仮面ライダーハイセ   作:黒兎可

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#056 迷想/観息

  

 

 

 

 

 多少なりとも、決心が付いた。

 だからこそ僕は、それを確かめに今一度「あんていく」に向かった。時間がある程度経過して、自分の中で情報が整理されたこともあってか、僕はその可能性に辿りついた。

 いや、たどり着いたというよりも、疑惑が沸いたというべきか。

 

 僕は――彼を、芳村店長を信頼している。……信頼していたい。

 

 だからこそ、聞かなければならない。僕がこれからどうあるべきなのか、真剣に、考えるために。

 

 時期がテストにそろそろ被りそうなタイミングになってきたけど、そこのところは無視するしかない。というより、こっちもやってないとちょっと、精神的に勉強してられなかった。

 ちょっと言い訳がましい部分もあったけれど……なんとなく、トーカちゃんの顔も見たかった。

 

 そして朝一で服を着替えてカウンターの準備をしていると。

 

「か、か、かかか、か――」

 

 入って来たのは、あんていくの新人の……、ロマさんだっけ。

 子供っぽい感じのヒトだけど、でもそれは挙動に限定されている。容姿的にはじっとしてれば大人っぽいというか、いくらか成人らしさを感じさせる印象だった。

 もっともこういう変な動きも多いので、そういうことを意識することは少ない。

 

「おはようございます。えっと……?」

「ひゃ、ひゃい! あ、おはようです! ではロマは掃除行ってきま~~~す!!!!!」

 

 それだけ言うと、彼女は全力疾走といった風にあんていくの外に回った。

 何か声をかけるまえに走り出す彼女は……、何なんだろう、人見知りなんだろうか。実際に彼女と顔を合わせたのは数回くらいだけど、その時も大体こんな感じだったような。

 トーカちゃんからは「皿割りまくり」と言われているので、そういう怖さもちょっとあった。まぁ言ってたトーカちゃん本人が、話途中で皿を割ってたりもしたけど……。

 

「……おはよう、カネキくん」

「……芳村さん」

 

 そして、店の奥から店長がやってくる。おそらく地下でリゼさんに食事を与えた帰り、といったところなのだろう。ほんのり漂う匂いからそう判断して、僕は店長に向き直った。

 店長は、僕の目を見て、何も言わず。ただただこちらが何かを言うのを待っているようだった。

 

「……後でお時間、頂けますか? 上がった後で」

「……構わないよ。聞きたい事も、言いたい事も、色々とあるだろうしね」

 

 店長は、僕を見て何かを察しているようだった。何を察してるのかまでは分からないけれど……。少なくとも「リゼさん」のことについては、確実に聞かれるくらいの判断なのかもしれない。

 

 店長は僕の隣に並び、グラスを磨き始める。

 僕もその隣で、カップを磨く。

 

 しばらく無言が続く。でも、なんだろう。不思議とそこまで気まずく思わないのは、店長の人柄のせいなんだろうか。

 

「――鯱とは、顔を合わせたのかい?」

 

 ただ、その言葉には、僕は一瞬固まった。

 

「……知り合いなんですか?」

「古い友だ。……実を言うと、店の経営について少し教わったりもした」

「バー、やってますものね」

「如才ないからね。武術家ゆえに隙がない、とも言えるかもしれないが」

 

 これは、ヒントを与えてくれているということだろうか。店長に何をどう聞けば良いのか、ということについて。でもまさか、鯱さんと知り合いだったというのには驚いた……。なんとなく脳裏で、あの作務衣みたいな格好の鯱さんが、スマホ片手に「()()しッ!」と出ているのを幻視する。

 

「私は、なんだかんだ言ってゴロ付きのそれが根幹にあるからね。ケンカ殺法と言えば、少し格好良いかな?」

「そうなんですか? 僕の見た限りだと、そうとは思いませんでしたけど……」

「何分、時間だけはあったからね。彼に言わせれば、私は赫子の力に頼りすぎなのだと言う」

 

 確かに、そういうことを言いそうなイメージはあった。

 

