扇鷲、笑う。   作:綿苗

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第6話

カルマン14歳。

 

____政府の犬、略奪、征服を許された名だたる7人。政府公認の7人の海賊。王下七武海に"海侠のジンベエ"の名が加わった。

 

フィッシャー・タイガーの起こした【聖地マリージョア襲撃事件】から4年が経ち、壊滅状態にあったタイヨウの海賊団2代目船長として魚人を束ねたジンベエが世界政府に従事るというニュースは、瞬く間に広まった。

 

彼の王下七武海加入で、とある海賊が釈放された。

タイヨウの海賊団から抜け、旗を掲げた後海軍に捕縛されのち、逃亡。そしてカルマンに確保されたアーロンが恩赦で釈放されたのだ。

 

そしてジンベエの目の前には、カルマンがいた。

 

アーロンを捕らえた黄猿やカルマンには嫌味の一つも言われるか、不敬の目を向けられるかと懸念していたのだが、目の前にした少女を見るにそれは杞憂に過ぎなかったようであった。

 

小さな頭に、閉じた瞳。細身の体には、将校のコートを引っ掛けて若竹のようにひょろりと立っている。

 

表情が読めないが、嫌悪の類は感じられなかった。

 

偶然か運命の悪戯か海軍本部での定例会後に遭遇した少女を、他の海兵はまるで野生動物でも見るような目で彼女を見ている。魚人のジンベエを差し置いての、視線にジンベエは奇妙な光景だと思った。

 

「ジンベイザ…、?さん…ジンベえさん、ですね。」

 

もごもごと口を開いた少女は、3m程あるジンベエを見上げて明らかにジンベイザメと言いかけて口澱んだ。ジンベエは、聞かなかったことにして少女を見るとにっこりと笑みを返された。

 

「案内役を変わりました、ポートガス・D・カルマンと申します。港まで同行します」

 

どうやら偶然の鉢合わせでは、なかったようだ。

王下七武海といえど、海賊が海軍本部を悠々と闊歩するのは外聞が悪い。道案内とは名ばかりの将校クラスの監視は必ずついた。港に着いた時は、確かに別の人物であったが、よりにもよってポートガス・D・カルマンを寄越すとは…海軍も意地が悪いのか、それとも何も考えてはいないのか…ジンベエは、多少考えてしかし考えても如何となる事でもなかったので考えるのをやめた。

 

「うむ、よろしゅう頼む」

 

 

*****

 

カルマンが、弟の死から立ち直ったかと聞かれれば、否。未だ引きずっている。しかし、カルマンはプライベートとパブリックはきっちり分ける方。立場を考えれば弱っているところを見せるのは、部下の士気に関わる。ただでさえカルマンの部隊は何故か、カルマンを神童やらなにやら信仰するものが多い。いつも通りにぺったりと顔面にスマイルを貼り付けて、仕事に従事していた。

 

「それにしても、魚人の方というのは同じサメの魚人といえど違うのですね」

 

カルマンの白いローファーとジンベエの履いた下駄の音が鳴る人気のない廊下で、デリカシーのかけらもない疑問が振られた。

 

「おんなじ、ちゅうとアーロンの事か」

 

「ええ、と言っても言うほど魚人の方とお会いしたことはないのですが、アロンさんの方はおろし金みたいな鮫肌でしたがジンベさんの方はもち肌のように感じました。」

 

相変わらず呼ぶ名前が安定しないカルマンの細い指が、ソレと指し示す自分の青い肌を見てジンベエは笑った。

 

「いや、ははっこりゃあアーロンの方が凶暴だったとかそう言う話と思うちょったら随分…うむ肌か、わしら魚人に限った事ではないが気が立った時に肌が硬化する者は多いのお。プレコやヨロイナマズの魚人と人魚は、常に硬い肌をしちょる」

 

「なるほど、あれ…もしや海水でも淡水魚の魚人の方って苦しくないんですか」

 

「魚人ちゅーのはそう言うもんじゃ」

 

 

なるほど、なるほど、と一つ一つ新鮮に受け止めるカルマンの姿にジンベエは、子供もらしい子供に呆気を捉れた。

 

冷やかし混じりでもなく、人種差別でもなく純粋な興味という質問はジンベエにとって驚くべきものだ。ジンベエは、巨体に口から飛び出したキバが強調した強面、子供に興味を持たれて剰え会話をする機会などなかったために、カルマンの不躾とも言える緊張感のない会話は少し愉快であった。

 

 

「すみません。質問ばかりで私、魚人島に行ったことがなくて書物の知識しかないんです。浅学を披露したようでお恥ずかしい」

 

「いや、皆そんなもんじゃて。海底1万m、辿り着くのは海軍と言えど数えるばかりじゃ」

 

「そうですよね」

 

