 出来そこないのバク転でそれを交わしながら、どんどん後方へ。

 

 動きに合わせて、段々と身体の中の「何か」が循環していく感覚が蘇る。ここのところ座りっぱなしで、床ずれみたいなのも起こっていたけど、それさえもう足には見当たらない。

 

「――ちゃんと守らないとおおおおおおおおおおッ!」

 

 遅い掛ってくるヤモリの右腕。内側、懐に入り込んで、僕はヤモリの「腕を折る」。

 

 だがそれさえ、赫子に覆われている訳でもあるまいに、一秒と掛らず再生した。

 

「――悪ぃ子は潰れるぅぅぅぅ!」

 

 そして僕の方に赫子を回してくるタイミングで、さらに身体を捻り、ヤモリ自身の胴体へ導く。

 一撃、自分で自分の腹を貫通。

 

 だが、これも浅い。傷は深いにもかかわらず、ものともせず彼は僕の胴体を蹴り飛ばした。

 

 跳ね飛ばされた先は、ヤモリの方とは別の壁。ヒビが入り、背中が折れるような痛みに襲われる。

 

 

 

「……痛いなぁ。じゃあ、次は――」

 

 

 僕は、立ち上がり――背中の割れたような痛みと共に、外に「出てきた」それを、ちょっとだけ放棄する。

 すると不思議なことに、四本――かつては三本だったはずのそれらの先端は、まるで女性の細い手のように色も、形も変化し――。

 

 

「――「私たちの番よ(僕らの番)」」

 

 

 左のこめかみの辺りから、かつてリゼさんに見た、角のようなものが生えた。

 

 

 

   ※

  

 

 

「二人で一人の共同作業とか、激しくダサいけど、ま、仕方ないわねぇ……。(わたし)だったら小躍りしてそうだけど」

 

 相変わらず意味のわからないことを言うリゼさん。

 

 僕は再度、自分の赫子を見つめる。四本それぞれはクモのように関節が設けられていて、先端の手はまさにリゼさんのそれ。

 頭の角も鬱陶しいかと思いきや、案外その重さに違和感はなかった。

 

「使い方がいまいちわからないでしょうから、分かりやすくしてみたわ?」

「手足が、四本増えたって感覚も訳わからないですけどね」

「イメージは多少しやすいんじゃないかしら」

 

 僕の意志を受けるとうねうね動き出し、セルフじゃんけんぽんをはじめる四本。

 

 そして驚いたことに、リゼさんの声は「実体を伴って」現実世界の僕の耳に響いていた。

 

 

 彼女の声は、こめかみの角から発声されていた。

 

 

「だぁれの、だぁれ、だあ……?」

 

 ヤモリがリゼさんの声に反応してうめき声をあげる。

 リゼさんは、くつくつと嗤った。

 

「くす、でどうするの? 研くん」

「一撃が重い。近距離の殴り合いではたぶん勝てない。基本的なRc値が違いすぎる」

「うんうん」

「だから、最終的には『剥がし』ます」

 

 その前に、まず押さえつけないといけないけど。

 

 ぐーぱーを繰り返した上で、僕は走る。

 走る意志に合わせて、”手”が地面を押して、僕の胴体を浮かせた。

 

 勢い良く蹴りつける。案外俊敏に反応して、それを腕で押さえつけるヤモリ

 

 でも遅い。”手”は更に地面を押し、そのまま勢い良く僕らを壁に叩き付けた。

 

 そのままヤモリが再生して、体勢を立て直す前に手数で押し切る。トーカちゃんが月山さん相手にしたように、連続で。

 

 ”手”を三本”拳”にして、殴る。殴る。腕力の一撃じゃない。その一撃で表面が平らに潰れるのだから、それはもはや万力とかプレス機とかのそれだ。

 それを、再生できない速度で抜き差し。

 

「ぐ、ぅ、ああああああああああああああッ!」

 

 振り払うように叫ぶヤモリ。腕のしなる動きに合わせて、実際僕も引き。

 

 ”手”の一つにドライバーを握らせ、投げ、僕は勢い良くハンドスプリング。

 

 

 

 腕と”手”を使って、そのまま胴体に一撃。

 

 

 ヤモリの口から血が迸る。

 

「て、めぇ――」

 

 僕()は気にせず、そのままヤモリを投げ捨てる。

 そして飛びあがり、うつ伏せにした状態で彼の四肢に、手刀にした”手”を突き刺し。

 

 

「確か、こうでしたっけ」

 

 

 落ちて来たドライバーを彼の背の上に乗せ、起動させた。

 

 

 

「――ぃああああああああああああああああああああッ!」

「情けないわねぇ。研くんでさえ耐えられたというのに、赫者なりかけの貴方がそれって……。

 トラウマとか言ってたかしら。案外、コクリアでもこれ使って拷問されてたのかしらねぇ」

 

 

 アラタさんのクインケドライバーにより、ヤモリの赫子は体から剥がれ、抜け落ちる。

 

 びらびらに開いたそれは、どこか植物の茎や枝を思わせた。

 

 

 痛みに震えながら、涙を流しながら、でもヤモリは僕の方を振り向いて、笑った。

 

