仮面ライダーハイセ   作:黒兎可

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#035 狼煙/挨拶/日出

「……」

「……」

 

 ケンカ(ヽヽヽ)が終わった後、僕はアヤトくんを抱えながら階段を下りていた。

 戦意喪失した後、アヤトくんはひたすらに黙っている。

 

 流石にこの状況で口を開けるほど、僕もアヤトくんも心臓に剛毛は生えてなかった。

 

 微動だにしないアヤトくん。消耗しているのも事実で、その上ドライバーで抑制されているのもあるだろう。そして実際、現状で僕に勝てないと思ったのだろうか、本当無抵抗のままここまで運んで来れたことに驚いてる。

 

 そんな風にして歩いていると、不意に耳に聞き覚えのある、妙にテンションの高い声。

 

 

『――Shape me shape me……, So GooD!

 食後の運動には丁度良い!』

「……クソグルメ? 何でここに」

 

 階段の先から聞こえてくるそれは、間違いなく月山習のものだった。

 

 流石にアヤトくんも困惑して、声が出た。

 僕はこれに思わず苦笑い。

 

「たぶん、僕を助けに来たのかな?」

「助けに?」

「無論、建前だろうけど。月山さん、僕を『食べる』ことしか今眼中になさそうだし」

「……食べるって、物理的にか」

「うん」

「意味わかんねぇ」

 

 頭を左右に振るアヤトくんだけど、この間トーカちゃんが美味かったとか、指舐めさせろ、味見させろとか僕に言ってきたことを話したらどんなリアクションをするか、という思考が脳裏を過ぎる。

 過ぎりはしたけど、そういう風な趣味はないので僕は苦笑いでお茶を濁した。

 

「dolche!

 ――おっと! 僕は食べる側だよチャーミングマウス!」

 

 そんな月山さんの声の後に、血と肉が裂けるような音。

 

「うーん、手ごたえないなぁ」

「ウタ、そのまま押さえてろ――セイヤッ!」

 

 ウタさんと、四方さんの声か?

 

 何かが切断されて、斬り飛ばされるような響きが耳に入る。

 でも、それも数秒後に別な、何かと何かが引っ付くような音がして――。

 

「……胴体ふっとばしても治っちゃうなんて、僕等の治癒力とかいうレベル超えてるよ。赫子のバケモノか何かなんじゃない?」

「Unbelievableな生命力……、一体どんな味がするのか」じゅるり。

「……」

 

「……ノロ、回収に来たのか」

「回収?」

「話す義理あんのか、あ゛?」

「言い回しからして、戦闘不能者で生き残ってるメンバーの回収みたいな感じに聞こえたけど」

「……」

 

 アヤトくん、図星突かれたときのリアクションがトーカちゃんと寸分違わず一緒だった。顔逸らして微妙な笑みを浮かべて、ちょっとばつが悪そうな。

 やっぱり二人、姉弟だよな……。

 

「だからその顔、止めろっての」

 

 そっぽを向きながらも、アヤトくんはもはや抵抗する気力もないのか、身体から力を抜いていた。赫子のダメージも少なくなかったせいか、噛み付いてくる体力がないのか。

 

 様子が様子なのでドライバーを外してはみたけど、それでも態度が変わらないのが少しばかり不思議だった。

 

 

 そんなことを思っていると、階段の足場の下の方がズタズタにぶっ壊れた。

 

「わ、わわわ――っ」

 

 四方さん達の戦闘のせいだろうか。壁を蹴りながら、下の踊り場に着地する僕。

 

 

 階段に投げ飛ばされたのは、四方さんだった。

 これには、結構衝撃を受けた。

 

 

「だ、大丈夫ですか!? 四方さん」

「……研? お前――」

 

 と、そんなタイミングで四方さんが飛んできた方、室内の方から「ぴぴぴ」と軽い電子音。ベルみたいに一定の周期で鳴るそれは、目覚まし時計のような――。

 

 振り返った先には、相変わらず名状しがたい口だけ開いたような仮面をつけたノロと、こちらを見て口笛を吹いた月山さん、サムズアップしてくるウタさん。

 

