「んん……ヤマ外したけど、悪くはなかった」
古文ヤバイけどギリかな、なんて呟きながら、私はあんていくに向けて足を進めていた。
と同時に、頭の裏にはアイツのにへらっとした顔が過ぎって、ちょっとイラっとくる。
……まあ、これで少しは借りを返してもらったってことで、いいか。
それでも、状況的に色々アレだったとは言え、私がアイツに貸した分は大きいから、今後もちょいちょい勉強は見てもらおう。それで、私が依子に教えたりとかできればなお良し。
最終的に、それで何をするかとかは全然考えてないんだけど。
「……?」
あんていくの手前。扉の前は、珍しくクローズの立て札。
今日休みだったっけ、と思いはしたけど、まあいっかと扉を開けた。
「おはよーございまー……」
「ああ、トーカちゃん」
店長が出迎えてくれた。とすると、アレは立て掛け間違えたか。そんな話とテストの話を愚痴ると、店長は目を閉じて、私を上の階に行くよう言った。
どうしたんだろうと思いつつも、私はそれに従う。
二階には、一通りメンバーが集合していた。
古間さん、入見さん、四方さん。
それから――。
「……なんで?」
腰に
表情は、苦悶に歪んでいる。流石に何かおかしい。
「……何があったんですか?」
「……」
しばらくの沈黙の後、店長は口を開いた。
「……笛口さんが、ヒナミちゃんのことを庇って捜査官に殺された。
カネキ君は直前で連れ戻そうとしたらしいが、暴走しかかっていたから一度、ドライバーで封印している」
「――」
気が付けば、私は左手を握り、壁に叩き付けていた。
リョーコさん……。
ヒナミと一緒に来てから、年単位の付き合いという訳でもなかったけど。それでもああいう風に、穏健派の喰種は珍しくて、付き合いやすくて。
旦那さんのことを今でも愛していて、娘さんのことを大事にしている母親で。
「……ヒナミは?」
「……奥の部屋で寝かせた」
四方さんが私の質問に答える。
顔は、残念ながら対処しきれなかったらしい。金木がそのことを教えてくれたというのに、私は少しだけ、変な気分になった。
「……何それ、最悪じゃないですか」
完全にしてやられてる。捜査官有利に事態は推移している。
「……しばらく、ヒナミちゃんはここで預かろうと思う。
時期が来れば、いずれは24区に移して――」
「――冗談でしょ店長!
あんな、クソ溜めみたいなところに、ヒナミ一人で生きてける訳ないじゃんッ」
状況が状況ならそうなるしかないのかもしれない。
でも、私にとってそれは許せることじゃない。
ただ、だからと言って「
”あんていく”に入った時、まだまだ荒れていた私と
奴等が
頭では分かってる。
でも――。
「……みんなの安全の為には、耐えることが最善だ」
店長も、基本的に戦いはしない。
ルールを乱す喰種が居た時。あるいは一般の喰種で対応できない相手が出た時だけ、店長は「変身」して戦う。
「仲間が殺されて、黙って指咥えて見てんのが……、店長の最善なんですか?」
それでも悪態が口を付いて出てくるのは、やっぱり、私にとってこれは駄目なことだからだろう。
「ヒナミは、お父さんもリョーコさんも殺された。……仇、討てなきゃ、誰も報われないじゃないですか。
可哀そうじゃないですか」
「……復讐や報復に対する考え方は、権利ではなく義務だ。
だからこそ、報われると言うことは未来永劫ない。行為に対する価値観が変わらない限りは」
店長は、私に言い聞かせるように言う。
「本当に可哀そうなことは……、復讐に囚われて、自分自身を見失い続けることだ」
「――私に……、私に言ってるんですか、それを」
「……」
言葉も続けられず。
私の頭の中で、弟と、父親の笑顔が過ぎり。
どうしてか、そのうちの一つが、今眼を閉じて動いていない
思わず私は背を向け、その場から立ち去る。
「……絶対、仇とってやるから」
ヒナミの部屋の方を一度振り返ってから、私は家に引き返した。
※
意識は途中で戻っていた。
でも、目を開けるに開けられなかった。