 

「か、んぱい、だよ――、君は、強者だ」

「なりたくてなるものじゃないですよ。きっと、そういうのって」

 

 がたがた震える彼に軽く答えつつ、僕はリゼさんと会話。

 

「わかった? 研くん。使い方」

「……本当に結構、自由なんですね」

「そうよ」

「じゃあ――こんなのも出来ましたか」

 

 彼女の微笑む声を聞きながら、不意に僕は、ある想像をしてみた。

 

 

 結果は、すぐに現れた。

 

 

 

 僕の背中から、べきべきと音を立て。でっぷりと長く、太く新しい赫子が出現する。

 それは段々と姿形を変え、べきべきと音を立てながら、やがて成人女性のような姿へと変貌していき――。

 

 

 

 

「り、ぜ?」

「お久しぶりねぇ、つまんない坊や♪」

 

 

 

 

 

 僕のこめかみから角が消滅し、彼女――僕の「背中から生えた」リゼさんの、左こめかみから生え直した。

 右の角は、折れたまま。

 

 

 半裸とも、赫子ともつかない状態のリゼさんは、お腹を押さえてけたけた笑う。

 

 

「なん、で、お前が――」

「想像力が足りないんじゃなぁい? 研くんに言ったこと、そのまま自分に帰って来てるじゃない。

 ドライバーを使って拘束されたのも、近づいて喰われたのも親子の分。

 言ったでしょ? 今度は――貴方が蹂躙される番みたいよ?」

 

 

 見下ろす僕を、ヤモリは震えながら見る。

 

 今、僕がどんな表情をしているかは、定かじゃない。

 

 

「一つだけ言っておきますけど、さっきのあれは単純に迷信でも何でもないと思います。

 喰種は、人間を食べてRc細胞を貯める、でしたっけ」

 

 エトさんとの雑談で聞いた話を思い出しつつ、僕はヤモリに笑う。

 

「だったら――もっとRc細胞を貯めてる喰種から食べたら、効率的じゃありませんか?」

 

「や、やめてくれ――」

「あはははははははははっははははは――ッ!」

 

 震えるヤモリに、リゼさんは嗤う。

 僕は、表情を変えない。

 

「勘違いしないで下さい。僕は、貴方への恨み『だけ』を持ってるわけじゃない。

 このまま貴方が貴方のままだったら、きっとまた、みんな危険になる」

「や、止めてくれ――」

 

 

「だから――覚り直しましょう?」

「洗礼、だったかしら? まあ、久々の食事がコレってのは不服だけど……」

 

「君はいいんだ、でも、お前にだけは――リゼ(ヽヽ)にだけは、喰われるのは、奪われるのは――」

 

 

 舌なめずりをするリゼさんに、怯えた声を上げるヤモリ。

 彼女は少しだけくすりと笑って。

 

 

「――さぁて、1000引く、7は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あなたを狂わせたのが人間だというのなら、貴方もきっと被害者なんだと思います」

「お……、か……、」

「でも、だからこそ、僕は絶対貴方みたいにはならない。自分の快楽や、娯楽のためだけに命を奪うようなものには」

「……さ、……」

 

 達磨(ヽヽ)で震えるヤモリを残し、ドライバーを外し。

 僕はそれを手に持って、歩きだす。

 

 リゼさんの姿はもうない。「仕事」が終わると、不服そうな声を出しながら「僕の中」に戻って行った。

  

 一度だけ振り返り、僕は言う。

 

 

「赫胞、『尾赫』と『甲赫』は奪いましたけど、まだ『鱗赫』は残ってますよね」

「……ッ!」

 

 

 これに反応するということは、まだ理性が残っているということか。

 

 でも、僕はそれはもう無視する。

 

 

「体内のRc値が減っている状態で、何が最善なのか。

 …… 一回だけ、チャンスをあげます」

 

 

 甘い、とかじゃない。

 この後、赫子が残ってるなら以前ほどではないが回復するだろう。血中のRc値が下がっている以上、それこそ以前の僕よりも、弱く、弱く。

 

 その上で、その後に、彼がどう行動するか。

 

「CCGと戦うも、逃げ出すも貴方の自由です。

 でも――次また同じことをしていたら、その時は、欠片も残しません」

 

 装着していないドライバーのレバーを落す。ぱちん、という音に、びくりとヤモリが震える。

 

 

 

 

「……正直に言って、貴方のことなんてもうどうでも良い。

 勝手に生きるか、死ぬかしてください。どちらにしても――()が殺し直しに行かない程度にしてください」

 

 

 

 貴方の命の責任なんて、とりたくないですから。

 

「ひ――」

 

 

 扉を閉めながら、暗くなる部屋から目を離しつつ。僕は歩く。

 

 

「――ひとりにしないで」

 

 

 そんなヤモリの声は、硬く閉まる金属の音に、かき消された。

 

 

 

 

 




特等二人の変身ポーズは、1号2号リスペクトな感じです。ベルトはディケイドライバー+ゲネシスドライバー的なものですね。

今回のカネキくんは、555で言うウルフオルフェノクとかOOOの恐竜グリードみたいな感じの認識で;
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