仮面ライダーハイセ   作:黒兎可

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『キジマ様

 

 捜査協力の連絡先が書かれていたので、メールを送らせて頂きます。ジェイルとはこの男でしょうか

 

 from R』

 

 カネキさんがルチの写真をとった後、月山さんに用意して貰ったらしい「痕跡を残さない」携帯端末を使って、僕はメールを送った。キジマ、という相手が誰かは知らないけど、ジェイル捜索の担当者であるのなら、もしかしたら見覚えくらいはあるかもしれない。カネキさんの教えてくれた情報だから、たぶん大丈夫のはずだ。

 

 メールを打つのは初めてだった。思い出ではなく、知識として。

 カネキさんに教わりながら、不慣れながらも打ち込んだ。慣れない操作に20分は経ってしまったかもしれないけれど、これで充分だろう。

 

 カネキさんは、ルチの赫子と顔の痣を写真に収める代わり、彼を解放することにしたらしい。ただ「荒れた事は多少控えないと、次は摘みますよ」と最後に一言あったのが、ぞっとした。

 優しい人なのか、怖いヒトなのかちょっと判別がつかなくなってきた……。いや、たぶん優しい人なんだろうけど、でも何かあったら容赦しないヒトなのかもしれない。トーカさんが少し寂しそうな顔をしていたのが、どうしてか頭に残っていた。

 

 ともかく、出来上がった文面を見直してから送信。

 すぐに返答があるかは分からないけど、まずは一つずつやっていかないと。記憶のことも含めて――。

 

 そんなことを思っていると、五分と経たず返信が返って来た。え、もう? と戸惑いながらも、受信ボックスの中を開く。

 

『R様

 

 情報提供、感謝致します。キジマ式と申します。

 受け取った写真についてですが、残念ながらジェイルだとは言えません。しかし喰種の情報提供であることに変わりはなく、これで人の命がまた一つ、救われるかもしれません。情報提供、ありがとうございました。

 

 ここからは注意となります。撮影された写真自体、かなり接写したものでしたが、お身体は大丈夫でしょうか。襲われて入院ならまだしも、死んでしまっては意味がありません。撮影は可能な範囲で、もっと遠くからのものでも構いません。まずはご自愛なさってください。

 

 繰り返しになりますが、貴方からの情報提供、感謝致します。

 

 from キジマ式』

 

 

「……なんか、ものすごく良いヒトそうだ」

 

 連絡して来た相手がまさか喰種だとは思っていないんだろうけど。それでも文面からは、情報提供者に対する感謝と心配の念が伝わってくる。

 

「ルチが、ジェイルではなかったんだね」

「……無駄足だったってこと?」

「いや、違うってわかった以上は続けて調べられるから。悪くもないと思うよ。一発で当てられなかったのが残念と言えば残念だけど。

 リオくん、今日はどうしようか、これから」

「……イトリさんのお店に、行ってみます」

 

 送るよ、とカネキさんが言ったのを、僕は遠慮して駅前に向かった。

 カネキさんは――あの時、僕からすればかなり余裕を持ってルチを押さえ込んだ。きっとその気になったら、殺すことだって簡単に出来たはずだ。痛み分けに見えたお腹の貫通だって、数分もかからず完全に回復していた。

 なのに、勝手に突っ走って状況を混迷させたのだ、僕は。そのことは、さっきもカネキさんから軽く怒られた。

 

 ただそんなことよりも――ひとえに、カネキさんの強さが、羨ましかった。

 

 それだけの力があったら、僕は記憶も失わず、兄さんをあのバケモノから助けることが出来たかもしれないのに――。

 

 

 

 

 ヘルタースケルターに到着した頃になると、もう普通に夜だった。

 

「あの……、やってますか?」

「やってるわよー、流行ってなくて悪かったわね!」

「い、いや、そんなつもりじゃ……」

「何をーナマイキな、ほれほれ!」

 

 イトリさんに掴まって、軽く首を締められる僕。脇に首を挟まれて引きずられて数秒、無理やり椅子に座らせられた。

 

「あの、イトリさん。僕に出来ることで何か――」

「ああ、それ大丈夫」

「……へ?」

 

 困惑する僕に、彼女は肩を竦める。

 

「情報料、既に先払い済みよ君のやつ」

「え? え?」

「誰が持ってきたかは……、言わない方が良いかな」

 