相変わらず貼り付けたような笑顔のカルマンと、その横を歩く鬼瓦のようなジンベエの後ろ姿は海軍と海賊の間柄にある一種の緊張を含んだ殺気混じりの気配もなく、実に朗らかな空気が流れていた。

 

 

*****

 

カルマン15歳。

 

相変わらず短く切られた白い髪の毛の先が、部屋に入り込んだ風で揺れて、カルマンの目の前の人物の帽子に取り付けられたカモメも同じように揺れた。

 

カルマンは、センゴク元帥に呼ばれ元帥の執務室に呼び出されていた。いつも後ろに控えているリッチは居らず、部屋にはカルマンとセンゴクそれと何度か任務で下についたことがある、おつる中将がソファに座っている。

 

海軍のトップに位置する元帥の部屋に入るのは、片手で数えても指が余るくらいにしか入ったことがない。が、明らかに祖父ガープが出入りしているであろう形跡として、数年前に祖父にプレゼントした可愛いクリップで閉じられた大袋の煎餅が放られている。緊張感とか新鮮味というものが、何処かに抜けていってしまった。

 

【仏のセンゴク】と呼ばれるセンゴク元帥であったが、二つ名とは相反して神経質そうに厳しい顔つきで口元を隠すように手を組んでいる。所謂、ゲンドウポーズをとっているセンゴクは机を挟んで1人だけ立つ少女に問いかけた。

 

「数年前、発見したドンキホーテファミリーの幹部のことを覚えているか」

 

「…ああ、はい」

 

ドンキホーテファミリーとは、また懐かしい。おつる中将と北の海での任務は3、4年前のこと。もしや、あの男が息を引き取ったとか監獄への秘匿の護衛とかだろうか。カルマンが勝手に思考を飛ばしていると、センゴクは奥の扉を開けて男性を呼び出した。

 

見覚えがあるような、無い様な。

将校のコートを羽織った大きな体躯に、顔や体は大半を包帯が隠している。唯一個人を特定できるようなところは、煤けた金髪に紅茶色の目。怪我はファッションというわけでもなく実際に負った重症なもののようで、歩行器を使用して立っていた。このタイミングで呼ばれたということは、関係者なのだろう。

 

「コードネーム“コラソン”本名はドンキホーテ・ロシナンテ。ロシナンテは実の兄であるドフラミンゴの元にスパイとして、入り込んでいた海兵だ。」

 

「!…、それは…なるほど…それをなぜわたしに?」

 

「ああ、この事を知っているのはここにいる3名とドフラミンゴが海軍に送り込んだもう1人…詳しくは、こっちに紙にまとめた物がある。見ながら、聞いてくれ」

 

「承知いたしました」

 

センゴクから受け取った用紙は2部あったので、1部はおつる中将に手渡した。ドンキホーテ・ロシナンテの大まかなプロフィールに、ファミリー潜伏期間中に収集した情報の中に、海軍に潜り込んだ初代コラソンについても書かれていた。あえて手を出していないということは、監視をつけて与える情報を制御するつもりか…な。ここに居るおつる中将は、そういった情報操作に収集が得意なお方だ。何がエサになって、何が手綱になるか。選別済みなのだろう。怖いねえ。ヴェ、るごか…ヴァルゴ(乙女座)だったら覚えやすかったんだけどなあ。

 

「そういえば、ミンゴさんは「天上金」の輸送船を襲撃し今回王下七武海に加入することになったのでは…?」

 

「そのことで2人を呼んだのだ…ロシナンテ生存は、ドフラミンゴに知られてはならない。

ドフラミンゴのファミリーの内情がこちらの手にあり、向こうに知られていない状況は使える。これを利用しない手はない。おつる中将は、ドフラミンゴと因縁があるため接触が多くロシナンテは身を置けない。そこでポートガス・D・カルマン大佐に頼みたい。そもそもロシナンテを救出したのはキミだからな」

 

「…彼をうちで預かるのはいいんですが、王下七武海に加入した政府の者に手を出すおつもりで?」

 

「いや、ドフラミンゴファミリーには手を出さない。我々は闇のブローカー“Joker”を討つ」

 

やあやあ、これは大変なことに巻き込まれた。

 

流石に笑みを保っていられず、Jokerの名前に薄目を開けて資料を捲った。ドフラミンゴの裏の顔、それがジョーカー(Joker)。鉛から最新の兵器に人身売買まで手広く揃えた闇の商人。つまり同一人物じゃん、と思ったけど私はまだ子供なので素直に頷き、スマイルを作り直した。

 

「承知いたしました。中佐はそれでよろしいので?成程、ではよろしくお願いいします」

 

黙りこくっていたロシナンテが頷いたのを確認してから、握手のために手を出して近寄るとロシナンテの両手が歩行器を掴んでいるのに気がついて手を引いた。

 

 

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