仮面ライダーハイセ   作:黒兎可

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20~0時くらいにもう1話予定

※思ったより長くならなかったので、そのままつなげました


Uc"J" 20:自分なりの決着

 

 

 

 

 

「ダメじゃないですか」

 

 リオくんは哂った。でも、その直後には悲しそうに表情を歪めた。その顔は自分の周囲に散らばった赫子に注がれていた。

 そしてそれらが、数秒と経たずリオくんの身体に戻ろうとしている。赫子の繊維一つ一つが黒く伸び、本体たるリオくんの胴体に吸着せんとしている勢いだ。

 

「ダメですよ。カネキさん。これじゃ――僕は止められない」

「リオ、くん?」

 

 リオくんは、左目から出る赫子を弾いて自分の眉間を指差した。

 

「やるのなら、ここにしてください」

「……ッ! そ、そんなのリオくんが――」

「カネキさん。僕は、みんなが好きです。だから――みんなにもう、迷惑はかけたくありません。

 壊したくないんです。みんなが守ってきた、人間と喰種との共存を――」

 

 だから、僕のやりたいように命を使わせてください。

 寂しそうに笑いながら、再びリオくんは赫子に被われてく。僕は、ただただ茫然とそれを見ているしかなかった。

 

「僕を――殺してください」

 

 仮面に被い尽くされてしまう直前の、彼の酷く悲しそうな顔が、僕の胸を焼いた。

 

 なんでそうなってしまうんだ。他に方法はないのか。変質していくリオくんを前に、僕は全く動けず。

 再び変貌したリオくんの拳が、僕に振り下ろされ――。

 

 

『――ロッテンフォロウ・リッパー!』

 

 

 そんな僕の眼前を、丸ノコの刃が飛来する。クインケだ。クインケの丸ノコは、そのままリオくんの腕を弾き、僕の後方に帰って行く。距離をとるリオくん。

 

 背後を振り返れば、そこには――あの捜査官が居た。あの時、橋の下に向かおうとしていた彼。喰種を悪だと断じた彼。11区のアオギリへの大規模強襲時にも居たあの彼が。

 片手にアタッシュケース。射出された丸ノコが帰っていき、先端に装着されて、もう片方のクインケと合体してチェーンソーのようになった。

 

「眼帯」

「……」

「……状況は読めん。が、お前はジェイルを倒そうとしているのか?」

 

 目を開けて驚く僕に、捜査官は僕とリオくんとを見比べてそう聞いてきた。

 

 彼を止めないといけません

 視線を前に戻してそう言う僕に、彼は「そうか」とだけ言って――隣に立った。

 

「呉越同舟、という言葉を知ってるか」

「……一緒に戦うと言うことですか?」

「勘違いはするな。被害状況から見て、ジェイルを先に片付ける必要がある、というだけだ。……お前のレートは未だ判定されていない、ということもあるが」

 

『――ロッテンフォロウ・チェーン!』

『――クラ・スマッシャー!』

 

 プレートのようなバットのような大型のクインケを地面に突き刺し、捜査官はチェーンソーのような方を構える。

 僕は、胸の内で複雑な思いに駆られた。でも……、今は、リオくんを止めないといけない。

 

「行くぞ、眼帯」

「……ハイセですよ」

 

 そんなやり取りを交わしながら、僕等は走る。

 リオくんは一瞬蹲ると、再び、その身体が大きくなる。……さっきバラバラに飛び散った時、何か他のものも吸収したのかもしれない。明らかにその質量は、さっきまでのそれよりもより重くなっていた。

 

 

 振り下ろされる拳を、甲赫を纏った腕で受ける。その背後から捜査官が切りかかった。一見すると強度で打ち負けそうにも見えたけど、チェーンソーはリオくんの腕に亀裂を入れる。

 

『兄……、サン――』

「おおおおお――!」

 

