仮面ライダーハイセ   作:黒兎可

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何だこのバカップル


Uc"J" 01:帰ってきた毎日

 

 

 

 

 

 暗く、そして僕の手元だけに明かりが灯っている。

 

「――ツバメは尋ねました。『誰?』

 『僕は幸せの王子です』

 『なら、なんで泣いているの?』ツバメは問いました。『こっちもう、すっかりぐしょ濡れだよ』

 像は答えます。『僕がまだ生きて、心臓も動いていた頃のことです』『僕は、涙がどんなものか知らなかったのです。サンスーシの宮殿で暮らしていた頃、そこに悲しみはなかったから。昼間は友達と庭園で戯れ、夜は大広間で、一番に踊っていました。庭園にはとても大きな塀が張り巡らされていて、僕はその向こうにあるだろう、美しいものに思いを馳せることもなかったのです――」

 

 物語を読み進める僕に、子供たちは思いの他静かに、聞き入っている。ちらりと壇上から回りを見れば、うつらうつらしてる子は居ても完全に寝ている子が居ないのがちょっと驚きだった。

 その後ろでは、見覚えのある先生たちや、子供たちの保護者数人がこちらを見たり、ビデオをとったりしていた。その中に、ちらりと身長がやや低いトーカちゃんの姿があるのがご愛嬌。慣れないスマホのカメラ撮影に四苦八苦しているようだった。

 

 ……そして手前の小学生たちの方に乗り出してる、僕と同じか少し下くらいの女の子たちが、なんか妙にじっと見つめてきてる気がするけど、たぶん気のせいだ。

 

 読み進めながらも、感じる視線や空気は様々。

 演じる側、お話をする側としても、聞いてくれている分には嬉しかった。

 

「――でも、王子はとても悲しそうにしていて、ツバメは申し訳なくなりました。『この町はすごく寒い、けど、もう一晩ここで休んで、手伝ってあげる』。

 『ありがとう、小さなツバメさん』――」

 

 ――幸せな王子。原題のThe Happy Prrinceは、オスカー・ワイルドが描いた童話の一つだ。

 見るからに美しい装飾の施された銅像の王子の足元で、エジプトへ渡る途中のツバメが一泊することから物語が始まる。

 

 誰かのために自分を配る彼と、そんな彼に胸を打たれたツバメ。やがて力尽きてしまったツバメと、それがショックで心臓が壊れてしまった王子たちを、事情をしらないとは言え町の人々はみすぼらしいと言う。

 けれど、最後には二人とも天使に連れられて、天国で神様に褒められて、幸せに暮らすというようなものだ。

 

 どこかお話の根底に、高槻作品と共通することもあるような気がして、今日はこれを読むことを選んだ。

 大切な自分も、大切な誰かも。自分の思いの為に全部失いながらも、そこにわずかながらも救いが見え隠れする。どこかドライで渇いていて、寂しくて。でも、そこから目をそらすことが出来ない――。

 王子の涙の訳を聞いたのが、ツバメだけだというのもどこか痛みを感じるところだろうか。

 

 まあ、僕が読んでるこれはアレンジされているのか、画で描かれてるツバメが女の子だったりしてるけど。ひょっとしたら翻訳家と、画描きさんとで認識が共通じゃなかったのかもしれない。

 

 一通り読み終えると、明かりが灯って拍手がされる。こうして見ると、視聴覚室は昔思っていたより狭かったんだなと改めて実感した。保護者さん達含めて拍手を送ってくれるのが、ちょっと照れくさい。……ちなみにトーカちゃんは、画面操作に悪戦苦闘して諦めたのか、一旦膝の上において半眼で笑って手を叩いていた。

 ……視線が若干僕からそれてるけど、何か失敗したんだろうか。最終的に見るのはヒナミちゃんだからと張り切ってた分、何か追い詰められてそうだった。

 

 小学校の行事なんて、もう思い出すのもちょっと難しいけれど。でも僕が小さかったころは、こういうタイプのイベントはなかった気がする。大抵が平日に授業中行われるものか、さもなくば一日授業を潰して行われるものだろう。

