深い記憶の底。料理を作る母さんの後ろ姿が見える。
かちゃかちゃとキッチンで何かを作っているような、そんな食器のこすれる音。
「……?」
そんな音に揺られて、僕は目を覚ました。額には、熱冷ましのシート。
剥がして起き上がり、周囲を見回す。
ここは何処だろう。ちょっとファンシーな色合い。ウサギの縫いぐるみに……、仮面?
――パチリ、と電気がつけられる。
「起きた、か……」
「霧嶋さん?」
「熱下がった?」
「あ、それは、たぶん大丈夫」
制服姿の上からエプロンを着て、半眼の霧嶋さん。ちなみに結構似合ってる。
扉向こうから漂う臭いは食欲をそそり、同時にある疑問が浮かんだ。
「……ここって?」
「……私の家。団地」
一瞬、何を言われているのか分からなかった。
でも時間が経過して、段々と頭が追いついて行く。顔が熱い。昨日とは別な意味で熱い。
霧嶋さんの見て来る目も、この間の以上に迫力があった。
「ベッドの臭いとか嗅いだり、変なことしたら殺すから」
「えっと、どうして僕は、霧嶋さんの家に? お店とかじゃなくて」
「時間的に閉まってたのと、何度も迷惑かけらんないだろ。常識的に考えて。
本当はヨモさん来てからする予定だったけど、あのままアンタ放置しておけないじゃん」
「…………ありがと」
素直にお礼を言うと、鼻で笑って僕を引き起こした。
リビングには、ハンバーグのようなものと、丼一つ。
「たぶん喰えるだろ。……言っとくけど味は保障しないから」
「あ、あはは……。ごめん」
「とっとと食え。人様に作らせたもん、残すんじゃねぇ」
「……じゃあ、お言葉に甘えまして」
僕の方は真っ赤に染まった御粥、というのが適切な表現か。浮かぶものは米粒みたいだから、ひょっとしたら「両方の」食材を使ってくれたのかもしれない。
味は正直、よく分かんない。
大体、喰種の食事は味覚より恍惚感に支配されているところが大きいので、お米の粒の駄目になってる香りとかも全然感じないくらいだった。
「霧嶋さん、これから学校?」
「当たり前。アンタは?」
「僕は……、うーん、どうしよう」
「アンタこそ大学行けッ。私に勉強教えるどころじゃなくなるだろ」
「う、うん……」
「あと、寝てる間スマホが五月蝿かったから」
それだけ言って、彼女はお皿を洗いに行く。「食べ終わったら持って来い」とだけ言われ、僕もテレビを付けて、ニュースを見ながら食べた。
朝の天気予報。簡単なニュース。特集企画など色々あったけど、昨日のことは報道されていないらしい。
丼を下げて、彼女の背中をなんとなく観察する。
「……やり辛いから、見んな」
凄い顔で睨まれた。
と、そんな時に入り口のベルが鳴る。「あぁ!?」と驚いた声を上げて、彼女はインターホンに出る。
「依子、ちょっと待ってて」
ぱたぱたと扉の向こうに行く霧嶋さん。入り口の方から「昨日全然連絡しても出てくれなかったじゃん!」とか、色々親しげな会話が聞こえる。
「……? ってことは、ひょっとして僕、看病されてた?」
「あれ、トーカちゃんこの靴……? アヤト君の?」
「いや、そうじゃなくって……」
丁度そのタイミングで、霧嶋さんの部屋でスマホが鳴り響く。
「って、あれ、僕の――あっ」
一歩踏み出して、しまったと思う。霧嶋さんが、ものすんごい顔でこっちを見ていたのと、彼女の友達っぽい、ふわふわした感じの子が僕を見て、赤くなりながらびっくりしていた。
「え、え、え? トーカちゃん?