 赫子に刺さって動かなくなったクインケを強引に引き抜き、彼は蹴り飛ばした。それに対して、僕もリオくんから距離をとる。

 捜査官のヒトが一人入ったおかげで、さっきまでより少しは戦いやすくなった。でも、僕も彼も決定力に欠ける。リオくんのベルトに装置を付けて、ブレイクバーストをする気は流石に起きなかった。

 

「クインケを二つ、同時に扱う技量が俺にあれば――ッ!? 何だあれは」

 

 捜査官の言葉に、僕も頭を上げ彼の見ている方角を見る。夜の空、青白い光を伴いながら、黒い、甲虫のような何かがこちら目掛けて飛んできた。

 それは、クワガタのようなシルエットを持っているように思えた。足が四本、後ろがブースターみたいになっているクワガタ。

 

「ッ、リオくん!」

 

 轟音と共に飛来するそれに、リオくんも気付いたのか後ろを振り返ろうとし、胴体をそれの顎に薙ぎ払われた。

 空中に舞う胴体。と、そこから再び赫子が這い出て、立ったまま下半身と落ちた上半身とを再び繋ぎはじめた。

 

『全体の接合強度はそこまで強くないみたいね、研くん。でも回復力は異常と……。赫子のお化けか何かなんじゃないかしら?』

「それよりもあれは――」

 

 飛来した巨大なクワガタのようなそれは、捜査官の手前で止まり、突如変形した。羽根の下側に隠れてた車輪が展開し、彼の前に設置。そのまま胴体の部分からエンジンらしきパーツとかが降りてきて、顎が折りたたまれて、立派なバイクが彼の目の前に出現した。クルーザータイプだったっけ、確か。

 

 そのディスプレイの部分から、何か電子音が聞こえる。

 

『――亜門一等、聞こえるか?』

「……? アキラか? ということは、これは――」

 

 捜査官は立ち上がり、バイクのディスプレイを操作する。すると通信機からの声が、色々と説明を始めた。

 僕は、それを邪魔させないように、リオくんに再び飛びかかる。――現在のリオくんの赫子の装甲は、おおよそ3メートルほど。

 

 

『デチューン版のアラタだ。使い方は前と変わらないが、変形モードにバイク形態が追加された。普段から持ち歩きやすくなったはずだ』

「そうか……」

『それから、地行博士からのアドバイスだ。奴のドライバーの端についているはずの装置があるはずだ。そのダイヤルを5にしてレバーを二度落とせば、なんとかなる、かもしれない』

「ダイヤル? ……、いや、装置事態がないな。そもそも何だ、その装置とは」

『「ヴィクトリー・シンクロユニット」、と言っていたか。クインケドライバーの拘束力を上昇させる装置らしい。欠点は下げすぎると、より拘束力を緩めた状態で使わせられてしまう、ということだが』

 

 ヴィクト……? いや、その装置は今僕が持っている。そして拘束力を上げる装置?

 ということは、仮に今の状態で僕が、ダイヤルを1とかに設定して、再度ドライバーを落とせば――。

 

 弾き飛ばされた僕の横。

 健闘を祈る、という言葉と共に切れた通信。捜査官は、ディスプレイからおもむろに何かの装置を取り外した。掌に収まるようなサイズの装置だ。丸いレンズのようなものが二つ組み込まれたそれを持ちながら、彼は腰にバックルのような装置を当てた。……クインケドライバーとは違う装置だった。

 

 僕は立ち上がりながら、さっき聞こえた声を参考にする。リオくんが自分のドライバーから外したそれを、僕はそれに習ってドライバーの横に取り付け、ダイヤルを回転。1にした状態で立ち上がり、一度レバーを上げ。

 

「「――変身!」」

『――鱗・赫ゥ!』『ゲット1!』

『――アラタG3! リンクアップ!』

 

 タイミングを合わせた訳でもないのに、僕と捜査官との声は重なった。電子音が同時になって、何を言ってるかいまいち聞こえない。

 