「――私に……、私に言ってるんですか、それを」
人でも殺せそうな、そんな剣幕が僕の脳裏に投影される。
彼女が部屋を出たタイミングで、ようやく緊張が抜けて、ふっと息を付けた。
「あれ、カネキ君起きてた?」
「えっと……、なかなか言い出せなくて」
「あら、悪い子ね」
からかうような二人だったけど、その声音は明らかに気落ちしていた。
四方さんは僕の方を見た後、店長と少し話て部屋を出た。
「あの、トーカちゃん……」
「……彼女にも、色々あるのだよ。時期が来たら聞いて見ると良い。
古間くんと入見さんは、四方くんから画像を貰って確認を」
「「はい」」
「何度も重ねて言うが、彼等に手は出さないこと。それが下手に刺激をして、ここの警戒度を引き上げる結果に繋がり兼ねない。
お客さんにも、充分警戒を促してくれ」
「……」
バックルを見ながら、僕は、言葉が出ない。
解散の声をかけたわけでもないけど、皆部屋から出て行く。
僕もそれに習い、多少気だるげな体を慣らしてから外に出た。
「……変身、か」
もし、僕があの時、店長みたいに戦えていれば。
「――誰が悪いという訳ではない」
「……店長」
僕の呟きを聞いていたのか、すぐ横で店長が僕に、疲れたように微笑んだ。
「"我々"ですら、捜査官を相手には躊躇してしまう。彼女の望みの通り、ヒナミちゃんだけでも助けられたのは何より救いだよ」
「……でも、」
「君だってそうだ。たまたま付ける仮面があったから良かったものを。
私があの時、電話に出れていれば、だ。たらればの話になるが……済まなかった」
「……もしも」
ドライバーの左側を握り締めながら、僕の口は言葉を紡ぐ。
「あの場に居たのが僕じゃなくて、トーカちゃんだったら……。
あの子だったら、もしかしたら」
「……自分を責めてはいけないよ」
「……何も」
店長は、僕の言葉に何も言わない。
ただただ、その佇まいに促され、僕の口は動いた。
「――僕は何も出来なかった」
頬から流れる冷たいそれは、きっと、まやかしか何かだ。
捜査官たちの言い分は、人間視点で見れば間違ってはいない。
有史以前から、生物として自身の脅威になる相手と戦い、勝利してきたのが今の人類なんだ。
彼等は人類の平和のため、喰種を駆除する。世間的にも排斥されるべきはこちら側だ。
悪いのは、ヒトに害を成す喰種の側。
それも分かるから、結局僕はあの時、逃げることを選択した。勝てるはずもなかったけど、それでもきっと、僕は戦えなかった。
それでも、逃げられるだけの力だってなかったのに。
「……いずれ、その調子だと使ってしまうだろうから、先に教えておこう。
金木くん。ドライバーの右側にある、円形のレバーを落してごらん」
店長は、震える僕に優しく言う。
ある程度落ち着いてから、彼に言われた通り、ドライバーの右側のレバーを動かした。
見た目に反して妙に重いそれが、がきん、と金属音を鳴らして――。
次の瞬間、僕は膝をついていた。
「な――、何、だ、これ――」
意識が遠退く。
ドライバーを初めて付けた時の激痛とは、また別なタイプの痛み。
震える指先を見れば――そこから、まるで何か寄生生物でも体の中から這い出すように、赤黒いものが指先から出かかって、いるような、いないような。
「クインケドライバーは、元々我々を拘束するためのものだ。そして同時に、赫子の動きを封じるものでもある。
それをより、積極的に使うとそうなるわけだ」
血中のRC細胞を、無理やり体表面に露出させる。
「その感覚に慣れるか、受け入れるか。あるいはそもそもRC値が多ければまた話は違うのだが、今の時点で君が戦おうとすれば、そうなる」
だから、考えなさい。
「どうやって今の世界と向き合うか。どう折り合いを付け、どう衝突していくか」
倒れる僕のドライバーのレバーを戻し、店長は手を貸した。
それに縋りながら、僕は、結局何も言えなかった。
※
「723番の娘。745番の目撃情報はなし、と」
