仮面ライダーハイセ   作:黒兎可

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※キャラ崩壊注意(一応理由はありますが)


#060 自棄/後悔

 

 

 

 

 

 雨止が20区に来てから、早二週間。学生たちも大部分が夏休みになりつつある。必然、俺達の警戒も上がる。喰種による被害者の人数も、相対的に増えるからだ。……特に夏場は、夜に出歩く青少年が多いこともあって。

 

 日中、アラタG3を駆りながら俺は20区内を走行する。通報があればすぐその場所まで移動するため、見回りは局を中心としたエリアに限られていたが、しかしだからこそ俺は気を抜けない。雨止のひたむきな姿を見て、自分の在り方を今一度見直して。改めて、悲劇を生み出さないためにも戦い続けると、再認識したからだ。

 

 だからこそ、アキラから入ったその連絡が俺には理解できなかった。

 

「情報を霍乱させていた犯人が、見つかった――?」

『ああ。現在警視庁で、雨止が事情聴取に向かっているのだが……』

 

 渋るように言うアキラに、俺はアラタをコンビにに止めて、通信を続ける。

 

「状況を教えてくれ、アキラ」

『私も永近からの伝聞だから、確約は出来ないのだがな。いささか信じがたい話だが……』

 

 ため息をつきながら、アキラは話した。

 

 ことの始まりは昨日深夜に遡る。

 以前通報のあった16区寄りの一角で、それは起こった。

 

 弦の仮面を付けた、女子高生のような格好をした喰種が、情報収集をしていた局員補佐たちを襲っていたらしい。喰種は「何か」の情報を探していたらしいが、そのタイミングで、ヤツが現れたらしい。

 

『――鱗・赫ゥ!』

 

 白い髪、眼帯を付けた黒い服装の喰種。まず間違いなくハイセだ。

 ハイセは現れたと同時にその喰種を局員たちから引き離し、逃げるように促したらしい。

 

「まぁアンタでも良いや。あのヒトが欲しい情報を得られないみたいだし――体の軋む音を聞かせて♪」

「!? ッ――な、」

 

 相手は甲赫だったそうだが、ビルと電柱とに赫子を絡ませ、縦横無尽に飛び撥ねヤツに襲い掛かったそうだ。

 それでも応戦していたハイセだ。当たり前だが相性的にはヤツの方が有利だったはずだ。だがだからこそだろうか。

 

『――甲・赫!』

「はァ!?」

 

 両腕に赫子を巻きつけた甲赫に変化し、彼女を殴り飛ばしたそうだ。その後、更に赫子を変形させ、爪のようなものを二本出現させ、首元に当て。情報を聞きだそうとしていたらしい。

 

 

 ここまでは、実は主題ではない。

 

 

 問題なのは、それを目的していた第三者――局員達でもない第三者だった。

 

 その第三者はドローンを使い、その光景を撮影していたらしい。

 そして撮影された情報を元に、その相手はCCG側に「意図的に」誤った情報を複数流し、捜査状況を混乱させた。

 

「……それが分かっているということは」

『嗚呼。戦闘中の余波でドローンが破壊され、カメラと通信機が回収された』

 

 それにより、犯人の特定に至ったらしい。至ったらしいが、アキラはものすごく回答を渋っていた。

 

「……一体何が問題だったんだ?」

『……結論までの道筋が単刀直入なのが真戸家の美徳だと思っているからこそ、渋っている。勿体付けることが出来ないからな』

「何だ?」

『確かに問題だ。その犯人が、CCG関係者だったのだから』

「!?」

 

 だからこそ、その言葉がにわかに俺には理解できなかった。皆一様に、心は一つとは言うまい。だがえてして喰種共に対する憤り、怒り、正義感などを持ち合わせ、奴らを殲滅することに命をかけているのだ。

 ならば何ゆえ、その俺達の中から、そんな裏切りが出てくる――。

 

『勘違いはしないでくれ。CCG関係者といっても、CCG関係者の「血縁者」であるということだ』

「……アカデミーか?」

高校(アカデミージュニア)の方だがな』

「高校生……」

 

 一瞬、この間の安久姉妹のことが脳裏を過ぎり、しかし俺は頭を左右に振って気を取り直す。続けてくれ、という俺に、アキラは「気がすすまないがな」とやはり渋っていた。

 

『間違いなくマスメディアに取り上げられれば、一発アウトの内容だ。そのことを念頭に置いた上で頼むぞ』

「一体、誰なんだその犯人は」

 

 

『――安浦晋三平。私の母の同期の、安浦清子特等の甥に当たる』

 