 そこへ行くと、こうした朗読会みたいなものに、僕が参加してるのがちょっと場違いに思える。まあ朗読会限定じゃなくって、PTAやボーイスカウトとかがメインの行事らしく、ここ以外に体育館では演劇部のブースとか、表の校庭ではサッカーやテニスなどがされている。

 ちなみにお昼は表で炊き出しみたいなこともあるけど、僕は午前中でお仕事終了だった。

 二日連続での読み聞かせは、今日は「星の王子さま」より抜粋と「幸福な王子」を読んでいた。

 

 集っていた子供たちは、十数人くらかな。

 ブースとしては他の所に比べて小さい方なので、これでもむしろ来ている方だろうか。

 

「はい、じゃあ呼んでくれたカネキお兄さんに、ありがとうございましたしましょう。はい?」

「「「「「ありがとうございました!」」」」」

 

 こういう風に一斉に頭を下げてくれるところは、しかし凄く懐かしいと言うか。大学に入ってからはめっきり見かけなくなった動作だ。

 

 その後、簡単なアンケートみたいなものをとって、ブース担当の人達と見送り。男の子がカッコ良いポーズをとるのに合わせて、僕もそれっぽく左手を右肩の方に振り被ったりしてポーズをとったら喜ばれた。

 そんな中で、例の女の子二人……、おそろいの私服を着た双子の子たちが、僕の両手をとって口々に言った。

 

「読むのが凄く上手だった」

「演じ慣れてる感じだった」

「お兄さんは役者志望?」

「お兄さんは俳優志望?」

「い、いや、どっちでもないかなぁ……」

 

 黒と白のコントラストの髪の色に、そっくりな顔が両側からこっちに詰め寄ってくるのは、どうしてか妙に迫力がある。

 思わずたじろいで視線を逸らすと、トーカちゃんのものと思われる舌打ちが耳に入ってきた。

 

「あー、ほら入り口に居ると他のお客さん出れないから、ほら……」

「わかった。ばいばい」

「ばいばい、お兄さん」

 

 手を離して軽く微笑んで手を振る二人に、ちょっと冷や汗を搔きながら僕も手を振る。

 トーカちゃんはまだ悪戦苦闘しているらしく、座ってた席から全然離れられないで居た。

 

 見送りを見計らって、僕はトーカちゃんの方に向かった。

 

「えっと、大丈夫?」

「お、終わらせたんだけど次がよくわかんない」

「保存先を聞いてきてるから、こうして……、はいオッケー」

「わ、悪い。

 じゃ、先出てるから――」

「良いわよ? 少ししかもう拘束しないし」

 

 と、先生が僕とトーカちゃんとに声をかけた。

 ちょっと待ってて、と僕だけを手招きする先生。

 

 一応ボランティアじゃなくて日雇いのアルバイトみたいな扱いになるらしく、二日合わせて僕は一万円貰うことになっている。僕よりも後のOBみたいな女の子が袋を受け取って頭を下げて、僕の前を通り過ぎていった。

 

「はい、ありがとうねカネキくん。久々で悪かったけど」

「いえ、まあ良い経験でしたよ。中学の時以来ですか」

 

 先生は……、ちょっと、ふくよかになった気がした。本人曰く「ダンナのご飯美味しくて幸せなのよ~」と会った途端に肩を叩いてきたりしたけど。

 

「ところで訳文、あれって自前?」

「あ、はい。ダメでしたか?」

「ちょっと口調が荒かったのがギリギリかなー。まあストップかけるほどじゃなかったけど、。

 うん、でも永近君から聞いて、何か大変なことがあったみたいだけど、一応元気みたいで安心したわ……。でも、無理してるなら抱え込んじゃだめよ? ちゃんと話さないと」

「よく言われます」

「あら~」

 

 僕の方を見た後にトーカちゃんを一瞥し、先生はなんだかニコニコと上機嫌そうだった。

 

「じゃあ、はい。昨日と今日と、合わせて。

 一応、中身確認して?」

 

 受け取って感謝の言葉を述べてから、僕は封筒を開ける(口は保護されてなかった)。

 そして、中を見て少し不思議に思った。

 

「……あの、先生これ、漱石が――」

「先生からの、お小遣い♪ あの子に何か、プレゼントしてあげなさい。これアドバイス」

 