 悪戯っぽく笑い、彼女は僕の鼻を軽く摘んだ。

 誰だろう、僕に変わって情報料を払った相手なんて……。咄嗟に思い浮かぶのは、カネキさんか、店長か。大穴で言えば月山さんだろうか。カネキさんと店長は共にそういうこをしてくれる可能性が(100%じゃないけど)わずかにあること。月山さんは、僕にこんな凄い携帯端末をくれるくらいの、お金持ちだということから。

 

 イトリさんは「ちょいと聞いた筋の情報なんだけど」と言う。

 

「コクリアからの脱走者の中……、あーもちろん君のことじゃないと思うけど、その中にジェイルが居たって話があってね。でそこで条件に合う喰種が居た訳よ」

「コクリアから……っ」

「灯台下暗しよねー。って、言ってわかんない? か。

 うん、で教えてあげても良いけど――結構危ないよ? リオ坊」

 

 イトリさんは、こめかみを搔きながら説明を続けた。

 

「レートはS。ま要するにとんでもなく強いってことだ。激昂状態で街で暴れて、包囲した相当数のCCGがやられたって話。接し方はくれぐれも間違えないようにねー? こーんなカワイコちゃん殺したってなっちゃ、イトリさん半日くらい落ち込むから」

「半日……」

「まそれは良いとして。

 名前は、キンコ。赫子は『鱗赫』。顔に傷のある大男で、なんでもコミュニケーションがちょっと難しいらしいのよね」

「難しい?」

「そこは、流石に詳しく知ってる喰種が少なかったからねー。まともかく、顔面に傷がある。それが格子模様に見えるらしいんよ。掴まった時期も、たぶん君とそう違いはない」

 

 イトリさんの言い回しに、何か違和感を覚えたけれど、でもこの時の僕は新しく手に入った情報に、少し高揚して、浮かれていた。

 だから、続いてのやり取りにちょっと元気がなくなった。

 

「そいつは、一体どこに?」

「さあ」

「……えっ」

「いやだってさ。絶賛逃亡中の奴だし、知り合いの情報網に引っかからないと流石にね。

 あ、でも大柄だから流石に移動は夜中なんじゃないの?」

「夜中、か……。ありがとうございます、イトリさん」

「いいっていいって。それより、さっさと帰んなさいな。

 早くしないと化粧室から――」

 

 

「アラァ……? 随分可愛らしいお客さんじゃないの、イトリ」

 

 

 あっちゃー、と頭を抱えるイトリさん。店の奥の方から、サングラスを頭の上に乗せた、長身の、おじさ……ん? うん、たぶんおじさんが出てきた。先客だろうか。

 

「はぁ、やっぱ食い付いたか……」

「ちょっと紹介なさいよ、イトリ。常連のニコよ、仲間(ヽヽ)だから心配はしなくて大丈夫よ」

 

 仲間……、つまりこのヒトも喰種ってことか。

 

「イトリからちょっと噂は聞いてるわよ? ふぅん……」

 

 そう言いながら、ニコは僕に擦り寄ってくる。……煌びやかなシャツに、ピタっと腰に張り付いたズボンがスマートな脚のラインを強調している。仕草も口調もしなっとしていて、何だろうこのヒトは、所謂――。

 

「やめんかっ。私でもツッコミ入れるわ。あんまり近づかないの、しっし。

 いたいけな少年にオネェのオーラは刺激が強いっての」

「あ、あの――」

「大人の女のオーラも充分刺激強そうよね」

 

 僕を抱き寄せる形でイトリさんがニコさんから引き離した。ニコさんはそれでも、どうも熱っぽい視線を僕に送ってくる……。

 

「私もこれでも、色々情報通よん? それにもし、イトリの情報代が払えなかったら、私が肩代りしてあげる。

 その代わり――」

「リオ坊、ダッシュ」

「あ! ちょっとイトリ、何逃がして――」

 

 どん、と背中を押され、僕は店の外に駆け出した。決してこの判断が、間違っては居ないと信じたい……。

 でも、もし今回もダメだったら、その時は頼らざるを得ないだろう。……うん、なんとなく感じるお尻の穴が「きゅ」ってなる感覚から、目を逸らさなきゃダメだ。うん。

 

