私の名前は不知火です   作:おもいつかない

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陽炎を遠くから見つめていた。






第三話【強者】

 

 

海上に響く大砲の轟音。

艦載機の、蝿にも似たブブブという音。

水が跳ねる音。

 

あぁ、やはり『私』は戦場が大好きなようだ。

 

この胸の底から湧き上がる喜びを、

私は抑えられそうにない。

 

口元が緩み、私が目覚めてからはじめての笑顔を浮かべる。

 

だが、いつまでも笑っている訳にはいかない。

他の方々は皆、仕事をしている。

私も仕事させてもらうとしよう。

 

「不知火!行くわよ!」

 

丁度よくかけられた陽炎の呼び声に答えるように、

私は水面を駆ける。

 

相手は6人。その内今の私が戦えるようなのは精々四人といったところか。

 

私と同じ艦種である駆逐艦の叢雲さん。

彼女を狙うとしよう。

 

私から30度程右にいる叢雲さんに、接近しつつ砲塔を向ける。

 

「新入りのあんたが私の相手ね!」

 

当然、私の接近は彼女に気づかれ、彼女もまた砲塔を私に向ける。

狙いを定め、トリガーを引く。

轟音。

慣れない反動に少し驚いたが、問題はない。

 

私の弾は当たっていない。避けられた。

そして、彼女はトリガーを引こうとしている。

 

体が無意識のうちに重心を動かし、左へとずれる。

 

彼女の弾も外れた。直ぐ後ろで水飛沫が上がっている。

 

彼女との距離は残り約5メートル。

接近戦に持ち込むべきか、持ち込まないべきか。

私は思案する。

 

だが、私の体は嘗ての記憶からか、

私の意思など御構い無しに接近戦を選択する。

 

距離はもう1メートルもない。

 

彼女の手に向けて蹴りを放つ。

 

砲塔で防がれた。

 

「私が簡単に蹴らせると思わないことね!」

 

傲慢な台詞と共に、蹴りを飛ばしてくる。

 

膝と肘で受け止めた。

うまくいったが、記憶がないせいか少し痛みを感じる。

これではダメなので、

これから記憶と知識を擦り合わせていかなければならない。

 

「なっ!?」

 

予想外の行動に驚く叢雲さん。

すかさず私は足を横を投げ、怯んだ彼女の艦装を蹴り上げる。

 

そして、砲塔を顔に突き付ける。

 

「勝負あり、でしょうか」

「〜〜〜ッ!」

 

叢雲さんが悔しげな表情を浮かべる。

この人はプライドの高い人のようなので

この敗北は腸が煮えくり返るような気分なのだろう。

少し、同情する。

だが、私もずっとそれを見ていられる暇ではない。

 

「ありがとうございました。では後ほど」

 

礼をし、戦場に戻ろうとする。

まだ終わっていないはずだ。加勢しに行かなければ。

 

振り向いた瞬間、笛の音が響く。

 

「演習終了ー!」

 

さっきの蒼龍さんの声だ。

私がまだ残っているのに、終わったということは勝ったのだろうか。

 

そんな思考を巡らせる私の目に直ぐにその光景は入ってきた。

 

 

硝煙の煙が包む空間の中に四人の人影。

少しずつ薄れていく煙りの中に見えたのは、

水面に座り込むようにしている艦娘3人と、その真ん中に立つ1人の少女。

 

「あら、不知火。遅いわよーって当然か。記憶がないんだものね」

 

陽炎だ。

 

「やっぱり、あなた強すぎるわ」

 

三人のうちの一人、由良さんが呆れ気味に零す。

 

陽炎が一人でやったというのだろうか。

この数分の内で。

 

予想していなかった強さに、惚けていると、

整列するように促さられる。

 

そのまま礼をし、演習が終わる。

 

鎮守府に戻っている中、私は考える。

 

もしかして私はとてつもなく凄いところで

目覚めてしまったのではないだろうか。

 

 

 

 

 

鎮守府の中、執務室。

その中では気怠げな雰囲気を纏う夕張と、

提督が窓から演習の様子を眺めている。

 

「提督、もしかして貴方は

不知火さんのことを何か知っているんですか?」

「ん?いや、知らないよ。彼女のことはなーにも知らない」

「なら、なぜあのときあんな驚いた表情を?」

「夕張ちゃん、中々目敏いね。

そうさね、第五鎮守府の提督にでも聞いてみればわかると思うよ」

「第五の?なぜですか?」

「フフフ、まぁ聞けばわかるさ。

私とは古くからの付き合いだから、色々話してくれると思うよ」

「私は時々、貴女が何を考えているのかまったくわからなくなります。

思考を予想してもいつも正解とは別の応えですし」

「アハハ、そうかい」

「あ、演習終わったみたいですね、不知火に少し話を聞いてきますね」

 

執務室をでて行く夕張を見届け、提督は一人の部屋で呟く。

 

「ま、名は体を表すと言うしね」







蜃気楼を眺めていた。



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