 ウィンクされてサムズアップされましても、何を言わんとしているのか。でも、先生はすぐ表情を、どこか寂しげな笑みに変えた。

 

「それに、先生あんまり昔、力になってあげられなかったから。永近君にかなり頼ってたしね、ある意味」

「……」

「ま、だからお祝い? ってことで。幸せは分かち合わなくちゃ。傍に居てくれるヒトと」

「へ? あ、えっと……」

「ほらほら行った行った~。私もこの後の準備あるし」

 

 とんとんと背中を押され、僕はトーカちゃんの方に戻された。

 とりあえず帰ろうという感じで、僕らは校舎を出る。

 

 そして、部屋を出てしばらくしてのトーカちゃんの感想がこちら。

 

「……なんか、思ったより上手かった」

「……みんな言うよね、それ」

「みんな? って……、ああ、さっきの双子? ちっ」

 

 何で舌打ちしたのだろうか。

 

「いや、確かに言われたけどそうじゃなくって……、ヒデとかだよ」

 

 今もあまり話す訳ではないけど、世間体を気にしてた頃の伯母さんが優一君同伴で来た学芸会の時も、後々優一君から似たようなことを言われたことがあった。そんなに上手い、のかなぁ……。トーカちゃんからは「案外アドリブ利く」とかも言われたっけ。

 

「はい、飲み物」

「ありがとう」

 

 片手のバッグからペットボトルを取り出し、トーカちゃんは僕に手渡した。

 珍しくプラスチックが千切れる音もなく、すんなり開けられたのは運が良かったのか。そのまま僕は一口。しばらくしゃべりっぱなしだったこともあって、ちょっと助かった。

 

 トーカちゃんも自分の分のキャップを開ける。

 と、手元の方から「ぎゃり」っという、まるで初めてキャップを開けるような音。

 

「あっ」

「?」

「あ、あ、……いや、何でもないっ」

 

 僕の持ってるペットボトルと、自分の持ってるそれとを見比べてから、トーカちゃんは慌てるようにそう言った。両手でペットボトルを握って、それで口元を被うようにして、目を伏せる。

 どうしたんだろうか。大丈夫か聞けば「なんでもないから」と返されるばかり。

 

「――ッ、げほ、げほっ」

 

 と思っていたら、突然げほげほと咽た。

 

「ちょっと、本当に大丈夫?」

「だ、だ、大丈夫だから……、うん、たぶん」

 

 目を大きく開いて、少し頬を赤らめながら、口は笑いながら両手を振って元気さみたいなのをアピールしてる仕草が、どうにもトーカちゃんらしくなくて疑問が残った。けれど本人がそう言うなら、それ以上は追求しなくても大丈夫かな? 前よりそういう話は、自分から話してくれるようになったし。

 

 まあ、それは一旦おいておいて。

 

「ヒナミちゃん用に、撮影できた?」

「あ、一応……、たぶん。確認する」

 

 そう言ってトーカちゃんはスマホを取り出して……、ってそれ僕のなんだけど考えたら。ものすごく自然に閉まってたけどさ。

 イヤホンを取り出してジャックに刺して、片方をトーカちゃんの耳に、もう片方を自分の耳に。

 

「あはは……、とりあえず大丈夫そうだね」

「……」

 

 トーカちゃんの肩の方から覗き込むと、少し彼女の頬と触れそうになる。

 一瞬触れた彼女の耳たぶが、まだ冬場だというのに不思議と熱かった。

 

 離れてイヤホンとスマホを返してもらって、ありがとうとまず一言。

 

「今日はごめんね、トーカちゃん」

「いや、ヒナミが見たいって言い出したのが切っ掛けだし、別に」

 

 ――昔、担任だった先生から急に誘われて、朗読会をやることになった、という話を勉強中にしたら「ヒナミも見たい!」とテンションを上げたヒナミちゃん。

 僕もトーカちゃんもすぐに止めるとはならなかったけど、でも僕等の顔を見て察したのか、ごめんと言っておずずと手を下げた。

 