 僕の背部の開いた背中。赤く赫子によって染まったそこが、更に布状になって僕の上半身から膝にかけてを被う。紫と赤の重なった色は、嫌でもヤモリを思い出させた。それがリオくんが変身した時に装着されていたパーカーみたいになった。

 

 捜査官の方は、車輪が折りたたまれ空中でバラバラになり、一つ一つ吸着していくように装着される。最終的に顔に向けて、オオカミのようなシルエットで下あご、上あごと装着されて顔面を被う。そして背中に、クワガタの時に顎になっていたパーツが二つ、肩のジョイントに合わさるよう下を向いて装着された。

 

 僕と彼は、お互いにお互いの姿を見た。

 まるで喰種の、僕らのように変化、あるいは装着させた彼に僕は驚かされた。向こうは向こうで、今の僕の姿と、ドライバーの装置に視線が集中している、ように見える。

 

 でも、僕はそれよりも意識をリオくんに集中させる。空中に飛びあがったリオくんは、そのまま両手の拳を重ねて振り下ろす体勢に入った。

 

『アアアア――』

「はぁッ!」

 

 振り下ろされるリオくんのそれに、僕は両手を上に伸ばす。と、袖の部分が伸び、膨張して変化する。この形は見覚えがあった。ヤモリが僕と戦った時に見せた、変身しているような姿のそれだ。

 

 激しく広がったそれでリオくんの拳を鞭のように打ち、ベクトルを変化させる。打ち返した後、袖の部分は最初の形に戻った。

 

『前に比べて、身体が軽い……! これならば――』

 

 捜査官のヒトは、地面に刺さったクインケを引き抜く。両手に武器を構えて、彼は叫び、リオくん目掛けて走り出した。

 僕も少し遅れて、その背後に続く。

 

『『リコンストラクション!』』

『クラ・フルスマッシュ!』『ロッテンフォロウ・デュアルカット!』

 

 チェーンソーを構える捜査官。先端から丸ノコが射出されて、リオくんの顔面目掛けて飛ぶ。

 そうしながら肩に乗せたもう片方の武器も唸りを上げて、ぐん、と振り回される。

 

 リオくんは、最初の攻撃は交わさず胸で受けて、もう片方のそれは自分の右腕で防御した。もっとも、その一撃でリオくんの赫子の腕そのものが消し飛んでしまったのだけれど。

 最初の丸ノコ自体は回転を続けているけど、どうも胸部の赫子を破壊し尽くすには至っていない。

 

『、ケナ――!』

 

 何かを言いながら左腕を振り被るリオくんに対して、捜査官はチェーンソーを構える。予備でもあったのか、先端は通常の丸ノコが入ったチェーンソーの状態のまま。そしてそのまま刃を回転させ、右腕を破壊した反動を生かして回転し、その場にスマッシュした方を叩き付けて、盾代わりのようにした。

 さらに反動を利用して一回転し、チェーンソーでリオくんの足を切りつける。

 

 金属がぶつかるような音と共に、火花と、赫子の液体が血のように飛び散る。回転が続くため一回でその飛沫は止まらない。

 

「おおおおおおお――!」

『ソン、な――アアアア!』

 

 足を止められ、腕をなくし、残すは胴体だけ。

 走りながら、僕の脳裏にリゼさんの声が聞こえる。

 

『――今なら、確実に殺せるんじゃない?』

 

 この状況に至っても、それでも僕の中には迷いがあった。それを分かっているからこそ、頭の中の声は僕の背中を押す。

 でも、どうしても――。彼のあんていくで働いていた時の笑顔を思い出すと、レバーに置いた指が、わずかに躊躇ってしまう。

 

 そんな僕の葛藤を余所に。リオくんは、悪魔のような仮面の口を開けた。舌のような赫子が垂れる。あれはリオくんの左目を突き破って出てきたものだったはずだ。

 

 そしてそれが、捜査官の頭目掛けて勢い良く伸ばそうとしているのを、僕は瞬間的に覚った。

 