あれうそうそ、邪魔しちゃった!? 私、あ、え、えっと、初めまして!」
「違うから! ちょっと、依子!?」
「あ、うん大丈夫! 秘密にするから、じゃあ、その、えっと、遅刻しない程度にごゆっくいり~~!」
きゃーと叫びながら疾走する女の子。
何を勘違いしてるのかと思ったけど、第三者なら確かに言い逃れ出来ないかとも思った。
「……どーすんだよ、これ」
胡乱に睨んでくる彼女が怖い。
結局こと事は、彼女が何か思い付いた時に清算することとなった。
「大事にしなよ、友達は」
「……アンタに言われるまでもないから」
そう言う彼女はやっぱり不機嫌そうだったけど、でも、こころなしかほころんでいるようにも思った。
霧嶋さんの家を彼女から少し時間が経ってから離れ(一緒に出ていくと目撃者が増えるとのことで)、僕はスマホを確認した。
「……ヒデか」
何件かメールが来てる。代返は頼んでないけど、ノートはきちんと取ってくれているらしい。
「写さんの?」という疑問文に返信して、待ち合わせ場所のメールを向こうに送った。
※
「カネキ――――! てめぇどんだけサボってんだこのヤロ、俺の東洋史での孤軍奮闘っぷり聞くかオラ、あ? ウサギは孤独で死ぬんだぞ、あと何だその眼帯、おしゃれさんか!」
「……ちょっとね。熱っぽいし。あと、ウサギのそれは迷信」
いつもの調子のヒデに、どこか僕は一時現実を忘れる事が出来る。
物理的なものじゃないんだけど、こういうのも家に帰って来たって表現するんだろうか。
学園祭の実行委員に話しかけられたり(ヒデはこういうのが好きだ)した時も、僕の微妙な反応を見てペラを回して回避してくれたり。後で「西尾」というらしい先輩から去年のDVDを貰っておけと言われて、僕等はそちらへ向かう。
道中、食事中のカップルが見える。ランチじゃなくておやつの時間帯だからか、軽めのアイスなどを食べていた。
「お前さ。ちゃんとメシ食べてるか? 顔色ヤバいぜ?」
「……今朝は、一応」
ヒデは昔から勘が鋭くて、一歩先で僕を気遣ってくれる。
ただ、もしも。
いつか僕が本当に喰種になったことを知られてしまったら――こんな風に一緒に歩くことも、もうなくなってしまうんだろうか。
「……ヒデ、缶コーヒーで美味しいのって何かあったっけ?」
「お? 珍しいなぁ。お前午○ティー派じゃなかったか?」
「最近ちょっとね」
それとなく事実から意識を逸らしながら、僕は現実逃避しつつ歩いた。
着いた先はサークル棟の1F。
「あー、ここだな。ちょっと待ってろ」
ノックもなしに扉を開けるヒデ。と、半裸の女の先輩が、絶叫しながら飛び出してきた。
僕もヒデも目が点というか、言葉が出ない。
「……永近。俺、自分のテリトリー荒らされるの何より大嫌いなんだけど、ノックくらいできねーのか? 先輩に対する礼儀とか以前に、マナー違反だろ。就活で死ぬぞ」
「す、すみません返す言葉もないっす」
「返事だけいい奴居るんだよなぁ。お前、声量と滑舌の良さでどうにかできるって思ってないか?」
僕としても返す言葉もない。
と思っていたら、部屋全体から珈琲の香り。気のせいじゃなければ、カフェラテか。
そして、西尾というらしい先輩と目が合って、気付いた。
「「――っ」」
お互いに。
彼は、言った。「人間だったら喰った」と。「テリトリーに入ってくるな」と。そして、「俺じゃなくても殺してる」と。
メガネを掛けた男性は、間違いなく僕を嬲った彼に違いない。
「そっちの、お前のツレ?」
「あ、はい! カネキって言います。ガキの頃からダチで――」
「……そっか、カネキか」
いっそ獰猛なくらい牙を見せて、彼は僕に笑いかけた。
「西尾 錦。よろしくな、カネキクン」
僕は、固まったまま反応を返せなかった。
彼は獰猛な表情をしまいこみ、気の良い先輩を装うような表情に切り替える。
「あー、ディスク家だな。そうだ、面倒だから――『今から取りに来いよ』」
「近いんすか? 先輩ん家」
「遠くもねーってくらいだな。ああ」
ちらりと僕を一瞬見て、にやりと笑う西尾先輩。