「本当は連れて来たかったんだけどねぇ……」

「まだ半年も経ってないし、私はともかくヒナミは危ないからな……」

「で、でもこれで一応見られるし、ね」

「……っていうか、アンタが家で読んでやれば良かったんじゃないの?」

「アヤトくんが凄い顔しそうだけど、良いの?」

「あー……、んん、そうね」

 

 視線を逸らしながら何とも言えない笑みを浮かべるトーカちゃん。誤魔化しきれない時は、大体こんな顔をしているみたいだ(ヒナミちゃんから「お姉ちゃんにお腹に顔描かれた」と拗ねながら言われた時もこんな感じだった)。

 

「っていうか、アンタどうして急に受けたの? 今、だって……」

「いや、まあそろそろ良いかなって。訓練とか再開しても、ある程度はね。

 ただそれは別にして――」

 

 ちょっと照れながらだけど、僕は笑って言った。

 

「――ヒデにも言われたし、先生とか考えてみようかなって」

「先生?」

「うん、先生。上井、そっちの科目も二年生から取れるし。忙しくなるけど」

「ふぅん……、まあ、向いてるんじゃない?」

 

 実際に就くかどうかは別にして、進路の検討の一つとして挙げているレベルなんだけど、でもトーカちゃんはすんなりとそんな風に返した。

 驚いている僕に向かって、半笑いを浮かべるトーカちゃん。

 

「結構勉強教えてもらってるし、悩みとか色々察して聞きだされるし、関係ないって言ってるのにヅカヅカ入りこんで来たのは何処のどいつだっけ?」

「あ、あはは……」

「感謝してはいるけど、最初の方は割とたまったもんじゃなかったから」

 

 鼻で笑うトーカちゃんに、僕はどう返したものか。

 

「……でも、なんかズルい」

「へ?」

「別に」

 

 そう言ってキャップに口を付けて、一口。少し零れた水が顎を伝って喉元、襟を経由してその内側に流れて行くのをなんとなく僕は見ていた。

 

「……何?」

「……あ、いや、何でも。

 そう言えば、トーカちゃんはどうするかとか、あるの? 進路」

「別に。……まだそんな考えてないけどでも、まあ……、お金大丈夫なら、大学、行けたら良いなって」

「へぇ」

「……何、その反応」

「まあ、予想はしてたからね。うん、良いんじゃない?」

 

 僕の言葉に、トーカちゃんは半眼をして、そっぽを向く。

 

「(……絶対ギリギリまで上井だって言ってやんない)」

「トーカちゃん?」

「何でもない。で、どうする訳?」

「あー、お昼はすいとん(ヽヽヽヽ)みたいだし、ブースも一旦お休みになるから……、帰ろうか」

「別に良いけど、良いの?」

「……まあ、元を正せばヒデが来れないから代わりにやらないか、だったしね」

 

 なんとなく思う所はあるけど、それでも僕は今日はもう帰りたかった。

 校門を出てなんとなく一度頭を下げると、何故かトーカちゃんもそれに続く。

 

 さてと、と考えた瞬間にトーカちゃんが突然言った。

 

「じゃあ、本屋とか行く?」

「……へ?」

 

 思わず呆ける僕を見て笑って、トーカちゃんは額にデコピンを入れてきた。

 

「このまま帰るのも何かアレだし、別に行っちゃ悪い決まりがあるわけでもないでしょ」

「あ、そうだけど……」

「それとも、私が行きたいって言っちゃいけない決まりでもある訳?」

「いや、そんなことは――」

「じゃ、ほら。あんまり遅いと電車込むから」

 

 ごくごく自然な動作で、トーカちゃんは僕の手を引き、走る。

 

 なんとなく気恥ずかしさを覚えながらも、僕はそれに引っ張られて、駆けた。

 

 

 




カネキ「?」
トーカ「(か、間接キ……って、私は中学生かッ! いや、でもよく考えたらもっと前にも思いっきり口と口で)―ーッ、げほ、げほっ」


ワイルド オスカー「The Happy Prince」より。翻訳部分は一応自前です。

MOVIE大戦ジェネシス、面白かったけど粗多すぎぃ!(脚本の時期混乱を差分してもびっくり)(まあそれ以上に一番の突っ込み所は最後のアレだと思いますが)。でもテーマとか描きたいものとかはすごく伝わってきたので、これはこれでオススメです

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