仮面ライダーハイセ   作:黒兎可

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そろそろ変身に対するフラグを建てはじめ


#008 幽囚/兎顔/未開

 

 

 

「んん……ヤマ外したけど、悪くはなかった」

 

 古文ヤバイけどギリかな、なんて呟きながら、私はあんていくに向けて足を進めていた。

 と同時に、頭の裏にはアイツのにへらっとした顔が過ぎって、ちょっとイラっとくる。

 

 ……まあ、これで少しは借りを返してもらったってことで、いいか。

 

 それでも、状況的に色々アレだったとは言え、私がアイツに貸した分は大きいから、今後もちょいちょい勉強は見てもらおう。それで、私が依子に教えたりとかできればなお良し。

 

 最終的に、それで何をするかとかは全然考えてないんだけど。

 

「……?」

 

 あんていくの手前。扉の前は、珍しくクローズの立て札。

 今日休みだったっけ、と思いはしたけど、まあいっかと扉を開けた。

 

「おはよーございまー……」

「ああ、トーカちゃん」

 

 店長が出迎えてくれた。とすると、アレは立て掛け間違えたか。そんな話とテストの話を愚痴ると、店長は目を閉じて、私を上の階に行くよう言った。

 

 どうしたんだろうと思いつつも、私はそれに従う。

 

 二階には、一通りメンバーが集合していた。

 

 古間さん、入見さん、四方さん。

 それから――。

 

「……なんで?」

 

 腰にクインケドライバー(バックル)を装着して、金木がソファに寝かされていた。

 

 表情は、苦悶に歪んでいる。流石に何かおかしい。

 

「……何があったんですか?」

「……」

 

 しばらくの沈黙の後、店長は口を開いた。

 

「……笛口さんが、ヒナミちゃんのことを庇って捜査官に殺された。

 カネキ君は直前で連れ戻そうとしたらしいが、暴走しかかっていたから一度、ドライバーで封印している」

「――」

 

 気が付けば、私は左手を握り、壁に叩き付けていた。

 

 

 リョーコさん……。

 ヒナミと一緒に来てから、年単位の付き合いという訳でもなかったけど。それでもああいう風に、穏健派の喰種は珍しくて、付き合いやすくて。

 

 旦那さんのことを今でも愛していて、娘さんのことを大事にしている母親で。

 

「……ヒナミは?」

「……奥の部屋で寝かせた」

 

 四方さんが私の質問に答える。

 顔は、残念ながら対処しきれなかったらしい。金木がそのことを教えてくれたというのに、私は少しだけ、変な気分になった。

 

「……何それ、最悪じゃないですか」

 

 完全にしてやられてる。捜査官有利に事態は推移している。

 

「……しばらく、ヒナミちゃんはここで預かろうと思う。

 時期が来れば、いずれは24区に移して――」

「――冗談でしょ店長!

 あんな、クソ溜めみたいなところに、ヒナミ一人で生きてける訳ないじゃんッ」

 

 状況が状況ならそうなるしかないのかもしれない。

 でも、私にとってそれは許せることじゃない。

 

 ただ、だからと言って「白鳩(捜査官)」を殺せば良いという問題でもない。

 

 ”あんていく”に入った時、まだまだ荒れていた私と()に、店長はよく言い聞かせていた。

 奴等が20区(ここ)で命を落とせば、好戦的な喰種が居ると目をつけられる。そうすれば連中はもっと多くの白鳩を送り込んでくる。

 

 頭では分かってる。

 でも――。

 

「……みんなの安全の為には、耐えることが最善だ」

 

 店長も、基本的に戦いはしない。

 

 ルールを乱す喰種が居た時。あるいは一般の喰種で対応できない相手が出た時だけ、店長は「変身」して戦う。

 

「仲間が殺されて、黙って指咥えて見てんのが……、店長の最善なんですか?」

 

 それでも悪態が口を付いて出てくるのは、やっぱり、私にとってこれは駄目なことだからだろう。

 

「ヒナミは、お父さんもリョーコさんも殺された。……仇、討てなきゃ、誰も報われないじゃないですか。

 可哀そうじゃないですか」

「……復讐や報復に対する考え方は、権利ではなく義務だ。

 だからこそ、報われると言うことは未来永劫ない。行為に対する価値観が変わらない限りは」

 

 店長は、私に言い聞かせるように言う。

 

「本当に可哀そうなことは……、復讐に囚われて、自分自身を見失い続けることだ」

「――私に……、私に言ってるんですか、それを」

「……」

 

 言葉も続けられず。

 

