蝉の声を五月蝿く思いながら、
特に怪我はないので、鎮守府内の案内をしてあげる。
という陽炎の提案に乗り、
そこそこ綺麗な鎮守府の廊下を歩いていると、
思いついたように彼女は呟く。
「あーぁ、そういや提督不知火のこと心配してたんだっけ。
んー.......、とりあえずはうちの提督に会ってもらうわね、不知火」
「はい、私は拾われた身ですので。指示に従います」
「貴女かったいわねー、もっと気楽でいいのに」
「どうにもそういうのは性に合いませんので」
「ま、個人の性格だからこれ以上言わないけどねー」
「ありがとうございます、
ところで提督はどこにいらっしゃるので?」
「ここ」
陽炎は私から1mしか離れていない扉を指差す。
なるほど、こんなに近かったから思い出したのか。
私は扉をノックし、
「提督、いらっしゃいますか」
と言った。
自然に行ったこの一連の行為に隣で陽炎が驚いているのだが、
一番驚いているのは私だった。
なぜこんな簡単に、自然に、こんなことができる。
いや、答えはもう出ている。
私が以前どこかで使われていた艦娘だからだ。
「入りなさーい」
返ってきた返事に、
思考の世界から現実に引き戻された私は慌てて扉を開ける。
取り敢えずは話を聞こう。考えるのはそれからだ。
部屋の奥に二人の人物が確認される。
銀髪の女性と、優しい顔をした人物。
「あら、あなた目が覚めたのね!変なところとかはない?」
「体に異常はありません、お気遣いありがとうございます」
白い服を着た、提督と思わしき人物が、
興奮気味に近づいてきた女性に対してか苦笑いする。
「まぁ、異常がないなら何よりだ。
まだ落ち着かないかもしれないが色々聞いても?」
「あっ、提督!この子は記憶喪失です」
「記憶喪失?何も思い出せないのかい?」
「名前だけは思い出しています。私の名前は不知火です」
私の名前を聞くと、一瞬提督が驚いた顔をしたのを私は見た。
ありえない、そんな顔をしていた。
この人は私を知っている。
私の名前を、私の知らない私を知っている。
顔から察するに今軽く口に出して良いものではないようなので、
今は黙っておこう。また、接触する必要がありそうだ。
「そうか、不知火か。
記憶がないなら、頼れる場所もないのだろう?」
「はい」
「なら、この鎮守府に着任するというのはどうかな。
上には私から話しておくし、このご時世だ。
上もこっちに強く言えやしないだろう。」
「そうしていただければ幸いです」
提督からの提案、飲まない手はない。
ここで、記憶を取り戻すまで働かせてもらうことにしよう。
「よし、決まりだ。君は艦娘だが」
「戦えます」
提督の言の葉を待つことなく、
口をついて出た言葉は自分には直ぐには理解ができなかった。
条件反射的に言った。戦える、と。
その場にいた私を含む全員が、
鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をする。
「はははは........、
記憶がないから雑務をしてもらおうか、
なんて思っていたんだが、心配は無用だったわけか」
口をついて出た言葉だったが、私の心に偽りはないらしい。
『私』が残した何かが戦えると、心の奥で叫んでいる。
「はい、駆逐艦不知火。戦えます。
この言葉に偽りなく、敵を殲滅できます」
「わかった。夕張、彼女の艦装の修理を頼む」
「わかりました、一日で仕上げます」
夕張と呼ばれた銀髪の女性が部屋を出て行く。
彼女の開いた扉が閉まると同時に陽炎が私に声をかける。
「本当に戦えるの?無理なんてしなくてもいいのよ?」
「ご心配ありがとうございます。大丈夫ですよ、私はやれます」
「そう..........じゃあ、明日からよろしくね!一緒に戦いましょう!」
「はい、改めてよろしくお願いします」
私達を見て微笑む提督に向き直り、敬礼する。
「駆逐艦不知火、これより第四鎮守府に着任します。
ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
高台から海を見下ろして、