扇鷲、笑う。   作:綿苗

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第5話

カルマン13歳。

 

毎回の休暇をエースとサボ達に会うため消費しているカルマンは、今回の休暇も同じように慣れた空路を辿って島に向かっていた。

 

ダダンの根城は、山頂近くにあるので助かる。

 

大きな翼では、木々の間を飛ぶのが大変なため切り開かれたダダンの根城は上空から滑空すれば良いので目指すのが楽ちんだった。大きく膨れたリュックを背負い、ちょうど小屋の上空を旋回すると地上から大きな声が上がった。

 

「でっけえ鳥!!肉だああああああああ!!!!」

 

びっくりした反動で、傾いた体を直して下をみると小さな粒のような人間がぴょんぴょんと跳ねていた。

 

この東の海で(怪鳥)を食物として見られるとは思っても見なかったので少し高度を下げて声のした方を見ると、麦わら帽子の小柄な少年が口の周りを涎でダラダラにしながら仰ぎ見ている。その少年の近くには、サボが見えた。

 

襲い掛かろうとしても、サボが止めるだろうと思い私は緩やかに地上に降りた。

 

「こら、ルフィ!やめろ!カルマンは食べれねえって」

「サボ!鳥だぞ!こんなでけえの初めて見た!」

 

サボに羽交締めにされながらも、なおこちらに来ようと涎を垂らす姿はゾンビのそれに近く、カルマンは地上ではなく側の木に止まった。

 

「カルマン!久しぶりだな!」

「久しぶりサボ、エースはどこ?」 

 

「鳥がしゃべった!」

「エースは今ちょっと出てる!」

 

自分の何倍もある大きさの怪鳥に驚かない少年も、流石に人語を喋る姿には驚いたようで動きを止めた。

 

「キミが噂のルフィくん?」

「おう!ルフィだよろしく!オレのこと知ってんのか、不思議鳥だな!」

「ルフィ…カルマンは、エースの姉ちゃんだよ」

「姉ちゃん???」

 

訝しげに見るルフィの目の前でするすると人の姿に戻ると、ようやく私の存在は"肉"から離れたようでまた確認のように「姉ちゃん?」と聞かれたので答える。

 

「そう、わたしがエースのお姉ちゃんのカルマン。よろしくね」

 

 

 

 

エースが戻ってきてから、3人と姉弟の盃を交わしたカルマンは増えた弟を背に乗せて飛び立ったり、リュックにぱんぱんに詰め込んだお土産を配分して過ごした。

 

*******

 

 

 

 三日月形の島、マリンフォードには政府直属の海軍本部の白亜館が悠然とたたずみ、正義を掲げていた。その一室、扉につけられた真鍮のプレートには、カルマンを示すP.D.Cとだけ彫られていた。

 

一等兵のパックマンは、上官に命じられた雑務をこなすべく早足で一室を目指していた。

 

ポートガス・D・カルマン__P.D.Cのプレートを確認して木製の扉を開けると、鼻先をコーヒーの匂いが擽る。海軍の煮詰まった作り置きのコーヒーなどではなく、豆をじっくりドリップしたいい匂いだった。ここは、いつ来てもコーヒーの匂いがまず出迎えると噂が立っていたがそれを体験するとは思わなかった。香りだけでは、雰囲気のいい喫茶店のようだが目の前に広がるのはしっかりとした海軍将校のデスク、将校の執務室だった。

 

視線を一回りさせて部屋の主を探すが、見当たらず。では、こちらかとすぐ横に取り付けられた部屋の扉をノックした。

 

「__…どうぞ」

 

許可を下す低めの掠れた女性の声の後にゆっくりとドアノブを回して開けると、大きな黄色の塊が目に入った。それは、伏せたトラだった。大きなトラの背には海軍の制服がかけられており、胴体には体を預けて寝そべる真っ白な女性がいた。

 

__ポートガス・D・カルマン大佐、

白雲(しらくも)】を二つ名に持つ彼女は、それを現すように色を持たなかった。

 

弱冠13歳にして大佐の位につき、英雄ガープ中将の孫だという。

 

トラに埋まった老人のように真っ白な髪は、短く切られ整えられ、いつも閉じられている目蓋は今も閉じられ長い睫毛が影を、頬に落としている。嘘みたいに綺麗な光景は古い童話の挿絵にも見えた。

 