今日も今日とて、目的情報やら何やらの処理に追われる俺達、喰種捜査官。
他の対象も追いつつ745番を追うべきだ、という俺の言葉に、真戸さんは楽しそうに頷いた。
「そうだねぇ。亜門君の方針で行こう。所詮は羽虫。遠くへは行けんさ。
しかし、こんなに早く駆逐できるとは、我々も驚きですよー? ご協力、感謝いたします」
賞与について話した後、しばらく勝利の余韻に浸ろうと真戸さんは立ち上がった。
「あー、そうだ亜門君。今度、ウチの娘を紹介しよう。同業種だ、いずれ顔を合わせることもあるだろう」
「む、娘さんですか?」
「嫁に似てなかなか美人でね……と言うと親贔屓か。まあ、ともかくお疲れ様だ」
そう言って立ち去る彼は、おそらくまたパトロールを繰り返すか、
俺も気を引き締めねば。とりあえず、どこかで食事を取って、早く戻ろう。
「……あれ? 亜門さん今からメシですか?」
「あ、……草葉さん、中島さん」
「ここ美味しいんですよ。良かったら、ご一緒しませんか?」
アカデミーでも勉強一筋。交流関係は必要以上に作って来なかった俺だ。
多少は苦手であるが、それでも無下にすることでもないだろう。
「かき揚げ丼、大盛り」
やむなしだ。俺も店内に入り、席に着いた。
石碑を掘り起こした事を草葉さんが褒めるように言うが、そのことに関しては一つしか考えて無い。
手段を選んでいては、目的を達成できない。そのことを、俺は何度も経験してきた。
「アカデミーでは、どんなことを?」
「はい? ……ああ、えっと、喰種に関する法や知識など。後は体を作ってました。
詳しくは話せませんが」
「女性とかも居たんですよね? どういう人とか――」「おい、学生かってお前」
思わず、ふっと俺も微笑んだ。かまいませんと一言入れた後、同期の二人の事を話した。
「へえ。……今でも、時々会ったりされたり?」
「いえ。二人とも殉職しました」
「……」
こういう部分が、真戸さんに堅物だと言われる所以だろうか。思わず黙ってしまった彼等に、俺は適確な言葉を思いつかない。
ただ、それでも言うべき事を言う。
ひたむきな者ほど命を落す。
そうであっても、俺は、俺達はそれを止める事が出来ない。
「失礼しました。……お二人とも、帰りはお気を付けを。特に任務終了後は」
座席を後にし、俺はお金を置いて行く。
しばらくまたパトロールに出るべきだが、しかし俺はわずかに自己嫌悪。
「……またやってしまった」
昔から、こうして場を和やかに取り繕うのは苦手だ。
どうしても、自分が、自分が、という部分が強く出てしまう。
しばらく反省会をしてから、俺は見周りを始めようとして――声を聞いた。
「う、腕が――ッ!」
「チッ、鈍ってる」
草葉さんが、自分の右腕を押さえて叫び声を上げていた。
千切られた腕と出血によるショック。顔面にわずかに切り傷があるところから、そこを狙おうとして何かを失敗したような、そんな印象を受けた。
それを引き起こした相手、フードにウサギの面を被った相手は、そのまま体を捻り、二人もろとも蹴り飛ばそうと――。
咄嗟に走り、俺は彼等を突き飛ばす。
「中島さん、下がって。応急処置か、救急車を」
「あ、はいッ!」
「なんで、腕が――」
混乱している草葉さんの肩を担ぎ、その場を離れて行く中島さん。
目の前のウサギ面が、攻撃を繰り出す。
一撃一撃は重い。
身のこなしの素早さ。なによりあの威力。
間違いなく、これは喰種だろう。
アタッシュケースを探して、失念。今日は資料整理が主だったから、自宅にあるのだった。
敵は背中から、羽根のような赫子を放出。
羽赫の喰種は瞬発型だ。
しくじった。……次の一撃を喰らえば、おそらく必死ッ! 生身で防ぎきれるものではないのだ。
だが、俺の背後から「数珠繋ぎ」のようなそれが出現し、目の前の喰種を吹き飛ばした。
「――亜~門く~~ん~~~~……」
「真戸さん!」
現れたのは、武器を片手に持った上等。
「駄目じゃないか、仕事道具を忘れちゃああぁあ。