 

 

   ※

 

 

 

 取調室には、俺と、雨止と、刑事が一人ずつ。

 刑事は以前、俺と真戸さんとで喰種に襲われていたところを救った事がある相手だった。未だに片腕に障害が残っているが、それでも俺に頭を下げてくれた。……自分たちの不甲斐なさを思い出しつつ、しかし俺は本題を忘れるわけにはいかなかった。

 

 雨止が、犯人と対面している。

 

 相手は、身長180センチはあるだろうか。16才という年齢にしては、平均身長よりも大きいだろう。目元は長い黒髪で覆われており、そこから除く薄い目が、睨んでいるようにも見えた。

 安浦晋三平。アカデミージュニアの成績は良好で、中でも技術系の分野に関心が強いと成績書には書かれていた。安浦特等の縁者ということもあり、期待も大きかったことだろう。そんな彼が、何故この場に居るのか。

 

「……人騒がせな子供だ。君は」

 

 雨止は苛立ちを押さえながら、それだけを無理やり言葉にして言ったようだった。震える拳には、怒りが満ちている。それだけ無駄足を踏まされたことに思うところはあるのだろうが、それでも事情を聞こうというあたり、彼女は優秀だった。

 

 対する安浦は、にへ、と無意味に笑った。

 

「何か、いけないんですか?」

「何?」

「むしろ問題なのは、この程度で問題をあらわにするCCGの方でしょ? なのに、どうして僕だけが攻められなきゃいけないんですかね――」

 

 がん、と拳が机の上に振り下ろされる。

 

「――ふざけてるのか」

 

 震える声は、もはや怒りを隠すに隠しきれていない。

 

 だが、安浦の態度は変わらない。

 

「それに、喰種もそう悪くはないんじゃないですか?」

「……君それを言うのか?」

「僕だから言うんですよ。僕だから……、だって、何が変なんですか? 彼らは生きるために殺してるだけなんですよ? 僕らの食生活と違いは、何かあるんですか? まさかいちいち自分が食べる肉を、その肉の元になった生物と家族とを指して、考えて食べたりするんで――」

 

 雨止は堪え切れなくなったのか立ち上がり、奴の胸倉を掴んだ。刑事が彼女を引き離そうとしていたが、しかし状況は変わらない。

 持ち上げられ、咳き込みながらも、しかし安浦は笑う。

 

「僕、何かおかしなこと言いましたか?」

「……安浦特等が聞いたら、悲しむでしょうね。もう一度聞く。何でこんなことをした?」

「……僕は――」

 

 次の瞬間、安浦は血を吐き、雨止にそれをかけた。虚をつかれ、思わず手を離した雨止。

 地面に落ち、咳き込みながら、血を吐きながら、しかし安浦は笑ったままだ。まるで子供のように、いたずらが成功した子供のように。

 

 刑事が救急車を部下に頼んでいる中、俺は、確認のために聞いた。

 

「何故、20区だったんだ?」

 

 俺の言葉に、安浦は血をぬぐいながら答えた。

 

「――仮面ライダーが居るって聞いたから。会えば、何かわかるかと思ったから」

 

 

 

   ※

 

 

 

 いよいよテストが来週にと迫った中、クロナちゃんが突然、倒れた。

 あんていくでのアルバイト中。僕はお客として珈琲を頼んでいて、そのまま勉強をしていたのだけれど。本当ならヒデと一緒にあんていくで勉強、という流れだったのだけれど、どうもアルバイトが急に忙しくなったらしく、今日は僕一人でという形になっていた。

 

 そして、そのまま社会心理学のレポートに取り掛かっていた時だ。

 

 がちゃん、というコップが割れる音と共に、クロナちゃんがバランスを崩して倒れた。

 

「お、おいカネキ二号? どうした?」

「ニシキくん、女の子にそういう呼び方は駄目でしょうと何度言えば」

 

 お店には、西尾先輩と古間さんが立っている。倒れたクロナちゃんに駆けつけるニシキ先輩と僕。

 そして、彼女の横顔を見て、僕は寒気を覚えた。

 

 言うなればそれは、黒い脈だ。しかし躍動するその妙な鼓動を、僕は、僕らは知っている。赫子のそれと全く同じそれが、クロナちゃんの脈の中を暴れまわっていた。

 

「ど、どらい、ばー……、更衣室に、」

「……ッ、えっと、誰か女性スタッフ、」

「居ないね、残念ながら」

 

 古間さんの言葉を受けて、クロナちゃんをバックヤードに頼み、僕は女子更衣室に向かった。

 