 私の頭の中で、弟と、父親の笑顔が過ぎり。

 どうしてか、そのうちの一つが、今眼を閉じて動いていない金木(コイツ)の顔とダブる。

 

 思わず私は背を向け、その場から立ち去る。

 

「……絶対、仇とってやるから」

 

 ヒナミの部屋の方を一度振り返ってから、私は家に引き返した。

 

 

 

 

 

   ※

  

 

 

 

 

 意識は途中で戻っていた。

 でも、目を開けるに開けられなかった。

 

「――私に……、私に言ってるんですか、それを」

 

 人でも殺せそうな、そんな剣幕が僕の脳裏に投影される。

 

 彼女が部屋を出たタイミングで、ようやく緊張が抜けて、ふっと息を付けた。

 

「あれ、カネキ君起きてた?」

「えっと……、なかなか言い出せなくて」

「あら、悪い子ね」

 

 からかうような二人だったけど、その声音は明らかに気落ちしていた。

 四方さんは僕の方を見た後、店長と少し話て部屋を出た。

 

「あの、トーカちゃん……」

「……彼女にも、色々あるのだよ。時期が来たら聞いて見ると良い。

 古間くんと入見さんは、四方くんから画像を貰って確認を」

「「はい」」

「何度も重ねて言うが、彼等に手は出さないこと。それが下手に刺激をして、ここの警戒度を引き上げる結果に繋がり兼ねない。

 お客さんにも、充分警戒を促してくれ」

「……」

 

 バックルを見ながら、僕は、言葉が出ない。

 

 解散の声をかけたわけでもないけど、皆部屋から出て行く。

 僕もそれに習い、多少気だるげな体を慣らしてから外に出た。

 

「……変身、か」

 

 もし、僕があの時、店長みたいに戦えていれば。

 

「――誰が悪いという訳ではない」

「……店長」

 

 僕の呟きを聞いていたのか、すぐ横で店長が僕に、疲れたように微笑んだ。

 

「"我々"ですら、捜査官を相手には躊躇してしまう。彼女の望みの通り、ヒナミちゃんだけでも助けられたのは何より救いだよ」

「……でも、」

「君だってそうだ。たまたま付ける仮面があったから良かったものを。

 私があの時、電話に出れていれば、だ。たらればの話になるが……済まなかった」

「……もしも」

 

 ドライバーの左側を握り締めながら、僕の口は言葉を紡ぐ。

 

「あの場に居たのが僕じゃなくて、トーカちゃんだったら……。

 あの子だったら、もしかしたら」

「……自分を責めてはいけないよ」

「……何も」

 

 店長は、僕の言葉に何も言わない。

 ただただ、その佇まいに促され、僕の口は動いた。

 

「――僕は何も出来なかった」

 

 頬から流れる冷たいそれは、きっと、まやかしか何かだ。

 

 捜査官たちの言い分は、人間視点で見れば間違ってはいない。

 有史以前から、生物として自身の脅威になる相手と戦い、勝利してきたのが今の人類なんだ。

 彼等は人類の平和のため、喰種を駆除する。世間的にも排斥されるべきはこちら側だ。

 

 悪いのは、ヒトに害を成す喰種の側。

 それも分かるから、結局僕はあの時、逃げることを選択した。勝てるはずもなかったけど、それでもきっと、僕は戦えなかった。

 

 それでも、逃げられるだけの力だってなかったのに。

 

「……いずれ、その調子だと使ってしまうだろうから、先に教えておこう。

 金木くん。ドライバーの右側にある、円形のレバーを落してごらん」

 

 店長は、震える僕に優しく言う。

 ある程度落ち着いてから、彼に言われた通り、ドライバーの右側のレバーを動かした。

 見た目に反して妙に重いそれが、がきん、と金属音を鳴らして――。

 

 

 

 次の瞬間、僕は膝をついていた。

 

 

 

「な――、何、だ、これ――」

 

 意識が遠退く。

 ドライバーを初めて付けた時の激痛とは、また別なタイプの痛み。

 震える指先を見れば――そこから、まるで何か寄生生物でも体の中から這い出すように、赤黒いものが指先から出かかって、いるような、いないような。

 

「クインケドライバーは、元々我々を拘束するためのものだ。そして同時に、赫子の動きを封じるものでもある。

 それをより、積極的に使うとそうなるわけだ」

 

 血中のRC細胞を、無理やり体表面に露出させる。

 

「その感覚に慣れるか、受け入れるか。あるいはそもそもRC値が多ければまた話は違うのだが、今の時点で君が戦おうとすれば、そうなる」

 

 だから、考えなさい。

 

「どうやって今の世界と向き合うか。どう折り合いを付け、どう衝突していくか」

 