 何故ならそこが、捜査官のヒトの装備の中で一番装甲が薄い箇所だから――。

 

 それは――嗚呼、それはダメだ。僕の中の天秤に載せられたものが、入れ替わる。リオくんの命とリオくんの殺してくれという願いとが、リオくんの願いと捜査官の命とに入れ替わる。

 

 目の前の彼を助けたところで、感謝すらされることはないだろう。喰種からすれば、捜査官なんて助けてと嘲笑され恨まれることだろう。

 でも、目の前の情景をそのまま放置するという選択は、僕は出来なかった。

 

「ぅう――、あああああああああああ――!」

『――ゲット1!『鱗・赫ゥ! 崩壊撃破(ブレイクバースト!)』シンクロライドッ!』

 

 自分の選んだ選択に、耐えられない感情が目から零れる。右目の視界が涙で歪む。

 全身に纏った赫子の服のようなそれが、光って分解され、何かのエネルギーのように僕の身体の動きを加速させる。そのまま僕は飛びあがり、リオくんのその顔面を回り蹴りで蹴飛ばした。大きく胴体が剃れる。

 

 再度、僕はレバーを二度落とす。

 

 無理やり更に加速して、そのままリオくんの胸部を蹴った。――その結果、胸部に埋まりかけていた、捜査官の武器の丸ノコが、彼に刺さる。

 胸部と、悪魔のような仮面の口から血が迸る。

 

「ぅああああああああああああ――ッ!」

 

 我武者羅だった。自分の行動が何を引き起こすか、理解しているからこそ。そう選択してしまった自分の弱さに、果てしなく目元が痛む。

 それを押さえながら、僕は、リオくんを蹴り続ける。何度も何度も蹴り、その場から引き離そうと――。

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

「はぁ……、はぁ……、」

「……はぁ、……はぁ、」

 

 僕は、肩で息をしながら目の前の相手を睨んでいた。

 目の前の相手も――黒い僕もまた、僕を睨んでいた。 

 

 僕は紫色のパーカーのように変化した赫子に、鱗赫。

 相手は同じようなデザインの白黒縞のそれに、羽赫。

 

 正面から殴りあい、打ち、撃ち、切り合い。それでも一向に僕らは決着が付かなかった。

 

「わかったかい? ジェイル。僕は君なんだよ――自分で殴りあって、決着が、付くわけがない」

「……でも、何とかは出来るはず、だ。だって――今まで、僕は君を思い出さなかったのだから」

 

 ようやく、自分に理解が追いつきはじめていた。アオギリで「彼女」に改造されたことを、僕は思い出さなかったのだ。それは当然逃げてきたということだけど――同様に、自分の狂ってしまった部分を何とかして押さえ込んでいた、ということとイコールのはずだ。

 

 少なくとも、あんていくの皆を殺そうとはしたことはなかったのだから。

 だからこそ、目の前の彼を否定する事で、僕は今の僕を保つことができるはずだ。

 

「でも――もう戻れないよ。時間切れだから」

「……へ?」

「『エトさん』が言ってたから。だから、早く諦めた方が楽になれるよ」

 

 不可逆だと言って、黒い僕は悲しそうに笑う。僕は、それに一瞬言葉が続かない。

 

 眼前の視界、周囲の風景に僕の記憶が投射される。あんていくで過ごした毎日が。そしてそれらに、ジェイルの証である牢獄の模様が浮かび、ヒビのように割れて、くすんで行く――。

 

 それでも。そうであって――いや、そうであるなら、なおのことだ。

 

 僕は、もう失いたくない。兄さんを失って――居場所(あんていく)までも、失いたくはない。

 

 

 

 気が付くと、僕の横にはカネキさんの姿があった。たぶん、これも僕の頭の中の幻想なんだろう。変身して、仮面を付けたカネキさん。

 そのカネキさんに向けて、覚悟を決めて僕は言った。

 

 