 お店を出ると、もう夜も遅い。……今更ながら、なんで僕はここまで一人で来たんだろうか。流石に道は間違えなさそうだけど、ちょっと物騒だ。

 駅前までの道筋は多少時間がかかるし、えっと……出来る限り大通りを歩く僕。他の喰種と出来る限り遭遇しないようにしたい。

 

 でも、何というか――一人で居ると、なんだか妙に嫌な感じがする。左目の奥に、以前にもまして痛みが走るようになったことも、それに拍車をかける。これは記憶を思い出そうとしている兆候か何かなんだろうか。そして、それに対してこんな想いを抱くってことは、ひょっとしたらその記憶は――。

 

 

 こつん、と、歩いているとつま先が何かにぶつかった。

 

「……?」

「うんにゅぅぅ……」

 

 人間が、倒れていた。女性だ。身長は小柄で、長い髪を適当にまとめている。そして格好は、何故か白衣だった。大丈夫ですか、と思わず起すと、寝ぼけたように半眼のまま、ぼうっとこちらを見上げて来た。

 

 うわ……、普通に美人だ。でも何か、服装から何から何まで妙にちぐはぐな印象がした。

 

「wer du bist?」

「う、う?」

「ah,abweichen……。えっと、ん? 君だぁれ? てか――ああ思い出したわ。いかんなー、寝不足が祟ったかぁ……。締め切り終わってからまだサイクル戻ってないからねー。

 あー君、ありがとう。寝てただけだから大丈夫だよー」

 

 寝てただけって……? いやいや、大丈夫なのかこのヒト。

 よいしょ、と僕の肩を借りて、彼女は立ち上がると四つん這いになり、「メガネメガネ」と何やら探し始めた。

 

「メガネ、探してるんですか?」

「うん。そうそう。丸くて、フクロウとかミミズクとかの目みたいな感じのやつ」

 

 どこかなどこかなー、と彼女はうろうろと探索を続ける。なんとなく、そんな背中を見て僕は「手伝いましょうか?」と言った。

 

「あれ? あー、そう。うん、じゃあお願い。見つけたら缶ジュースくらいはお姉さんが奢ってあげましょう」

 

 メガネの捜索はその後五分くらいで終了。最終的にあった場所は、側溝の蓋と蓋の間の隙間で、そこに挟まってひしゃげていた。

 「お気にだったのに……」と落ち込む彼女。しかし数秒で「ま買い直せば良いか!」と言って元気に笑った。何なんだろう、この切り替えの早さ。ショルダーバッグにしまうと約束通りに奢るよ、とそのまま僕を、近くにあった商店街の入り口、スーパーにあった自販機まで引っ張る。

 

「何にする?」

「ぶ、ブラックで」

「ん? へぇ、気が合うねぇ。私も好きだよ、黒いヤツ。

 特にラスト三十ページの追い込みの時とかはもう欠かせない」

 

 ボタンを押して、地味にちょっと値段が高いものを僕に手渡す正体不明な彼女。

 

「あの、失礼ですけどご職業とかは?」

「ん? どうしたんだい?」

「お話で度々、よくわからないところがあったので」

「あー、ごめんごめん。担当と話してる時のノリだったわ。

 私、これでも作家なんよ。高槻泉」

 

 ちょいちょい売れてるんだよー? と言って彼女は笑う。しばらくそのままにこにこしていたと思ったら、突如真顔になって僕の顔を覗きこんできた。

 そして、彼女はある意味「決定的なこと」を言った。

 

「んん……、あれ? 君、ひょっとして先週くらい、7区で私と会った子だよね! 覚えてる?」

「――っ」

 

 なん、だって?

 突如言われたその一言に、僕はかなり揺さぶられた。初めて会った相手だと思ったら、

 

「あの……? すみません、覚えてないです」

「あらそう? でもありがとね、私ちょっと助かった。

 で、えっとえっと……、あったあった。これ、その時急いでたみたいだったから、落し物」

 

 はい、とショルダーバッグから「見覚えのある何か」を彼女は取り出した。

 瞬間、痛みを左目の奥に覚える僕。少しだけ手で押さえながら、僕は彼女の続いた言葉を聞いた。

 

「まさか再会するとは思えなかったけど、元気そうで良かったねー。あの時は急いでたみたいだったから。

 『今度は』失くさないようにね。なんだか、すごく大事にしてたみたいだし」

「……」

 

