今回より、時期は「空白」。無印後半まで長引かない予定ですが、どうぞヨロシクです
Uc"J"プロローグ
「タタラさん。この世界で一番綺麗なものって、何かなぁ」
「何だい、窓から槍に」
夜。円筒状の巨大な建物――23区にある喰種収容施設「コクリア」の上で、二つの影が会話を交わしていた。立つ影と、座る影。
一つは長身の男。全身を被う白い服装に、顔の下半分を被うマスク。顔色は悪く、目は鋭く細められている。
もう一つは、フードの上から赤と黒のマント姿。体は全身に包帯が巻かれており、声はくぐもっているがやや甲高く、少年のような、少女のような響を持っていた。
長身の言葉に、包帯は肩を震わせる。
「いやね。私達、今回の作戦のために色々無茶するじゃん。実質、ここに来てるメンバーだけ残ってればまだしもってところだけどさ。アオギリ、あれで全部って訳でもないし」
「情でも湧いた?」
「そういうんじゃなくって。『目的』のためにはちょっと無茶するけど、単純な疑問さ」
嘘を暴くのが私達の役割だけど、と包帯は立ち上がる。立ち上がっても身長の関係は変わらなかった。
「――何かのために他者を斬り捨てるヒトと、誰かの為に自分を切り捨てるヒトとじゃ、どっちの方が生きていて綺麗なのかなって」
「……命に貴賎はない。死ねば、それまでだ」
「おぉうタタラさんリアリストぉ。もっと本読もうぜー? 白秋とか」
「要らん。日本語の本は頭痛くなる」(※中国出身)
「ノロさんもアヤトくんも逃げるし、アオギリ本読めよぉ。全く……」
んんしょ、と立ち上がり、包帯はどこからともなく、ある装置を取り出した。
一言で言えば、バックル。横に長く、中央にレンズのようなものがあり、装着者側からして右側にはレバーのようなものが付いている。
包帯はそれを自分の腰に当てる。と、マントの下からどこからともなく、赤い帯が出現し、バックルの両サイドに装着された。
「そろそろ行こうか。
――いらっしゃい、ドラゴン」
言いながら、彼女はバックルのレバーを落す。
『――
何度もオーバーを繰り返すバックル。電子音が響く中、包帯が纏っていたマントが彼女から離れる。
離れたマントは、空中で突如大きな変化を遂げる。複数の人間がざわざわと喋るような声。
それと同時に、徐々に徐々にその姿が変化していくマント。膨れ上がり、肉の巨大な球体のようになり、それが割けて羽根と足を持つような、頭のないグリフォンのような姿に変化した。
「良いの? 使って」
「別に。私が『合体』しなきゃバレないでしょ。それにカメラは壊すし――どうせほとんど殺すでしょ」
「だね。……下の方はこっちでやるから、陽動含めて上ね」
「りょーかーい。あ、でも最初の牢屋の解除くらいは手伝ってねー」
くるりと振り返った二人の背後には、包帯がして居るようなローブ姿が多数。全員が何らかの仮面を付けており、一目で集団が統率された存在だと理解できる。
「じゃ、はじめよっか」
包帯が、首のない獣の上に乗る。そのまま、天井を破壊して、ドーナツ状の内部へ。
他のローブたちは、背中から触手のような、あるいは鉄のような、羽根のような、尻尾のようなものを出現させ、一様に包帯に続いた。
「綺麗なもの、ねぇ」
タタラと呼ばれた長身の男は、そんな包帯の背中を遠い目をして見つめ。
「――とっくにそんなもの、取り返せないところにあるさ」
それだけ呟き、残った数人を率いて、後に続いた。
――――『仮面ライダーハイセ アンダーカバー”
「ヒュー、ヒュー……、目が覚めたかい? ”ジェイル”」
嗚呼、まただ。カツン、カツンという足音と一緒に、アイツがやってくる。
牢屋の入り口で、逆光で姿が見え辛いシルエットの男は、不気味に笑いながら話す。
「多数の喰種捜査官が、お前に殺された。喰種も含めてな。
私もそのせいで……、クク、まあ仕事は多少やりやすくなったがね?」
「私は確信している。君がジェイルだと。だがそれでも違うと言うのなら――君の兄は、ジェイルか?」
ジェイルなんて知らないと言っても、彼は僕の言葉などはじめから聞きいれてはくれない。
紙袋の中から目の前に兄の「耳」を転がして、彼は笑う。
「自分がジェイルだ。弟は関係ないから解放してくれと、わざわざやってきてくれてねぇ」
「さて、君がジェイルなら、正直に言った方が良い。この袋が、君の兄で一杯になるまでに――」
「誤解だって、言ってるだろ――っ」
激昂する僕の感情に、全身が反応しようとして――しかし僕は力を失う。
「おぉ怖い怖い。だが無駄だ。ここでは”
「ヒトをはるかにしのぐ身体能力も、捕食するための臓器である
指差す彼の先は、僕の腰。レンズと、レバーと、上から見下ろして左側に付いた紫の炎を象ったようなパーツが特徴的な、バックル。帯は赤く、断続的に僕はそこから痛みを与えられているようだった。
