千冬さんはラスボスか   作:もけ

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訓練、しかし力の差は歴然で

 今週は四月の第三週。

 

 セシリアと試合をしたのが月曜日。

 

 みんながパーティーを開いてくれたのが火曜日。

 

 鈴と再会したのが昨日、水曜日。

 

 そして今日が木曜日。

 

 明日は放課後に真耶先生の補講。

 

 土日はアリーナでIS特訓。

 

 クラス対抗戦は来週の土曜日にあるから、残り平日五日間をどうするか。

 

 普通に考えたら全部ISの特訓に当てるんだろうけど、勉強を疎かには出来ないし、たまには道場にも行って体を動かしたい。

 

 まぁ、でも勉強は後回しでもいいかな。

 

 クラスの代表なんだから対抗戦の優先順位が一番だよね。

 

 とりあえずアリーナの使用許可を取ってみて、取れなかった日は道場に行こう。

 

 うん、そんな所かな。

 

 なんて予定を考えながら教室に向かっていると、二組の教室に入っていくツインテールが見えた。

 

「鈴……」

 

 昨日、鈴は食堂から全力で逃げ出したまま帰って来なかった。

 

 きっと、恥ずかしさのあまり部屋で悶絶していたと思われる。

 

 意外とパニックに弱いんだよね、鈴て。

 

 まぁ一晩経てば鈴の事だから復活してるとは思うけど、朝のうちに声かけとこうかな。

 

 一組を通り過ぎ、二組へ向かう。

 

 鈴は窓際の一番後ろの席に座り、頬杖をついて窓の外に顔を向けていた。

 

 さて、どうしよう。

 

 他のクラスに入るのは抵抗があるけど、大声で呼ぶのはもっとハードルが高い。

 

 かと言って呼んでもらおうにも手近に人はいず。

 

 仕方ないか。

 

 観念して、せめて自然に見えるように振る舞いながら教室に入る。

 

 こちらに気付いた子たちには、騒がないでもらえるよう口に指を当て「しぃーー」とアピール。

 

 とりあえず目立った騒ぎにもならず、無事鈴の所まで到着。

 

 短い距離なのに変に緊張したな。

 

 鈴は考え事をしているのかまだ気付かない。

 

 …………これはチャンスでは?

 

 悪戯心が顔を出す。

 

 気付かれない様に注意しながら、そっと顔を鈴の耳元に近付け、

 

「鈴」

「ひゃんっ」

 

 予想以上に可愛い、いや、エッチぃリアクションにドキっとする。

 

「い、一夏ぁぁぁぁっ!!」

 

 驚いてこっちを見た鈴は現状を理解すると同時に羞恥と怒りで顔を真っ赤に染め、ISを腕だけ部分展開して殴りかかってきた――――――が、

 

「きゃっ」

 

 とっさに懐に潜り込み、腕を取って勢いのまま一本背負いの要領で投げる。

 

 と言っても、そこはしっかりと痛くしない様に足とお尻から下ろす。

 

「っと、危ないじゃないか、鈴」

 

 鈴はこちらの言葉には反応を示さず、ISを解除して立ち上がると顔を俯かせたまま振り返り、寄り添うように僕の胸に頭を預け――――――

 

「ぐっ」

 

 た様に見せかけての頭突き――――――を喰らうギリギリの所で間に手を挟む事が出来た。

 

「セーフ」

「ちっ」

 

 舌打ちしたよ、この子。

 

「心配して顔見に来たんだけど、その様子なら大丈夫そうだね」

「えっ? あ、そ、そうだったんだ……ありがと」

 

 鈴は昔から「ありがとう」と「ごめんなさい」をちゃんと言える良い子。

 

「って、さっきのは許さないわよっ」

「あぁ~~、エロ可愛かったよ?」

 

 周りに聞こえない様に再度耳元に口を寄せ囁く。

 

「エ、エロ、なっ、何言ってんのよっ」

 

 なぜか鈴も小声になる。

 

 小声で怒鳴るって器用だな。

 

「いやだって『ひゃん』って、鈴からあんな声初めて聴いたよ」

「そ、それはいきなりだったからで、耳は卑怯よっ」

 

 顔を真っ赤にして抗議する姿が子猫みたいで可愛い。

 

 そう思うと、自然と頭を撫でていた。 

 