「僕を――殺してください」

 

 

 一緒に僕を。本来の「僕」だと言う僕自身を。全部壊そうとしている僕自身を、殺すのだと。

 

 瞬間、黒い僕が「正気か!?」という顔をしてこちらを見た。

 カネキさんの幻影は、途方もないくらい悲しそうな顔を浮かべた。でも、すぐに正面に顔を向けたので、表情まではわからない。仮面に隠れて、下の表情はわからない。

 

 駆けだす僕に合わせて、カネキさんが一緒に走る。

 黒い僕が射撃する赫子を、交わし、傷つきながら。

 

「何を言ってるんだ、ジェイル……? 帰るんだろ? 帰りたいんだろ? なら、なんで死ぬんだ、殺してくれなんて言ったんだ!」

「……居場所がなくなったら、帰れないから」

 

 振り被って、僕は僕の顔面に向けて、拳を叩き込む。 

 

「居場所を壊したら、もうそこには居られないから」

 

 そういう意味でなら、本当なら僕は、自分を投げ打ってでも兄さんを助けるべきだったのだ。それさえできなかったのだから、これは、当然の結論だった。

 

 例えそれで、僕が居た場所に穴が開いてしまったとしても――それ自体がなくなってしまうことの方が、僕は死んでも堪えられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 がん、という蹴り飛ばされたような音。

 

 気が付くと、僕の視界は「本来のもの」に戻っていた。左目から垂れた舌のような赫子。薄暗い視界。

 そして、胸の中央に走る猛烈な痛み――。

 

 

 ――頑張ったな、リオ。

 

 

 兄さんの声が、不意に脳裏で再生される。

 そして、目の前のカネキさんの顔が見えた。仮面に隠されていない左側の目が、赤く腫らして、泣いていた。

 

 嗚呼、そうか。

 

 少しだけ、言わなきゃならないことがあるなぁ。

 

 

 

   ※

 

 

 

 気が付けば、僕はリオくんを見下ろしていた。リオくんの全身からは、赫子が分散していた。

 

 彼の全身は、さっきまでより更に酷い状態になっていた。ただ欠けた体の箇所から、まるでそこを埋めるように赫子のような何かが、うねうねと蠢いて、這い出ていた。

 

 リオくんは、僕の顔を見て――笑った。あんていくに居た時のような、屈託のない、嬉しそうな笑みだった。

 

「ありがとう、ございました。止めてくれて。制御なんて、全然できなくって」

「……リオ、くん」

 

 膝を付き、リオくんを抱き起こす。少し血の気の引いた顔で、リオくんは僕に笑みを向け続ける。

 

「カネキさん、僕、わかりました……」

「……?」

「カネキさんは、やっぱり、兄さんに似てるんだと思います。だから……兄さんのように、ならないで下さい」

 

 何を、言ってるんだ?

 リオくんの言葉に困惑してると、彼は痛みがあるのか、少しだけ表情を顰めて。それでも、笑みを崩さないようにしていた。

 

「僕は、……僕が選んで、こう、なりました。だから、悲しまないでください。そのことには」

「……ッ」

「みんなが――貴方が居てくれたから、僕は、幸せです。幸せでした」

 

 

 そう言って、リオくんは僕を「突き飛ばした」。

 

 驚く僕の視界には、リオくんの背部から出た赫子――たぶん鱗赫だろうものが見えた。そして二つあるその片方の先端には、ドライバーの横に付けたあの赤い装置が――。

 

 待ってくれ。何をしようとしている。

 

 叫ぼうとした瞬間、僕は気付いた。周囲に散らばっていた、赫子の破片が再び蠢きだしていたことに。制御できないと言っていた以上、これに覆われれば、またリオくんは暴走するということか――。

 赫子がリオくんの腰に装置を装着すると、1にされていたダイヤルを回転させる。

 

 そしてその状態で、赫子がドライバーのレバーを――。

 

「リオく――」

 