わかる。彼が何を言わんとしてるのか。これは表面的な演技で、同時にこうして「餌」を誘い出しているわけだ。
僕は、彼の残虐性を知っている。
ヒデを一人で行かせるわけにはいかない。
「……僕も行って良いですか? その、リハビリがてらに」
「あん? 君、入院とかしてたわけ」
「この間まで、ちょっと」
「ふぅん……」
「いやカネキ、お前病み上がりなんだからよ。それにほら、お前エロトークとか出来んのか? ただでさえ初対面の相手には――」
「別にいいぞ? 家に上げるわけでもないし」
表面上は軽く快諾する西尾先輩。
裏では何を考えているか、わかったもんじゃない。
霧嶋さん……、何だかあの子が「トーカちゃん」って呼んでたのがしっくりくるから、僕もそう呼ぼうか。ともかく、トーカちゃんと戦っていた時のアレを見ている以上、手放しに良かったとは思えない自分がいる。
しかし、どうしてこう僕等の周りには……。いや、逆か。気付いていなかっただけ。
むしろ、喰種の世界に迷い込んだのは、僕の方なんだろう。
※
道中、特に何もなくて拍子抜けしそうになる。ただ、それとは別に驚かされたところもある。
西尾先輩の提案で鯛焼きを買ったりした時などは、それこそびっくりした。
僕は口の中に、店長から貰った角砂糖状の「何か」を入れた上で食べて、ぎりぎり何とかなったけど、西尾先輩は特に気にするでもなく、楽々飲み込んでいた。
これは、演技か何かなのだろうか。
少なくとも、僕のようなケースでない限り、喰種は人間以外は受け付けないはずだ。
「先輩。委員会とか好きなんスか?」
「別に? ただなぁ永近。こういうのやってりゃ人脈って広がるだろ?
少なくとも俺等の大学くらいだったら、横の繋がり増やしてけば卒業後便利に決まってるだろ常識的に考えて」
「け、計算高いっすね」
この人は人間社会に溶け込んでいる。まるで本当に、普通の大学生みたいに。
ヒデも、大学の誰も彼が喰種とは気付かないと思う。僕だってこの間、コンビニでやりとりした時点では気付けなかったくらいだ。
「自分の人生くらい計算できない奴が、ロクな人生送れもしないだろ」
ただ、ここまで完璧に人間を演じきる彼を、純粋に凄いと思った。
僕が喰種だったら、ここまで完璧にこなせるだろうか。
ガーゼで覆われた、トーカちゃんにやられた傷跡をさすりながら(治りが遅いのかな?)、僕等を誘導する先輩。
「そこの付き当たり行ったとこだから」
「了解っす。……って、あれ?」
着いた先は――行き止まり。
そして、先輩蹴りがヒデを壁際までぶっ飛ばした。
「ヒデッ!」
「はっ」
鼻で僕を笑いながら持ち上げ、西尾先輩は獰猛に笑う。予想していた展開と言えば予想していた展開ではあったけど、さて、どうしたものか。
締め上げられる首の感覚で意識を朦朧とさせながら、それでも僕は思考する。
「まさか同じキャンパスに居るとはなぁ。……しかも何だ、てめぇ。女の喰種みたいなニオイさせやがって」
きっとそれは、リゼさんの臓器だ。
「ていうか、こんなに近かったのに何でお前のこと気付かなかったんだろうな。
……あ? 永近のこと心配か? わかるぜ。お前の『餌』だもんな」
「――ッ!」
その言葉は、僕にとって許容外のものだった。
「わかるぜ? 自分を信じきった奴を裏切った時のあの顔。浮かび上がる苦悶の表情。
……間抜けな奴の絶望的な表情が、一番そそるもんなぁ」
お前もそうなんだろ――。
続く彼の言葉に、僕は、歯軋りをして彼を睨む。
「僕は――喰種じゃない」
「じゃ何だよ、お前」
彼の蹴りが、僕の鳩尾を抉る。
「トーカにも言ったけどよぉ。年下のクソガキに舐めた口効かれるのが一番ムカツクんだよ。
てか、お前の体脆すぎ。豆腐みてーだ。ちゃんと喰ってるのか?」
言いながら、先輩は喉に手を突っ込み、吐き出す。
何をと言えば、決まってる。さっき食べたタイヤキだろう。
「人間てのはよく、こんな馬のクソみてーなの喰えるよなぁ」
その感想は如何なものだろう。食べた事あるのかな、馬のクソ。