 なでなで「へ?」なでなで「ちょ、ちょっと、一夏」なでなで「こんな事で誤魔化されないんだから」なでなで「あ、でも、はふぅ~~♪」撫で繰り回された鈴の表情から険が取れる。

 

 ますます猫っぽいな。

 

 そんな感じでHRのチャイムが鳴るまで5分くらい撫で続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お昼は購買でお茶とおにぎりを買って屋上で食べることにした。

 

 昨日の今日で食堂はさすがに行き辛かった。

 

「なんだかピクニックみたいだね」

「そうだな」

「暖かくなってきましたし、本当にどこか行きたくなってまいりますわね」

「おやつは三百円までかな~~?」

「どこの小学生よ、それ」

 

 適度な暖かさと日差しの中、和気あいあいとしたランチ。

 

 癒されるな~~。

 

 しかし、この状況になるまでにちょっとした一悶着があった。

 

 四時間目の授業が終わって、事前にメールで約束していた鈴を迎えに行こうと教室を出ようとすると、

 

「一夏さん、ランチご一緒にいかがですか?」

 

 セシリアに呼び止められた。

 

「ごめん、セシリア。今日は屋上で鈴と食べる約束なんだ」

「同行しよう」

「わたしもわたしも~~」

 

 なぜかちゃんと断ったのに箒ちゃんが僕の腕を取り、のほほんさんが背中を押して強制連行される。

 

 この二人、デザートの食べさせ合いっこからこっち、連携とれるようになったっぽい。

 

「お、お待ちなさいっ!! わたくしも行きますわよっ!!」

 

 とセシリアも付いて来る。

 

 そんな状態で来た僕たちに対して鈴は

 

「なんであんた達がいるのよっ!!」

 

 当然、怒るわけで……。

 

「ふんっ」

「抜け駆けは許しませんわ」

「おりむぅはみんなのおりむぅなんだよ?」

 

 いやいや、僕は僕のものですよ?

 

「ごめんね、鈴」

 

 約束を破る形になってしまった責任として、謝罪と一緒に頭を撫でると

 

「ふ、ふん、まぁ、いいわ」

 

 そっぽを向いてしまうが

 

「次からは気を付けなさいよ」

 

 振り返って人差し指を突き付けてくる。

 

 それに頷くと、満足したように一度微笑み

 

「ほら、行きましょ」 

 

 自然な動作で僕の腕を取り、引っ張って行く。

 

 後ろで何やら言っていたみたいだけで、僕としては感触やら匂いやらでそれ所ではなかったとだけ……。

 

 ちなみに僕と箒ちゃんはおにぎりで、鈴は中華まん。

 

 セシリアはサンドイッチで、のほほんさんは菓子パン。

 

 何て言うか、みんなブレないな。

 

「ピクニック行くならみんなでお弁当作って”交換こ”とか良いね」

 

 何の気なしに言った僕の言葉に、みんなが驚いた顔をする。

 

 あれ? 僕なんか変な事言った?

 

「い、一夏さんはお料理ができますの?」

「うん、ほとんど一人暮らしみたいなもんだったからね。家事は一通りできるよ」

「おりむぅえら~~い」

 

 頑張ってくれてる姉さんに僕が出来る事は少なかったからね。

 

「アタシだって料理はちょっとしたものよ」

「うん、確かに鈴の作る中華は美味しい」

 

 酢豚以外も普通に作れるんだよね。

 

「でしょ。えへへ♪」

「わ、私だって、弁当くらいなら作れるぞ」

「あぁ、箒ちゃんって割烹着で台所とか似合いそうだもんね」

 

 道着や浴衣を見てるからか余計に純和風のイメージが強い。

 

「そ、そうか?」

「わたしは食べる専門~~」

「のほほんさんらしいね」

「でも頑張ると意外とできるんだよ?」

「そうなの? それは楽しみだな」

「頑張れたらね~~」

 

 そのフリは頑張らないでしょ?