「彼から、何か言われたかい?」

「……自分の弱さを知れ、と言われました。自分の心に向き合う以外、道はないと」

「心に向き合う、か――」

「難しいですね、心って」

 

 自分が何を求めているのかなんて、あの時にわかったと思っていた。それでもなお何をしたいのかという意味で、何を求めたいのかという意味で、僕は僕を新しく定義付けた。

 でもだからこそ、誰かから愛されたいと言う衝動があったからこそ――トーカちゃんに対して、僕は。

 

「心か。……カネキくん、先に一つだけ注意しておこう」

「はい?」

 

「――もしドライバーが欠損したら、あまり多用しない方が良い。何が起こるかわからないからね。いくらそれが、トーカちゃんのお父さんのドライバーであっても」

 

 店長は、何をどこまで把握しているのか。

 それとも、何か経験があるのだろうか。

 

 でもやはりというべきか。口ぶりからして、店長はアラタさんのことを知っているようだ。

 

「……アラタさんは、一体、何が――」

 

 ただ続きを聞こうとした瞬間、あんていくの裏口側からトーカちゃんの叫び声が聞こえた。店長と顔を見合わせて、僕は裏口側に回り――。

 そして、完全に予想外の組み合わせに遭遇した。

 

 

「トーカちゃんに……、クロナちゃん!?」

 

 

 トーカちゃんが担いで持ってきたのは、安久黒奈。

 嘉納先生によって作られた”半喰種”の一人で、僕より後の成功例の一人。

 

 ただその前髪の一部は、妹のもののように白く染まっていて。全身は傷だらけで、血だらけだった。

  

「……ん、まいいか。カネキ、コイツ前話してた奴?」

「う、うん。だけど……何で一人なんだろう」

「私が知るか。でもそのまま放っておくとまずい感じがしたから、拾ってきた。

 近くには一応、他にはいなかった」

「拾って……、なんだか懐かしいね」

「あ゛?」

「い、いや、何でもない。とりあえず店長を――」

「その必要はないよ、二人とも」

 

 芳村店長が、僕の後ろから少しだけ顔を覗かせた。顎に手を当てて思案し、「とりあえず、バックヤードで手当てを頼むよ」とトーカちゃんに言った。

 

「半喰種……、それに隻眼か。果たしてこれは狙っているんだろうか……」

「店長?」

「いや、何でもない。

 トーカちゃんとカネキくんで、交代で看病しよう。おそらく半日もかからず目を覚ますだろう」

 

 表に戻っていく店長を見つつ、僕はトーカちゃんに運搬を変わると提案した。もっとも、それはなんだかすんごい顔で断られた。っていうか、何だろうその顔。変質者でも見るような目は。

 

「ど、どうしたの?」

「いや、またセクハラしねーとも限らないし」

「……いや、わざとじゃないって」

「それに、わざわざ役得やる必要もないから」

「役得?」

「そ。じゃ、とりあえず扉押さえておいて」

 

 言われるままに、僕はトーカちゃんを先に店に入れて――。

 

「――シロ」

 

 おそらく寝ぼけた声なんだろうけど。どこか涙ぐんでいるような、そんな響きを持つクロナちゃんの声が聞こえた。

 

 

 

   ※

 

 

 

 カネキが居ようと居まいと、ロマはとにかく皿を割りまくっていた。不器用すぎんだろ、それ。

 本人に文句を言えば「手のひらの中に入るサイズだったら絶対落とさないんですけどねぇ。これでもジャグリング得意なんですよ、見ます?」とか言ってグラス三つを手に取ったのを、私とカネキで全力で押さえた。

 

 とりあえず、店が開いてからは店長が珈琲を淹れていた。私とカネキが一緒に居ればどっちかが、ということになったんだろうけど、流石にロマとか、あのクロナっていうのとかとの対応に追われてるのを見かねたんだろう。

 

 クロナ……、いや、まぁ、知らないけど。消毒して薬塗って、服を軽く着替えさせて。二階に運んだ後、寝ぼけながらでも食事をさせた。朦朧としながらも肉にはちゃんと反応しているあたり、やっぱりカネキもコイツも喰種だった。