 彼女に何が起こったのか、正確なところを僕は理解できていない。だけれど、あの様子は明らかに普通じゃない。普通の、喰種のそれではない。

 とするなら、おそらくは半喰種たるそれに端を発したものだ。

 その上で、僕には一度も起こった事のないそれに、自然と僕は恐れを覚えた。

 

「クロナちゃんのドライバーと言うと……、前に戦ったときの……、……」

 

 緊急事態だということで、問題が起きないよう祈りながら僕は扉をノックしてから開ける。無論、そこには誰も居ない。もっともだからといってほっとは出来ない。早い所彼女のドライバーを持って行かないと。

 「安久」と書かれたロッカーの前に行くと、ダイヤル錠がかかっていなかった。無用心な……。でも今のタイミングでは助かった。いや、微妙に助かっていないのだけれど。扉を開けると、クロナちゃんの着替えが案外乱雑に脱ぎ捨てられていた。……脳内でトーカちゃんがじろっとこちらを見つめている気がする。それに頭を下げながら、目を閉じつつ、邪念をはらいながら目的のものを探す。

 

 大体一分弱で見つけた。ダイヤルが付いた、形状の違うドライバー。ふと手に持って見ると、僕らのクインケドライバーよりも一回りくらい大きさが小さかった。

 ともかくそれを持って、バックヤードに戻る。

 

「おう、カネキ……、何だこりゃ」

「……僕も、詳しくは」

「ともかく後頼むな」

 

 西尾先輩と交代で室内に入り、彼女の腰にドライバーを当てる。

 

 リゼさんの赫子が噴出し、ドライバーのバックルを両端から挟んだ。……初めてまじまじと、装着する場面をこうして見たのだけれど、しかしすごく不思議な光景だった。特に出そうと言う意識を持たずに無理やり出された赫子が両側に接続されると、数秒でばちばち音を立てて圧縮され、ベルトの帯状になるのだから。

 

 そんなことを考えていると、クロナちゃんが「……えっち」と言った。

 どうやら、まじまじ見すぎてしまったらしい。

 

「えっと、そういう意図じゃなくって……」

「……別にいい。お兄ちゃんなら」

「……そのお兄ちゃんっていうの、止めない?」

「……いまさら、カネキさんって言うのって、はずい」

 

 そっか、はずいか……。僕的には良い年して年代の変わらない男性を「お兄ちゃん」って呼ぶ方が恥ずかしい気もするけど、彼女なりに何かこだわりがあるのだろうか。なんだか詳しく聞くと薮蛇になりそうなので、僕はこれを流した。

 

「ごめん。変なときにリジェクション起こった」

「リジェクション?」

「拒絶反応。……、赫子と、人体との」

 

 言われて、なんとなく納得した。赫子は元々、喰種のものなのだ。それが食料である人間の身体の中に納まっているという状態事態、不自然と言えば不自然なのだ。普通の臓器移植でさえ拒絶反応があるのだから、僕らのような場合はなおそうだろう。

 

「でも、僕はないような……?」

「パパが……、嘉納が言ってた。お兄ちゃんは、唯一の完全成功例だって。私達は仕様こそお兄ちゃんを大きく上回っていたけど、そこだけは失敗だったって」

「失敗か……」

「……うん、失敗だった」

 

 クロナちゃんは、そう言うなりうつむいてしまった。

 

「……どうしたの?」

 

 僕の言葉と同時に、膝の上に乗せていた彼女の手の甲に、雫が落ちた。

 ぽたり、ぽたりと。眼帯をしていないほうの目から。そして見上げれば、眼帯の方も湿っている。

 

 クロナちゃんは、泣いていた。

 

「私……、失敗した」

「……失敗?」

「喰種なんて、なるんじゃなかった。こんな、こんな――」

 

 がたがたと震えるクロナちゃん。その手を、握りながら、僕は深呼吸するように言う。おそらくしびれて、振るえが止まらないだろう彼女に、落ち着いてくれと。

 

「……話してみて。それで、少し落ち着くかもしれないから」

「……私は、シロを、シロナを助けられなかった」

 

 クロナちゃんは、ごめんと。ごめんねと。駄目な姉でごめんねと、謝り続ける。

 

「私がもっと、しっかりしてたら、シロをあんな目に遭わせないで済んだのに……、シロに、あんなこと言わせないで済んだのに……ッ」

 

 細かい事を、クロナちゃんは語らない。語らないまでも、それでも、彼女は自分の身体を残りの手で抱きしめながら、涙を流して言葉を続けた。

 