 

 ふと、みんなが盛り上がってる中で一人だけ複雑な顔をしているセシリアに目が行く。

 

「セシリア?」

「は、はいっ!? なんでしょう、一夏さん」

「どうしたの? 難しい顔して」

「そ、それは……」

「あんた料理したことないんでしょ」

「っ!?」

「そうなのか?」

「セッシーは立場的にそうだよね~~」

「立場?」

「雇い主に家事されたら使用人の立場がなくなっちゃうんだよ~~」

 

 おぉ、ブルジョア階級。

 

「そ、そうですわ。貴族として仕方のないことなのですわ」

「まっ、別にいいけどね」

「そうだな」

「むぅぅぅぅ」

 

 唸るセシリア。

 

「興味があるなら、一緒に作ってみる?」

 

 一人だけつまらないのは可哀想だしね。

 

「「「「っ!?」」」」

「サンドイッチとか簡単に作れるものとか」

「す」

「す?」

「素晴らしいアイデアですわっ♪ はい、ぜひ、ぜひお願いします。あぁ、一夏さんと初めての共同作業……いい、いいですわ~~」

 

 凄い食い付きっ!?

 

「う、うん、喜んでもらえて良かったよ」

 

 セシリアのハイテンションに若干引いている僕。

 

 その横で、何やら難しい顔をする三人。

 

 でも、同じ結論に達したのか視線を合わせてから

 

「一夏。あんたはセシリアとサンドイッチを作りなさい。アタシは中華を作るわ」

「私は和食を作ろう」

「じゃあ、わたしは面白いの作るよ~~」

 

 と、宣言。

 

「そう? 楽しみだな。じゃあ、五月の土日に予定合わせようか? それとも平日のお昼にお弁当持ち寄る?」

「せっかくだから土日にしましょ。アタシはいつでもいいわ」

「うん、私も特に予定はない」

「わたしはちょっと聞いてみないと分からないな~~」

「わたくしも少し調整してみないとお答えできませんわ」

「僕は最初の土曜日だけ予定があるけど、後は平気。じゃあ、セシリアとのほほんさん次第ということで」

「りょうか~~い」

「分かりましたわ」

「それにしても、あんたに予定があるなんて珍しいわね」

「酷い言われ様だ」

「一夏……」

「一夏さん……」

「元気出しておりむぅ」

「いやいやいや、ぼっちとかそういうんじゃないからね」

「それで、何かあるの?」

「鈴からフッておいて放置しないでよ」

「い・い・か・ら」

「まぁいいけど、いや全然良くないけど、久しぶりに弾と遊ぶ約束してるんだよ。ここは関係ないけど世間ではGWだからさ。良かったら鈴もおいでよ」

 

 IS学園って、日本であって日本じゃないから長期休みはあっても祝日ないんだよね。

 

「弾の奴か……そうね、考えとくわ」

 

 中学時代のメンバーで集まるのも楽しそうだ。

 

「話を戻すが、ピクニックの行先はどうするんだ?」

「モノレールから見える、海に面した公園とかどうかな?」

「いいんじゃない? 近くて」

「遠いと疲れちゃうしね~~」

「決まりだね」

「楽しみですわ」

 

 みんなと行くのも楽しみだけど、たまには姉さんとも出かけたいな。

 

 姉さんが休み取れるなら土日で一泊でもいいから旅行とか。

 

 姉さんは働き過ぎだと思うんだよね。

 

 近場に良い温泉とかないかな?

 

 今度ちょっと調べてみよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、昨日に引き続きセシリアとアリーナに来ると、

 

「なんで鈴さんがいますの」

「なんでも何も幼馴染だし」

「あなたは二組の代表なのでしょう? 敵ですわ」

「別に対戦相手だからって一緒に練習しちゃいけないわけじゃないでしょ?」

「そんなの屁理屈ですわ」

「じゃあ、セシリアはもう一夏と試合はしないの?」

「そんなことありませんわ。時には友として手を取り、時にはライバルとして戦い、日々切磋琢磨し高め合い、そしてゆくゆくは……」

「つまり、問題ないわけね」

「はっ!? くっ、仕方ありませんわね」

 

 鈴は相変わらず口が達者だな。

 

 んじゃあ、とりあえず丸く収まったみたいだし、

 

「じゃあ、どうしよっか?」

「アタシがあんたの近接戦の特訓に付き合ってあげるわ」

 

 鈴の機体は、中国の第三世代機『甲龍(しぇんろん)』。カラーリングは黒と赤紫。

 

 僕のキュクロープスとはまた違った感じの重量感のあるフォルムで、印象としては固くて強そう。

 

 武器は双天牙月(そうてんがげつ)という両の先端に刃のある矛で、分離して二本の青竜刀にもなるそうだ。

 

 あと肩の上に丸い浮遊砲台らしきものが浮いているけど、それについては「な・い・しょ」とのこと。

 

 そんな可愛く言われたら追及なんて出来ません。

 

