エピローグの余韻を、おそらく完全にぶち壊す可能性が高いので、読む際はそこだけ注意を・・・
あ、ネット版外編はナンバリング版も別に作りました;
「――どうだ、エト」
「大丈夫。これだけ残ってれば、また『生まれ変わる』よ。無論、パーツは少し必要になるけど――」
鈍い視界には、ライトの光。
見覚えのある少女のような女性が。片方だけ赫眼を光らせて、微笑みながら僕を見ている。誰だっけ、このヒト――。
「”骨”については、もうちょっと実験が必要かな?」
僕の左目の、真っ暗な視界を擦り。胸に刺さった丸ノコのようなそれを軽く摘んで。
「もう、君の枷はない。鏡を見て、浮き出た痣を見て、狂ってしまう必要もない。
だから、もう大丈夫」
――今は、お眠りなさい。
その言葉と一緒に、彼女は背中から出した赫子をゆっくりと僕に近づけて――。
※
廃墟のような光景の中――。
こうして夜に一人で居ると、昔のことを思い出す。……思いだせるようになったんだ。兄さんと二人で、色々な廃墟に移って寝泊りした時のことを。
夜、寝られない時は色々な話を聞かせてくれたことも。楽しくて、睡魔に飲まれて気が付くと朝になって。そういうのが僕は好きだった。兄さんも兄さんで、どこからそういう話を仕入れてくるのかわからなかったけど、たぶん図書館とかなんだろうと今なら思える。
そういえば、食糧の調達はずっと兄さんに頼りっきりだったっけ。
今思えば、あの赤々とした光景を生み出さないように、僕が暴走しないように注意をしていたんだろう。それだけ僕が危険ならば、CCGも優先的に駆逐しようとするだろうから。
そういえば、一人で身の回りのことをこなすのも随分慣れたっけ。
記憶を辿りながら、僕はコーヒー道具を取り出して動かす。
カップを二つ揃えて、それぞれに。
湯を沸かし、引いていた珈琲豆へ「の」の字に注ぐ。泡が膨らむごとに香る芳ばしいそれは、何度嗅いでも不思議な気分だ。
芳村さんの味には程遠い僕の腕前。
それでも、あんていくと出会って僕が出来るようになったことだ。
一口飲めば、まだまだな味わいと一緒に思い出す、あんていくの日々。
トーカさんに、ニシキさんに、古間さんにカヤさんに、万丈さんたちやヒナミちゃん。
四方さんに月山さんに、店長や――カネキさん。
――みんな、どうしているだろう。
胸を締め付ける痛みに、僕は大丈夫だと言い聞かせる。
自分の分と、もう一つの手を付けてないカップを手に取り、僕はテーブルに向かって運ぶ。
「――お待たせ、兄さん」
兄さんは何も言わず、ただ微笑んだ。
テーブルに並ぶ二つのカップ。僕は自分の分を手に取り、兄さんは目の前のものを取って、一口。
味について聞くと、少し困ったように笑う兄さん。
一口飲んで、僕は口を開いた。話した事が沢山あるんだ。兄さんに。
兄さんが居なくなってからのことを。
兄さんにかけてきた迷惑や、感謝を。
そして、もっともっと沢山のことを。
少しだけ兄さんみたい思えたカネキさんのこととか、ニシキさんの惚気とか、初々しいトーカさんのこととか。本当は、ちょっと好きになりかけていたこととか。
人間の食べ物の味とか、お店で働くこととか、お客さんのこととか。図書館に初めて行って、本をいくつか読んだりしたとか。前に兄さんが話してくれたものが、その中にあったりしたこととか――。
空はどこまでも、深く優しく続いていて――僕等は、いつまでも自由だった。
僕の話に兄さんは微笑む。僕は、それが嬉しくていくらでも話して。
どれくらいの時間が経ったのか。空が、光を帯びはじめる。
兄さんは立ち上がり、僕の後ろから背を押す。戸惑う僕に微笑みながら、兄さんは光の方へ、僕を押し返して――。
※
「――ハッピー、バースディ」
僕は、生まれた。
※元ネタがわかったヒト用に注意
別に若本声にはなってないと思います;