 カネキは「なんだか懐かしい」と言ったけど、なんとなく私もそれは思った。カネキにドライバーを付けて、落として、店に運んできて。こっちの手当てもそこそこに、店長と交代でカネキと、あの永近さんってのの看病をして。肉に対する反応が、その時のカネキとまるで同じだった。

 あの後、カネキは泣いたらしい。よっぽど肉を食うのが嫌だったのかは知らないけど。

 でも、きっとこの女は泣かないんだろう。なんとなく、そんな気がしていた。

 

『へ、へ、ヘタレー!』

「……いや、黙れっての。いい加減マジで油ん中突っ込むぞ」

『ヘタ!?』

 

 私の本気度合いを察したのか、ヘタレが黙った。いつもそうしてりゃ良いのよ、ホント。

 クロナってのを見ながら、私は向かいのソファに背を預けて、膝に肘をつく。顎をついて、ぼうっと考える。

 

 ――コイツ、何で人間辞めたんだろ。

 

 私なんて、なりたくったって人間になんてなれないのに。

 人間だったら出来る事なんて、沢山、沢山あんじゃん。依子の手料理だって食べられるし、びくびくと正体隠すことだってないし。たまにふわっと嗅いだ血の匂いで涎とか心配することもないし。

 

 それに――好きな人間(ヤツ)がいるんなら、そいつの子供とかだって何にも気にせず、産めるのに。

 

「……って、私が考えたって意味ないか」

 

 ないものねだりなのか、隣の芝が青く見えてるだけなのか。さっぱりそんなことわかんないけど、でもやっぱ勿体ないって、私は思う。でもコイツはそう思わなかったんだろう。何でなんだろうか、とか私が気にする必要のないことが、頭の中を過ぎる。

 

 ……やっぱりそれだけ疑問があるんだろうか。それとも憤りがあるんだろうか。

 

 なりたくったって、なれないから。人間なんて。

 

「むしろ、なろうと思って喰種になれる方がおかしいのよね」

 

 そんな益体もない話はとりあえず置いておいて。

 そーゆーのは大学入ってから考えれば良いとして。

 

 目下、カネキが居ない場所でコイツについて私が考えるべきは「……何、コイツ、カネキのこと好きなの?」という、只一点のことだった。

 

 コイツと私の攻め回数(?)からすると、私の方が、堅実にやってるつもりは、ある、けど。

 でもコイツの攻め方って、意味わかんないくらい段階すっ飛ばして来てる。初手セクハラ? に、以降ほっぺにキスとか腕絡めたりとか、あーんしたりとか……。止めよう、ムカムカしてくんのと同時に、自分のアイデア不足が悲しくなってくる。

 

 いや、どっちかって言うとカネキの中における私とコイツのポジションの問題な気もしないではないけど。

 

 私なんかは「仲間」なのか「妹」扱いなのか、最近よくわかんなくなってきてる。ヒナミとまとめて、みたいに扱いじゃない感じはしてるけど、ちょっとくらい進展してはいると思いたいけど、それだってどこまでカネキの中に届いているかはわかんないし。

 ……むしろ1月とかあたりから、アオギリから助け出した直後あたりの方が、私もテンションおかしかったせいか攻めに攻めまくってたような。むしろちょっと引かれたから、無闇に接近すんの止めたんだっけ。

 そしてリオのことが来て、少しカネキに対する私のスタンスが変わったって言うか。望む望まないどうこうより、どうなって欲しくないかを考えるようになったって言うか。

 

 その点、コイツは何なんだろう。カネキとの接点なんかは、絶対私の方が多いし。だけど……、カネキの後の、という意味で妹を自称してるから、訳わかんない行動は甘えてるってことになんの? いや知んないけど。

 

「……うー、あーッ」 

 

 そしてここまで考えたあたりで、私は頭を抱える。我ながら何考えてるんだろうと、意味わかんないと。

  

 そして、その声のせいじゃないと思うけど、目の前で寝ていた奴の目が、うっすら開いた。

 天井を見て、変なポーズで固まる私を見て、そして自分の身体を見て。

 

「……シロ」

「は?」

「シロ、どこ――ッ」

 