ただ、本人曰くのそれをヒデに吹きかけるのだけは止めろ。
「悪いなぁカネキ、お前の喰いモン汚しちまったわ」
「……ヒデは、友達だ」
「友達”ごっこ”だろ? 俺等にとっちゃ、人間は家畜と一緒だ」
「ごっこじゃない」
「だとしても、コイツは止めとけ。カンが鋭いぜ? 色々とやり難いぞ」
確かにヒデは鋭いけれど。それは長い付き合いの僕だから感じると思っていたのだけれど、まさか他人もそう思ってるとは。密かな衝撃を受けている僕の眼帯を外して、また持ち上げる。
「そんな眼帯なんかで隠して、眼のコントロールできねぇのか? んなんじゃすぐバレるだろ。
おら立て。それともあっちから殺るか?」
「――ッ」
「上等。でも、お前なんかじゃ無理か」
殴りかかる僕に、いやらしい笑みを浮かべ、眼を変質させて西尾先輩は嗤った。
ヒデと反対方向に飛ばされる僕。あまりに軽々と。片手間に。
こんなの、勝てるわけないじゃないか。
トーカちゃんは、こんなの相手に出来るくらい――。
――嗚呼、空腹だ。お腹空いたな。
「ちょっと遊びすぎて赫子出ちまったじゃねぇか。……あん? 何だ永近。タヌキ寝入りか無意識か」
倒れている僕の位置から、微妙に確認できたのは。ヒデの投げ出されていた足が、わずかに動いて先輩にぶつかったことだけ。
「まどっちでも良いか。お前は後で味わうことにするよ――」
西尾先輩のその言葉に、僕の中の時間が止まる。
脳裏を駆け巡る思い出。記憶。母親を亡くした後、ずっと一人だった僕に手を差し伸べてくれたヒデ。
クラスに馴染めてない僕を気遣い、小学校も、中学校も、高校も大学も、ずっと、ずっと一緒に友達で居てくれたヒデ。
無意識なのかどうかなんて、関係ない。ヒデはまた、僕を助けようとしてくれた。
ヒデが。
ころされるのは――。
――そんなのゆるせない。
不意に、僕は立ち上がっていた。
背中から「何かが」這い出る感覚がある。
それを、あらん限りの力で西尾先輩の方に飛ばす。
「ッ! 何だそりゃ――」
知らない。知りたくもない。
ただそうであっても、今この時、僕の中から出てきたものは間違いなく僕の味方だった。
全身の筋肉が、普段の自分のそれと大きく外れる。何かのリミッターが壊れるような感覚と共に、僕の体は弾丸のように先輩に接近。
そして、衝動に任せるまま「三本の爪」のようなそれを、先輩の腹部にぶつけ――貫通した。
「ぎゃ……あ! 止めろ止めろ馬鹿!
死ぬ死ぬ! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!」
僕とて満身創痍だ。与えられた攻撃はその一撃だけ。
ぐらりとふらつき、引き抜く。先輩は悪態を付いて意識を失った。
「ヒデ――ッ!」
倒れたヒデの方に足を進めようとして、僕の全身は、焼かれる様な衝動に襲われた。
何だこれ。
『どう? 食欲をそそるこの芳ばしい香り――』
――止めろ。
『ほら、彼をよく見て?』
――止めろ。
『ほら……、ほらほら、見て嗅いで、見て視て観て!』
――止めてくれ。
『あら、せっかくのチャンスなのに。勿体ない』
――だってほら、こんなに。
――『
頭痛が僕を支配する。
もう、自分が何を言ってるかもよくわからない。
これが、トーカちゃんが言ってたことか。たぶん先輩にやられた分のダメージで、ちゃんと食べていたのが全部消費されて、エネルギーが足りてないせいだろう。
そんな僕の目の前に、女の子が降って来た。
「『……あら、退きなさいよ。お腹空いてるの』」
「……リゼ? いや、んなわけないか。
らしくなってんじゃん、カネキ」
激痛と空腹で理性が飛んで、死にたいくらい苦しくて。
「そこから解放されるためには、何だってしようとして。……友達だって食べて、その後に後悔して」
ヒトに友達大事にしろとか言っておいて、自分がそれじゃ世話ないわね。
彼女が何を言ってるか、僕にはわからない。聞こえていても、頭が処理できていない。
「……ホントうんざりする。今回ばかりはアンタ悪くなかったし、同情したげるけど」