 手を伸ばす僕に、少しだけ悲しそうな笑顔をしてから。目を閉じて、息を吸って――リオくんは、レバーを二回落とした。

 

 

『――崩壊撃破(ブレイクバースト)!』

 

 

 その電子音と共に、リオくんの身体が一瞬赤く光り――身体に再びまとわりつきはじめていた赫子もろとも、爆発した。

  

  

 飛び散る破片や液体をいくらか被り、僕は吹き飛ばされる。その途中、地面に武器をつき立てて踏みとどまる捜査官の姿が見えた。

 

 風圧が消え、転がり、僕は立ち上がる。

 震える手を押さえながら、一歩一歩、歩き。

 

 

 さっきまでリオくんが居たところには――赤い帯のついた、ヒビの入ったドライバーだけが残されていた。

 地面に、真っ赤な放射状の痕を残して。

 

 

「……ッ」

 

 僕は、力なく、その場の地面に拳を叩き付けた。半分は喰種であるせいか、変身しているせいか、痛いだけで血が出る事はなかった。

 

「……何がしたかったんだ、お前は」

 

 捜査官が、僕に言葉を投げかける。

 何をしたかったか? 僕は――リオくんを助けたかった。

 

 自らのせいで、兄を救えなかった彼に。もう一度、心の底から笑えるようなってもらいたかった。例えすぐには無理でも。どこかに歪さが残ってしまったとしても。それでも

 

 

 

 生きて、笑っていて欲しいんだと。

 

 

 それだけで、それを残しただけで救われるような、そんな――。

 

 

 

「……彼を、助けたかった」

「……そうか」

 

 捜査官は、変身したままこちらを見る。ただ首元のスイッチを押して、仮面を頭の背部に展開して移動させて、こちらを見ていた。

 僕も立ち上がり、彼の顔を見る。 

 

 お互いに、そのまましばらく沈黙が流れる。

 

 

「……お前は、何なんだ」

 

 

 彼の言葉に、僕は少し躊躇ってから、それでも、答えた。

 

 

「……人間で、喰種で――仮面ライダーです」

 

 

 その返答に、捜査官のヒトは目を見開いて、言葉を失った。

 

 

 サイレンの音が聞こえる。警察か、それとも他のCCGか。……どちらにせよ、あまり長くこの場に留まっていてはいけない。

 散らばってしまったリオくんを回収することさえままならず、病院の前というこの状況から、更に逃げないといけない。どうしようもない後悔が身体を駆け巡る。どうにか出来なかったのか、と。他になにか方法があったのではないか。思考は尽きない。終わりがない。

 

 拳を握る他なく、そしてどうすればこの場から安全に脱出できるか――。

 

 

『――迎えに来た』

 

「「!?」」

 

 

 沈黙していた僕等の間に、唸るエンジン音が聞こえた。そして上空から、赫子を纏った、どこか流線型を思わせるバイクが降り立った。

 搭乗者は――僕が一番最初に出会った「仮面ライダー」。

 

「お前は――、まさか梟ッ」

「て――」

『……詳しい話は帰ってからだ。今は、早くこの場から引き上げよう』

 

 

 そう言うや、すぐさま僕を赫子で掴みとり、バイクの荷台(にはとても見えない程赫子で被われて変質しているけど)に乗せ、アクセルを噴かせる。バイクの背部から蒸気や風を出し、そのまま上空に「飛び立った」。

 まさか? いやいや、これだけ大きなマシンでもそれを無視して空中を飛ぶのか!?

 

 突然のことに混乱をしながらも、僕は嘉納先生の病院の方を見る。リオくんが居た、赤い場所を見た。病院の周りはパトカーと捜査官たちが集っていた。

 

 

 こちらを見上げるのは、変身した捜査官のヒトと、彼に近づいてくる白い髪の……、何か見覚えのあるような少年。

 

 僕は結局、見えなくなるまでそこから視線を動かすことが出来なかった。

 

 

 

 

 

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