 ノロは服の内側から目覚ましを取り出すと(本当に目覚まし時計だった)、上のスイッチを押してベルを止める。

 そして気のせいじゃなければ、僕とアヤトくんの方をじっと見た。

 

「……」

 

 無言で見つめ続けられても、どう反応を返したら良いのだろうか。

 

 そう思ってると、アヤトくんが口を開いた。

 

 

「……少し回復したら、帰るって伝えておけ。タタラなら、芳村のじぃさんの甘ちゃん具合がわかんだろ」

「……」

 

 特に何かリアクションをするでもなく、そのまま背を向けて立ち去るノロ。

 

「……帰っちゃった」

「門限でも?」

 

「……相手をする必要はない」

 

 四方さんが、足場が砕けたガレキから身を起こす。ダメージは全然入っておらず、立ち姿はいつも通り異様に安定していた。

 四方さんは僕の様子に言葉を失い、手元のアヤトくんに目をひん剥いた。アヤトくんはアヤトくんで、やっぱり罰が悪そうに顔をそらして頭を引っ掻く。

 

「……研、肩貸すぞ?」

「それは大丈夫なんで、アヤトくんお願いします」

「わかった。

 ……頃合だ、俺達も帰ろう」

 

 生きてて良かったと、四方さんがそう言って、僕からアヤトくんを手渡される。やっぱりと言うべきか、基礎的な体力は四方さんの方が圧倒的にあるらしく、ものすごく軽そうだった。

 

 いや、これは逆にアヤトくんが見た目以上にがっしりしてると言うべきなのか。

 ……僕も、もっと身体鍛えよう。

 そういえば、前にトーカちゃんが僕の腹筋をつついてきたりしてたけど、割った状態で見せたりしたらどんなリアクションを見せるだろうか。将来的に試して見るのも……。

 

 少しだけそんな不埒なことを考えていると――。

 

「……みんな、先に行っててください」

「……? どうした、研」

 

 不審な目を向ける四方さんに、僕は少しだけ笑って言った。

 

 

「後ろの方、沢山『つかえてる』みたいなんで。

 少しだけ、リハビリを兼ねてやろうかなぁと」

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 

 7棟の制圧にさしかかった時点で、喰種たちの数も決定的に減ってきた。

 ドクロを模した仮面が、俺達の部隊の狙撃に押し返される。

 

 それでもなお接近する相手は、俺や、千之准特等などの手によって切られ潰され、押し返されていた。

 そしてその奥に、異なる仮面を持つ喰種が二人。それぞれ対になるような配置で、白と赤の仮面を装着していた。

 

「幹部でしょうか……。ふ、手強そうですね」

「……今俺を笑ったか?」

「俺達を笑ったか?」

 

 唐突に声に、ローテンションな苛立ちを滲ませながら、彼等はこちらに指を向ける。その指示に従い、再び敵の動きが変化する。

 

「皆さん、気を引きしめますよ!」

「「「「「はい!」」」」」

 

 直線的な猛攻から、弾幕をかわすためか隊が分裂。バレット自体もそれにより、射撃数が多くなり弾切れが早い。

 俺達に到達する喰種の種類も少なくなく、さっきよりは苦戦を強いられる。

 

「こおおぉぉぉ……ッ!」

「お前等は良いよなぁ、仕事に華があって――」

 

 そして、クラでカバリングできていない箇所に、リーダー二人の尾赫による追撃が入りそうに――。

 後方で俺の名前が叫ばれる。だが、この程度は真戸さんのしごきで何度か経験済みだ。

 

 眼帯のように、クインケごと叩き壊す一撃でなければ、身体に当らなければどうということはない。

 

 この程度、交わすことが出来なくて何が一等捜査官か――ッ!