 倒れる僕のドライバーのレバーを戻し、店長は手を貸した。

 それに縋りながら、僕は、結局何も言えなかった。

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

「723番の娘。745番の目撃情報はなし、と」

 

 今日も今日とて、目的情報やら何やらの処理に追われる俺達、喰種捜査官。

 他の対象も追いつつ745番を追うべきだ、という俺の言葉に、真戸さんは楽しそうに頷いた。

 

「そうだねぇ。亜門君の方針で行こう。所詮は羽虫。遠くへは行けんさ。

 しかし、こんなに早く駆逐できるとは、我々も驚きですよー? ご協力、感謝いたします」

 

 賞与について話した後、しばらく勝利の余韻に浸ろうと真戸さんは立ち上がった。

 

「あー、そうだ亜門君。今度、ウチの娘を紹介しよう。同業種だ、いずれ顔を合わせることもあるだろう」

「む、娘さんですか?」

「嫁に似てなかなか美人でね……と言うと親贔屓か。まあ、ともかくお疲れ様だ」

 

 そう言って立ち去る彼は、おそらくまたパトロールを繰り返すか、クインケ(武器)の手入れに戻るのだろう。

 

 俺も気を引き締めねば。とりあえず、どこかで食事を取って、早く戻ろう。

 

「……あれ? 亜門さん今からメシですか?」

「あ、……草葉さん、中島さん」

「ここ美味しいんですよ。良かったら、ご一緒しませんか?」

 

 アカデミーでも勉強一筋。交流関係は必要以上に作って来なかった俺だ。

 多少は苦手であるが、それでも無下にすることでもないだろう。

 

「かき揚げ丼、大盛り」

 

 やむなしだ。俺も店内に入り、席に着いた。

 

 石碑を掘り起こした事を草葉さんが褒めるように言うが、そのことに関しては一つしか考えて無い。

 手段を選んでいては、目的を達成できない。そのことを、俺は何度も経験してきた。

 

「アカデミーでは、どんなことを?」

「はい? ……ああ、えっと、喰種に関する法や知識など。後は体を作ってました。

 詳しくは話せませんが」

「女性とかも居たんですよね? どういう人とか――」「おい、学生かってお前」

 

 思わず、ふっと俺も微笑んだ。かまいませんと一言入れた後、同期の二人の事を話した。

 

「へえ。……今でも、時々会ったりされたり?」

「いえ。二人とも殉職しました」

「……」

 

 こういう部分が、真戸さんに堅物だと言われる所以だろうか。思わず黙ってしまった彼等に、俺は適確な言葉を思いつかない。

 ただ、それでも言うべき事を言う。

 

 ひたむきな者ほど命を落す。

 そうであっても、俺は、俺達はそれを止める事が出来ない。

 

「失礼しました。……お二人とも、帰りはお気を付けを。特に任務終了後は」

 

 座席を後にし、俺はお金を置いて行く。

 しばらくまたパトロールに出るべきだが、しかし俺はわずかに自己嫌悪。

 

「……またやってしまった」

 

 昔から、こうして場を和やかに取り繕うのは苦手だ。

 どうしても、自分が、自分が、という部分が強く出てしまう。

 

 しばらく反省会をしてから、俺は見周りを始めようとして――声を聞いた。

 

「う、腕が――ッ!」

「チッ、鈍ってる」

 

 草葉さんが、自分の右腕を押さえて叫び声を上げていた。

 千切られた腕と出血によるショック。顔面にわずかに切り傷があるところから、そこを狙おうとして何かを失敗したような、そんな印象を受けた。

 

 それを引き起こした相手、フードにウサギの面を被った相手は、そのまま体を捻り、二人もろとも蹴り飛ばそうと――。

 

 咄嗟に走り、俺は彼等を突き飛ばす。

 

「中島さん、下がって。応急処置か、救急車を」

「あ、はいッ!」

「なんで、腕が――」

 

 混乱している草葉さんの肩を担ぎ、その場を離れて行く中島さん。

 

 目の前のウサギ面が、攻撃を繰り出す。

 一撃一撃は重い。

 身のこなしの素早さ。なによりあの威力。

 

 間違いなく、これは喰種だろう。

 

 アタッシュケースを探して、失念。今日は資料整理が主だったから、自宅にあるのだった。

 

 敵は背中から、羽根のような赫子を放出。

 羽赫の喰種は瞬発型だ。

 

 しくじった。……次の一撃を喰らえば、おそらく必死ッ! 生身で防ぎきれるものではないのだ。

 

 だが、俺の背後から「数珠繋ぎ」のようなそれが出現し、目の前の喰種を吹き飛ばした。

 

