扇鷲、笑う。   作:綿苗

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第4話

北の海(ノースブルー) イーゼル島”

 

飛ばして飛ばして、1日半かけてたどり着いた島は実に童話的であった。

 

つい先日まで戦地にいた身ゆえか、居心地の悪ささえ感じた。

 

赤煉瓦の家。

薪のストーブから伸びる煙突。

天に向かって立ち上る煙。

一面真っ白な銀世界を、早起きした住人たちが家の前を雪掻いている。

 

冷気から顔を隠すように、カルマンは立ち襟のジャケットに鼻先を埋める。襟についていたボアからは新品の匂いがした。

 

任務を終えて、報告書を専用の筒に入れて情報文章にして鳥に持たせれば私の仕事は終了。

 

しかし、脳内に解消されることのない疑問がこびりついていた。

なぜなぜなぜ。

 

捕縛した幹部のコラソンが、何故あんなに怪我をして放置されていたかは分からない。コラソンが譫語で呟いていたLOWという単語。それは法律?低い?不明な単語。極秘任務というだけあって謎だらけの任務であったが、その意味を一介の海兵に知る由もないことだろう。

 

私は、仕事と休みはメリハリをつけるタイプ。

 

疑問を頭の片隅に押し込んで、宿家の外窓に映る姿を確認すれば普段の真っ白な姿から一変。11歳にしては高い身長(166cm)を真っ黒なジャケット黒のワークキャップで髪の毛も目元も隠してしまえば、もう海軍のカルマンではない。ただの少女カルマン。

 

宿屋でもらったココアの匂いを嗅ごうと紙コップに顔を近づけると、サングラスが曇った。

 

かけていた日光に弱い薄い虹彩の目を保護する為のサングラス…、必要なものではあるが少し、不審者のなりに気づいたカルマンは少し間を置いてサングラスを取った。レンズの靄を拭って、胸ポケットに引っ掛けるように仕舞い、宿屋の屋根の下からついに出ると、冬特有の強い日差しが目の奥に突き刺さった。

 

 

「ずび…、ずびずび…」

 

歩き始めるとたちまち冷気が滲みた。

外気が入り込むせいか、過敏に反応した鼻炎気味の鼻を押さえる。焦茶の手袋を嵌めた手で温めるといくらかよくなった。

 

人命救助とはいえ、他人の鼻なんて吸わなきゃよかったなあ。

 

 

後悔先に立たず。

 

しょうがない。カルマンは軍に所属している以上、避けて通れない人命救助にモヤっとした口の中の違和感にも目を伏せた。しかし、宿屋で貰ったココアは飲めず手を温めるカイロに成り果てていた。

 

 

 

 

*****

 

「ブランカ!!」

 

涙ながらの驚愕で声を荒げたのは、狩猟の島の長の奥方であった。

 

 

人探しには、その島の医者か長に話を聞くのがセオリーかと思って家を訪ねて帽子を脱いだ瞬間、知らぬ名前で呼ばれた。

 

狼狽えたのは、夫人だけではなく夫である長カランコエ・ビアンコも私の顔を見て硬直。どうしたものかと2人をソファに促して、話を聞けばなんと私の探し人がこの家の娘らしい。花と鹿が彫られた木彫の額縁の写真は、確かにカルマンに瓜二つ。

 

レバーアクションのライフルを肩にかけた女性は、獲物の鴨10羽と同じ色に染色された深い緑色のマントを片手に薄目を開けて笑っている。猫っ毛の白い髪、ぐるぐる渦の虹彩の金眼、くるんと上を向いたまつげ、石膏色の肌。

私が成長すればこうなるだろう、そっくりそのままクローンレベルでそっくりだ。これには、わたしも驚いた。

 

__カランコエ・ブランカ。

  

父にカランコエ・ビアンコ

母にカランコエ・テナー

  

特徴的な肌の色に髪の色は、白い町 珀鉛病(ホワイトモンスター)に酷似した彼らの島民の容姿は小さな島を閉鎖的にし、カランコエの一族は代々島を治めてきた。

  

そして、娘ブランカは島一のハンターであり次期カランコエ当主件島の長として育ってきた。が、島に立ち寄った海賊と交流のち、恋に駆け落ち。その後の消息は不明。

 

 

カランコエ夫妻が涙ながらに語ったブランカの人生。もう、ライフルを置いて音沙汰のなくなった娘にもう二度と会うことはないのだろうと、半ば諦めていた時に現れたカルマンに娘を重ねるのはしょうがないとは、思うが如何せん距離が近い。2人掛けのソファにカルマンが座り横に夫人、カルマンの横に丸椅子を持ってきて座ったビアンコは嬉しそうにアルバムを膝に乗せて思い出話に嬉々としていた。