 

 

「……チ、スレスレで交わすなんて起用なマネするじゃねぇか」

「兄貴、”三番合わせ”で肉が抉れたぐらいじゃ……」

「焦るな。最初から予想してたろ。あのハコ持ちはやるってな。

 いいよなぁ、ああいう光の下で生きられるヤツは……。だからこそ、俺達は理念に殉じて世界を変える――!」

「兄貴……!」

 

 何やらお互いに話し合って鼓舞しているらしい二人。会話からして兄弟か。

 とすると、あれが篠原さん曰くの「しっぽブラザーズ」だろう。

 

 単体でのレートは確か――。

 

「――得物がデカいだけだ、5カウントで終わらせるぞ!

 ”一番合わせ”――!」

 

 

 

――亜門くん、我々非力な人間が、いかにして喰種どもとの戦いに勝利を収めるか。わかるかね?

 

 

 フラッシュバックするように、そんな言葉が俺の脳裏を過ぎる。

 真戸さんは言った。Rc細胞の桁が違う時点で、人間と喰種とには、天と地ほどの開きが生物としてあると。

 

 ならば、いかにして勝利を収めるか――。

 

 

『――リ・ビルド!

 クラ・ツインバスター!』

「「な――ッ!!」」

 

 

 俺はクラの制御装置を押し、二つに「分割させた」。

 予想していなかったのか、両者は声を荒げる。

 

 

 ――答えは一つ。狡猾になることだ。

 正義のためなら、それが世界のためなら、例え卑怯だろうと許される。俺達が勝たなければ、人類に明日はないのだから。

 

 

「おおおおおおおおおおおお――!」

『――リコンストラクション!

 クラ! フル・チョップ!』

 

 

 そしてそのままモードを切り替える。

 クラ全体が赤く発光し、形状がより鋭角に、刃が研ぎ澄まされ――。

 

 

 俺の一撃は、両者の胴体と顔面とを「薙ぎ払った」。

 

 

 クラは、形状変形を組み込んだ試作型クインケだ。

 真戸さんが提案し、地行博士が製作した一品。

 

 真戸さんが扱うには不得手ではあったが――俺ならば、完璧に扱える。

 

 

 本来は真戸さんが形見代わりに、と遺書に書いていたそうだが、結果として現在は俺の手元にある。引退という形にはなったが、俺がこれを使うと連絡を入れたら、大層喜んでくれた。

 

 せめて、世界のための足しにしてくれと。

 

 

 俺は、それを成すことが出来るだろうか。

 

 

 

「あ、兄貴……、俺達、光を――」

 

 

 それだけ言って、弟の喰種は兄の喰種の胴体側へと這い、力尽きて動かなくなった。

 

 周囲の喰種は、指令頭たる二人の状況に振るえ、逃げ腰に。

 俺は息を吐き、後方に下がった。

 

「残りは雑魚だ、蹴散らせ!」

 

 鼓舞を受けて一斉に射撃に転ずるチーム。

 

 五里二等などにとみに労われ、俺は額をなぜる。

 

 

「……早く、篠原さん達のところに行かないと――」

 

 こちらはもう間もなく片付く。

 できる事なら、今すぐにでも援護に行きたいが――。

 

 

 そう思って居ると、丁度五棟の方からの通信が入った。

 

 

「……? どうしました、一体――」

『た、頼む、助けてくれ――ああああああああああああああッ!』

 

 そんな叫び声が通信機越しに響く。

 俺は目を見開き、注視するように声の続きを聞いた。

 

『――こ、こちら五棟! 只今、一人の喰種と交戦中――え、A級ないしS級相当のものと思われま――ああああああああああああああッ!』『危ないですよ、今電子機器は――』

 

 

 通信記越しに聞こえた声に、俺は震える。今の声は、おそらく戦っている喰種のものだろう。

 それが通信に割り込んでくるということは、その距離は必然、間近ということで――。

 

「……亜門くん、悪いけれど行ってもらえるか?」

「……千之准特等」

 

 俺は頭を下げ、彼の指示通り五棟へ向かう。五里二等が「後方は任せろ!」と後に続いてきた。彼女の他にも数名が続き、更に小さな部隊として移動。

 道中、「不自然なほどに」喰種も捜査官も見かけなかったことが気がかりだが、俺は足を止める事はない。

 