「――亜~門く~~ん~~~~……」

「真戸さん!」

 

 現れたのは、武器を片手に持った上等。

 

「駄目じゃないか、仕事道具を忘れちゃああぁあ。

 ふふ、全く男前が台無しじゃないか。クズごときに後れをとって。

 熱意は買うが、冷静さと綿密さを欠いてはいかんよ亜門くん」

 

 手本だ、と言いながら真戸さんは武器を、ウサギの仮面に投げつける。

 連結されたそれが蠢き、一撃を決めた。

 

 だが、相手の動きもなかなか悪くは無かった。

 

「これを躱すとは見事見事。

 そういえば……、この間殺したメスの番は、なかなか手強くて苦労したよ。

 メスの方も最初はなかなかだったが、これを出したらなにも出来ず死んでいったなぁ。あれは笑えた」

 

 そう言いながら、笑うポーズをとる真戸さん。

 その観察眼が、1ミリも油断せず目の前の相手の感情の動きをとらえているのを、俺は見逃せない。

 

 飛びあがり、攻撃してくるそれを、彼は難なく躱す。

 

「てめぇ……ッ」

「羽赫は持久力不足。短気決戦や奇襲を逃せば、戦力はぐんと落ちる。

 おまけに、何だいさっきの。……クク、一撃であの捜査官の顔面を切り落とすつもりだったろうに、どうしてか力の加減が狂ったか!」

 

 赫子(おもちゃ)はどうした?

 さっきのでオシマイか?

 

「ウゼェッ」

「ふん、馬鹿が」

 

 激昂して向かってくる相手に対し、常に冷静に、着実に真戸さんは対処していく。

 相手の腕を切り裂き、明確に攻撃力を落した。

 

「私がどれだけ喰種を処分してきたと思ってる。

 貴様も所詮その一匹だ」

 

 真戸さんの最後の一撃。

 

 しかしウサギは赫子を展開し、飛び去った。

 流石に俺達も、その瞬発力を追うことは難しい。

 

「ふん。多少は冷静だったか。

 しかし、ラビットといったところか――あれは、数人CCGを殺してるな」

 

 亜門くん、手配の準備を。

 

 真戸さんの一言に、俺は身を引き締めて声を出した。

 

 

 

   ※

 

 

 

 店長から「トーカちゃん用の肉パック」を手渡された辺り、あれでも気を遣っているのか。……僕が気を遣ったところであまり意味はないと思うんだけど、入見さんにそのことを話したら、何故か味のある笑顔で何度も頷かれた。何を思ってるんだろう。

 

 ともかく、そのまま放置しておく訳にもいかず、夜に僕は彼女の家に向かった。

 

「……あれ?」

 

 インターホンを押すも、反応がない。

 もう一度押しても静かというか。

 

 一瞬脳裏に最悪の光景が浮かび、思わずノブを引く。

 

 ドアの鍵は、かけられていなかった。いや、かけ忘れて居たのだろうか。

 

 何度か声をかけて「お邪魔します」と室内に入る僕。

 

 ――もし仮に。トーカちゃんがあの後CCGに襲撃をかけて。

 そして追跡されるなりして、ここの場所が割り出されてしまっていたら。

 

 そういうことを警戒していたのだけど、どうやら杞憂に終わったらしい。 

 

「にゅー ……ん、んー …… ――はッ!」

「……」

 

 トーカちゃんは、洗面所の鏡の前で、変なポーズをとっていた。

 かなりラフな服装で、普段右目にかかってる髪を、頭の上から回した左手で引っ張って、両目を露出させて、ちょっと楽しそうに笑っていた。

 

 なんとなく、人目がないからこそのオフショットな感じだった。

 

 鏡越しだったけど、後ろ側に居た僕に気付いたのか、飛び跳ねるように後ろを振り向いた。

 しばらく口をわなわな動かして、顔を真っ赤にする。

 

「み、みんじゃねー! ってか何でてめぇここに居んだ!」

「い、いや、心配だったのと、はいこれ」

 

 僕の差し出した肉を引ったくり、彼女は胸に抱えて警戒するポーズ。

 まーた好感度が落ちた気がするけど、ともあれ無事でよかった。

 

 いや、無事じゃない。

 

「……右腕、どうしたの?」

「…………ほっとけ」

 

 トーカちゃんの右腕、上腕部には包帯が巻かれてて。

 

 そこからは、滲むように血が出ていた。

 

 彼女はそのことに何も触れさせず、今すぐ帰れと言わんばかり。

 僕は、少し迷った後、話題を変えた。

 

「……テスト、どうだった?」

「……あ?」

「少しはマシになってたら嬉しかったんだけど」

「何で、今そんな……」

 

 言いながらも、トーカちゃんの反応は悪くない。

 

 だから、僕はあえて堂々と、おどけるように言った。

 

「じゃあ、トーカちゃんは僕の言う事を一つ聞く事」

「は、はぁッ!?