ふふ、全く男前が台無しじゃないか。クズごときに後れをとって。
熱意は買うが、冷静さと綿密さを欠いてはいかんよ亜門くん」
手本だ、と言いながら真戸さんは武器を、ウサギの仮面に投げつける。
連結されたそれが蠢き、一撃を決めた。
だが、相手の動きもなかなか悪くは無かった。
「これを躱すとは見事見事。
そういえば……、この間殺したメスの番は、なかなか手強くて苦労したよ。
メスの方も最初はなかなかだったが、これを出したらなにも出来ず死んでいったなぁ。あれは笑えた」
そう言いながら、笑うポーズをとる真戸さん。
その観察眼が、1ミリも油断せず目の前の相手の感情の動きをとらえているのを、俺は見逃せない。
飛びあがり、攻撃してくるそれを、彼は難なく躱す。
「てめぇ……ッ」
「羽赫は持久力不足。短気決戦や奇襲を逃せば、戦力はぐんと落ちる。
おまけに、何だいさっきの。……クク、一撃であの捜査官の顔面を切り落とすつもりだったろうに、どうしてか力の加減が狂ったか!」
さっきのでオシマイか?
「ウゼェッ」
「ふん、馬鹿が」
激昂して向かってくる相手に対し、常に冷静に、着実に真戸さんは対処していく。
相手の腕を切り裂き、明確に攻撃力を落した。
「私がどれだけ喰種を処分してきたと思ってる。
貴様も所詮その一匹だ」
真戸さんの最後の一撃。
しかしウサギは赫子を展開し、飛び去った。
流石に俺達も、その瞬発力を追うことは難しい。
「ふん。多少は冷静だったか。
しかし、ラビットといったところか――あれは、数人CCGを殺してるな」
亜門くん、手配の準備を。
真戸さんの一言に、俺は身を引き締めて声を出した。
※
店長から「トーカちゃん用の肉パック」を手渡された辺り、あれでも気を遣っているのか。……僕が気を遣ったところであまり意味はないと思うんだけど、入見さんにそのことを話したら、何故か味のある笑顔で何度も頷かれた。何を思ってるんだろう。
ともかく、そのまま放置しておく訳にもいかず、夜に僕は彼女の家に向かった。
「……あれ?」
インターホンを押すも、反応がない。
もう一度押しても静かというか。
一瞬脳裏に最悪の光景が浮かび、思わずノブを引く。
ドアの鍵は、かけられていなかった。いや、かけ忘れて居たのだろうか。
何度か声をかけて「お邪魔します」と室内に入る僕。
――もし仮に。トーカちゃんがあの後CCGに襲撃をかけて。
そして追跡されるなりして、ここの場所が割り出されてしまっていたら。
そういうことを警戒していたのだけど、どうやら杞憂に終わったらしい。
「にゅー ……ん、んー …… ――はッ!」
「……」
トーカちゃんは、洗面所の鏡の前で、変なポーズをとっていた。
かなりラフな服装で、普段右目にかかってる髪を、頭の上から回した左手で引っ張って、両目を露出させて、ちょっと楽しそうに笑っていた。
なんとなく、人目がないからこそのオフショットな感じだった。
鏡越しだったけど、後ろ側に居た僕に気付いたのか、飛び跳ねるように後ろを振り向いた。
しばらく口をわなわな動かして、顔を真っ赤にする。
「み、みんじゃねー! ってか何でてめぇここに居んだ!」
「い、いや、心配だったのと、はいこれ」
僕の差し出した肉を引ったくり、彼女は胸に抱えて警戒するポーズ。
まーた好感度が落ちた気がするけど、ともあれ無事でよかった。
いや、無事じゃない。
「……右腕、どうしたの?」
「…………ほっとけ」
トーカちゃんの右腕、上腕部には包帯が巻かれてて。
そこからは、滲むように血が出ていた。
彼女はそのことに何も触れさせず、今すぐ帰れと言わんばかり。
僕は、少し迷った後、話題を変えた。
「……テスト、どうだった?」
「……あ?」
「少しはマシになってたら嬉しかったんだけど」
「何で、今そんな……」
言いながらも、トーカちゃんの反応は悪くない。
だから、僕はあえて堂々と、おどけるように言った。
「じゃあ、トーカちゃんは僕の言う事を一つ聞く事」
「は、はぁッ!?