 やがて七棟の方から制圧完了という指示を受けた時点で、俺達はおそらくその戦いがあった場所にたどり着いた。

 

 

「な、んだ、これは――」

 

 五里二等の感想は、至極もっともなものだ。

 なにせ俺達の目の前には、「銃をバラバラに分解され」「腕や足の関節を外された捜査官」たちが転がっていたからだ。戦闘中に負傷したと思われる。

 

 うめき声を上げるものに、気絶したもの。俺達のことを見て、安堵の表情と涙を浮かべるもの。

 

 

 そして、その中心に「奴」はいた。

 

 

 真っ白な髪。黒いスーツには骨を意識したような装甲。

 背中からは、まるで人間の手を思わせるおぞましい赫子が四つ。

 

 そして――その喰らう種類は、見間違えようのないマスクをしていた。右のアイパッチ部分がスコープなのがモノクルのようなサングラスなのかは知らないが、赤く半透明の素材に変化していたこと以外、顎の部分も、片方だけ露出している目も、寸分違わず。

 

 

 奴は、俺を見て安堵したように言った。

 

 

「――よかった、これでようやく帰れます」

 

 

 俺は、周囲の状況を見て、そして「眼帯」をもう一度見て、理解が出来なかった。

 

「……お前は、何をやった、答えろアオギリの喰種!」

「何、と言われても……。無力化しただけなんですけど。

 後、アオギリなんかじゃありません」

 

 五里二等の叫びに、眼帯は困ったように頭をかいた。

 それに合わせて、奴の背後の赫子がうねうねと動く。何かの感情表現をしているようでもあり、何も考えず動かしているようにも見えた。

 

「ようやく『守ってくれるヒト』がちゃんと来ましたし、ここら辺でお暇させてもらいます。

 それじゃあ――」

 

 そう言って、奴は俺に頭を下げた。会釈程度だったが、その気軽すぎる動作に、俺は面を食らった。

 俺以外の捜査官たちは、しかし確実に動く。

 

「逃がすか!」

『――エメリオ!』

 

 五里二等が構えるクインケに、しかし奴はドライバーのレバーを上げて、落すばかり。

 

 

『――(コウ)(カァク)!』

 

 そして、その叫びと同時に奴の両腕に、背中から出てきた赫子が巻き突き、銀色の、巨大な手甲のように変化。

 奴はそれを振り被り、一撃地面を「殴った」。

 その衝撃で、奴とこちらとの間に裂け目ができ、同時に巻きあがった粉塵とガレキが盾となる。ちぃ、と唸って五里二等はクインケを引いた。このままでは、味方も巻きこむかもしれないからだ。

 

「お前は―― 一体、何なんだ」

 

 立ち去り際、思わず呟いた俺の一言に、奴は少しだけ首を傾げて。

 

「――ハイセ、と呼んでください」

 

 そう言って、今度こそこの場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日判明することだが、この先にあるフロアの部屋は、捜査官の死体が大量に転がっていた。一体の喰種の死体からは赫子痕が、部屋中からは複数の喰種の赫子痕が検出された。

 

 それを見て下された判断は――眼帯の喰種は、他の仲間の喰種の戦いを邪魔されたくなかったのではないかと。

 

 

 だが、俺はその見解に疑問を持つ。

 

 他の誰が持たなくとも、俺だけは――あの時、直接相対して、戦ったことのある俺だからこそ。

 奴が相手しただろう複数の捜査官たちの「誰一人として」殺されていなかった状況を、偶然の一致というだけで片付けることは出来なかった。

 

 

 

 

 

   ※

  

 

 

 

 

 アヤトくんを四方さんに預けた後、僕の耳には十数人の捜査官の足音が聞こえていた。

 部屋を見回せば、五、六人の捜査官がバラバラにされたような死体。おそらくさっきの戦闘に巻き込まれたか、ノロに喰われたかしたものだろう。月山さんなら味わってるし、四方さんもウタさんもこの状況で食べてる余裕はなさそうだ。