「誰も助けないで、自分達だけのためにこんな身体になって……、()のことだって、そのままで……、誰もその意思なんてつげなくて……、亜門さん……」

「……雫? 川上雫?」

 

 僕の言葉に、クロナちゃんの目がぱちりと開いた。

 

「知ってるの? お兄ちゃん」

「……えっと、元、彼女。高校時代の」

 

 それと同時に、クロナちゃんの目がさらに大きく開いた。驚愕と言わんばかりに。眼帯を外し、こちらに顔を近づけて、まじまじと見た。

 

「……居た。確かに、お兄ちゃんだった」

「?」

「雫の墓の前に居たの、墓に手を合わせてたの。前に、ちらっと遭遇してたの」

「……友達だったの?」

 

 こくり、と頷いて、そして、クロナちゃんはまた泣き出す。

 

「……お兄ちゃん」

「……何?」

「……ここで働いて、みて、さ。まだ二週、間、なんだけど、さ。でも私、わかん、なくなっちゃった」

 

 クロナちゃんは、とても辛そうに言葉を続ける。

 

「お仕事、教わってさ。お兄ちゃんから、教わったり、トーカちゃん、から、文句言われたり、西尾、さんに馬鹿にされ、たり、猿みたいな、ヒトに、訳知り顔で、頷かれたり、入見さんか、ら、褒められたり、ロマと一緒にお皿割ったり、さ。

 あと、お店で注文取ったり、商品出したり、珈琲淹れたりしてさ。お客さんから、ありがとうって言われたりさ。大丈夫? って気を遣われたりさ」

「……」

「そういうの、なんだか、思ってたよりすごく、楽しくって、さ。嬉しくって、さ。

 私が――私たちが、人間だった自分達を捨ててまで、復讐しようとしていたものって何なのかなって」

 

 声を振るわせながら、それでも必死に言葉にしようとして。そしてその言葉に追い詰められて、彼女は涙を流していた。

 

 僕は、言葉を続ける事は出来なかった。彼女が、川上さんの友達だったという事実に驚きはした。でもそれ以上に、今彼女が言った言葉に、僕は何も言うことが出来なかった。

 

「人間と、喰種と、一緒に居てさ――どっちも変わんないなって思っちゃって、さ。

 だったら、なんで人間辞めたんだろうって。辞めなきゃ――シロともずっと、一緒だったのに」

 

 呼吸は乱れたまま。それでも手の振えは収まってきたクロナちゃん。

 

 僕は立ち上がり、彼女の頭をなんとなく撫でた。以前トーカちゃんにやった時には、驚かれたりせがまれたりしたけど、クロナちゃんは無言でそれを受け続けていた。

 

「……クロナちゃんは、ナシロちゃんは、自分たちで望んでその身体になったんだよね」

「……うん」

「でも、嘉納先生の所を離れて。ナシロちゃんと何かあって離れ離れになって。

 そうなったことを後悔してる」

「……う、ん」

「……だったら、クロナちゃんはどうしたいのかな」

「……私?」

 

 うん、と僕は彼女に頷いた。

 

「僕は、昔僕を助けてくれたヒトみたいになりたくって。そのヒトの娘さんも、助けてあげたくって。そうなれるように、今、頑張ってるつもり」

「……娘?」

「うん。あー、これ、ナイショなんだけどトーカちゃんね」

 

 クロナちゃんは、一瞬びくりと肩を震わせた。

 

「そのヒトが昔、言ってくれたんだ。守るために努力はしなきゃいけない。自分に出来る精一杯で、みんなを助けてあげるんだって」

「みんなを、助ける」

 

 そう、と。それだけ言って照れくさくなって、僕は立ち上がった。

 

「もしアレだったら、この後、病院に行こうか?」

「……病院? でも、私達――」

「前に田口さんから、教わった場所があるんだ。今思えば、きっとあれは『喰種でも観てくれる場所』だったって意味だと思う」

 

 僕の言葉に、少なからずクロナちゃんは驚いた様子だった。

 

「赫子の活動を押さえる薬とか、もしかしたら何かあるかもしれないし。

 ……できるだけ人間として生きたいっていうんだったら、きっと、ここはクロナちゃんを拒みはしないよ。僕も、店長も、皆も」

 

「……わ、私、は――」

 

 クロナちゃんは、また泣きだしてしまった。でも、その泣き方は、さっきまでとは少し、違ったように僕は思った。

 

 

 

 

 




今回のまとめ

安浦少年:病院搬送
クロナ:シフト後に病院
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