しかしここは海軍本部。執務室の横のこの部屋は、祖父であるガープが彼女のために作った個人的な部屋で他の将校の部屋にはない特徴的な部屋だ。本とコーヒーに焼き菓子を好む大佐の書庫兼休憩室。

 

「休憩中失礼致しますカルマン大佐!明朝に行われる会議の資料に不備があったため、新しいものをお持ち致しました」

 

意を決して、言葉を発すると少し声が裏返った気がして胸が跳ねた。

一介の一等兵には、まず入ることのなかっただろう部屋の内装についじろじろと不躾に観察をしているのに気づいて、視線を部屋の中央に戻した。

 

伏せていたトラが立ち上がると、重力に沿ってカルマン大佐はかけられていた毛布のようにするりと床に落ちる。すると、瞬きの瞬間に自分の前に大きな壁ができた。

 

それは、人の胸だった。反射的に顔を上げると癖毛をひとつに縛った、男の自分でも見惚れる端正な顔が書類を手に取っていたので慌てて手を離した。

ロブ・リッチ少尉、CP(サイファポール)で有名なロブ・ルッチを弟に持つ彼も、ゾオン系悪魔の実を食べてトラの能力を身に宿した実力者。CPからの引き抜きでカルマン大佐の補佐官を務めている。

その肉食動物特有の鋭い目は、下っ端の自分には刺激が強すぎる。書類を手渡す目的を果たしたことだし、敬礼の後にくるりと回って粗相がないようにしっかりとドアを閉じ退室した。

 

なにかと噂の中心となる人たちだが、実際にみると噂になるのもわかる気がする。オーラが違ったもんオーラが、佇まいを正すとパックマンは早足で次の部屋に急いだ、一等兵の自分にはまだまだ書類を届ける雑務が待っているのだから。

 

******

 

リッチの指先が書類をまくる微かな音が、部屋に響いていた。

 

「大佐、そろそろお時間です」

「…うん」

 

返事はあるが動きは鈍い。

 

当たり前か、ボルサリーノ中将と共に魚人海賊団狩りに駆り出された早々に彼女は大佐に就任し、ボルサリーノ中将も中将から大将に昇任しその際にカルマン大佐は、天竜人や五老星への就任挨拶に追われたボルサリーノ大将の業務の一部を引き受けた。海軍の留置所から逃げ出した、アーロンを含む数名の捜索に大佐自身の職務等で海の上と海軍本部を往復する日々を、彼女は繰り返している。

 

まるで自分自身をすり減らすような、姿にはそうすることで何かから目を逸らしているように見受けられた。

 

ようやく起き上がった大佐が休憩室から執務室のデスクに着くと、万年筆を手に神経質な音を立てて書類の記載を始めた。普段閉じている瞼は、薄く開けられ隙間から金色が溶け出しそうに輝いて、口は噛み締められている。

 

13歳の少女と女性の間に立った曖昧な年代の少女のか細い体を見ると、痛々しく感じ心配もしたが自身の弟ルッチの13歳も既にCP9として活躍をしていた。見た目と相反して想像よりも13歳という年齢の子は、逞しいのかもしれない。

 

名前と顔が中々一致しないカルマン大佐に、彼女に必要な手配書や書類を整理していると、筆記の音と共に机の上に置かれたオブジェが揺れた。白金の天秤と真鍮の剣を携えた正義の女神テミスを目に入れると、司法と裁判のシンボルである彼女の元から逃げ出したリッチは過去の辛酸を舐めた記憶が思い起こされた。過剰な正義「弱者は悪」が信念の弟と年々深まる溝、確執、CP内で身を縮めて過ごしていた日々を壊したのがカルマンだった。

 

彼女にとっては気まぐれかも知れないが、リッチが忠実に従事するのには十分な理由になった。

 

 

 

物思いに耽るリッチをよそにカルマンは執務室の机の引き出しから、羊皮紙の封筒の束を麻紐でまとめたものから1枚取り出すと、顔を歪めた。

 

カルマンは弟の1人が亡くなったことを、手紙で知った。

 

 

 

 

 

 




オリキャラ紹介

ロブ・リッチ

ルッチという弟がいる。

サイファポールに所属していたが、戦闘・諜報部員ではなく見習い・雑務をこなしていた為、機密には触れておらず問題なく転職ができた。

海軍に入隊した後、悪魔の実を食べる機会があり能力者に。
六式習得済み

弟に対するコンプレックスが強い為、カルマンのブラコンには理解できない、しようがない、と思っている節がある。

好物:パイカに鳥軟骨
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