 

 とすると、十数人は残りの人数か。

 そう判断した僕は、ごくごく自然な足取りで彼等のもとに向かった。

 

 道中で変身して、向こうでやったことと言えば戦力の「無力化」だけだ。

 

 タタラが居ない、エトさんが居ない。また以前アヤトくんも言ってた、より戦力の強い1班など上位の班が見当たらない時点で、僕はある可能性を察している。

 

 だとしたら、これ以上この場で戦い続けるのは無意味なのだ。

 

 

 僕が救出された時点で「あんていく」のメンバーは程なく引くだろうし、さっきまで聞こえていた爆撃やら銃撃やらの音が小さくなりつつあるということは、鎮圧はもう佳境ということだろう。

 

 この段階で、わざわざ「あんていく」側と戦闘させる必要性もない。

 そして、僕なら、”手”(リゼさん)なら、一般捜査官の無力化はそこまで難しいとは思えなかった。

 

 

 結果は、まあ、ちょっと、思っていたよりは大変だった。というか甘く見すぎていたんだけど。

 

「いてて……ッ。

 結構深く抉ってるなぁ……。でも再生は遅くない、と」

 

 弱点の赫子によるダメージがなかっただけでも幸運と言うべきなのだろう。これなら、二日三日もあれば目立たなくなるだろう(拷問痕はともかく)。

 肩から弾丸を抜きながら、僕は「音」を頼りに森を抜ける。

 

「……リゼさん?」

 

 声をかけても、彼女からの返事はない。

 ということは、やっぱり普段は彼女の声が必要ないということなのか。

 

 ますます彼女が、僕の精神によって作り出されたろう存在だという核心が持ててしまって、少し寂しいような、そうでないような。彼女の臓器が移殖された、と言われたあたりを擦りながら、僕は少し考える。

 

 これから、どうするべきか。

 これから、何をしたいか――。

 

 ヤモリが言っていた、教授関係の話と。幻影のリゼさんの綺麗な笑顔と。

 アラタさんの言葉と、小さなトーカちゃんとアヤトくんの顔と。僕と一緒に笑い会うヒデの笑顔が重なって、なんだか色々ごちゃごちゃとしてきた。

 

「――カネキ……!」

「バンジョーさん」

 

 僕に声をかけたのは、仲間を背負うバンジョーさん。

 少し心配そうにしながら、僕に聞いてきた。

 

「用事ってのは……、済んだのか?」

「ええ」

 

 そう言って、僕はトーカちゃんの方をちらりと見る。

 気絶から回復したらしいトーカちゃんは、僕と目が合うとどうしてか視線をそらした。……そして、逸らした先でアヤトくんの半眼を受けて、どうしたら良いかわからないような顔をしながらまた僕の方を見る。

 

 とりあえず笑顔を返しておいて、僕は後ろを振り返った。

 

 山の上から見るアオギリの拠点。これだけの襲撃を受けて、ある程度の戦力として残っていたのはヤモリにアヤトくんに、あと数人といったくらいか。もし喰種優勢だったなら、僕が最後に相手した捜査官たちも絶対出てこなかったことだろう。それ以前に殺されていたかもしれない。

 

「……とりあえず、終わったようだな」

「……四方さん、店長は?」

「”バトルオウル”を呼んでしまったから、それに乗って帰るらしい。ヒナミたちもあっちと一緒だろう」

「……バトルオウル?」

 

 首を傾げる僕に、「バイクだよ」とウタさん。それを聞いて、ヘタレをシューティングスターウィングと呼び続ける四方さんのセンスを思い出して、僕は「そうですか」とだけ返した。

 

 感傷に浸るわけじゃないけど、あの場所、特にヤモリのホールのことは、やっぱり忘れ去ることは出来ないと思う。ある意味、あの痛みと環境とが、僕にある種の決断をさせるに至って、結果として今ここで生きている訳なのだから。

 それが、以前の僕と100%同じかどうかと言われれば、少し違う。違うと思いたい。

 

 前よりも、少しでも前を向いて生きようと思えていると、僕は思いたかった。

 