 そして、そいつはいきなり泣き出した。

 シロっていうのは、たぶん妹の方のことなんだろうけど……。一体何があったのか。とりあえずただただ泣かせとく訳にもいかなかったから、棚の上にあるティッシュをとって、テーブルの上に置いた。 

 

「うぅ……、うぅ……」

 

 ……テーブルの方なんて見向きもしねぇ。

 

 どうしたら良いのよ、これ。泣いてる理由もわかんないから、下手に慰めるわけにも、事情を聞くこともできないし。というか私とコイツ、絶対面識なんてないと思うし……? あれ? 見覚え自体はそういえばうっすらあるような、ないような。どこでだっけ。

 

「……とりあえずソファ突っ伏さないで、ティッシュで拭け」

「……ん、うん」

 

 一応言葉が通じるくらいには意識がはっきりしてんのか。そいつは身体を起こして、顔を拭いた。目が赤い。赫眼って意味じゃなくて、泣きはらしてる。

 少し泣いて冷静になったのか、そいつはまた周囲を見回して、私に向かって聞いた。

 

「ここはどこ?」

「喫茶店。あんていく、て言ってわかる?」

「アンティーク?」

「あ、ん、て、い、く。

 ……カネキの働いてる店」

「お兄ちゃんの……?」

 

 一瞬、目の中に光が戻ったように見えたけど、すぐにまたぼうっとして暗くなった。

 

「……」

「……ん、何分かしたら来るから、とりあえず待ってれば?」

「……! ……」

「いや、すぐ暗くなんなし」

 

 ホント何があったんだよ、と聞きたくなる感じ。カネキから聞いていたのとは、いくらかイメージが違っていた。ありていに言うと、暗い。というか、全然会話しようともしないし。

 性格が変わるようなことは早々ないと思うけど、だったらこうなるだけの理由があるってことなんだろう。カネキが少し変わったみたいに、何かが。

 

 しばらくためらいがちに私を見て、そして目の前の相手は口を開いた。

 

「……えっと」

「あ゛?」

「……あなたは、誰?」

 

 ……あれ、ひょっとしてずっと話が続かなかったのって、それ理由?

 

 なんとなく気まずくなって、私は一瞬視線を逸らした。

 

「あー ……、トーカ。霧嶋董香。店的にはカネキの先輩」

「ここのヒト……」

「そーゆーアンタこそ、誰なの? カネキから少し聞いてるけど」

「……クロナ。安久黒奈」

 

 言いながら、そいつは手を重ねて、俯いて言った。

 

「――お兄ちゃんは?」

「違うだろ」

「?」

「カネキは、アンタのお兄ちゃんじゃねーだろ」

 

 ふっと重い付いたことを言うと、クロナは目を見開いて、なんだか泣きそうな顔になった。何なんだよ、一体……。情緒不安定すぎんでしょ。

 

 そんなことを考えていると、扉が開いて、カネキが入ってきた。手には珈琲が二つ。

 

「トーカちゃん、クロナちゃん起き――」

「――ッ」

 

 そして、突然クロナはカネキに抱きついた。一瞬バランスを崩しかけたカネキだったけど、なんだか妙に慣れたようにバランスをとって、カップが落下するのを防いだ。

 思わず立ち上がり、私はクロナを引き剥がそうとする。でもクロナは泣きながら、頑として放れようとしない。何なんだよ、一体……。

 

「トーカちゃん、これどうしたの……?」

 

 カネキもカネキで困惑してる。とりあえず危ないから、カネキからお盆を受け取ってテーブルの上に置いた。

 下の方に声が響くとうるさいから、カネキは後ろ手に扉を閉める。

 

「うぅ……、うぅ……、」

「とりあえず、一回離れてくれないかな。座らせてくれるとありがたいんだけど……」

「……、」

 

 泣きながら、目をこすりながら、クロナはカネキから離れた。

 ソファに座ったカネキに、でもクロナはすぐにしがみついて泣いた。

 

「「……」」

 

 私とカネキの意見は、たぶん一致していた。

 

 クロナっていうのの挙動が、完全に幼児退行していた。

 

 

 

 

 




クロナはとても修羅場れる精神状態じゃなかった・・・
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