 そもそもISは国家機密扱いだしね。

 

「お待ちなさい。まずはわたくしが遠距離戦のお相手をいたしますわ」

「それは昨日もやったんでしょ? じゃあ今日はこっちからよ」

「うっ、い、一夏さんっ!!」

「は、はいっ」

「一夏さんはどちらが先がよろしいんですのっ!!」

 

 そんな涙目で睨まなくても……。

 

「さ、最初は鈴にお願いしたいかな」

「そんな……」

 

 ヤバい。

 

 泣かれそう。

 

「ほ、ほら、鈴は代表候補生なんだし、その接近戦を集中力がある時に見ておいた方がセシリアのためになると思うんだ」

 

 口から出まかせのフォローではなく、本音です。

 

「そう、ですわね」

 

 少し落ち着いたのか、納得の意思を示し

 

「一夏さんは、わたくしの事をちゃんと気にかけてくれているのですね。嬉しいですわ」

 

 笑顔を向けてくれた。

 

 セシリアは感情の波が激しいけど、そのコロコロ変わる表情が魅力的だと思う。

 

「僕も練習に付き合ってくれて嬉しいよ」

 

 笑顔には笑顔で、感謝には感謝で応える。

 

「それは良かったですわ」

 

 そうしたら、不意打ちでとびっきりの笑顔をプレゼントされてしまった。

 

 この笑顔に釣り合うものは僕にはないな。

 

「さぁ、一夏。話もまとまった所で、さっさと始めるわよ」

「う、うん、お願いします」

 

 鈴の声で我に返る。

 

 パワータイプ同士とはいえ相手は格上の代表候補生。

 

 しっかりと勉強させてもらおう。

 

 空中に上がり、距離を取って構える。

 

「いくわよ、一夏っ!!」

「おうっ!!」

 

 鈴が一直線に突っ込んでくる。

 

「どりゃあーーーー!!」

 

 リーチのある矛の状態の双天牙月を振り上げ、力いっぱい振り下ろされる強力な一撃。

 

 対して、右手に展開したショベルで受け止める――――――が、

 

「へぇ、初撃を防ぐなんてやるじゃない。でもっ」

 

 しかし攻撃は一撃では終わらない。

 

 上下左右、空中戦だからこそ可能な機動で連撃を受け続ける。

 

 幾度か隙を突き、左手のドリルを差し込むが届かない。

 

「くっ」

「まだまだこんなもんじゃないわよーーーー!!」

 

 双天牙月が二本の青龍刀に分かれる。

 

 こっちはショベルとドリルだけど、これで二刀対二刀。

 

 しかしリーチが短くなって回転速度が上がり、しかも両手から繰り出される攻撃は防ぐので手一杯。

 

「このままじゃ」

 

 一度仕切り直そうと、距離を離すために後退すると

 

「なっ!?」

 

 その隙に連結させた双天牙月が飛んできたっ!!

 

 横回転しながら迫る凶刃。

 

 慌てて全てのスラスターを全力噴射し、ギリギリで横に躱す。

 

「危なかった。でも今なら」

 

 武器を手放した今がチャンスと鈴を見ると、鈴の口元が悪戯に成功した時みたいにニヤついていて――――――

 

「ぐはっ」

 

 ヤバいと思った瞬間、背後から強烈な衝撃が襲い、肺から強制的に空気が吐き出される。

 

「油断し過ぎよ、一夏。武器を投げたら戻ってくるなんて定番じゃない」

 

 その言葉に応えようと思った刹那、頭の隅の方で再度警笛が鳴る。

 

 鈴の声が近い。

 

 顔を上げるより早く、360度視認できるハイパーセンサーで意識を上に――――――

 

「がっ」

 

 しかし知覚できたのはただ頭部への痛みのみ。

 

 視界が一瞬ブラックアウトし、次いで全身に痛みと衝撃が走る。

 

 戻った視界には、青空と、こちらに近付いて来る一機のIS。

 

 どうやら吹き飛ばされて、地面に衝突したみたいだ。

 

「ま、ざっと、こんなもんよ」

「お見事」

 

 見上げた体勢のまま称賛を送る。

 

「まだまだISの戦闘には慣れてないって感じね」 

「お恥ずかしい限りで」

「とりあえず、私達みたいなパワー系スタイルは相手のペースに乗らず、力で押し切るのが基本よ。同じタイプの場合はガチンコ勝負ね。ちょっとでも相手より上の部分を見付けてそこを突くこと」