むしろアンタの方の貸し借りが終わってねーだろ!」
意味わかんない、とばかりに飛び跳ねるトーカちゃん。気分を切り替えは多少できたかもしれな。
彼女のその言葉をあえて無視して、僕は手を差し伸べる。
「包帯、巻き直すからリビング行こう」
虚を突かれたように、トーカちゃんは一瞬、呆けた。
「一人じゃ手当ても大変だろうし」
「……カンケーないでしょ、アンタに」
「これでも半分は、君と同じみたいなんだけどねぇ」
苦笑いを浮かべる僕から視線をそらして、トーカちゃんは言う。
「アンタ、私の代わりにあの白鳩共殺せるのかよ」
「……」
「無理だろ?
トーカちゃんは、自嘲するように笑う。
「アンタとか私とか、あんていくの喰種だけでCCG勝てるって思ってねーだろ?」
実際、それは店長から言われたことだ。
ドライバーを起動させて苦しんで、手を差し伸べてもらった時に。
彼女が自分で決断した以上、生き死にに関わるのはすべて彼女の責任。
だから、何かあっても彼女を手助けはしていけないと。
「……私みたいな人殺しは、別に死んだっていいんだよ。鈍ってて、実際殺されかけたし。
でも、リョーコさんたちみたいな人達が、一方的に殺されるのは我慢できない」
トーカちゃんは理解してる。自分が間違った側だってことを。店長の言ってることも理解してる。あんていくの喰種らしく、人間の理屈も。
でも、だから僕は、店長に言ったのだ。
そして、今ここに居る。
無理やりトーカちゃんの手をとって、リビングに足早に向かう。
驚いた声を上げたけど、彼女は拒否はしなかった。
「……僕、両親居ないんだよね」
「あん?」
「父親が小さい頃に亡くなってから、母さん一人で育てられて。
でも色々あって――母さんも、十歳の頃に死んだ」
「……」
「過労だったんだ。叔母さんの家に仕送りしててさ。その負担が、僕の分と雪ダルマ式に積み上げられて。
でも、たぶん僕なら止められたんだ。
休んでるところを全然見なかった。少しおかしいのには気付いていたから。きっと、僕が何か一声かけるだけで、もっと違った結果になったんだと、今は思う」
だからって訳じゃないけどさ。
「目の前で、人間だろうが喰種だろうが――僕の知ってる人だったら、耐えられないよ」
「……」
「リョーコさんが目の前で死んだ時、強く思ったよ。
きっと僕は、人間は殺せない。喰種だって殺せないかもしれない。
理屈としては捜査官の言ってる事の方が正しいって思うし、君が正しいとも思わない。だけど――」
手を離し、振り返りながら。
僕は、彼女の目を見据えて言う。
「――もしトーカちゃんが死んじゃったら、きっと、悲しいよ」
「――ッ、あ、……」
目を見開いて、トーカちゃんは一瞬固まる。
しばらくして背中を向けて、「あっ……そ」と時間をかけて言った。
「……で、結局何が言いたい訳?」
「僕に戦い方を教えて」
「!」
僕は店長に言った。色々なことを知って、色々な事を見て、きっと多くの理由があった上で決断をしてるんだろう彼に。
捜査官に手を出すことの覚悟も、この世界で何をどうするのが良いのか、全然知らないしわからないけど。
それでも、ちゃんと自分の目で見て、どうするか決めたい。
だから――。
「何も出来ないのは、もう嫌なんだ」
「……フン」
振り返り、トーカちゃんは楽しそうな笑顔をにやりと浮かべ。
「アンタにしちゃやる気じゃん、クソ『カネキ』」
どこか僕をからかうようにそう言った。
カ「一周回してから一度ずらしてから、最初の頭のところをおって下敷きにすると外れにくいよ?」
ト「……(何で詳しいんだコイツ)」
トーカちゃんの謎ポーズ→2巻183pのラフ