 手渡されたそれは――右側にレバーのついた、左側に「赤いパーツ」の付けられた、クインケドライバーそのものだった。

 

 

 

   ※

 

 

 

 翌日、あんていく。僕は昨日のことを、カネキさんに少しぼかして説明をした。

 ぼかした箇所は「僕が会った人物が高槻泉」であるということ。……あまり話したところで意味がなさそうだったのもあるし、言った所でなんとなく、無駄に期待を煽るだけな気がしたから。

 

 なにせ話していた時、カネキさんの手元には、彼女の書いた最新作と思われる一冊が持たれていたからだった。

 

「んー、そのクインケドライバー、リオくんが落とした物だって言ってたんだよね」

「あ、はい。……あんまり詳しく聞けなかったんですけど」

 

 既にカネキさんには、僕の腹部にドライバーを装着していたと思われる痣があることも説明した。カネキさんは不思議と驚くこともなく「やっぱりか」という反応だった。どうやらルチに対して、ドライバーを使った時の反応が薄かったのが理由らしい。

 

「とすると、リオくんはコクリアで、ドライバーを使って拘束されていたと。

 そして脱走した後まで大事に持っていたとするなら――ひょっとしたら変身も出来たのかもね」

「変身……」

「うん。……ひょっとしてだけどさ。リオくんって、実は結構『痛覚に鈍い』んじゃないかな」

「……確かに、そうかもしれないです」

「とすると、コクリアで常習的に使われていて感覚がおかしくなって、後日普通にドライバーを使えるようになったと仮定できる、かな……? うーん、ちょっと無理があるかな。それにしても7区か……」

 

 少し嫌そうな顔をして悩むカネキさん。何か理由があるんだろうか。

 そして……なんとなくだけど、その予想は大きく外れて居ないような、そんな予感が僕はしていた。

 同時に、どこか胸の内にたぎる焦燥感が膨れ上がって行く――。

 

 兄がアイツに囚われてから、果たしてどれくらいの時間が経っているのだろう。

 仮にコクリアに行く前に拘束されていたとしたら、もしかしたら、もう――。

 

 居ても立っても居られない、という焦りが、どうしても、どうしても僕の握りこぶしを震わせる。

 

「……とりあえず珈琲でも淹れて来ようか。僕、そろそろ休憩上がるし。

 リオくんは、もうちょっと休んでて」

「すみません。……あの、ところでこの本って?」

「ああ。お気に入りの作家さんの最新作なんだけど……。

 高槻泉で『詩集/檻の夢』。前半は連載記事の詩とエッセイと、後半が書き下ろしになってるんだ。出たのは一昨日なんだけどね」

 

 読む? と少しテンションが上がったカネキさんに、僕は、はいと頷いた。「挟んである栞は抜かないでね」とだけ言って、彼は部屋を出る。

 

 僕は最初のページを開いた。

 

 

 

 

 

 

 

――拝啓、うつくしき君へ

 

 

 たりない、たりない

 そのまま進んでは、足りない

 なまけもの、なまけもの

 そのままでは、誰も、何も救えない

 

 何も見えない、もう戻れない

 あと少しだったのに、もう欠けたまま、戻れない

 

 うつくしいものよ――ひとよ

 

 それは誰かのために

 それは君のために、あるいは、それとも××のために

 物語は欲している

 運命の輪は、一人、轢き殺すいけにえを欲してる

 

 なのに、嗚呼、何をやっているんだ

 歯車よ、歯車よ、もう少し、後少し

 君は××のためのいけにえだったのに・・・

 

 行きつく先は、もう戻れない

 今は亡き贅沢な夢、今は無き贅沢な夢

 

 それでも、きっと、何かは残せる・・・うつくしきそれに、慈愛の微笑みを――

 

 

 

 

 

 詩というからには、意味がわからなかった。

 でも――どうしてか読んでいて、猛烈に左目の奥に痛みを覚えて。

 

 自分の中の「何か」が、苛立ちを覚えながらも、涙を流した。 

 

 

 




カネキ「今、リオくん読んでるんだけど、家に帰ってから楽しみにしてるんだ♪」
トーカ「(チッ)・・・アンタ、今日勉強見てくれない?」
カネキ「へ、何で急に?」
トーカ「うっさい。いいからお願い」
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