 

 

まいったな。私の考えでは、同じ目をした鷹の目が父親候補の最有力者だったのに…母親の色調をそのまま受け継いでいるとしたら、父親が鷹の目の可能性は薄い。しかも、父親の情報が海賊だけとなるとそれは”look for a needle in a haystack(干し草の中の針)”望みのない探し物。

しかし、2日かけて探すはずだったのが1日目の昼前に済んでしまうなんて…なんたる強運か、凶運なのか。

 

「どうか、私たちの家に泊まってくれないかキミの話も聞きたいんだ」

 

そう話すビアンコの首元から、見覚えのあるドックタグが見えた。

 

「あの、もしかしてこちらにも見覚えがあるのでは」

首から引き出したドックタグを見た反応を見るにビンゴ、夫妻は同じようにタグを見せてくれた。

 

「私たちの島では、子供にドックタグを作るんだよ。私たちはハンターとして、時には危険な場所に行かなきゃいけない場合もある。その時のお守りとして、子供を守ってくれますようにと願って私たちはこのドックタグを作るんだ…それにしても、このタグは…Calman、ああ私の母のものだ。ブランカ…持って行ってたのか」

 

 

ついに顔を伏せて泣き出したビアンコの背を撫で、

片手を塞いでいた冷え切ったココアをテナー夫人、つまり祖母に破棄してもらうように頼むとテナー夫人は嬉しそうに受け取った。

 

 

 

宿を引き払って、再びカランコエ家を尋ねるとなんだかすごい部屋を用意されていた。

 

「ブランカは、緑色が好きでねえ」

 

しみじみとテナー夫人は言うが、これは異常だ。

 

新しく張り替えられたシーツの白さが強調される程に、緑に、翠に、碧。

 

通されたカランコエ・ブランカが使っていたという部屋は、カーペット、ソファ、クッション、枕カバー、ベットカバー、寝台の天井から下がった天蓋に至るまであらゆる”みどり”で覆われていた。年代物のウォールナットの机の上にマガモの羽の羽ペンが、置かれているのには感服した。構造色の緑がキラキラと屋内の明かりを浴びて目についた。

 

壁には、置いて行ったというレバーアクションのライフルと狩猟ナイフがバッテン状に飾られていた。

 

 

 

 

 

夫妻との食事の後、頂いたアルコールを飛ばしたホットウイスキーで口を湿らせると駆け落ちしたという海賊について聞いてみた。

 

しかし、なんとも歯がゆい。

実の娘が駆け落ちした相手のことを詳細に覚えてないなど、そんなことあるか?

 

海賊旗について聞けば、「三日月模様がついていたような」

特徴を聞けば「大柄な男性だったねえ」「ええ本当に遠目から見てもはっきり分かるような男性だったね」

 

これは…何か、隠してる。

 

レモンを1欠け、ホットウイスキーに絞って不快を流し込むようにして飲んだ。

 

 

*******

 

 

 

本部に戻ると、ドンキホーテファミリーの幹部を捕捉したことともろもろで、私の階級が上がっていた。

 

それもあって、サイファポールへ訪問も叶いそこで燻っていた青年を海軍にヘッドハンティングなどをしたりと色々あったが、格段これと言って特筆することもなかったのでここで割愛させていただく。

 

そう、それもこれも今日はガープ中将の軍艦に乗せてもらってドーン島に帰るのだ!

 

軍艦の甲板で、カルマンは昔と同じようにヘリに手をついて海を見た。

赤髪のシャンクスが東の海を彷徨いているため、治安維持や牽制を兼ねての遠征。

 

ここから一週間はかかるが、エースに会える!

空から向かえばもっと速く着くが、仕事の途中の帰省だから…!お土産買いだめとかなきゃなあ…

 

そう思考を飛ばしていると、カルマンの側に大柄な青年が現れ手のひらを見せない海軍特有の敬礼し笑いかけた。

 

「随分、嬉しそうですねカルマン曹長」

「当たり前だよ!リッチモンドくん。大体3ヶ月かな…会えてないからね、弟に」

 

「…ロブ・リッチです、曹長」

 

「ああ、ごめんリッチーくん」

 

「曹長…」

 

弟にギアの入ったこの少女には、何を言っても無駄なのだ。と、ロブ・リッチは苦笑の中で理解した。

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