 

「いや、でもこんだけ死にそうな思いして、しばらくすりゃまーた大学通いとか信じらんねぇわ……。貴未にまた何か言われそう……。「あんて」の仕事もあるし、ダリィなぁ」

「日常の大切さが身に染みるねぇ。それだけに、こういったエキサイティングな体験も捨てがたいが」

「いや、テメェの意見は聞いてねぇクソ山」

「僕も楽しい事は好きだけど、もっと長い時間かける趣味とかの方が好きかなぁ」

「それはそうと、ミスター。先ほどの戦闘ですが――」

 

 

 みんなの会話が遠い。ぼうっとしているわけじゃないけど、それでもやっぱり、僕はなんとなく口を開くことはしなかった。

 頭の中で、ぐるぐる回る思考。

 

 そんなサイクルを破ったのは――、トーカちゃんだった。

 

「……いつまで変身してんのよ」

 

 少し力のない足取りで、僕の方に来てベルトを解除するトーカちゃん。

  

 それに驚いてると、彼女は僕の頭に手をやり、毛を軽く引っ張った。

 

「……ア……、ンタさ。

 戻ったら、髪の毛どーにかしなよ? そんなんじゃ目立ちすぎだし」

「……」

 

 そんな、何気ない言葉で、僕は不思議と笑顔になった。

 ただ、普通の笑顔というよりは苦笑いの類だけど。

 

「……僕、頭結構弱いから、染料に負けちゃうんだよねぇ」

「…………は、ハァ?」

「だから、生え変わるまではカツラかな……。幾らくらいするんだろ」

 

 えっと、と少し考える僕に、トーカちゃんは予想外というか、呆れたような表情。

 でも、アヤトくんにやられてた時の表情なんかより、ずっとずっとそれはマシな表情で――。

 

「トーカちゃん」

 

 マスクを外して、僕は彼女の頭を撫でた。

 

「……な、何よ」

 

 困惑する彼女は、顔をわずかに赤くしながら視線を少しそらして。

 そんな彼女に記憶の底の、小さかった頃のトーカちゃんを重ねて、僕は正直な気持ちを口にした。

 

 

「――ありがとう、色々」

 

 

 彼女があの十歳前後の夜、見つけて公園に引っ張ってこなかったら。きっと僕は今よりずっと、ずっと底の見えない環境の中に居たんじゃないかと思う。

 だから、例えその影響が少しでも、彼女のお父さんと話せた事は、僕にとって大きなプラスだ。

 

 その切っ掛けとか、今日までのこととか。きっと、何かと気にかけてくれたからこそ、あのタイミングでトーカちゃんのイメージが脳裏を過ぎったんだろう。

 そういった一通りのことが――喰種(ぼく)を、まだ人間(ぼく)で居させてくれる。

 

 そのことに、僕は素直に感謝の気持ちが湧いた。

 

「~~~~~~ッ、は、はァ? 意味わかんないし――」

 

 悪態を付くように言いながらも、トーカちゃんは僕の手から逃げようとはしなかった。

 少しの間そうしてから、僕は手を離して、皆にも頭を下げた後で。

 

  

「とりあえず、帰ろうか」

 

 

 きっと古間さんか誰かが待ち続けている「あんていく」に。

 アヤトくんの手当てとかもしなきゃならないし、やらなきゃいけないことも多い。

 

 

 

 ただ何はともあれ――流石にこれ以上は、僕も体力が持たなかった。

 

 

 

 力が抜けてトーカちゃんにもたれ掛かる。何か耳元で大声で言ってたようなのが聞こえたけど、その意味を理解する前に僕の意識は、一旦途切れた。

 

 

 

 

 




カネキ( ˘ω˘)スヤァ
トーカ「ちょ、何いきなりやって――! って、カネキ何、寝てんの……? って、いやいや、なら何で抱き付いてきたし、ちょ――」



アヤト「……トーカ、いつもあんなんなのか?(冷汗)」
ヨモさん「……(さっと視線を逸らす)」
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