 むしろアンタの方の貸し借りが終わってねーだろ!」

 

 意味わかんない、とばかりに飛び跳ねるトーカちゃん。気分を切り替えは多少できたかもしれな。

 彼女のその言葉をあえて無視して、僕は手を差し伸べる。

 

「包帯、巻き直すからリビング行こう」

 

 虚を突かれたように、トーカちゃんは一瞬、呆けた。

 

「一人じゃ手当ても大変だろうし」

「……カンケーないでしょ、アンタに」

「これでも半分は、君と同じみたいなんだけどねぇ」

 

 苦笑いを浮かべる僕から視線をそらして、トーカちゃんは言う。

 

「アンタ、私の代わりにあの白鳩共殺せるのかよ」

「……」

「無理だろ? 小心者(ヘタレ)だし。度胸も覚悟もなし。元人間だし、それに――」

 

 トーカちゃんは、自嘲するように笑う。

 

「アンタとか私とか、あんていくの喰種だけでCCG勝てるって思ってねーだろ?」

 

 実際、それは店長から言われたことだ。

 ドライバーを起動させて苦しんで、手を差し伸べてもらった時に。

 

 彼女が自分で決断した以上、生き死にに関わるのはすべて彼女の責任。

 

 だから、何かあっても彼女を手助けはしていけないと。

 

「……私みたいな人殺しは、別に死んだっていいんだよ。鈍ってて、実際殺されかけたし。

 でも、リョーコさんたちみたいな人達が、一方的に殺されるのは我慢できない」

 

 トーカちゃんは理解してる。自分が間違った側だってことを。店長の言ってることも理解してる。あんていくの喰種らしく、人間の理屈も。

 

 でも、だから僕は、店長に言ったのだ。

 そして、今ここに居る。

 

 無理やりトーカちゃんの手をとって、リビングに足早に向かう。

 

 驚いた声を上げたけど、彼女は拒否はしなかった。

 

「……僕、両親居ないんだよね」

「あん?」

「父親が小さい頃に亡くなってから、母さん一人で育てられて。

 でも色々あって――母さんも、十歳の頃に死んだ」

「……」

「過労だったんだ。叔母さんの家に仕送りしててさ。その負担が、僕の分と雪ダルマ式に積み上げられて。

 でも、たぶん僕なら止められたんだ。

 休んでるところを全然見なかった。少しおかしいのには気付いていたから。きっと、僕が何か一声かけるだけで、もっと違った結果になったんだと、今は思う」

 

 だからって訳じゃないけどさ。

 

「目の前で、人間だろうが喰種だろうが――僕の知ってる人だったら、耐えられないよ」

「……」

「リョーコさんが目の前で死んだ時、強く思ったよ。

 きっと僕は、人間は殺せない。喰種だって殺せないかもしれない。

 理屈としては捜査官の言ってる事の方が正しいって思うし、君が正しいとも思わない。だけど――」

 

 手を離し、振り返りながら。

 

 僕は、彼女の目を見据えて言う。

 

「――もしトーカちゃんが死んじゃったら、きっと、悲しいよ」

「――ッ、あ、……」

 

 目を見開いて、トーカちゃんは一瞬固まる。

 しばらくして背中を向けて、「あっ……そ」と時間をかけて言った。

 

「……で、結局何が言いたい訳?」

「僕に戦い方を教えて」

「!」

 

 僕は店長に言った。色々なことを知って、色々な事を見て、きっと多くの理由があった上で決断をしてるんだろう彼に。

 捜査官に手を出すことの覚悟も、この世界で何をどうするのが良いのか、全然知らないしわからないけど。

 

 それでも、ちゃんと自分の目で見て、どうするか決めたい。

 だから――。

 

「何も出来ないのは、もう嫌なんだ」

「……フン」

 

 振り返り、トーカちゃんは楽しそうな笑顔をにやりと浮かべ。

 

「アンタにしちゃやる気じゃん、クソ『カネキ』」

 

 どこか僕をからかうようにそう言った。

 

 

 

 

 




カ「一周回してから一度ずらしてから、最初の頭のところをおって下敷きにすると外れにくいよ?」
ト「……(何で詳しいんだコイツ)」

トーカちゃんの謎ポーズ→2巻183pのラフ
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