「赫子を発現させる時、目元に牢屋の鉄格子を思わせる痣が出るから、ジェイル。監獄だ。
まあ、私としては出してもらった方が判別が付くし、葬れるから一石二鳥なのだがね。そもそも、『私のようなもの』がここに出入りしていること自体おかしいのだから、早い所片付けてしまいたい」
「……」
「だんまりか。まあ良い。また来るよ? ――リオくん」
リオ。それが僕の名前。
立ち去る彼の足音を聞きながら、僕は、震えるばかり。ベルトは外すことが出来ない。明らかに外すための場所と思われる部分が潰されていて、僕は痛みから逃れる術がない。
僕はその場で蹲った。
「兄さん……、兄さん……ッ」
兄のことを思い涙を流し、僕は腕が震える。
「僕は、弱い。力づくであの男に勝てるわけもない……、でも、だったら名乗り出られるか? 違うのに、ジェイルだと言って。きっと……、きっと嬲り殺される」
でも、どうしたら助けられるのだろうか。
力の弱い僕のために、食事を調達してくれていた兄。戦闘経験も少なく、きっとアイツにだって勝てっこない。
「せめて、僕も兄さんもジェイルってのじゃないって気付いてもらえれば……」
せめてそうすれば、こんな拷問とは切り離されるんじゃないだろうか。兄さんも、そうすれば――。いやでも、どうやってそんなの証明しろって言うんだ。方法なんてないじゃんか。
どうにかして、ここから逃げなくちゃいけない。
兄さんと、二人揃って――。
そんなことを考えていると、巨大な爆発音が響く。
建物全体を震わせるそれに、僕も、他の喰種たちも顔を上げた。
「――襲撃だ! 何が!?」
「天井からだと……? 何だあのバケモノは……ッ」
「アオギリだ! ドクロの仮面、間違いない、”アオギリの樹”の喰種たちだ!?」
「総員、配置に――」
扉に張り付いて、外の様子を確認する。
ぐしゃり、という音と共に、僕の視界に血が飛び散る。
転がる捜査官の腕や、頭の半分に、思わず後ずさった。食べている時は、兄さんが厳選して腕や足など、あまり「死」を意識させない部分を持って来ていたのに対して、目の前のこれはあまりに、あまりにも――。
そして、バキンという音が鳴り響く。
前に張り付いていたせいか、牢屋の扉がそのまま前方向に倒れた。
「……これは」
僕だけじゃない。他の喰種たちが隔離されていた扉も、順次破壊されている。多くの喰種たちが大声で歓声を上げるのを余所に、僕は足早に走る。
道中見かけたフードの集団が、捜査官たちを切って捨ててしているのを見て、驚かされた。難攻不落とあの男が言っていたこのコクリアで、まさか、掴まってる喰種たちを解放しているのだろうか―ー。
「兄さん、どこに居るんだ……ッ」
でも、結果は芳しくない。次々逃げ出して行く喰種たちの中に、僕のように誰かを探してるヒトもいない。また、兄さんらしき喰種さえ見つからない。
時間だけが過ぎて行く。それと同時に、攻撃していた集団が下に向かっていって、徐々に徐々に捜査官の人数が増えて行く。
「ここに囚われた僕が……、今、兄さんを助けられるのか? そんな、そんな力は――」
――リオ、お前は前を向いて生きろ。
兄さんの言葉が頭の裏で響き、僕は、今考えられる一番最低な決断を、下す。
でも、それでも――きっとそれが、兄さんを助ける可能性に繋がると信じて。
「見つけたぞ、逃がすな!」「見つけ次第、駆除しろ! CCGの威信にかけて、何としても逃がすな!」
震える手を押さえながら、僕は走った。走って走って、外への出入り口を探して、転んで――。
そして、手を差し伸べられた。
「おや? 君は……、ふぅん、面白い臭いしてるね」
「……?」
ローブをまとった目の前の喰種は、腰に僕と同じバックルを付けていた。だというのに、その表情には痛みによる憔悴などは微塵も見受けられなくて。
「嗚呼なるほど、拡張機能として抑制レベルを指定できる装置が付けられてるのか。面白いねぇ、誰だろこれ作ったヒトは」
「き、みは……ッ」
「でも今のままじゃ、きっと抜け出せないよ。せっかく面白そうなものだし、『死神ドクター』としちゃ、見過ごせないねぇ」
ずぶり、という音と共に、目の前の喰種は自分の体に右手を入れて――ぐちゅりぐちゅりと音を立てて、何かを取り出した。
赤と、黄色がかった白のコントラストが、酷くグロテスクで、見て居られない。
「君は、生きたいの?」
「僕、は――」
震えながらも、立ち上がろうとして、何度も失敗しながら。
でも、それでも僕は、顔を上げて、目の前の開いてに言う。
「――僕は、兄さんを、助けたい」
「んん、そういう欲望があるっていうのは、素直で宜しい。なら――」
僕の頭に手を添えて、目の前の喰種は――。
「――今から君は、私の子供だ」
振り被った右手を、僕の顔面に叩きこんだ。
エト「ドラゴライズで”オウル”ドラゴン、みたいな☆」
タタラ「……」