【白雲】との二つ名を持つ海兵がいた。
名は体を示す。というが、その通り真っ白な海兵だった。
髪は白濁、肌も透き通った白さというより血を抜いた様な白さ。肌の露出を拒む様に、手首まである革製の手袋。肩に引っ掛けた海軍将校の《正義》のコートにスーツから革靴に至るまで、徹底した白さ。
海軍の白を体現するような姿に、人は彼女を【白雲のカルマン】と呼んだ。
◆◆◆
水平線の向こうに、小さな島影が見えはじめると海兵たちは少しずつ甲板に現れ島に入るために働いていた。
海軍中将のガープに連れ出されたカルマンは軍艦の甲板から、海の向こうを見ている。金色の目に海の色含んだ光が入り込んで、キラキラと反射して腕に抱かれた赤ん坊のエースは、その目の中の光を見つめて小さな手で掴もうと空中で手を握ったり開いたりを繰り返していた。
ーーーコルボ山を拠点とする山賊ダダン一家は、こちらに向かってくる海軍の船を見つけて慌てた。
懇意にしているガープの船だろうが、ダダンは山賊を生業としている。家の周りには、見られては不味いものが当然の如く積み上げられていた。
さあ、大混乱。
巣穴から溢れ出す蟻のようにダダン一家は、家や物置やらを行ったり来たり。あれかくせこりゃ隠せとてんやわんや。おおざっぱに布をかけて隠したりと画策しているとついに、ガープはついに一家の元にやってきた。しかもぼろぼろななまっ白いガキが、さらに乳飲児を抱いてやって来たもんだから面倒事のニオイに棟梁のカーリー・ダダンは顔を顰めた。
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ガープが山賊たちと話し、さっさと海軍本部に帰ってしまうとぽつーんとカルマンは一人になってしまった。いや、正しくは二人ぼっちだ。
山賊たちに同情なのか、腫れ物扱いなのかわからない視線や態度をぼんやりと受け流しつつ、簾越しに分けられた辛うじて個室の程を持った部屋を与えられた。
見渡して、キレイめなところを見つけると壁に縋って座り、エースに顔を埋めた。
赤ちゃん独特の匂いがした。甘酸っぱいようなミルクのような匂いに少し落ち着いて、一気に起こったことが頭を駆け巡った。
カルマンは転生者と言われる類のものだった。
現代社会に生きていた社会人でONE PIECEの知識は大してなく、つけていたテレビで偶然流れたアニメを流し見する程度。しかし、このエースが主人公の兄ということは知っていた。
それにカルマンは育ててくれたルージュを愛していた。1ヶ月も一緒にいなかったロジャーが、ルージュに告白する前にカルマンに「俺が父親になってもいいか?」と了承を取ってくれた時は、跳ね上がるほど嬉しかった。だから、彼女たちが亡くなって悲しかった。なによりエースが、二人に会えないのが悲しかった。二人はいい親だった。
そのうちボロボロ涙が出てきて、エースもそれにつられてわんわん泣いた。一気に起こったことで頭がいっぱいで全然うまくあやせなくてひとしきり泣いた。おくるみがぐっしょり濡れてしまっているのに気づいて慌てて替えると、エースはうーとかあーとか唸って落ち着いたようで眠ってしまった。私も少し落ち着いて深呼吸をする。すんすんと鼻が鳴り胸がバクバクなって全然呼吸が整わなかったけど、エースを胸に抱えポンポンとリズムを取った。
「だいじょーぶ。えーす、カルマンがいるからね。おねーちゃんもつよくなるからね」
舌足らずな子供の強がり。
それを聞いていたダダン一家の顔のぐしゃぐしゃと泣き崩れ、膝を抱えるものまでいた。
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エースの成長速度は凄まじいものだった。
1歳で、爆速のハイハイでダダンを抜き。たまに遊びにくるガープ中将の脛に向かってぶつかり稽古。
2歳、大人と同じくらい食べるようになって二足歩行でよちよちと、目を離した隙にとんでも無いところで力尽きたりするので迷子紐が必要になった。
迷子紐があれば、ダダン達に任せることができたので、その頃にはエースを預けてカルマンは島の散策をするようになった。2年もの間山から降りずに生活していたので、カルマンがまず驚いたのがこのコルボ山の立地だった。ドーン島。意外と大きな島の端っこにある農村地域の村にフーシャ村があった。
_フーシャ村、主人公のルフィが幼少期を過ごす村ではなかっただろうか。
綿飴よりふわふわな知識持ちのカルマンでもそれはわかった。
村の中をうろうろしていれば、カルマンより6つ上の女の子マキノに声をかけられた。随分前にこの近くに引っ越してきたのだといえば一緒にフーシャ村を回ってくれ、ご飯もご馳走になった。
彼女と一緒にいると子供たちが寄ってきたが、ルフィらしき子供はいなかったのでまだ生まれてないのだろうか…エースと何歳差の兄弟か知らないので、追い追い判明するんだろうなとカルマンは頭の隅に追いやった。
村の人間は見慣れない人間に警戒していたようだったが、マキノの反応を見て無害と判断したようでその内ハーメルンの笛吹のような子供の行列ができていた。
マキノにお礼を言って農村地域から中心街の方に向かうと、壁が見え始めたと思ったら悪臭がした。
壁に囲まれた中心街、その周りをゴミが覆ったスラム街。ニオイの元は、スラム街だったようで少し離れたところから木の上に乗って、中心街を覗いてみた。着飾った貴族ばかりが歩いていて、特に興味が持てなかったので散策はそこで終わることにした。
エースが3歳になると、よく喋るようになった。
でも、舌がよく回らないのかうまく喋れない所為でよく泣くようにもなった。
4歳、この頃から生きていくための鍛錬を始めた。野犬ぐらいは追い払えるようになったので凄いと褒めると、恥ずかしがって悪態をつくようになった。
そして、5歳。
エースは鉄パイプでイノシシくらいなら1人で倒せるくらい強く育った。
最近は、日課の手合わせでエースに一本取られそうになり、私もこれはいかんとガープ中将が島に来るたびに海兵たちに稽古をつけてもらうようになり、最終的には何故か海軍の末端に籍を置いていた。
あれえ、なんでえ?という疑問を持つまでに時間がかかったが私は、入隊式とかそういうのもなく、急に海兵見習いになっていた。
ガープ中将が手を回したんだろうと思うが、ちゃっかり袖なしの海兵服とMarinと刺繍された帽子が女の子らしい白のワンピースと一緒に渡されたときは、どうしていいか戸惑った。
たまに海軍の軍艦に拉致されて遠出する時に着ているが、最近ではガープ中将は私とエースに「おじいちゃん」呼びを強要するようになり、エースは「ジジイ」と呼んで大きなたんこぶを作っていた。