「はい」

 

 今回は鈴の速度と手数で何もさせてもらえず、正直力比べすら出来ていない。

 

 武装のチョイスも良くなかったし、ワイヤーブレードや爆弾なんかの選択肢を意識する事すら出来なかった。

 

 これじゃあ、キュクロープスにも束さんにも申し訳が立たないな。

 

「一夏さんっ!? 大丈夫ですの!!」

 

 鈴のレクチャーを受けながら反省していると、心配したセシリアが駆け寄ってきてくれた。

 

「大丈夫だよ。ありがとう、セシリア」

 

 ISを解除し、体を起こそうとすると、

 

「痛っ」

 

 頭に軽い痛みが走る。

 

「無理をしてはいけませんわ」

 

 声と同時に柔らかい感触が頭を包む。

 

 目を開けると、セシリアの顔が反対向きで近くに……。

 

 そして優しく頭を撫でられている。

 

「あ、あ、あんた、何やって」

 

 鈴の慌ててる声がする。

 

 あれ? この体勢って……。

 

「膝枕、されてる?」

「はい♪」

 

 笑顔のセシリアを見上げ、理解が追い付くと顔に熱が集中して来るのが分かった。

 

「セ、セシリアっ」

「ダメですわ。まだ動いては」

 

 慌てて動こうとする僕をセシリアの手が優しく止める。

 

「頭を打ってるようですから、もう少しこのままで」

 

 それは有無を言わせない説得力のある言葉だった。

 

 大人しく体の力を抜く。

 

 そうすると次第に太ももの柔らかさと優しく撫でる手の感触に緊張が抜けていき、

 

「気持ちいい」

 

 つい言葉が漏れてしまう。

 

「それは光栄ですわ」

 

 いつもより大人っぽい微笑みを浮かべるセシリアに見蕩れていると、

 

「いつまでやってんのよっ!!」

 

 鈴が吠えた。

 

「静かにしてくださいまし。怪我人ですわよ」

「ISに乗ってるんだから怪我するわけないでしょっ!!」

「そんなことありませんわ。致命傷は防げてもある程度のダメージは通過してしまいます。ご存じでしょ?」

「うぅぅぅぅ、そうだけど……」

「そもそも鈴さんが負わせたダメージですのよ? 大人しくしていてくださいまし」

 

 ぴしゃりと鈴をやり込めるセシリア。

 

 なんかいつものセシリアよりしっかりしてるな。

 

 いや、忘れそうになるけど、セシリアには貴族の当主としての顔があって、それはもう立派な責任ある大人の顔なんだ。

 

 無邪気に笑ったり怒ったりしてるセシリアも、今みたいなセシリアも、合わせてセシリアなんだな。

 

 そんなことを考えていたら無意識にセシリアを見つめていたようで、

 

「どうかなさいましたか?」

「ううん、セシリアは凄いなと思って」

「なんですの、それ」

 

 くすくすと笑われてしまった。

 

 つられて僕も笑みがこぼれる。

 

 そんな僕らを見ながら、鈴は一人でむくれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、激しい訓練はセシリアに止められ、昨日と同じ追い駆けっこをして過ごした。

 

 最初は1対1で鈴とセシリアを交互に僕が追い駆けていたけど、最後は2対1で追われる側になり、加減されてるのが丸分かりだったけどどうしようもなく追い立てられていた。

 

 その後は、食堂で一緒に夕飯を取りながら反省会。

 

 というか、二人による僕へのダメだし。

 

 僕なんか代表候補生の二人から見たらまだまだ殻をかぶった生まれたてのヒヨコなわけで。

 

 束さんのチュートリアルのおかげでISを動かす感覚は問題ないけど、圧倒的に経験が足りず、基本はISのスペック頼り。

 

 まぁ、ない物ねだりをしても仕方がない。

 

 地道な訓練の反復こそが一番の近道。

 

 それはさておき、それを踏まえた上で対策を立てないと来週のクラス対抗戦はどうにもならないだろうな。

 




これから対抗戦まで日常パートが何話か続きます。
ヒロインズを考察すると、鈴は一番庶民派で一夏の感覚に近く、セシリアは逆に一番遠い貴族様。
一夏に対してはチョロイさんですが、現実的でしっかり者、そして当主として守らなければならないモノがある。
セシリアは一番芯がしっかりしていると思うんですよね。

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