言いながら、彼女は背中から「翼」のような何かを出現させ。
――次の瞬間、僕の腹に「何か」を装着した。
「あ――ッ」
そして、僕にとっての拷問が始まる。
激痛だ。激痛だ。全身の血管に針金を通されるような。毛穴と言う毛穴にえんぴつをぶち込まれるような。
背中から出ていたものが、腰のそれに集中し、その痛みを加速させる。
「
今みたいに理性飛んでたら、通常の倍は痛いんじゃないの。
わずかに彼女の言ってる事が分かるくらい、頭がまた回ってきた。
「まるで拷問だろ。でも、耐えろ。
その先に、自分が戻ってくるなら――」
震える手は、彼女を押しのけようとする。
トーカちゃんをぶっ飛ばして、
ただ、そんな僕の両肩を掴んで、彼女は叫ぶ。
「――カネキ!」
「――うぇッ」
口から血を吐き出し、今度こそ僕は立って居られなかった。
食欲も、痛みも、どんどん引いて来る。それと同時に五感が遠退いていき、ああ、僕はこのまま死ぬんだろうと、直感的に理解した。
「やりゃ出来んじゃん」
ただそれでも、トーカちゃんはにっと僕を見下ろして笑った。
どこか温かみがあるものに見えたのは、たぶん、錯覚だ。
「……たく。その調子じゃまた喰えないだろ。今回はツケないでいたげるから、感謝しな」
トーカちゃんは何かを口に含み、咀嚼して。
僕の体を抱き起こし、彼女の顔が近づき――。
※
気が付くと、天井を見ていた。
整頓された部屋。ソファに寝かされている僕。
起き上がって布団が捲れると、僕の腰には、
「――目が覚めたかい?」
「店長」
ふと、芳村さんが、僕に優しげに笑いかける。
「ここは”あんていく”の2Fだよ。トーカちゃん達が運んでくれたんだ」
「……? あー …… ――ッ! ひ、ヒデは!? あの、僕の友達がいませんでしたか?」
付いて来なさい、と彼は僕を導く。
別な部屋で寝かされているヒデ。僕よりも包帯とかが多く巻かれているのは、きっと、僕よりも重症だったからで。
そこで、僕はある事実に気付いた。
「……店長。この口についてる血って」
「”飢え”を癒す術は一つ。回復するための術もね。わかっているだろう」
店長は、何一つオブラートに包む事はなかった。
「自分が何者であるか。一度、考えてみなさい」
「……僕は、友達を傷つけたくないです」
でも、今回のことではっきりした。あんな状況になったとはいえ、一瞬でも友達を食糧だと捉えてしまった。
本当に、本当に大切な友人である彼を。
「僕はもう、人間の世界に戻っちゃいけない。でも、きっと喰種の世界にだって生きられない」
「だが――」
店長は、僕が言おうとした言葉に重ねて、続けた。
「――同時に君は、両方の世界に同時に立てる、只一人なんだよ」
その言葉は、気休めのようなものではあったけど。
でも同時に、どこか僕の頭をクリアにしてくれた。
「シフトは、後で古間君に聞きなさい。君にこれから、”私達”の生き方を教えよう。
人間の世界でまた生きる為に、きっと必要になる」
「……店長」
「それから……、ほんの少しでも良い。君に、私達のことも知って欲しい。我々が只の、飢えに狂う獣なのか。それとも話し合える知性を持った何かなのかを」
優しく微笑む店長は、堕ちて行く僕の思考に、僕だけでは考えられない活路を見出してくれた。
でもだから、僕は衝動的に聞いた。
「――僕は、
目元から、熱いものが零れる。
居場所なんてない。そう思っていた僕に、示された世界。
「それを決めるのは、君だよ。
さあ、珈琲を入れる練習をもっとしようか。この間はまだ中途半端だったしね」
優しげに言ってくる彼の言葉に、僕は、もう、どうしようもなくなって。
それでも、何か、悲劇ではない何かに縋りたくて仕方がなくって。
だから――僕は、一歩踏み出した。
ドライブのサプライズフューチャー、帰りに見て来て面白かったぜー、ひゃっはー!
そんなテンションでこんな鬱屈した話を書くと言うね。何でしょうかねこの日常
ようやく出てきた変身ベルト。デザインイメージは、バースドライバー+縦回転メテオドライバーみたいなもんです。